孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  ウクライナ産の穀物輸出に関する合意を停止 「全約束満たされれば直ちに戻る」とも

2023-07-17 22:17:01 | ロシア

(小麦や植物油などの食料価格の高騰が一服し、世界的な食料不安は解消されるかにみえる。確かにロシアのウクライナ侵攻直後に比べると食料価格は2割以上も下落したが、国際的な食料支援を必要とする途上国はなお45カ国に上る。食料高騰で貿易赤字が拡大し、それが自国通貨安を招いて輸入や供給がさらに細る食料不安の「負のスパイラル」が広がっている。【7月14日 日経】)

【ロシア「合意」停止 「全約束満たされれば直ちに戻る」とも】
懸念されていたウクライナからの穀物輸出合意延長に対するロシアの反対姿勢が、17日の期限を迎えて表面化しています。

****露、穀物輸出合意の参加停止 長期化なら価格高騰・食料危機恐れ****
ロシアのペスコフ大統領報道官は17日、同日期限切れとなったウクライナ産の穀物輸出に関する合意について「無効となった」と述べた。ただ、ロシア産肥料の輸出などに関する条件が満たされれば「すぐに戻る」とも強調した。

合意の停止が長期化すれば、再び食料価格の高騰を招き、特に中東・アフリカ地域では食料危機につながる恐れがある。

 ◇「全約束満たされれば直ちに戻る」
ウクライナは世界有数の穀倉地帯を持ち、昨年2月のロシアによる侵攻によって穀物輸出が中断した際には、世界の食料価格が記録的な高値に押し上げられた。そのため、ロシアとウクライナ、仲介役の国連、トルコの4者が昨年7月、安全な輸送に協力することで合意を結んだ。

しかし、ロシアはウクライナ産穀物輸出の再開容認の見返りとして、国連と自国産肥料などの輸出正常化に関する覚書を交わしたが、この覚書の内容が履行されていないと継続して不満を示していた。

欧米の経済制裁はロシア産の穀物や肥料の輸出を対象にしてはいないが、制裁によって国際決済システム「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から締め出されていることなどが、ロシア産品の輸出を妨げているというのがロシア側の主張だ。

これに対し、国連のグテレス事務総長が先週、プーチン露大統領に宛てた書簡を通じて「(国営の)ロシア農業銀行を通じた金融取引に影響する障害を取り除く」などの意向を伝えていた。

ロイター通信によると、プーチン大統領は先週、「われわれは合意への参加を保留することができる。その上で、(国連などによる)約束が全て果たされるなら直ちに合意に戻るだろう」と述べていた。

ロシア政府は17日、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ「クリミア大橋」がウクライナの特殊部隊による「テロ攻撃」を受けたと発表したが、ペスコフ氏は合意への参加停止とこの事件とは無関係で、「攻撃の前にプーチン大統領は停止を宣言していた」と強調した。

これまで合意は複数回にわたって延長されたが、今年5月に期限を迎えた際も、ロシアは直前まで延長に難色を示していた。

ロイター通信によると、米国の市場では既に小麦価格の上昇傾向が出ているという。【7月17日 毎日】
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【ウクライナからの穀物輸出停止は約7億3500万人が飢餓に直面している現状を更に悪化させる】
このところの食料品価格は一時の高値水準から反落する動きをみせていました。

****世界食料価格、6月も低下 昨年3月の過去最高を23.4%下回る****
国連食糧機関(FAO)が7日発表した6月の世界の食料価格指数は平均122.3ポイントで2021年4月以来、2年余りぶりの低水準となった。砂糖、植物油、穀物、乳製品の価格が下落した。

5月の124.0(124.3から下方改定)から低下した。ロシアのウクライナ侵攻後の2022年3月に記録した過去最高からは23.4%低下したことになる。

穀物価格指数は前月比2.1%低下。トウモロコシ、大麦、ソルガム、小麦、コメが軒並み値下がりした。

植物油価格指数は前月比2.4%低下し20年11月以来の低水準。パーム油とヒマワリ油の下落が、大豆油と菜種油の上昇を帳消しにした。

砂糖価格指数は前月比3.2%低下。5カ月ぶりの低下となった。乳製品価格指数は前月比0.8%低下。食肉価格指数はほぼ横ばいだった。

FAOは穀物需給に関する別の報告書で、今年の世界の穀物生産量予想を前年比1.1%増の28億1900万トンとし、先月の予測から若干上方修正した。世界の小麦生産の見通し改善が主因で、小麦生産量予想は0.9%引き上げられ7億8330万トンとなった。【7月7日 ロイター】
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しかし、世界の飢餓・栄養不良がコロナ禍以前より悪化して、約7億3500万人が飢餓に直面しているという現実があります。

ウクライナからの穀物輸出が停止すれば、穀物価格が再び高騰し、この状況は更に悪化します。

****SDGs「飢餓をゼロに」の達成は困難か。コロナ禍前の2019年以来、新たに1億2200万人が飢餓に直面****
国連児童基金(ユニセフ)、国連食糧農業機関(FAO)、国際農業開発基金(IFAD)、世界食糧計画(WFP)、世界保健機関(WHO)は7月14日、「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書を共同で発表した。

報告書によると、2022年には約7億3500万人が飢餓に直面。新型コロナウイルスの感染拡大や気候変動、ウクライナでの戦争などが影響し、2019年以降、世界で新たに1億2200万人が飢餓に直面しているという。

飢餓の状況は地域によって様相が異なるようだ。アジアとラテンアメリカでは飢餓は減少傾向だが、西アジア、カリブ海地域、アフリカの全地域で飢餓人口は増加。特にアフリカでは世界平均の2倍以上にあたる5人に1人が飢餓に直面しており、「世界最悪の状況にあります」と報告書は警鐘を鳴らした。

さらに、依然として5歳未満児の多くが栄養不良の状態だという指摘も。2022年には、5歳児の22.3%にあたる1億4800万人が発育阻害、 4500万人(6.8%)が消耗症、3700万人(5.6%)が過体重だった。(中略)

報告書に携わった国連5機関の長は、報告書で以下のようなコメントを寄せた。
「2030年までに飢餓をゼロにするというSDGsの目標達成が困難であるのは、間違いありません。実際、2030年にもまだ6億人近くの人々が飢餓に直面していると見込まれています。食料不安と栄養不良をもたらす主な要因は、私たちの “ニューノーマル”となっており、私たちには、農業食料システムを変革し、SDGsの目標2『飢餓をゼロに』のターゲット達成に向けてそれらを活用するという努力を倍加させる以外に選択肢はないのです」

また、ユニセフ事務局長キャサリン・ラッセル氏は、子どもたちが直面している現状に警鐘を鳴らした。(後略)【7月16日 HUFFPOST】
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【特に深刻な影響が懸念される東アフリカ】
上記記事にもあるようにアフリカは「世界最悪の状況」にありますが、特に「アフリカの角」と呼ばれる東アフリカ(エチオピアやソマリアなど)は深刻な食糧不足に直面しています。

ウクライナからの穀物輸出停止はこの飢餓地帯を直撃し、数千万人が飢えに直面する恐れがあると警告されています。

****ロシアが穀物協定離脱なら「アフリカの角」直撃=WFP****
食料支援を担う国連世界食糧計画(WFP)のシニア・エマージェンシー・オフィサー(SEO)、ドミニク・フェレッティ氏は26日、ロシアが黒海を通じた穀物の輸出協定から離脱すれば「アフリカの角」と呼ぶアフリカ東部地域が直撃を受け、食品価格が再び高騰して数千万人が飢えに直面する恐れがあると警告した。(中略)

フェレッティ氏はジュネーブの会見で、「協定が更新されなければ東アフリカは非常に大きな打撃を受けるだろう」と指摘。「多くの国々がウクライナ産小麦に依存しており、それが入手できなければ食料価格は大幅に上昇するだろう」と述べた。

WFPは可能な限り多くの食料を事前に確保しようとしており、もし協定が破棄されれば供給元を変更せざるを得なくなるという。

ソマリア、スーダン、ジブチ、エリトリアなどアフリカの角と呼ぶアフリカの東部諸国は、今年は干ばつを免れ、飢饉を回避した。しかし支援団体の関係者によると東部7カ国で約6000万人が依然として食料難に陥っている。【6月27日 ロイター】
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“アフリカの角と呼ぶアフリカの東部諸国は、今年は干ばつを免れ、飢饉を回避した。”という話は初耳です。
この地域は数年来の干ばつに苦しんでいるとも報じられていました。

****子ども500万人食料難に エチオピア、干ばつ被害****
アフリカ東部が過去数十年で最悪の干ばつ被害に見舞われている。

国連児童基金(ユニセフ)エチオピア事務所の篭嶋真理子副代表が4日までに東京都内で共同通信のインタビューに応じ、エチオピアだけで500万人以上の子どもが食料難に直面していると明らかにした。

「温室効果ガスをほとんど排出しない地域で今、気候変動により子どもが亡くなりかけている」と述べ、国際社会に早急な対応を訴えた。

干ばつは気候変動が一因とみられ、3年ほど前、隣国ソマリアとケニアを合わせた3カ国で始まった。農地が枯れ、住民の貴重な財産である多数の家畜も死んだ。今年に入り降雨が確認されたものの、十分なかんがい施設はなく一部地域で洪水が発生。コレラなどの感染症も流行している。

篭嶋さんによると、人口約1億2千万人のエチオピアでは、70万人ほどの乳幼児が重度の急性栄養失調の危機にさらされている。「家族が生き延びるため、幼い娘を結婚させるケースが増えている」と指摘。10歳ぐらいで児童婚を強いられる少女もいるという。【7月4日 共同】
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“豪雨で川が氾濫、20万人退避 ソマリア”【5月14日 AFP】といったニュースもありましたので、干ばつは一定に緩和したのでしょうか。

ただ、いずれにしても深刻な食糧事情にあって、ウクライナ産小麦の高騰は致命的な打撃となることに変わりはないでしょう。

【プーチン大統領「だまされた」 農業銀のSWIFT接続を求める】
でもって、「合意」の話です。
ロシア産の穀物・肥料輸出をめぐる環境が全く改善されておらず、ロシアは合意の恩恵を受けていないというロシア側の主張は以前からのもので、これまでの延長に際してもロシア側は合意停止をちらつかせていました。

プーチン大統領は「だまされた」との表現で、強い不満を露わにしていました。

****ロシア、黒海穀物合意から離脱を検討 プーチン氏「だまされた」****
ロシアのプーチン大統領は13日、黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)からの離脱を検討していると明らかにした。西側諸国はロシアの農産物を世界市場に供給するという約束を何一つ履行していないとし、「だまされた」と非難した。

黒海イニシアティブはロシアのウクライナ侵攻で悪化した世界的な食料危機に対処する措置で、国連とトルコが仲介して昨年7月にまとまった。ウクライナ産穀物の海上輸送再開を可能にするものだが、ロシアの農産物や肥料の輸出を支援する期間3年の協定も同時に締結された。

しかし、プーチン氏は西側諸国が不誠実で約束が守られていないと指摘。ロシアの戦場記者や軍事ブロガーとの会合で「残念ながら、まただまされた」と述べ、合意離脱を検討していることを明らかにした。

ロシアの食料・肥料輸出は制裁の対象になっていないものの、ロシア政府や主要な穀物・肥料輸出企業は支払いや物流、保険に関する西側の制限措置が出荷の障害になっているとしている。

国連のステファン・ドゥジャリク報道官は13日、ロシアの輸出円滑化に向けた国連の取り組みに幾分の進展があったとした上で、複数の障害が残っていると述べた。

米国は世界の食料供給を脅かすとしてロシアに合意から離脱しないよう求めた。

プーチン氏は世界の最貧国に無償で穀物を供給する用意があるとし、近々ロシアを訪問するアフリカの指導者らと協議する方針を示した。

穀物合意の現状について「アフリカ諸国にはほとんど何も供給されていない。ロシアは何度も延長に合意しているが、その見返りは何もない」と不満をあらわにした。(後略)【6月14日 ロイター】
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上記記事の「アフリカ諸国にはほとんど何も供給されていない」というロシア主張は、“(ロシア)外務省は声明で、黒海イニシアティブを通して食料が十分にある国にウクライナ産穀物が供給されたが、アフリカ、アジア、中南米の食料を最も必要としている国々には届いていないと指摘。最も貧しい5カ国(エチオピア、イエメン、アフガニスタン、スーダン、ソマリア)には協定の下で輸出された穀物の2.6%しか供給されていないとしたほか、ロシア産の穀物と肥料の輸出は悪化の一途をたどっているとの認識も示した。”【7月5日 ロイター】というのものです。

国営のロシア農業銀行を国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)に再接続するようにロシアが求めている件では、代替案も検討はされていますが、ロシア側は否定的です。

****ロシア、黒海穀物合意延長「根拠ない」 農業銀のSWIFT接続要請****
ロシア外務省は4日、国連などが仲介している黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)について、延長する根拠がないとの見解を示し、7月17日の期限切れ前に対象となる全ての船舶が黒海の海域から出られるようあらゆる手段を尽くしていると表明した。

同時に、国営のロシア農業銀行を国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)に再接続するよう改めて要請。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が3日、ロシア農業銀行が子会社を創設して国際金融ネットワークに再接続することを認める案について欧州連合(EU)が検討していると報じたが、このような妥協案は受け入れられないとの立場を示した。

ロシアは5月半ばに同イニシアティブの延長に合意したが、延長期間は2カ月にとどまり、その後も繰り返し延長の根拠はないとの立場を示していた。(中略)

これとは別に外務省のマリア・ザハロワ報道官は、FTの報道について、新組織を立ち上げるには何カ月もかかるうえ、SWIFT接続にさらに3カ月かかるとして、こうした案は「意図的に実行不可能」との見方を示した。

ザハロワ氏は、ロシア農業銀行とJPモルガンとの間に代替決済チャネル設置する国連の案も否定。「SWIFTに代わるものは存在しない」と述べた。(中略)

国連はロシアの肥料輸出を促進する方法について引き続き取り組んでいるとした。【7月5日 ロイター】
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【影響が拡大すればロシアの外交戦略にも打撃 注目される“落としどころ”】
アメリカはロシアの対応を牽制していました.。
“アメリカのサリバン大統領補佐官は16日、「ロシアが撤退すれば、世界の国々はロシアは背を向けたというだろう」、「それはロシアにとって今後とてつもなく大きな外交的損失になる」とけん制しました。その上で「アメリカはウクライナと緊密に連携し、いかなる事態にも備えている」と強調しました。”【7月17日 TBSNEWSDIG】

アメリカの言うように、このまま停止が長期化してその影響が拡大すると、ロシアは「悪者」「犯人」として非難を浴びるリスクもあって、どこで、どんな形で妥協するのか注目されます。

****「穀物合意」離脱 ロシアにもリスク 非欧米諸国と関係悪化も****
ロシアがウクライナ産穀物を黒海経由で輸出する手続きを定めた「穀物合意」からの一時離脱を表明したことは世界の食料事情を悪化させる恐れが強い。

一方、合意離脱はロシアにとっても、合意維持を求めてきた途上国などからの支持の低下といったリスクをはらんでいる。ロシアは合意復帰をちらつかせて自身の要求を認めさせる構えだが、国際社会がロシアの揺さぶりに屈する保証はなく、ロシアの「瀬戸際戦術」が成就するかは不透明だ。

小麦の国際指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物価格は、ウクライナ侵略開始後の2022年3月、1ブッシェル(約27キロ)=10ドルを突破。ただ、同年7月の穀物合意の成立などで同年秋以降は下落傾向が続き、最近は1ブッシェル=6ドル台で推移していた。タス通信によると、ロシアの合意離脱を受け、シカゴ取引所の小麦先物価格は3%超上昇した。

ウクライナは世界有数の穀物輸出大国で、国連によると、合意によりトウモロコシ1700万トン、小麦900万トンなど計約3300万トンがアフリカやアジア、欧州、中東などの40カ国以上に輸出された。国連は合意で穀物価格を23%下落させられたと評価している。

合意の失効後も、ウクライナとトルコ・国連はロシア抜きでの輸出継続を模索するとみられる。ただ、運搬船が露軍の妨害を受ける恐れもあり、輸出が継続できるかは不透明だ。

一方、ウクライナ侵略で欧米と敵対したロシアはアフリカや中東など非欧米諸国との関係を強化し、制裁の打撃や国際的孤立を回避しようとしてきた。合意の失効で各国の食料事情が悪化すれば、ロシアの外交戦略にも一定の打撃となる。

ロシアは今月下旬、19年に続き2回目となる「ロシア・アフリカ首脳会議」の開催を露北西部サンクトペテルブルクで予定している。ロシアはアフリカとの連携を強める思惑だが、合意を失効させたことで首脳会議にも水を差した形となった。

ロシアは従来、合意から離脱した場合でもアフリカなどに無償で食料を供給すると説明。だが、制裁下にあるロシアにそれがどこまで可能かは疑問が残る。【7月17日 産経】
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