孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ハイチ大地震  震災地の豪華客船 大規模援助と「ボートピープル」阻止

2010-01-21 21:37:36 | 世相

(“flickr”より By American Red Cross
http://www.flickr.com/photos/americanredcross/4272027088/)

【国際援助物資で空港は大混雑】
大地震に見舞われたハイチのポルトープランス国際空港は、アメリカ(実際には米空軍)が暫定的に管制業務を担っていますが、援助物資などを積んだ各国からの航空機で大混雑となり、離着陸を一時制限せざるを得ない状況となっていました。(支援物資が住民の手に届いているかは別問題です)

例えば、国際医療援助団体「国境なき医師団(MSF)」は、薬品や手術用備品、透析装置2台など計12トンの物資を積んだ輸送機が3度にわたって着陸を拒否され、隣国のドミニカ共和国に迂回させられたとのことで、「被災者の命を救う医療援助を積んだ輸送機が拒否され続けることは受け入れられない」と不満を表明していました。

そうした混乱状況も、国連のホームズ人道問題調整官(事務次長)が20日、米国の航空管制下でポルトープランス国際空港に援助物資が順調に運び込まれるようになるなど、改善し始めているとの認識を明らかにしています。

大災害や紛争などがあると、各国や国際援助団体が先を争って駆けつけ援助合戦を繰り広げる現象が見られます。
日本などは今回援助出遅れが指摘されています。
もちろん各国・各団体が援助を競うことは基本的には結構なことです。
ただ、現地の必要性の状況に関わらず、人々の関心が薄れていくにつれ援助は減少していきます。また、各国・各団体の思惑・意図が現地の要請とずれていることもあります。
逆に、ハイチではまだまだ先の話ですが、援助・支援が現地の人々に依存症をもたらすこともあります。
空港が支援物資で渋滞するほどの手厚い国際支援が、現地の視点で、現地の復興につながる形で行われることを願います。

【厳重な警備の中で海水浴やバーベキュー】
ハイチ大地震の情報は毎日たくさん流れていますが、救助・支援の本筋とはやや異なる視点からの記事・情報を2,3ピックアップしてみました。

****震災ハイチに豪華客船は適当?=「無神経」「経済支援」で賛否****
大地震が襲ったハイチの北部に今週、各国の観光客を乗せた大型クルーズ客船が停泊した。被災前から旅程に組み込まれ、援助物資を急きょ携えての訪問となったが、震災後の混乱が広がり被災者の窮状が悪化するさなかだけに、物議を醸している。
同客船はロイヤル・カリビアン・インターナショナル社(米国)が運航。今週だけで計3隻が到着し、数千人規模がハイチを訪れる予定だ。報道によれば、観光客は被災を免れた北部の同社プライベートビーチで、厳重な警備の中で海水浴やバーベキューを楽しんでいる。
同社は震災支援で100万ドル(約9100万円)の寄付を表明したほか、寄港地プエルトリコで米や粉ミルク、水、缶詰などを積み込み、ハイチ側に提供。ゴールドスタインCEO(最高経営責任者)は自らのブログで、「島にいて、物売りや弊社従業員のために経済活動を生み出すことが支援になる」と今回の停泊を正当化している。
しかし、ある乗船者はインターネットに「数万の遺体が路上に積まれ、生存者が食料と水を求めているのに、日焼けやカクテルを楽しむのは無理」と自責の念を書き込んだ。報道を受け、ネット上には「無責任で不快だ」「ハイチ唯一の収入源である観光を断ち切るべきではない」など賛否両論が飛び交っている。【1月20日 時事】
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“物売りや弊社従業員のために経済活動を生み出すことが支援になる”というのは理屈ではあります。
“収入源である観光を断ち切るべきではない”というのも、インド洋大津波の後に観光客が減って苦しんだビーチリゾートが多かったことでも問題になりました。
しかし、“遺体が路上に積まれ、生存者が食料と水を求めているのに”“被災を免れたプライベートビーチで、厳重な警備の中で海水浴やバーベキューを楽しんでいる。”というのは、やはり受け入れがたいものを感じます。
いささか時期が早すぎたようです。

【84%が米国には支援の責任があると回答】
各国の救援・支援活動の中でもアメリカのそれがやはり際立っています。
オバマ大統領は12日夕に地震の一報を受けると、約30分後には支援を表明。その後も1億ドル(約91億円)の緊急援助、軍や空母の派遣など矢継ぎ早に救援策を発表しました。

アメリカは独裁政権崩壊による自国の権益保護を名目に、ハイチを1915~34年に占領、04年クーデター後の事態収拾でも、国連多国籍軍に海兵隊約3000人を派遣しており、ハイチの国家形成には、米国の干渉の歴史が強く影響しています。アメリカの今回の迅速・大規模な活動は、単に地理的に近い最貧国の災害救援というだけでなく、そうしたハイチとの関わりがあってのことです。
米CBSテレビが18日発表した世論調査結果によると、84%が米国には支援の責任があると回答、オバマ大統領のハイチ大地震への迅速な対応を80%が評価しているそうです。【1月19日 時事より】

また、オバマ大統領は昨年4月の米州首脳会議で中南米外交を始動させ、域内の反米左派政権との「協調」を一度は演出しましたが、6月の中米ホンジュラスのクーデター対応が中南米で批判を浴び、アフガニスタンでの戦線拡大などで亀裂を深める結果となったことを受けての、中南米での「失地回復」との見方もあるようです。【1月16日 産経より】
ベネズエラのチャベス大統領は17日、アメリカは地震を口実にハイチを占領しようとしているなどと非難しています。

【援助はするが、アメリカには来ないで】
米軍当局者はAFP通信に対し、「必要なだけハイチにとどまる。60日かもしれないが、それ以上必要というなら支援を続ける」と並々ならぬ決意を見せているそうですが、一方で、ハイチから難民がアメリカへ押し寄せるのは困るという本音もあります。

****ハイチ、首都から住民脱出 米、難民食い止めに躍起*****
ハイチ大地震で壊滅的被害を受けた首都ポルトープランスから、食糧があって治安もましな農村部へ住民の大脱出が始まった。そうした国内状況に絶望した住民が米国などに海路、押し寄せる可能性も浮上、米政府は難民発生を食い止めようと躍起になっている。
AP通信は19日、ポルトープランス発で、何千人もの首都住民が飢えと暴力を逃れ、農村部なら食糧が手に入れやすいと期待して、バスに争うようにして乗り込んでいる、と伝えた。首都脱出者は百万人を超すともみられているという。

一方、米紙ニューヨーク・タイムズによると、米政府当局は、今後、数週間で被災地の生活環境が悪化して、ハイチ国民が海を渡って不法入国する可能性を懸念して、「ボートピープル」を海上で拘束してキューバのグアンタナモ米海軍基地に収容する計画の検討にも入っているという。
このため、米空軍の輸送機は1日約5時間にわたってハイチ上空を飛行、駐米ハイチ大使の声で「よく聞いてください。祖国を離れようとボートに飛び乗ってはいけません。祖国に送還されるだけです」との録音メッセージを流し、難民の水際阻止を図っている。
フロリダ州をはじめ米国内には、ハイチからの不法移民40万人が滞在しているとされ、難民が不法移民化する事態だけは避けたいからだ。
米政府は現在、滞米中のハイチからの不法移民に、特例措置として18カ月間の滞在と労働許可証を交付する方針を固めたという。不法滞在者の収入獲得を合法化し、祖国への仕送りを促進して間接的にハイチ復興を支援するという狙いと、米国内に“稼ぎ手”がいれば難民の発生も極力、抑え込めるとの思惑がある。(中略)
ただ、特例措置では、米国滞在と就労が合法化されるのは18カ月間のみで、それ以上、経過した場合、国外退去措置も免れない。【1月21日 産経】
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駐米ハイチ大使の上空からのメッセージ「米国への扉が広く開かれていると思うなら、まったくそうではありません。海上で即座に阻止され、元の場所に送還されるでしょう」について、米国務省の19日の会見では、記者から「非常に残酷だ」「なぜ必要なのか」と疑問が相次ぎ、クローリー次官補は「海を渡るのは危険な試みだとはっきり理解してもらうためだ」として「人道的配慮」を強調したそうです。【1月20日 朝日】

被災者をよそにビーチリゾートを楽しむ豪華客船といい、支援はするが自国には来ないでと訴えるアメリカといい、勝手と言えば勝手です。
こんなブログをのんびり書いていることも、被災者の窮状からすれば理不尽なものでしょう。
所詮、人間の存在・営みは理不尽・不公平なものではありますが、どこで自己を律するラインを引くかということでしょう。

【国際養子縁組は最後の手段】
こんな記事も。
****ハイチの子ども、国際養子縁組は「最後の手段」=国連****
国連児童基金(ユニセフ)は19日、ハイチの大地震で身寄りを失った子どもたちや孤児について、国際養子縁組は最後の手段であるべきとの立場を表明した。
ユニセフは、12日の地震で親が死亡したり行方不明になり、混乱した首都ポルトープランスの路上をさまよっている子どもたちについて、身元の確認に努めている。
スポークスマンのベロニク・タボー氏は会見で「人道的状況がどのようであれ、家族が再び一緒になることを優先するというのが常にユニセフの立場だ」と説明。親が死亡したり行方不明の場合には、祖父母など親族の元に引き取ってもらう努力がなされるべきと語った。その上で、子どもは「できる限り出生国にとどまるべき」とも述べた。
また、地震後に子どもに対する暴力も報告されていると指摘。子どもの人身売買が起こる恐れを懸念しているとも述べた。
ユニセフによると、今回の大地震発生前の時点で、ハイチの人口の48%は18歳未満だった。【1月20日 ロイター】
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“国際養子縁組は最後の手段であるべきとの立場を表明”ということは、逆に言えば、国際養子縁組を求める声が多く寄せられているということでしょうか。
子どもの人身売買は論外ですが、スーダン・ダルフール地方の孤児だと主張してチャドの子ども103人を フランスに密出国させようとしたと、2007年12月、チャドの裁判所から誘拐未遂罪で重労働 8年が言い渡されたフランス援助団体「ゾエの箱舟(Arche de Zoe)」の事件みたいなことが起こらないようにしてもらいたいものです。


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イランの不可解な事件  ビンラディンの娘保護と核科学者爆殺

2010-01-20 23:25:15 | 国際情勢

(1年前の09年1月 イラン・テヘランの街を埋め尽くした人々 “flickr”より By 27389271
http://www.flickr.com/photos/arasmus/3629513240/)

【テロリストの娘は何を語るか?】
アルカイダ指導者ウサマ・ビンラディンの行方は相変わらず不明ですが、彼の子供たちはイランで軟禁状態にあり、そのひとり、娘のイマン(17歳)がサウジアラビア大使館に保護を求めたとか。

****イランに現れたビンラディンの娘*****
09年11月、イランの首都テヘランにあるサウジアラビア大使館を17歳の少女が訪れた。
彼女の名はイマン・ビント・ウサマ・ビンラディン。国際テロ組織アルカイダの創設者ウサマ・ビンラディンの娘だ。イマンは01年にアフガニスタンからイランに逃れて以来、5人の兄弟姉妹と共にイラン国内の施設で軟禁状態に置かれていたと語り、大使館に保護を求めた。
問題の施設はアルカイダの幹部も訪れている。サウジアラビア当局者の一部が、03年に同国の首都リヤドで起こった爆弾テロの首謀者とみている面々だ。
それらの幹部やテロ計画についてイマンが何かを知っているとすれば、テヘランはアメリカのアルカイダ掃討計画の中心地に躍り出ることになる。

この問題は、イラン当局とアルカイダの関係がいかに奥深く、複雑なものかを示唆している。
多くの米政府当局者は、シーア派のイラン政府とスンニ派のアルカイダが敵視し合っていると考えているが、それは違う。
9・11独立調査委員会の報告書は、01年の9・11テロの前に、ハイジャック犯たちがアフガニスタンに出入りするのをイランが手助けしていた「強力な証拠」があると示唆しており、両者のつながりについてさらなる調査を呼び掛けている。
「この問題はイランにとって、まさにパンドラの箱だ」と、問題に詳しいアラビア人の情報アナリストは言う。そしてイマンの登場によって、その箱のふたが開かれた。
ビンラディンの娘はイランで軟禁されていたという。【1月20日号 Newsweek】
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確かに、イランとアルカイダのつながりが明らかになれば話は大事になりますが、“それらの幹部やテロ計画についてイマンが何かを知っているとすれば”という話でので、どうでしょうか・・・。
ただ、イランはなんのためにウサマ・ビンラディンの子供たちを軟禁しているのでしょうか?

【イランとタリバン】
それと、アルカイダだけでなく、スンニ派タリバンとイランの関係も不透明です。
確かに、以前より隣国の異宗派タリバン政権とは対立がありますし、国境を越えて持ち込まれる麻薬も問題となっています。また、タリバンと関係の深いパキスタンともイランは利害が反するという側面もあります。

ただ、共通の敵アメリカの敵は・・・ということで、07年頃、チェイニー元副大統領に近いとみられる米政府「高官」筋が、タリバンに対してイランが武器支援をしているとの説を各種メディアに流していたこともありました。

“アフガニスタンに駐留する北大西洋条約機構(NATO)が指揮する国際治安支援部隊(ISAF)が、イランからイスラム原理主義組織タリバンに向けた武器の輸送を阻止していたことが明らかになった。16日付の米ワシントン・ポスト紙が伝えた。【07年9月17日 AFP】といった報道もありました。

これらについては、イラン政府が積極的に武器供与に関与しているよりも、武器ブラックマーケットのディーラー、麻薬密売人、あるいはアルカイダの資金提供者が、イランの下級軍人から違法に仕入れた武器がイランからアフガニスタンへ、アフガニスタンからはヘロインがその見返りにイランに流れる・・・という、民間ベースの麻薬・武器の密輸がイランとアフガン間にあるということではないかとも言われています。
イラン政府は明確にタリバンとの関係を否定しています。

【見せしめ】
首都テヘランで12日朝、テヘラン大学教授で核科学者のマスード・モハマディ氏が遠隔操作の爆弾の爆発により死亡した事件がありました。
同教授は原子力分野で多くの論文を発表する研究者。爆弾は自宅のオートバイに仕掛けられていました。
イラン国営放送は「シオニスト(イスラエル)と米国の工作員が爆弾を仕掛けた」と報道、西側勢力が事件に関与したとの見方を伝えています。
また、イラン革命防衛隊系のファルス通信は反体制派グループが犯行を認めたと報じ、殺されたモハマディ氏は信心深い男で、6年前まで革命防衛隊に協力していたとも伝えています。

アメリカ国務省は「ばかばかしい」と一蹴、英紙フィナンシャル・タイムズは「(同教授が)核開発にかかわっていたとするいかなる可能性よりも、改革派の支援者だった事実の方が教授の死を説明できるだろう」と、同教授が昨年6月の大統領選後、学生の抗議運動を支援していたため、見せしめとして暗殺された疑いが強いと指摘しています。

複数の反政府系ウェブサイトはモハマディ氏が、昨年6月の大統領選で改革派のムサビ元首相への支持を表明したテヘラン大学の教員420人に名前を連ねていたと指摘。
また、反政府デモに参加するよう学生たちに呼び掛け、小型バスまで用意したとも。【1月27日号 Newsweekより】

モハマディ氏の専門は素粒子物理学と理論物理学で、核爆弾の製造につながるものではないそうですが、同誌は、“それでも、もしモハマディが核計画に関わっていたとしたら、彼の暗殺はイランの核計画関係者に情報を漏らすなという警告になったはずだ”“モハマディの死にテヘラン大学の教員たちは青ざめている。テヘラン大学ではモハマディが死ぬ1週間前、教授88人が最高指導者アリ・ハメネイ師に対し、反政府デモへの暴力的な弾圧をやめるよう求める公開書簡を反政府系サイトに投稿していた。今回の暗殺事件を受けて、同じような書簡が出されることはなくなるだろう。”とも報じています。

【追加制裁】
イランに対する追加制裁の協議は難航しているようです。
****イラン追加制裁合意できず NYで6カ国の高官会合*****
イラン核問題への対応を協議する国連安全保障理事会の5常任理事国とドイツの6カ国による高官会合が16日、ニューヨークで開かれたが、米国が求めるイランへの追加制裁で合意できなかった。会合に参加した欧州連合(EU)やロシアの高官が明らかにした。会合は、米欧が同問題で設定した昨年末の交渉期限後は初めて。外交努力の継続を求める中国を除く5カ国からは高官が参加した。【1月17日 共同】
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ミャンマー  総選挙に向けて軍政の思惑、スー・チーさんの動向

2010-01-19 13:54:31 | 国際情勢

(ミャンマー シュエダゴン・パゴダにて “flickr”より By indigoprime
http://www.flickr.com/photos/indigoprime/4272642165/)

【「自由・公正な総選挙」】
岡田外相は17日午前、都内のホテルでミャンマーのニャン・ウィン外相と会談し、総選挙に関してスー・チーさんを含む政治犯が釈放され、すべての関係者が参加して行われることが重要だと指摘。
ウィン外相は、ミャンマー政府とスー・チーさんとの対話状況を説明するとともに、総選挙について「自由・公正な総選挙を実施する」と応じたそうです。

ミャンマーの総選挙については、今月初め、10月10日投票を軸に調整がなされているとの報道がありました。
「民政移管」とは言え、軍部の影響力を保持することを担保した新憲法枠組みでの選挙ではありますが、自宅軟禁状態にあって裁判中のアウン・サン・スー・チーさんの処遇も含めて、やはり注目があつまります。

****ミャンマー総選挙、10月10日軸に調整 軍政筋明かす*****
ミャンマー(ビルマ)の軍事政権が独自の「民政移管プロセス」の一環として今年中の実施を表明している総選挙について、軍政筋は6日、10月10日の投票を軸に調整が進んでいると明らかにした。現職閣僚の多くが4月までに辞任して立候補する予定で、投票時期については「選挙活動に半年ほどが必要」との判断が働いているという。
軍政筋によると、選挙は人民代表院(下院=定数440)と民族代表院(上院=同224)で同時に実施され、4月前後に選挙法や政党法などが公表される見通し。軍政は閣僚を辞任する高位軍人らに加え、翼賛組織「連邦団結発展協会(USDA)」のメンバーらに2~3の翼賛政党を設立させるとみられている。
2008年5月に成立した新憲法では、上下両院の議席の4分の1は軍が指名することになっており、選挙で決まるのは残りの議席。ここに軍の影響下にある議員を大量に送り込み、選挙後も実質支配を続ける体制を作り上げるのが軍政側の狙いだ。

選挙を見据えた動きも出始めた。軍政は、数十万人の公務員の給与を今月末の支給分から一律2万チャット(実勢レートで1840円)増とする方針を決めたが、政府職員の票の取り込みを狙った措置とみられている。
外交筋によると、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが率いる国民民主連盟(NLD)など、反軍政勢力にも選挙への参加を認める可能性が高い。民主的な選挙を装い、選挙後の新政権の承認を国際社会から引き出す狙いだ。
ただ、軍政の弾圧でNLDは組織の弱体化が進んでいるとされ、スー・チーさんの軟禁解除も「軍政は容易には応じない」(外交筋)との見方が強い。スー・チーさんが自由に活動できなければ、選挙に参加しても厳しい戦いを強いられるのは必至で、NLDは参加の是非を慎重に検討しているとみられる。【1月7日 朝日】
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【周到に準備進める軍政側】
“軍政は閣僚を辞任する高位軍人らに加え、翼賛組織「連邦団結発展協会(USDA)」のメンバーらに2~3の翼賛政党を設立させるとみられている。”とは、軍政側も用意周到です。
一応、複数政党による民主政治を演出しようというものです。

スー・チーさんについては、軍政は国際社会が求める解放に応じた場合の総選挙への影響を慎重に検討しており、解放しても選挙結果に大きな影響はなく、軍による実質的な支配体制は揺るがないとの自信を深めている模様だとも報じられています。

“軍政に近い筋によると、軍政は「スー・チーさんを解放し、国民民主連盟を選挙に参加させたとしても、国民民主連盟の獲得議席は全体の4分の1程度にとどまる」と分析。解放のタイミングについて「投票日直前」で固めつつあるという。一方、軍政と太いパイプを持つ中国政府関係者も「選挙前にスー・チーさんが解放される可能性が高い」と語った。”【09年12月28日 毎日】

「投票日直前」なら、スー・チーさんの選挙戦への参加を実質的に認めないままで、形式的には「自由、公正かつすべての関係者が参加する」という国際社会の要請にも応えられ、“民主的”選挙の結果を国際的にもアピールできるという考えです。

上記記事はこうした、軍政側の総選挙に向けた一連の流れは、昨年末に対話路線に舵を切ったアメリカ・オバマ政権との間で話がなされているものだとの見方を示しています。
“一転してスー・チーさん解放に応じる可能性が高まったのは、今年1月発足したオバマ米政権が制裁一辺倒の対ミャンマー政策を対話路線に大きく転換させたことが契機となった。
米国のキャンベル国務次官補は11月初め、米高官として14年ぶりにミャンマーを訪問し、軍政のテインセイン首相、スー・チーさんと相次いで会談。双方に当事者間の「対話」を要請し、総選挙へ向けた一連のシナリオを提示した可能性がある。”【同上】

【NLD、選挙参加の方向か】
一方、スー・チーさん、野党「国民民主連盟」(NLD)の動向ですが、明確な決定はなされていませんが、スー・チーさんもNLDの選挙戦参加の方向で調整を進めていることが報じられています。

****ミャンマー:NLD、選挙向け執行委の若返り図る*****
民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさん(64)率いる同国野党「国民民主連盟」(NLD)は14日、中央執行委員会のメンバーを11人から20人に拡大すると発表した。軍事政権が今年予定する20年ぶりの総選挙をにらみ、執行委の若返りを図るのが狙い。ただ、アウンシュエ議長(91)ら高齢の現メンバーはそのまま留任。焦点の総選挙への参加の是非も明らかにしなかった。
現在の執行委メンバーの大部分は80歳以上だが、新メンバー9人は60歳代が中心だ。スー・チーさんは昨年12月、アウンシュエ議長らとの会談で執行部改革を要請。執行部の世代交代により、総選挙への参加に積極的とされる若手の登用を図る狙いがあったとみられていた。

高齢の現メンバーが留任したことについて地元記者の一人は「議長らが引き続き党を指導していく意向を強く示したもの」と指摘。一方で「政権主導とはいえ、総選挙に参加しなければNLDの先細りは避けられない。NLDは一部政治犯への恩赦など政権側の『柔軟措置』を待ち、それを理由に選挙参加を表明するのではないか」との見方を示した。
総選挙の実施は今年後半になるとみられる。国際社会は「自由、公正な選挙」の条件として軍事政権にNLDの選挙参加を強く求めており、NLDが参加を表明すれば政権は受け入れるとみられる。
一方、ヤンゴンからの情報によると自宅軟禁中のスー・チーさんは15日午後、軍事政権のアウンチー連絡担当相と昨年12月以来約1カ月ぶりに会談した。スー・チーさんは11月に政権トップのタンシュエ国家平和発展評議会議長に出した手紙で、NLDの執行委開催を認めるよう求めていた。今回の会談では、新体制による執行委の開催を協議した可能性が強い。【1月15日 毎日】
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ミャンマー民主化を求める立場からすれば、実質的な軍政の延長ともとれる民政移管後の新体制に参加することで、この新体制を認めることについては忸怩たるものがあるでしょうが、さりとて、新体制の枠外にいては何らの影響力も行使できないことにもなります。
スー・チーさんが進めているとされるNLDの総選挙参加は、現実的な対応かと思われます。

もっとも、軍政側が “選挙前のスー・チーさん解放”や“NLDの総選挙参加”を報じられているように認めるのかという点は、まだまだ不透明なところではあります。




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インド  ヒンズー・イスラムの対立 17年を経て調査報告書

2010-01-18 17:00:43 | 国際情勢

(コーランを焼くヒンズー教徒 “flickr”より By saraab™
http://www.flickr.com/photos/saraab/783886367/)

【バブリ・マスジッド事件】
インドは、特定の宗教にはとらわれないという世俗主義を国是とする国です。
しかし、実際には多数派ヒンズー教徒と少数派イスラム教徒の間で、時に激しい流血を伴う衝突・対立が根深く存在し、そのことが社会を不安定化させ、新興国の旗頭としての将来に影をさす大きな問題となっていることも周知のところです。

インド・パキスタン建国時にも壮絶な流血がありましたが、その後のインド国内におけるヒンズー教徒とイスラム教徒の対立のひとつの頂点になった事件が1992年のバブリ・マスジッド事件でした。

イスラム教モスク「バブリ・マスジッド」は、16世紀にアヨディヤに建設されましたが、モスクができる以前はその地にヒンズー教寺院があったと主張するヒンズー教徒は、ヒンズー寺院再建運動を80年代から起こしていました。

その後、ヒンズー至上主義をとるインド人民党(BJP アドバニ党首)が寺院再建運動を政治的キャンペーンとして展開したことで緊張が高まります。
政府による調停も不調に終わり、ついに1992年10月には2万とも十数万人ともいわれる過激なヒンドゥー教徒がこの地に集結し、12月6日、防戦するイスラム教徒と乱闘となり、モスクを破壊してしまいます。
これを契機に、紛争はインド全土に波及、死者は12月9日までで600人、事態が収束するまでには6000人とも言われています。

この事件後、ヒンズー・イスラム両教徒間のテロ・報復が相次ぎ、2002年にはグジャラート州ゴドラ郊外で、アヨディヤ巡礼帰途のヒンズー教徒が乗った列車がイスラム教徒によって焼き討ちにあい、その報復にヒンズー教徒がイスラム教徒を各地で襲撃、2000人を超える死者を出す暴動も起きています。
最近では、08年にムンバイの同時多発テロがありましたが、これもヒンズー・イスラムの対立が底流にあると思われます。

バブリ・マスジッド事件は、ヒンズー教徒に高揚感をもたらし、ヒンズー至上主義団体をバックにもつインド人民党(BJP)は、90年代の総選挙で幅広い支持を獲得。96年に第一党となり、98年にはバジパイ首相率いる連立政権を樹立しています。

また、古都アヨディヤのヒンズー寺院は、ヒンズー教徒にとって「七聖都」の一つとされ、一日に数千人、多いときには1万人以上が、ラーマ像が祭られる寺院を訪れるそうですが、イスラム教徒によるテロを警戒する警備は厳重を極め、広い敷地には20カ所の監視塔があり、治安要員2千人が24時間体制で警備しているとのことです。

【「ヒンズー教徒はイスラム教徒の“敵”になってしまった」】
バブリ・マスジッド事件から17年、政府の事件調査委員会は昨年12月、ようやく報告書を出しました。
調査委員会が昨年12月、国民会議派のシン首相に提出した報告書は、当時ウッタルプラデシュ州政権を握っていたBJPの政治家にモスクが破壊された責任の一端があるとしており、68人の国会議員やヒンズー至上主義団体のメンバーも名指ししています。

****インド、世俗主義の危うさ今も 政治に翻弄 聖地に影 バブリ・マスジッド事件****
報告書は、長年の疑惑が改めて裏付けられたという程度に受け止められ、世論にさほど驚きはない。
アヨディヤの住民たちも「あんな報告書、関心はない」と言い放ち、「ヒンズー教徒もイスラム教徒もずっとこの土地で一緒に暮らしてきた。問題を起こすのは他州の人間だ」と憤る。政治などが事件を利用しているという意識がある。
地元のイスラム教指導者、カーリー・ムハンマドさんも「どの政党も選挙の度に、イスラム教徒の票を獲得しようと、いいことばかり言う。選挙が終わったら音沙汰(さた)なし。うんざりだ」と語る。
人口12億のインドではヒンズー教徒が約8割、イスラム教徒は1割強。
事件で「ヒンズー教徒はイスラム教徒の“敵”になってしまった」(インド人ジャーナリスト)。そのうえ世界ではテロが相次いでいる。
治安当局のパンデイ氏は「ここは常にイスラム過激派の攻撃リストの上位だ。断続的に入るテロ情報の数は最近、増えている」と話す。「ヒンズー教徒は蚊も殺せない。イスラム教徒は人間を殺すこともいとわない連中だ。考え方が全然違うのさ」とさえ言う。そして付け加えた。
「ここはもう永遠にヒンズー寺院なんだ。その事実は変えられない」 【1月18日 産経】
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【インド人民党の凋落】
政治的影響としては、当然ながら野党・インド人民党(BJP)には大きな痛手となると思われます。
****インド人民党を苦しめる17年前の亡霊*****
インドの国会で「舞台」の幕が上がる。悪役は野党の指導者たち。彼らが17年前に起こした犯罪についての報告書が攻撃の材料になる。芝居がかった論争が繰り広げられそうだが、有益な結論が導き出せるかどうかは分からない。
この論争は、窮地に立って久しい野党インド人民党(BJP)にさらなる悩みを与えそうだ。暴力的なヒンドゥー至上主義を引きずっていたBJPの過去に再び光が当たりかねないからだ。
報告書で、BJPは92年にヒンドゥー教過激派が北部アヨディヤのモスク(イスラム礼拝所)を破壊した事件の責任を問われている。BJPのラル・クリシュナ・アドバニ元総裁は「とどめを刺される」ことになるだろう。

だがBJPにとって痛いのは、大きな影響力を既になくしたアドバニを失うことではない。むしろ問題は、BJPを脅かすヒンドゥー至上主義という過去の亡霊がよみがえることだ。
今の有権者はこんな過激なイデオロギーに関心はない。彼らが興味を持っているのは、過去ではなく未来の繁栄だ。
ヒンドゥー至上主義ばかりが強調されれば、BJPは与党でリベラルな国民会議派に対する保守的な野党としての立場を有権者にアピールするのが難しくなるだろう。
BJPには魅力的なイデオロギーもなければ、大衆に人気があって将来の連立パートナーにも受け入れられる指導者もいない。なのに党内は派閥争いで割れている。インドで政権交代を担える野党が生まれるのは当分先になりそうだ。【09.12.16号 Newsweek】
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与党・国民会議派が、ソニア・ガンジー総裁の長男、ラフル幹事長という“ネール・ガンジー王朝”の後継者を将来の切り札として持つのに対し、野党・インド人民党には指導者不在が以前から指摘されています。
今回報告書は、こうした人民党の状況をさらに厳しいものにしそうです。

【ひとは何故かくも憎しみあうのか?】
それにしても、なぜヒンズー・イスラム両教徒はかくもいがみ合うのか?
パレスチナなどの宗教対立や世界各地の民族対立でよく言われるのは、「昔はこんな対立はなかった。みんな仲良く暮らしていたのに・・・」ということです。
インドの場合も、そうです。

なぜ、昔は問題にならなかった対立が、近年になって激化するのか?
単純に考えると、昔は専制君主とか権力者などに支配される立場にあった異教徒・異民族は、支配者が特定の側を偏重する場合を除き、同じ支配される者として権力構造の外側におり、さほど対立する局面もなかったのでは。
それが、現代、自分達が主体となって国家を作る(それは、民主主義ということでもありますが)という段になると、誰が誰のためのどういう国をつくるのかという過程で、“自分達とは何か?”という意識がクローズアップされ、自分達とは異なる者との差異、その間での利害・理念の対立が強調されるようになり、(選挙を含めた)権力獲得競争となってくる・・・といった流れがあるように思えます。

愚かな人間の民主主義は、必然的に対立に至る・・・というのでは、あまりに愚かで救いのない結論です。
下手の考え休むに似たり・・・ということで、今日はここまで。

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アフガニスタン  新閣僚、再度不信任  外国軍への国民の反応

2010-01-17 14:56:41 | 国際情勢

(アフガニスタン・カンダハル近郊の村 パトロール中のイギリス部隊に笑顔を送る少年
“flickr”より By DVIDSHUB
http://www.flickr.com/photos/dvids/4270159300/)

【「大統領主導の政治バランスが崩れ始めた象徴的事件」】
アフガニスタンでは、今月2日、カルザイ大統領が提出した24人の閣僚候補について下院で信任投票を実施、17人が不信任となりました。
そのため、16日、大統領が9日以降に提出した新たな顔ぶれの17人の信任が再度下院で行われましたが、結果は17人中10人が再び不信任となり、カルザイ政権2期目の苦境が伝えられています。

****アフガン下院、組閣案を再否決…大統領に反発*****
アフガニスタン下院は16日、カルザイ大統領が指名した閣僚17人のうち、10人の承認案を否決した。
1月2日に17閣僚の承認を否決したのに続くもので、議会の異例の反旗に直面した大統領は、2期目就任から約2か月を経ても組閣のめどが立たずにいる。
大統領は9日、否決された17閣僚候補の顔ぶれを一新して再度、下院に承認案を提出。「必死の根回し」(地元記者)を続けて承認獲得を目指していた。
しかし、16日の2度目の採決で下院が承認したのは、ザルマイ・ラスル外相など7人だけ。ヘラート州出身の下院議員は、「大統領の資質に疑問を感じて、(17人)全員に反対票を投じた」と打ち明け、承認難航の背景に、カルザイ氏の求心力低下があることをうかがわせた。

下院(定員249人)は、野党「国民戦線」が約70人を数える以外は少数政党の乱立状態だが、これまでは強大な権限を持つカルザイ氏の意向に反する決議が行われることはめったになかった。地元記者は、今回の組閣難航を「大統領主導の政治バランスが崩れ始めた象徴的事件」と指摘している。
米国は2011年7月から駐留米軍の撤退を開始する出口戦略を表明しており、アフガン政府には国軍や警察の増強、汚職対策など、山積する課題処理を急ぐことが期待されている。
だが、下院の抵抗で、28日にロンドンで開かれるアフガン治安国際会議までに組閣が終わらない懸念も高まっている。その場合、国際社会からカルザイ氏の手腕を不安視する見方が強まるのは確実だ。これまでも、復興や汚職一掃に結果を出せずにいるカルザイ氏への国際社会の不信感は強まる一方で、カルザイ政権2期目は多難の滑り出しとなっている。【1月16日 読売】
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復興や汚職一掃で“ニュー・カルザイ”をアピールする必要があるのに、組閣さえ難航するとあっては、この先が思いやられる展開です。出口戦略がかかるアメリカも苛立っているのでは。
ただ、カルザイ大統領としても、「大統領の資質に疑問を感じて、(17人)全員に反対票を投じた」と言われたのでは、なすすべもありません。

【「かえって好都合な結果だ」】
今回の新閣僚不信任については、大体上記の読売記事のような見方が報じられていますが、ちょっと違う視点からの報道もあります。

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新外相となったザルマイ・ラスール大統領顧問(国家安全保障担当)など、今回信任された7人はいずれも多数派のパシュトゥン人、タジク人で、少数民族ハザラ、ウズベク系の5人はいずれも信任に必要な過半数に届かなかった。また女性3人の候補のうち信任されたのは労働・社会問題相の1人だけだった。
前回投票での7閣僚と合わせた14閣僚のうちでも、少数民族はウズベク系の鉱業相だけ。少数派を排除した形の下院の判断には、アフガンの民主化を支えてきた欧米などから批判が出そうだ。
ただ、不信任となった少数民族出身者には旧軍閥関係者もおり、国連の現地幹部は「選挙での支持の見返りにポストを要求する旧軍閥と、国際社会からの軍閥排除の求めの板挟みになったカルザイ氏にとって、かえって好都合な結果だ」とみる。【1月17日 毎日】
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大統領選挙のために、旧軍閥勢力や地方有力者に閣僚ポストの手形を乱発したと言われているカルザイ大統領ですが、「自分はポストに据えようとしたが、下院が認めなかったから・・・」というのは、カルザイ大統領にとって、旧軍閥勢力にも一応の顔が立ち、国際社会の要請にも結果として応えることになるという見方です。

“なるほどね・・・”と思わせる見方ではあります。
冒頭の読売記事では“「必死の根回し」(地元記者)を続けて承認獲得を目指していた”とありますが、真相はどうなのか・・・。
もし、毎日記事のようなことであれば、カルザイ大統領は相当にしたたかな政治家です。どうでしょうか・・・・。
新たな閣僚名簿の提示は当初、下院の冬季休暇入りなどによって時間がかかるとみられていましたが、カルザイ大統領は下院の休暇入りを凍結。ロンドンでのアフガン治安国際会議に臨むために、下院の審議を促し、早期に承認手続きを終えようとしていたことを考えると、意図した結果ではなかったように思えます。

ところで、国際的には大不評のカルザイ大統領ですが、国内的にも復興・治安回復が進まない現状への不満が強いと言われているところですが、“これまでは強大な権限を持つカルザイ氏の意向に反する決議が行われることはめったになかった”【冒頭の読売記事】というのは意外な感がします。

【犠牲者過去最悪】アフガニスタンの状況は“泥沼化”の様相です。
****アフガン:市民死亡数最悪2412人に 09年テロなどで****
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は13日、09年にテロ攻撃や空爆などで死亡したアフガン国民は、米国がアフガン攻撃を開始した01年以降最悪だった08年を14%上回る2412人だったと発表した。AFP通信によると、米軍など駐留外国軍兵士の死者数も前年比76%増の520人と過去最悪となっており、アフガン情勢は泥沼化の一途をたどっている。

UNAMAによると、死者のうち70%がタリバンなど武装勢力による攻撃が原因で、25%は米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆などによるという。
アフガン内務省によると、米軍は近年、自爆攻撃対策として装甲車の強度アップなど自衛策を高めている。これに対し、タリバン側は火薬量を増やすなどして爆発の威力を高めており、付近を通行中の住民が多数巻き込まれる結果になっているという。
一方、住民の犠牲増は、治安回復の道筋をつけられないカルザイ政権への国民の非難を高めており、政権の弱体化に直結している。【1月14日 毎日】
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【コーラン冒涜のうわさ】
そんなアフガニスタンで戦うアメリカなど欧米諸国にとって、悪いニュースと、ちょっといいニュース。
悪いニュースの方から。

****アフガン「外国部隊がコーラン冒涜」、うわさへの抗議デモで7人死亡*****
アフガニスタン南部ヘルマンド州で12日、北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)がイスラム教の聖典コーランを冒涜(ぼうとく)したと数百人が抗議するデモが起き、アフガン当局者の発砲で7人が死亡した。
同州知事の報道官が13日明らかにしたところによると、11日にISAFが実施した旧支配勢力のタリバン系の麻薬密売組織に対する作戦中に、コーランを冒涜する行為があったとのうわさが広がり、抗議する人々が同州のアフガニスタン国家治安局(NDS)の建物に押しかけた。
デモ隊が受刑者を解放しようと建物を破壊し始めたとき、混乱の中で発砲が始まったという。
この報道官によると、州知事の命令で行った調査の結果、最初に発砲したのはアフガン情報機関の当局者で、現場に駆けつけたISAFの兵士らはデモ隊から投石を受けたが発砲はしなかったという。
また、コーランが冒涜された事実もなかったとし、「全ての責任はデモをあおったタリバンにある」として、コーランをめぐるうわさはタリバンによるでっち上げだったと説明した。【1月14日 AFP】
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コーラン冒涜といった宗教的問題が絡むと、たださえ難しい外国勢力の活動は、ますます困難になります。
“うわさ”にしても、そうしたうわさが出やすいこと自体が問題です。

【増派支持が6割】
一方で、欧米諸国の増派をアフガニスタン国民が支持しているという世論調査も出ています。
****外国軍増派、6割が支持=タリバン批判広がる-アフガン世論調査****
米英独のテレビ局がアフガニスタン国民を対象に実施した世論調査の結果が11日公表され、米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の増派を支持する人が61%に上ることが分かった。早期の治安回復を望む声を反映したものとみられ、反政府勢力タリバンに対する反発の広がりがうかがわれる。
調査は米ABC、英BBC、独ARDが昨年12月、アフガン国民約1500人を対象に面接方式で実施。国が正しい方向に向かっていると考える人は約1年前の前回調査より30ポイント増の70%、今後1年間で生活が改善されると期待した人も同20ポイント増の71%に達した。
米軍駐留を支持する人は約7割に上ったが、戦闘が激化している南部や東部での支持は約4割にとどまった。【1月12日 時事】
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国が正しい方向に向かっていると考える人、今後1年間で生活が改善されると期待した人が、前回調査より大幅増加しているというのは、最近の“泥沼化”の状況を考えると、不思議な結果にも思えます。
何か実体を伴う数字なのか、それとも単なる数字のマジックなのか?

 
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インドネシア・パプア 崩れゆく伝統文化

2010-01-16 15:11:30 | 世相

(観光客向けのショー “flickr”より By kahunapulej
http://www.flickr.com/photos/kahunapulej/352020727/)

【伝統と近代の衝突】
私は海外旅行が好きで、ごく単純に“最後の秘境”とか“少数民族・先住民の暮らし”と言った言葉に強く引き付けられます。
そういう所は実際に行くのは大変で、なかなか行く機会はありません。
せいぜいが、観光用にショウアップされた場所を覗く程度です。
北部タイの首長族の村・・・とか。

また、“秘境”と言っても現代社会の中に存在している訳ですから、多くの場合、外の世界の影響を強く受けています。
旅行先で「少数民族の村を訪ねるトレッキング・ツアー」なんてものに参加して、「なんだ、民族衣装を着ている訳でもないし、ただの貧しい村じゃないか・・・」なんて、勝手なことを言うことも。

アジアで“最後の秘境”と言えば、インドネシアのパプア州などのニューギニアでしょうか。
下の記事は、約1年前に見たインドネシア・パプアに関するものです。

****伝統崩壊と抑圧で、緊張はらむパプア先住民社会****
インドネシア・パプア州の山間、バリエム渓谷沿いにある町ワメナの「洗車場」は、単に車を洗うだけの無邪気な場所ではない。
道端には日中からホームレスの若者や少年たちがたむろし、酒を飲みながら、車やバイクの到着を待っている。なかには酔いつぶれて意識を失い、寝転がっている者もいる。
洗車もわずかの金銭にはなるが、彼らが本当に待っているのは車そのものではなく、ドライバーである。ドライバーとのセックスは、洗車よりも稼ぐことができるのだ。こうした洗車場の出現は、ひと昔前には誰も予想できなかった光景だ。

深い渓谷によって外部から隔絶されてきた一帯の村には第2次大戦以降、衣服や金属、金銭、医薬品といった数々の「なじみのないもの」が持ち込まれてきた。しかし、この地域の上の世代の男性たちには、いまだに「コテカ」と呼ばれるペニスケースだけを身につけて生活する者も多く、伝統と近代がこれほど激しく衝突している場所はほかにない。
外部からこの地に初めて訪れたのはキリスト教の伝導師たちで、教会も建てられたが、教会内でのコテカの着用は容認されている。教会を取り囲んでいるのは、伝統的なわらぶき小屋と入り組んだヤムイモの畑だ。
しかしパプア州は今、1969年に同州を併合したインドネシアから押し寄せる変革の波に、急速に飲み込まれようとしている。
険しい陸路を避け、バリエム渓谷を超えてやって来るプロペラ機はインフラに必要な物資などのほかに、インドネシア各地からの移住者をもたらす。先住民が大半のパプア州のなかで店を構え、同州のビジネスを牛耳っているのはこうした人々だ。
「発展によって伝統が少しずつ失われている」と、地元の人権活動家(40)はつぶやく。彼の子ども時代の唯一の危険と言えば、いつ起こるとも知れない、盗まれた妻やブタをめぐっての部族間の争いだった。 

■抑圧される先住民たち
伝統の死滅に伴いパプア州の住民、移住者、インドネシア警察と軍の間での緊張も高まりつつある。
インドネシア政府は、約1万5000人規模の軍隊を同州に投入し、分離独立派の動きに神経をとがらせており、人権侵害の報告も後を絶たない。外国の記者が同州に立ち入ることも制限されている。今回AFP記者は、国家情報局部員が同行するという条件付きで、同州の取材が許された。

今年(08年)8月9日「世界の先住民の国際デー」の祝賀行事の際には、45歳の先住民、オピヌス・タブニさんが、警察か軍隊によるものとみられる発砲により射殺される事件があった。この日、伝統衣装に身を包み、法律で禁止された分離独立派のシンボル「明けの明星」の旗を掲げて行事に参加した数百人の先住民たちに、警官隊が「威嚇発砲」した末の事件だった。
このときに拘束された40人あまりの先住民たちは、いまだに獄中にある。この旗を示すと、最高終身刑になる可能性もある。ある住民は「人びとはタブニさんの復讐の機会を、虎視眈々と狙っている」と語った。
人権活動家らは「人種差別が横行している。警察は自分たちや移住者は守るが、パプアの先住民たちには正義が与えられていない」と憤りをあらわにしている。(後略)【08年12月18日 AFP】
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【「独立以外の道はない」】
次は、1年後の最近見かけた記事ですが、事態は変わっていません。

****消えゆく秘境:パプア高地先住民/下 くすぶる分離独立運動****
「私が発展させてみせる。国内の他の地域と同じように」。インドネシア最東部パプア州。中央高地、ジャヤウィジャヤ県のウェティポ知事は観光による経済発展の夢を描く。
草ぶきの伝統住宅が残る県都ワメナでは、4階建てのショッピングモール建設が進み、50室規模のホテルも近く開業予定という。8月には、コテカ(ペニスケース)姿の男たちが伝統儀式を披露するイベントも開かれる。狙いは「秘境」を求める外国人観光客だ。

ただ、知事の考えには先住民から批判的な声も聞かれる。「本来は部族ごとに違う慣習をごちゃまぜにして、神聖な伝統儀礼を観光客用の見せ物にしている」。先住民文化に詳しいヨラン・ヨゴビ氏(39)は顔をしかめる。ワメナ近郊で生まれ、中部ジャワの大学で学んだ。04年にワメナに戻ると、社会はすっかり変わっていたと嘆く。「昔は皆が自然に感謝し、年長者を敬って暮らしていた。今は食料はじめ何でも金で買えるようになったことで、畑は荒れ、拝金主義が横行している」

観光振興の障害となるのは、こうした反発だけではない。パプアは国内で唯一、分離独立運動が残り、武装組織・自由パプア運動(OPM)が活動する地域でもある。先月も、州西部でOPM指導者のクワリク司令官が警官隊に射殺される事件があり、葬儀に集まった先住民と治安部隊との間で一時緊張が高まった。ワメナでも00年10月、独立旗掲揚をめぐり、先住民グループに警官隊が発砲、逆に先住民が入植者を襲う事態に発展し、数十人の死者が出ている。

海外からの独立運動支援を警戒する政府は、パプアに入る外国人に入域許可取得を義務付けている。ワメナを訪れる外国人が年間千人規模にとどまっているのはこうした事情も背景にある。
潜伏活動を続けるOPMのファキキル司令官は「インドネシア政府は軍や警察を使ってわれわれパプア人を殺し、迫害し、差別してきた。パプア人が自らの文化と尊厳を守るには、独立以外の道はない」と大義を強調した。
ジャワ人の妻を持つヨゴビ氏さえこう言う。「先住民は、ジャワ、スマトラなどからの入植者に対する劣等感と怒りを心の中でくすぶらせている」【1月14日 毎日】
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【「平均的インドネシア」に向かって】
パプアの人々は外との交易も乏しく、貨幣経済に組み込まれて日も浅いため、経済活動を試みても失敗することが多いようです。
“高地の中心ワメナの街では、路上で農作物を売る女性か、ベチャと呼ばれる自転車タクシーを走らせる男性以外、先住民の働く姿を見るのはまれだ。
店を構えるのは、ジャワ、スマトラなどからの入植者ばかり。(中略)入植者は増え続け、県によると、ワメナの人口約6万人の7割近くを占める。
中央政府にも先住民の就業援助制度がある。だが、実態は定期的に補助金がばらまかれるだけ。その金が結局、入植者の店で消費される。”【1月13日 毎日】

“パプア州のあるニューギニア島西部がインドネシア施政下に移ったのは1963年。スハルト政権は70年代以降、高地先住民の「インドネシア化」を目的に、洋服の着用を強いた。銃で脅された経験を持つ住民も多い。今は何の強制もないが、ワメナと州都ジャヤプラが空の便で結ばれ、ジャワなどからの移住者が増大。先住民の世代も移り、社会全体が「平均的インドネシア」に向かっている。
そんな中でも伝統を守っている数少ない一人を訪ねた。ワメナの中心から約1時間の村。立派なコテカを着けたリヒャロさんが迎えてくれた。酋長の地位を示す髪飾りの下には白髪が目立つが、正確な年は自分でも分からない。「ホナイ」という草ぶきの家に暮らし、主食は今もイモ。だが、妻も子も弟も、家族はみな、Tシャツやズボンなどの服を着るようになった。
「息子たちが何を着るかは本人の自由だ。車も走るようになり、若い連中にとって暮らしが便利になったのはいいことだ。ただ、美しかったこの世界が壊れてきているような気はするな」。部族語が静かに続いた。”【1月12日 毎日】

パプアの人々に地域の伝統装束、コテカと呼ばれるペニスケースや腰みのを期待するのは、観光客のわがままでしょう。
強要されなくとも、現地の人が外の便利な世界にあこがれ、外の文化を受容するようになるのも当然のことです。
それを止める権利はありません。
文化保護の名のもとに、外の世界と遮断してしまうの、野生動物の保護区を見るようで、同じ人間としての視線を欠いているようにも思えます。アメリカの居留区政策も中に暮らす人々の意欲を阻害し“飼い殺し”状態を生みます。

ただ、何もしないまま、伝統文化が風化していくのも寂しいものがあります。
そこに暮らす人々が自分達の文化をどのように考え、どのように取り組んでいくか・・・そうした意識の問題でしょう。外の世界の人間ができるのは、その手助けだけです。



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ハイチ大地震  中国の「地震外交」 政治不在・貧困と災害の「負の連鎖」

2010-01-15 22:27:24 | 災害

(ハイチ 頭に乗せているのは彼の負傷した子供です “flickr”より By United Nations Photo
http://www.flickr.com/photos/un_photo/4275491498/)

【「記者はいらない、もっと医師をよこせ」】
ハイチ大地震は、“国際赤十字赤新月社連盟(本部ジュネーブ)は人口約960万人のうち被災者が300万人に上ると推計。プレバル大統領は米CNNテレビに死者が「3万人から5万人」に達すると語る一方、ベルリーブ首相は死者が「数十万人に及ぶ」との懸念を示した。交通や通信インフラなどの壊滅的な打撃もあって、救援活動は難航している。”【1月14日 読売】というように、被害がどのくらい拡大するのかさえわからない状態です。

ただでさえ貧弱だったインフラが壊滅し、国家機能も麻痺状態で治安・救助体制が殆ど機能していないようです。
****「無政府状態」の悪夢再び=略奪、銃声後絶たず-ハイチ****
大地震に直撃されたハイチでは、震災後の復興はおろか、真っ先に取り組むべき被災者救助や支援作業すら満足に進まない事態が続いている。政権中枢が壊滅的被害を受け、統率する「司令塔」が不在のためだ。度重なる政情不安に悩まされてきたハイチは、再び「無政府状態」の悪夢にさらされようとしている。

真っ暗闇の中を、人々が叫び声を上げながら右往左往する-。米CNNテレビは余震による「津波の情報」におびえた市民の表情を克明に報じた。結局はうわさにすぎなかったが、通信が遮断され、「孤島」に置き去りにされたという意識が強い被災者にはとっては一大事だ。こうした混乱に乗じ、商店が略奪されたり、銃声が聞かれたりしたとの報告も後を絶たない。
現地からの映像を見ても、治安維持を担うはずの警察や国連派遣部隊の姿は、街頭でほとんど見られない。目に付くのは、行き場のない市民や血の付いた包帯を巻いた負傷者、路上に遺体が並ぶ無残な光景だ。
世界中のメディアの関心が集まる中で、AFP通信は「記者はいらない、もっと医師をよこせ」と声を荒らげる男性の怒りを伝えた。【1月15日 時事】
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【米:数千人規模の派遣を検討】
国際的な支援物資も空港には届いているようですが、道路を覆いつくすがれきを除去する重機もなく、支援物資の輸送は難航しています。
国連派遣部隊についても、“平和維持活動ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)高官は14日、記者会見で、ハイチの大地震で司令部ビルの倒壊などにより、これまでに要員36人の死亡を確認したと発表した。約200人の要員とまだ連絡が取れておらず、犠牲者数はさらに増える可能性が高い”【1月15日 朝日】という状態で、あまり多くを期待できません。

こうした状況では、救援隊を送り込むことが現地にとっては一番助かることでしょう。
各国が救援チームを派遣しています。
****ハイチ地震で国際救援活動本格化 治安悪化の懸念も*****
大地震直撃のカリブ海のハイチでは14日、欧米などの救援チームが現地入りし、国際的な救援活動が本格化。被災地では治安悪化が懸念され、国連は平和維持活動部隊である国連ハイチ安定化派遣団の態勢を立て直し、活動を支援する方針。国連によると、最大被災地の首都ポルトープランスには中国、米国の救援チームが既に到着。フランス、アイスランドなどの救援隊も現地入りする。【1月14日 共同】
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地理的にも近く、歴史的にも深い関わりを持つアメリカがいち早く救援隊を派遣するというのは、納得できるところです。
“オバマ米大統領は13日、「迅速で組織的かつ積極果敢な救援活動にあたるよう政府に指示した」と述べ、行方不明者の救出活動と緊急支援に取り組む姿勢を強調。災害救援チームに加え、米空母を現地へ差し向けるとともに、海兵隊の現地派遣も検討するなど、04年のインド洋大津波以来の大規模な支援に乗り出した。”【1月14日 毎日】
“海兵隊や陸軍部隊を数千人規模で派遣することを検討している”【1月14日 毎日】ということですので、今後の復興作業の中心的な役割を担うことになるでしょう。

【中国:したたかな「地震外交」】
一方、目を引いたのは中国の迅速な活動です。
****中国が「地震外交」、ハイチに即座に救援隊*****
中国が台湾と外交関係のあるハイチに、赤十字を通じて100万ドルの緊急人道援助を表明したほか、即座に国際救援隊を派遣し、活動を展開するなど存在感をアピールしている。
国連平和維持活動(PKO)に参加している隊員ら8人が建物の下に埋まっているとの状況もあるが、将来的な外交関係樹立に向けた「地震外交」を推進する狙いとみられる。

新華社電などによると、国際救援隊50人は現地時間14日未明に、救助機材と救援物資約20トン、救助犬3頭を伴ってハイチに到着。工兵チームが直ちにPKO隊員の捜索を行うとともに、医療チームも臨時病院を設置し、ハイチ住民への診察治療に当たっている。無事だった中国のPKO隊員も救援活動に加わったという。
中国外務省の姜瑜・副報道局長は14日の定例会見で、「中国政府は海外に滞在する国民の安全を重視しており、どこにいようとも、困難や危険な目に遭っているなら全力で助けるだろう」と述べ、外交関係の有無にかかわらず救援活動に力を入れる姿勢を示していた。
中国は、2004年から、警察の暴動防止部隊をハイチでのPKOに派遣しており、現在は8度目の派遣で計148人が滞在している。【1月15日 読売】
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“台湾と外交関係を持つハイチに対して、PKOだけでなく、地震の救援でも中国の活動をアピールし、ゆくゆくは外交関係樹立につなげたい思惑もありそうだ。”【1月14日 時事】という説明を聞くと、なるほどと思うのですが、それにしても地球の裏側での出来事に対する迅速さは、中国外交の気合いを感じさせます。

なお、台湾メディアの報道によると、“(台湾の)在ハイチ大使館は倒壊し、徐勉生大使が左足を負傷、公使も顔にけがをして手術をしたが、いずれも命に別条はないという”【1月15日 時事】とのことです。
PAC3売却問題では緊張が高まっている米中台の関係ですが、台湾大使館員の救援に中国救援隊があたる・・・といった演出も今後あるのかも。

【初の黒人国から中南米最貧国へ】
ハイチ大地震のニュースを聞いて、個人的に一番関心が持たれたのは、地震のこと自体よりも、1804年に世界で初めての黒人国として独立したハイチが、なぜ人口の8割が1日当たり2ドル以下で生活するような中南米の最貧国になったのかということでした。

1804年に独立し、世界で初めての黒人国となった。人口の8割が1日当たり2ドル以下で生活する米州の最貧国。同じ島のドミニカ共和国はそれなりの経済成長を実現しているのに。
そのあたりは、クーデターと独裁の繰り返しだったハイチの歴史を見ればある程度納得もできるのですが、“米国の研究者、ジャレド・ダイアモンド氏は著書「文明崩壊」の中で、ハイチ荒廃の原因について、1957年から86年まで続いたデュバリエ父子による独裁政治を挙げる。独裁者が私腹を肥やすことに終始したため、インフラ整備は放置された。この無策によって自然災害に脆弱な社会構造になってしまったというわけだ。ドミニカ共和国にも独裁政権時代があったが、インフラ整備は進められ、ハイチだけが中南米カリブ海諸国で取り残された。”【1月13日 毎日】とのことです。

【「施しだけでは、貧困や災害の根本的な対策にはならない」】
そして政治的無策と貧困は、地震やハリケーンといった自然災害の被害を増幅させます。
****ハイチでM7 最貧国の悲劇 「負の連鎖」繰り返す*****
政情不安と貧困にあえぐ中米の島国ハイチを12日、大地震が直撃した。ハリケーン被害など大規模災害が相次ぎ、貧しさが被害をさらに増幅する悪循環から抜け出せない同国にとって、今回の地震が極めて深刻な打撃となるのは確実だ。(松尾理也)
 ▼生活費2ドル以下
「救出作業が徹夜で進められたが、進展ははかばかしくない」。13日朝、ニューヨークの国連本部で会見した潘基文事務総長はいらだちの表情をみせた。一方で、「われわれは首都周辺に3千人のPKO部隊を擁している。治安維持が最大の使命だ」と表情を引き締めた。
ハイチは事実上、国連PKOを含む外国からの援助がなければ国の運営が立ちゆかない状況にある。1人当たり国民総所得は560ドル(2007年)と中南米の最貧国に位置する。約1千万人の人口のほとんどは、1日の生活費が2ドル以下という貧困層だ。
これに加え、大規模災害の被害は後を絶たない。04年にハイチを襲ったハリケーンでは約3千人が死亡。08年11月に起きた学校倒壊事故では90人以上が犠牲になった。
ハイチでは治水も不十分な上、人々が生活のために樹木を切り倒すため、森林破壊も激しい。建築の安全性基準も確立しておらず、自然災害による被害が貧困によって増幅される構図がくっきりと浮かんでいる。
 ▼政情も安定せず
政治的にも不安定な状況が続いている。1990年に初めての民主選挙が実施されたあともクーデターや暴動などが続き、2004年には右派民兵組織の蜂起によって政権が倒れる事態も起きた。その後も治安の回復はなかなか進展せず、国連部隊に頼る構造が定着しつつある。
また20世紀初めには軍を送って占領した歴史もある米国は、現在も密接な関係にある。1994年にはクリントン大統領(当時)がハイチの民政復帰のため、米軍を進駐させた。そのクリントン氏は現在、国連ハイチ担当特使を務め、緊急援助の実施に手腕をふるう。
だがハイチ側には、外国からの援助に全面的に依存せざるを得ない実情に対する不満もふくらむ。現職のプレバル大統領は就任後、「施しだけでは、貧困や災害の根本的な対策にはならない」と訴えた。米紙ニューヨーク・タイムズはこうした発言を振り返りつつ、「今回も同様の構図に陥る可能性がある」と警鐘を鳴らしている。【1月14日 産経】
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アメリカ・中国  グーグル問題で表面化する「表現・言論の自由」と「サイバー攻撃の脅威」

2010-01-14 21:12:07 | 国際情勢

(中国政府の言論統制に抗議して、中国市民によって北京のグーグル社の前に手向けられた花束。 こんなことをして大丈夫なのか・・・と心配にもなりますが、それぐらいの自由は保障されているのでしょうか。 もちろん、TV報道によれば、「グーグルはアメリカの手先だ!」といった趣旨の批判もネット上にはあるそうです。 “flickr”より By endworld
http://www.flickr.com/photos/endworld/4271972274/)

【「自己検閲」はもはや続けられない】
米インターネット検索最大手のグーグルが、中国にける同社サイトへの攻撃と中国政府による検閲に抗議して、中国からの事業撤退もありうるとしている件は、アメリカ政府と中国政府の表現・言論の自由に関する考え方、サイバーテロという新たな領域での脅威に対する安全保障のあり方に絡んで、今後さらに大きな問題となることも考えられます。

****グーグルが中国撤退の可能性 ハッカー攻撃と検閲理由****
米インターネット検索最大手のグーグルは12日、中国版検索サイトや中国の現地法人を閉鎖する可能性があると発表した。中国からの同社サイトへの攻撃が激しくなっていることに加え、検索を制限する検閲が続いていることを理由にあげている。
米国を代表するネット企業による異例の声明で、人権問題や検閲を巡る米中間の摩擦が今後高まる可能性がある。

グーグルによると、昨年12月中旬、中国から、同社のコンピューターへの攻撃があったという。グーグルの電子メールサービス「Gメール」を使っている中国の人権活動家が標的にされ、2件のメールアドレスの情報がのぞき見られたようだという。ただ、見られたのはアドレスの開設日といった情報だけで、メールの中身には及ばなかったとしている。
また、米国や欧州で、中国の人権問題を問題にしている活動家のGメールも攻撃を受けていたことが判明。グーグル以外にも、ネット、金融、メディアなど20以上の大企業が、中国から同様のハッカー攻撃を受けていたという。
グーグルは、攻撃が「かなり高度なものだった」として、組織的な関与を示唆。「ネットの安全性だけでなく、表現の自由という、より大きな問題にかかわる」と主張している。

グーグルはさらに、2006年の進出以来、中国当局の求めで実施している人権関連サイトの非表示といった「自己検閲」は、もはや続けられないとして、「中国事業を続けるかどうか検証する」と表明。今後、検閲なしで検索結果を表示できるよう、中国当局と協議するという。グーグルはこうした検討が「中国版サイトや中国事業の閉鎖に発展する可能性があることは認識している」と述べている。
米国務省のクローリー次官補は朝日新聞に対し「中国を含む各国には、ネットの安全性を確保する義務がある。我々とグーグルは今回の発表前に連絡をとっていた」と話した。
グーグルは検索で世界最大手だが、中国市場では中国企業「バイドゥ(百度)」に大きく先行されている。【1月13日 朝日】
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グーグルは06年に中国市場に進出する際、中国政府の要請を受け入れ、検索表示の自主制限を続けてきましたが、今回の抗議のもとで自主規制を一部解除しており、14日までに、これまでできなかった一部の写真や情報の検索表示が可能になっています。 
これまで規制されていた、中国当局が民主化を求める学生らを武力鎮圧した天安門事件(89年)で、戦車に1人で立ち向かう男性を撮影した有名な写真や、戦車の発砲・虐殺された遺体の模様、また、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世の写真などが検索表示されるようになっているようです。
なお、中国国内の検索エンジン大手、百度(バイドゥ)などでは引き続き表示できない状態だとか。【1月14日 毎日より】

【サイバー攻撃の背後に中国政府】
また、「かなり高度なものだった」とされるサイバー攻撃に関しては、中国政府の関与を指摘する向きもあります。

****グーグルへのサイバー攻撃は「中国の情報活動の一環」、専門家*****
米インターネット検索大手グーグルが中国事業からの撤退を検討する事態となった同サイトに対するサイバー攻撃は、コンピュータープログラムのソースコードといった知的財産や、人権活動家に関する情報を収集する中国の活動の一環だったという見解を、米国のコンピューター・セキュリティの専門家が示した。
コンピューター・セキュリティ関連の国際会議「ブラックハット」やイベント「デフコン」の創始者で、米国土安全保障諮問会議のメンバーでもあるジェフ・モス氏は13日、「中国は自分の国益になるあらゆる情報を吸い上げようという戦略だ。グーグルのユーザーを標的にしたとしても私は驚かない」と語った。
グーグルは12日、中国の人権活動家を標的にした「高度に洗練された」サイバー攻撃に抗議して、これ以上中国政府によるインターネットの検閲に屈しないと宣言し、中国事業からの撤退も検討すると明らかにした。

一方、アドビも13日、自社を含む複数の企業が管理するネットワークが9日に組織的なサイバー攻撃を受け、各社と共同で調査していることを発表した。30社以上が中国から同様のサイバー攻撃を受けたと報じられている。
攻撃を受けた企業は、世界で広く使われているインターネット閲覧プログラムやテキストや動画の処理ソフトなどを作っており、公開されていないそうしたソフトの情報を利用したいサイバースパイにとって恰好の標的だとモス氏は指摘する。
グーグルはサイバー攻撃の背後に中国政府がいると明言したわけではない。しかし、攻撃の洗練度や標的となった企業、攻撃が中国国内から行われたことから、同政府の関与があったものとみている。【1月14日 AFP】
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【オバマ米大統領:中国におけるインターネットの自由を支持】
今回のグーグルの行動はアメリカ政府と事前に協議されたもので、アメリカ政府もグーグルを全面的にバックアップする動きを見せています。

****米大統領、中国でのインターネットの自由を支持=ホワイトハウス****
オバマ米大統領は、インターネット検索大手グーグルが中国でのインターネット検閲やサイバー攻撃への懸念から同国撤退の可能性に言及していることを受け、中国におけるインターネットの自由を支持する考えを示した。 
ギブズ大統領報道官が明らかにした。
報道官は、グーグルが、中国に関する発表内容をオバマ政権に対し事前に伝えていたことも明らかにした。【1月14日 ロイター】
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【胡錦濤総書記:ネット統制の生ぬるさに強い不満】
中国政府にとっては、チベットやウイグルなどの民族分裂や「台湾独立」、民主化要求など、一党独裁を脅かす恐れのある「有害情報」が社会に流れることは、共産党による情報独占を突き崩し、「社会の安定」を揺るがしかねないことにもなるため、今後は、他の検索企業への影響を防ぐため、グーグル社を含む各社と個別の協議を重ねて、検閲への「協力」を改めて迫っていくものとみられています。
“中国筋によると、「胡錦濤総書記自身がネット統制の生ぬるさに強い不満を抱いている」とされ、今年は言論統制の中でもネット統制をさらに強化する方針という。2008年以来、一党独裁を批判する「08憲章」など、大胆な政治改革要求文書がネット上で広がるなどの事態を受けたものだ。
新華社電によると、今月12日、北京で開かれた党の精神文明建設指導委員会の会議では、イデオロギー担当の李長春・党政治局常務委員が「未成年者の健全な成長促進を目標に、法に基づき、ネットでわいせつな有害情報を広める行為を取り締まり、社会文化環境を浄化しなければならない」と述べ、一層の統制強化を宣言した。”【1月 14日 読売】

14日、国務院新聞弁公室(SCIO)の王晨・主任のウェブサイト上に掲載された声明では、ポルノ、サイバー攻撃、オンライン詐欺が、インターネット上の安全を確保する上で大きな脅威となるとの認識の上で、国際的な協力体制強化に前向きに取り組む姿勢を示していますが、政府はインターネット上の意見を「指導」する役割を果たすべきであり、ネットメディアは政府と協力する「多大な責任」を負う、としています。
ただ、グーグルへの直接の言及はありませんでした。【1月14日 ロイター】

【米政府を含む多数のコンピューターが中国国内からとみられる攻撃の標的に】
言論・表現の自由の問題は、アメリカ・中国双方にとって国是にも関わる問題で、容易に譲歩できないところですが、今回事案は更に、サイバー攻撃という新たな脅威に対する安全保障のあり方にも関係してきます。

おりしも、オバマ米政権は台湾への地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)売却を確認して、米中間に緊張が高まっています。中国は売却停止を求める抗議談話を発表、弾道ミサイル迎撃実験を行うなど強硬な姿勢に出ています。
クリントン米国務長官は訪問先のハワイで、緊張はこれ以上高まらないとの見方を示し、中国の出方を静観する構えであるとも報じられています。

米国防総省のグレッグソン次官補は13日、下院軍事委員会の公聴会に提出した書面で、中国が、台湾に対し軍事的に優位になったと自ら判断したうえで「最後通告」を突きつける恐れがある、との懸念を示していますが、この中で、中国がサイバー攻撃の能力を向上させていることにも懸念を表明。米政府を含む多数のコンピューターが中国国内からとみられる攻撃の標的になり続けているとし、「中国の軍や当局が実施、あるいは容認しているのか不透明だ」と言及しています。【1月14日 朝日より】
また、「米中間の誤解や連絡ミスが危機や衝突につながる可能性もある」と指摘し、グレグソン氏は安定した両国関係を通じ、軍事面で相互の信頼を育てる必要性を訴えています。
G2とか運命共同体とも言われる米中関係ですが、なかなかに危うい面も垣間見えたりもします。

「インターネットのセキュリティ問題」と「サイバースペースにおける軍縮」については、昨年12月12日、アメリカ政府がロシア政府および国連の軍縮委員会と話し合いを開始したと、米紙ニューヨーク・タイムズが報じています。
サイバースペースにおける軍縮条約に関する交渉については、かねてからロシアが求め、アメリカは拒絶してきましたが、オバマ政権は、サイバー兵器の開発を行う国が増える中、国家間の軍拡競争を抑止するには新たな対応策が必要だとの認識を示したものとされています。
ただ、“ロシアはサイバー兵器の開発を規制する条約に重点を置いている一方、米国はこの話し合いを利用して、インターネット犯罪に対抗するための国際協力を強化したい意向だ。同紙によると、米政府はインターネット犯罪対策を強化すれば、軍事的なサイバー攻撃への防衛力の強化につながるとの立場を取っている。”と、考え方に違いがあるようです。【09年12月13日  AFP】


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ウクライナ ロシアとの関係改善の方向か グルジアは?

2010-01-13 21:33:50 | 国際情勢

(昨年1月のガス供給停止騒動の際、供給再開を合意したウクライナ・ティモシェンコ首相(左)とロシア・プーチン首相 “flickr”より By Jedimentat44
http://www.flickr.com/photos/jedimentat/3237346117/)

【「ねじれ現象」】
今週末の17日(日曜日)に、ウクライナ大統領選挙の投票が行われます。
親欧米・反ロシア路線の現職ユーシェンコ大統領は支持率4%前後で、再選は絶望的と見られています。
選挙戦を実質的に争っているのは、「オレンジ革命」をユーシェンコ大統領とともに主導したティモシェンコ首相と、親ロシア派のヤヌコビッチ「地域党」党首(前首相)のふたりです。

****ウクライナ:大統領選、現・前首相の決選投票濃厚に****
今月17日投票のウクライナ大統領選挙は終盤戦を迎えた。明確な争点が定まらないなか、有力候補のティモシェンコ首相と「地域党」のヤヌコビッチ党首(前首相)の間では中傷合戦が目立つ。選挙戦は両者による決選投票となる公算が大きく、市民の間では第1回投票に冷めた見方も出ている。

世論調査で支持率トップに立つヤヌコビッチ氏は6日のテレビ番組で、「オレンジ革命」を主導したユーシェンコ大統領、ティモシェンコ首相について「現政権は既にスーツケースに荷物を詰めている」と述べ、政権交代の機運をアピールした。一方、2位につけるティモシェンコ氏は3日、訪問先の南部クリミア半島で、地域党がソ連崩壊後の民営化の際に得た石油などの権益を違法に維持していると指摘。「ヤヌコビッチ氏の背後には強力なマフィアが控えている」と糾弾した。これに対し、ヤヌコビッチ陣営もティモシェンコ氏の「汚職疑惑」に言及するなど、ネガティブキャンペーンの様相を強めている。

ユーシェンコ大統領が当選した前回04年の大統領選は、北大西洋条約機構(NATO)加盟問題や対露関係など明確な争点があった。しかし、今回は親欧米派のティモシェンコ氏がプーチン露首相と実質的な協力関係を築き、親露派のヤヌコビッチ氏もロシアが主導する「集団安保条約機構」に加盟せず「ウクライナの軍事的な中立性を保持する」と表明するなど、「ねじれ現象」が目立つ。
世論調査では国民の7割が投票に参加する意向を示しているが、経済・金融危機の後遺症が長引く中、有権者は有力候補による中傷合戦に冷めた視線を送っているのが実情だ。英字紙キエフ・ポストは「誰が大統領に就任しても難問に直面する」との金融問題専門家の見方を示している。

大統領選には計18人が立候補。17日の投票でいずれの候補も過半数を獲得できない場合、上位2人による決選投票が2月7日に行われる。先月末に発表された世論調査によると、支持率はヤヌコビッチ氏が26~33%、ティモシェンコ氏が16~22%。他の候補は1けた台にとどまり、現職のユーシェンコ大統領は4%前後で再選は絶望的。ユーシェンコ氏は3位以下の候補と「統一候補」擁立の動きを見せるが、大勢に影響を与えない見通し。【1月7日 毎日】
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【強まりそうなロシアとの関係】
ティモシェンコ首相派とヤヌコビッチ前首相派は一昨年から、大統領派を外した大連立政権の樹立を模索。大統領の選出方法を現行の直接選挙から議会による間接選挙に変える憲法改正で、ヤヌコビッチ氏を大統領に、ティモシェンコ氏を首相にする方向で交渉していましたが、最終的にヤヌコビッチ氏が権限の弱い「象徴」大統領となる可能性に難色を示し、協議は決裂したと言われています。

親欧米派と言われてきたティモシェンコ首相ですが、記事にもあるように、最近は天然ガス問題をめぐるロシアとの交渉でプーチン首相との良好な関係が目立ちます。
11月に行われた両者の会談では“両首脳は、ロシアがウクライナに供給する天然ガスの代金20%割引をなくすことで一致した一方で、ロシアがウクライナに支払う欧州への中継輸送料については、60%アップを決定。プーチン氏は花を持たせた形となり、ロシアとしてウクライナ大統領選でチモシェンコ氏に対する事実上の後押しをした形だ。”【09年11月21日 朝日】とも報じられています。
一方、親露派のヤヌコビッチ党首は「ウクライナの軍事的な中立性を保持する」と表明しているそうですが、どちらが勝利してもロシアとの関係が現在より強まりそうです。

ロシアとの関係悪化で、ロシアからの安価なエネルギー資源・原材料供給が困難となったウクライナ経済は、世界的な金融危機の影響もあって、深刻な状況にあるとされています。
また、特に、ロシアと国境を接するウクライナ東部はソ連時代から石炭・鉄鋼業でソ連経済の中核にあった地域でロシアとの関係が深く、独立後もロシア系住民だけでなく、ウクライナ系住民もソ連時代から慣れ親しんできたロシア語を普通に使っています。
こうした経済的・文化民族的な関係からしても、ロシアと敵対した国家運営は難しいものがあります。

もっとも、ウクライナ経済が破たん寸前までに追いやられたのは、ロシアとの関係が断たれたせいだけではなく、親欧米派と親ロシア派、更に親欧米派のなかの大統領派と首相派の政治抗争に明け暮れ、国内の構造改革が一向に進まなかったせいだとする見方もあります。

【直行便運行 一部再開】
ロシアと近隣国の関係では、ロシアと戦火を交えたグルジアも、ロシアとの間で直行便の運航を再開するという交流再開の動きがあります。

****ロシア:グルジアとの間に直行便 期間限定で運航一部再開****
08年夏に軍事衝突したロシアとグルジアの間で、期間限定ながら直行便の運航が再開されるなど、中断していた交流を一部再開する動きが出ている。両国は先月、閉鎖されていた国境検問所の一部を3月に開放することでも合意している。ロシアの首都モスクワで数十万人ものグルジア国民が生活していることや物流の不便さを考慮し、緩和に踏み切ったとみられる。
グルジアの首都トビリシからの報道によると、グルジア国立航空は冬期休暇の8~10日、トビリシ-モスクワ間でチャーター便を運航した。グルジアは、今月中下旬の3日間も運航できるようロシア側に要求しているという。両国は08年のグルジア紛争の発生に伴い、直行便の運航を取りやめていた。

一方、ロシア正教会渉外局長のアルフェエフ大主教は7日、「ロシア、グルジア両正教会は和解に貢献ができるかもしれない」と発言。時期には触れなかったが、キリル総主教によるグルジア訪問の予定を明らかにした。両正教会はグルジア紛争後も良好な関係を維持してきた。

ただ、ロシアが南オセチアとアブハジアの独立を承認したことに対し、グルジアが全面的に反発しているため、これらの動きが外交関係の正常化に結びつく可能性は低いとみられる。ロシア側も、グルジアで親欧米のサーカシビリ政権が続く限り政治レベルの関係改善は難しいとの立場を崩していない。【1月10日 毎日】
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ロシアとの人・物のつながりという現実を反映した対応ですが、ただ、こちらは南オセチアとアブハジアの問題がありますので、ウクライナのような関係改善にはすぐにはいかないようです。

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香港 12年直接選挙を求めて民主派議員辞職  台湾 PAC3売却をめぐる米中のせめぎあい

2010-01-12 22:01:44 | 国際情勢

(今年元旦に行われた、香港の普通選挙12年実施を求めるデモ “flickr”より By chong head
http://www.flickr.com/photos/23553050@N00/4233713738/)

【直接選挙先送り】
中国にありながら「一国二制度」ということで独自の政治形態が維持されている香港ですが、12月22日ブログ“「一国二制度」の形骸化進むマカオ 直接選挙実施目指す香港”
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20091222)でも触れたように、行政長官選挙の投票権は各種業界や団体の代表800人で作る選挙委員会に限られ、また、立法会(議会)は定数60のうち半数が各種業界や団体の代表枠となっており、中国の意向を反映した人選がなされています。
香港の憲法に当たる基本法は全面的な直接選挙の実施を明記していますが、時期に定めがありません。
中国のコントロールに反発する“民主派”は行政長官及び立法会議員の直接選挙について、12年実施を求めています。

07年12月の中国全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、香港行政長官(任期5年)の直接選挙について、香港側が要請していた12年の実施は認めず、17年には可能とする決定を出しています。立法会については触れていません。
これを受ける形で、香港特別行政区政府は昨年11月、12年の両選挙で行政長官を選ぶ選挙委員の増員、立法会の直接選挙と職能代表の両枠での定数増などを含む制度改革案を発表しています。

【民主派の反発】
しかし、12年の直接選挙実施を求める香港の民主派は、この「先送り」に強く反発しています。
1月1日には、行政長官と立法会の両選挙の全面的な普通選挙実施と中国の反体制作家、劉暁波氏の釈放などを求める民主派の大規模デモ(主催者発表で約3万人が参加)が行われました。

****香港の民主派政党、全5選挙区の議員辞職へ*****
香港立法会(議会)の民主派政党は11日、今月27日付で全5選挙区の議員を辞職させると発表した。
5選挙区で補欠選挙の一斉投票に持ち込むのが狙い。民主派は、2012年の行政長官選と立法会選の実施方法を定める香港政府の選挙制度改革案に「全面的な直接選挙への道筋が示されていない」と反発しており、補選を全面的な直接選挙導入の是非を問う、事実上の住民投票と位置づける構えだ。
香港の選挙制度は、直接選挙枠と、業界団体が選出する職能代表枠に分かれている。民主派の計画では、直接選挙枠の5選挙区で各1人ずつが辞職する。
ただ、補選で民主派が勝っても、選挙制度改革への効果は未知数。また、急進的な民主化の動きを警戒する中国政府との関係が決定的に悪化する懸念もあり、民主派の間にも今回の計画に慎重な意見が出ている。【1月12日 読売】
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相当に思い切った対応です。
香港でも中国の影響力・存在感が増しており、先の立法会選挙でも民主派は、大物議員引退もあって苦戦が予想されていました。結果的には、なんとか踏みとどまった形ですが、今回の賭けがどうでるか。
また、こうした“民主派”の動きに対し、中国がどこまで直接的な干渉を控えるのか注目されます。

【中国「断固たる反対」】
将来の“香港”になるのか、ならないのか・・・台湾の馬英九政権は中国との関係強化による経済浮揚を推し進めていますが、対中国防衛計画については、従来同様の強化を図っています。
台湾との合意履行に向けて、米国防総省は11日までに、08年にブッシュ前政権が決定した台湾への地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)売却に向け、ロッキード・マーチン社に発注しました。
これに対し、中国が猛反発しています。

****台湾向け米武器売却、中国が異例の猛反発****
オバマ政権が台湾向け武器売却の動きを進めていることについて、中国の胡錦濤政権は7日~9日の3日間で計5回にわたって「断固たる反対」を表明するなど異例の猛反発を見せている。
国防省は8日、「中国の核心的利益を尊重し、武器売却を撤回するよう」米国側に要求。その上で、「さらなる措置をとる権利を留保する」としており、昨秋本格的に再開したばかりの軍事交流を停止するなどの報復措置をとる構えだ。
中国は2008年の計画決定時に猛反発し、軍事交流を停止した経緯がある。
米国担当の何亜非・外務次官も9日、新華社通信を通じ、「オバマ政権発足以来続く、米中関係の安定した発展を維持していくのは容易でない」とクギを刺した。
一方、台湾の馬英九政権は、武器売却がブッシュ政権の決定通り履行されることに安堵している模様だ。【1月11日 読売】
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こうした動きを背景に、中国は地上配備型のミサイル迎撃技術の実験に成功したことを公式に認めています。
****中国:ミサイル迎撃実験の成功、公式に認める****
中国外務省は12日、中国が地上配備型のミサイル迎撃技術の実験に成功したことを公式に認めた。米国が台湾に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)売却を決めたことをけん制する狙いがありそうだ。
中国が最新兵器の実験実施を公表するのは異例。中国国営・新華社通信も11日夜、ミサイル迎撃実験が「所期の目標を達成した」と報道し、ミサイル迎撃能力を誇示した。中国外務省の姜瑜副報道局長は12日の定例会見で「実験は防衛のためのものであり、いかなる国にも向けられていない」と述べた。【1月12日 毎日】
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アメリカにしても、中国にしても、相手を怒らせることは承知で、出方を窺いながらカードを切る・・・その外交の厳しさは日本などの全く及ばないところです。

【危険なカード】ついで、もうひとつ。
****イスラエルの武器備蓄倍増へ=イランに軍事圧力か-米国防総省****
米国防総省が、イスラエルに備蓄している米軍の武器や弾薬の備蓄量を倍増する計画を進めていることが12日までに分かった。AFP通信などが報じた。核開発問題でイランに軍事的圧力を掛ける狙いがあるとみられる。
備蓄の規模を4億ドル(約370億円)から8億ドル(約740億円)相当に倍増させる。イスラエルでの備蓄は協定に基づき1990年代から開始され、有事の際には米国の承認を得てイスラエル軍も使用できる。弾薬のほか装甲車やミサイルも保管されている。【1月12日 時事】
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これなども、ギリギリのカードですが、まかり間違うと暴発にも至る危険なカードにも思えます。

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