孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  メドベージェフ大統領の国内改革姿勢の実像は?

2010-11-19 19:49:11 | 国際情勢

(05年モスクワ市裁判所に連行されるかつての大富豪ミハイル・ホドルコフスキー プーチンの政敵として失脚・服役中ですが、リベラル派を代表する「殉教者」へ変身した感もあります。 “flickr”より By stenioprof
http://www.flickr.com/photos/stenioprof/2694878616/ )

国後島訪問によって「強い指導者」像を国内向けにアピールしたメドベージェフ・ロシア大統領ですが、政治・経済の近代化向けた国内改革「モデルニザーツィア」を掲げています。
ロシアの政治状況を伝えるニュースには、その国内改革の片鱗を窺わせるものもあれば、旧態依然のものもあって、大統領の目指す国内改革「モデルニザーツィア」の実像・本気度はよくわからないところがあります。

【「黒幕がたとえ権力者でも裁きを下す」】
メドベージェフ大統領の改革姿勢を示すものとしては、以下のようなものが最近目につきました。
****記者襲撃事件で試される大統領の正義****
プーチン前大統領時代、ロシアでメディア関係者が暴力や脅迫を受ける事件が起きれば、黒幕は政府だと思われていた。少なくとも黙認していたのは確かだ。そのため先週、独立系コメルサント紙の花形記者オレグ・カシンが襲撃されて重傷を負ったときも、人々は思った。政府はまた何事もなかったように振る舞うのだろう、と。

だが驚くべきことに、メドベージェフ大統領は個人的に入院中のカシンに見舞いを送り、事件の特別捜査班を組織。自身のブログには、黒幕がたとえ権力者でも裁きを下すと書き込んだ。
黒幕が政府でないなら、いったい誰だったのか。コメルサントによれば、最も疑わしいのは汚職まみれの地方指導者か、与党・統一ロシアの青年組織だという。カシンは襲撃前、こうした組織の取材をしていた。
官僚や司法機関とつながりのある者が襲撃の裏にいるとすれば、メドベージェフは本当に裁きを下せられるのかを試されることになる。もし大統領の正義が誰か別の権力者に阻まれたとしたら、ロシアの報道機関にとって暗い時代は今後も続くということ。大統領が見舞いを送ったくらいで状況は変わらない。【11月18日 Newsweek】
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****ロシア大統領、リベラル色出す? デモ規制強化に拒否権*****
ロシアのメドベージェフ大統領は、集会やデモの規制を強化する法改正案に拒否権を発動した。大統領府が「憲法で定めた市民の意見表明権を守るため」と6日に発表したところ、人権活動家らの間で評価が高まっている。2012年の大統領選をにらんで「政治の季節」に入っており、大統領のリベラル色を打ち出す動きと専門家は見ている。
法改正案は、上下両院が先月可決していた。集会やデモの開催許可が地元行政府から出るまでは時間や場所を発表できない▽過去の集会・デモで行政罰を受けた人は参加できない▽車によるデモの場合は時間や場所は地域の役人が決める――などの規定が盛り込まれている。

ロシアでは、日本からの輸入車への関税アップなどに反対して車によるデモが極東で多発。集会の自由を保障した憲法31条を守るためとしてモスクワで各月の31日に催される反政府デモをめぐり、「無許可」を理由に取り締まる当局側と主催者との間でもみ合いが続いてきた。
大統領は今回、上下両院議長に書簡を送り、法改正案を修正するよう求めた。プーチン首相が党首を務める最大与党「統一ロシア」などが法案を提出していたが、修正に向けて再審議する見通しだ。
ロシアの著名な人権活動家のポノマリョフ氏は「小さな一歩だが、欧米のような民主的秩序を志向することが言葉だけではないことを示している」と歓迎している。
政治学者のマカルキン氏は「大統領は自らのリベラル色を立て直す必要があった」とみる。大統領は7月、犯罪を起こす恐れのある組織や人物に事前警告ができる権限を連邦保安局(FSB)に与える法案に署名し、人権団体などが「旧ソ連国家保安委員会(KGB)の復活だ」などと反発していた。このため「治安派勢力とリベラル派のバランスをとろうとした」とマカルキン氏は指摘している。【11月9日 朝日】
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こうした大統領の拒否権発動については、大統領のリベラル色を打ち出すためのパフォーマンスとして、あらかじめ議会関係者との間でシナリオが出来ていたのでは・・・という感もありますが。

【「経済を近代化させようとしているのは誰か。検察か警察か、それともスパイか?」】
一方、一部指導者による強権支配体制という旧態依然の状況を思わせる記事にも事欠きません。
03年に逮捕されるまでロシア最大手の石油会社ユコスの社長として君臨していたミハイル・ホドルコフスキーは、プーチン首相によって追い落とされ、詐欺と脱税の罪ですでに8年間服役しています。

****プーチンの政敵はやっぱり刑務所暮らし*****
11月2日、最終陳述に臨んだホドルコフスキーの様子はまさに「政治犯」だった。
「あなた方の手の中にあるのは、2人の人間の命運に留まらない」と、ホドルコフスキーは裁判長に語りかけた。2人とはホドルコフスキーとかつてのビジネスパートナー、プラトン・レベジェフのことだ。「今ここで、わが国の全て市民の命運が決められようとしている」
ホドルコフスキーとレベジェフは2億トン以上の石油を横領した罪と、それを売って得た1億ドル近い金の資金洗浄の罪に問われている。判決は12月15日に言い渡される予定だ。
ホドルコフスキーも弁護団も、2人の有罪はほぼ間違いないと覚悟している。そして「容疑」はウラジーミル・プーチン首相(03年当時は大統領)の側近がユコスの石油関連資産を利用するためにでっち上げたのだと主張している。

選挙にでしゃばらないよう先手?
ホドルコフスキーは詐欺と脱税の罪ですでに8年間服役している。刑期は11年10月に終わることになっているが、ロシアではその数週間後に議会選挙が、そして翌12年3月には大統領選挙が予定されている。
刑期を延長し、選挙シーズンはシベリアの監獄で大人しくしていてもらおう――ホドルコフスキー側に言わせれば、彼が追起訴された裏にはそんな意図が働いている。
「私は自分の国を恥ずかしく思う」とホドルコフスキーは法廷で述べた。20分間の熱弁が終わると、支持者や多くの地元ジャーナリストから割れんばかりの拍手喝采がわき起こった。
「(ロシアは)世界のトップに立つはずのいくつもの一流企業をつぶし、自国民を侮って官僚と公安組織だけを信頼しているような国だ。この国は病んでいる」と彼は言った。

彼はまた、ドミトリー・メドベージェフ大統領の掲げる「経済の近代化」路線にも批判を浴びせた。「経済を近代化させようとしているのは誰か。検察か警察か、それともスパイか?」と、彼は声を上げた。「以前にもわが国はその手の近代化を試したことがある。だがうまく行かなかった」。要するにソ連時代のことだ。

リベラル派の旗手か強欲な富豪か
03年の逮捕以来、ホドルコフスキーはロシアのリベラル派を代表する「殉教者」へのイメージチェンジを慎重に進めてきた。そして情報機関や治安機関の出身者で占められている現政権にノーを突きつけ、民主主義と人権を求めようと国民に呼びかけてきた。
中にはこの変身ぶりを冷めた目で見る人もいる。ホドルコフスキーが90年代に財を成したのは、他のオリガルヒ(新興財閥)たちと同じで食うか食われるかの冷酷な手法を使ったからではないかというわけだ。
とはいえ多くのオリガルヒは、今も逮捕されることなく政府の手厚い支援を受けている。ホドルコフスキーの支援者に言わせれば、これこそ司法のダブルスタンダードだ。
「これは私とプラトン(・レベジェフ)だけの問題ではない」と、ホドルコフスキーは言った。「ロシア国民の希望――明日こそは、裁判所は国民の権利を守ることができるようになるのではという希望の問題だ」
彼はこうも言った。「牢獄暮らしは厳しい。こんなところで死にたくはない。だがこの信念は命を賭けるに値する」

国民は裁判のことさえ知らず
03年当時、プーチン大統領の下で首相を務めていたミハイル・カシヤノフは、ホドルコフスキーの弁論を「重要なもの」だと評価する。
「われわれはロシアを失いつつある」とカシヤノフは言った。カシヤノフの見るところ、裁判所が無罪判決を下す可能性は「ほとんど期待」できない。「裁判所が(プーチンが作り上げた)権力機構の一部となっているのは周知の事実だ」
ちなみにカシヤノフは03年に、ホドルコフスキーを逮捕するのは野党に資金提供したからだとプーチンから直接、聞かされたという。
だが2日の裁判について耳にするロシア人はほとんどいないだろう。全国ネットのテレビ局(大半のロシア人のニュース源)では取り上げられないからだ。
世論調査機関のレバダ・センターが10月に行なった調査によれば、この裁判を「非常に注意深く」見守っているという人はたったの2%。26%は裁判について聞いたことすらなかったという。
それでも42%のロシア人は、ホドルコフスキーの運命を決めるのは「権力の中枢にいる人々」だと答えている。【11月4日 Newsweek】
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【政府ぐるみの「悪人隠匿列伝」】
****ロシアにとって法律は破るためにある*****
人殺しのお尋ね者が国会議員に
例えば、元KGB(ソ連国家保安委員会)職員のアンドレイ・ルゴボイだ。イギリスに滞在していた亡命ロシア人のアレクサンドル・リトビネンコを06年に毒殺したとして、イギリスの検察当局が行方を追っている人物だが、この男は今や国民的ヒーローであり、選挙で国会議員に当選し、刑事免責特権まで手に入れている。
あるいは「美人スパイ」のアンナ・チャップマン。ロシア政府のためにスパイ活動をしたとして米国内で逮捕され、スパイ交換によって晴れて自由の身となった彼女、帰国したときにはウラジーミル・プーチン首相から称賛の言葉を贈られた。政界進出の噂もある。

政府ぐるみの「悪人隠匿列伝」の最新版は、09年に起きたエルミタージュ・ファンドの顧問弁護士セルゲイ・マグニツキーの事件に関与した政府高官と警官60人がおとがめなしとなったケースだ。
マグニツキーは、税務警察の高官がエルミタージュの関連企業を悪用して2億3000万ドル相当の税金を詐取したと告発した人物。だが逆に逮捕され、あらぬ脱税の罪で刑務所に放り込まれた。その後、獄中で健康を害したが治療を拒まれ、そのまま死亡した。
米議会は先頃、このマグニツキー事件に関与した人物へのビザ発給を禁ずる法案を可決した。法案の共同提案者に名を連ねたジョン・マケイン上院議員によれば、「このロシアの愛国者を死に追いやった者を特定し、その名を世界に知らしめ、犯罪の責任をとらせる」のが法案の狙いだ。
だがロシア側は、「大きなお世話」とばかり猛反発。ロシア外務省は「良識を逸脱」した行為だと非難し、内務省はマグニツキー逮捕で中心的な役割を果たした捜査官を昇格させてみせた。【11月17日 Newsweek】
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メドベージェフ大統領の国内改革「モデルニザーツィア」やリベラル色は、単に「良い警官と悪い警官」を演じるプーチン首相との共同のパフォーマンスの一環に過ぎないのか、これまでの欧米とは異質な政治体制に変革をもたらそうとうするものなのか・・・


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ミャンマー  スーチーさん、軍事政権ともに慎重姿勢 「不気味な」静けさ

2010-11-18 20:01:57 | 国際情勢

(14日NLD本部を訪れ、支持者に手をふるスーチーさん “flickr”より By bdcburma007
http://www.flickr.com/photos/aung_san_suu_kyi/5185405805/ )

【「しばらくは地方遊説に出るつもりはない」】
13日に7年半の自宅軟禁から解放されたミャンマーの民主化運動指導者、アウン・サン・スー・チーさん(65)は、総選挙への対応で分断された民主化勢力の再結集に努力することを当面の目標とし、軍事政権側を刺激する発言は慎重に避けています。
また、軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長との直接対話に意欲を表明し、融和姿勢を示しています。【11月15日 産経より】

彼女の政治活動が本格化して軍事政権側を刺激すれば、再び軟禁・拘束される事態も想定されていますが、そうした事態につながる地方遊説は当面行わない方針のようです。

****ミャンマー:スーチーさんNLD再建に全力 地方遊説せず*****
7年半ぶりに自宅軟禁を解除されたミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(65)が、軍事政権による再度の身柄拘束などの恐れがある地方遊説を、しばらくは行わない意向を示したことが分かった。スーチーさんは当面、地方遊説を行わず、総選挙参加をボイコットして解党処分となった「国民民主連盟」(NLD)の「再建」に全力を挙げる方針とみられる。
スーチーさんと14日面会した、ヤンゴン駐在各国大使の一人が明らかにした。

スーチーさんは、政権が軟禁解除に何の条件も付けず「私は完全に自由」と言い、「しばらくは地方遊説に出るつもりはない」と語ったという。
政権はスーチーさんの地方遊説で、民主化を求める動きが地方に拡大するのを恐れているとみられる。スーチーさんは89年以来3回自宅軟禁処分となり、うち2回は地方遊説がきっかけとなって身柄を拘束された。
スーチーさんは再拘束の恐れがある地方遊説よりも、NLDの「再建」が、政治活動再開への優先課題と考えている模様だ。NLDはヤンゴン市内に事務所を維持し事実上の政治活動を続けているが、政権は「非合法組織」としていつでも弾圧できるとの見方もある。
NLDは解党処分取り消しを裁判所に申し立て、18日には首都ネピドーの最高裁がこの訴えに基づき審理に入るかを判断する予定。スーチーさんは15日の弁護士らとの会議で「法廷闘争」の方針を確認。16日には申し立てに関する書類への署名のため、ヤンゴンの裁判所を訪れた。【11月16日 毎日】
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解放後の活動としては、意識的に選択した結果か、比較的穏当な「HIV感染者の療養施設訪問」が伝えられています。
****HIV療養施設を訪問=患者に花―スー・チーさん*****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんは17日、最大都市ヤンゴン東部にあるエイズウイルス(HIV)感染者の療養施設を訪問、「気持ちを強く持って」と激励した。
施設には約100人のHIV感染者を含む300人以上が集まった。スー・チーさんは同日午後、国民民主連盟(NLD)幹部とともに施設に到着。感染者に花を渡した。【11月18日 時事】
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【国営紙:スーチーさんの名前に敬称を付ける異例の扱い】
スーチーさん側の「抑えた対応」に呼応するように、軍事政権側もこれまでになくスーチーさんに対し「寛容」な姿勢を見せています。
****ミャンマー:軍事政権、「民主化の進展」国内外にアピール****
ミャンマーの軍事政権が、民主化運動指導者アウンサンスーチーさんの解放について、民主化「進展」と国内外にアピールしている。総選挙中は外国メディアの取材を禁じる一方、選挙で圧勝しスーチーさんを解放した後は、一転して一部欧米メディアの直接インタビューを事実上容認した。
普段スーチーさんの動向を一切伝えない国営紙は14日、「独立運動の父の娘に恩赦」との見出しでスーチーさんの軟禁解除を大きく報じた。スーチーさんの名前に敬称を付ける異例の扱いだった。当局者とスーチーさんが和やかな雰囲気で面談し「当局は国の安定と平和を望んでおり、スーチーさんが必要とするすべてに応じる準備がある」と伝えた。
一方、これまで国民に「悪魔」と宣伝していた英BBCテレビなど一部欧米メディアによるスーチーさんのインタビューを阻止せず、事実上容認した。政権側には欧米メディアの活動を阻止しないことで、「寛容姿勢」を強調する狙いもあるとみらる。【11月17日 毎日】
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軍事政権側のこうした「寛容」姿勢がいつまで続くのか、スーチーさんと軍事政権側でどのような話になっているのかわかりませんが、緊張をはらんだ、いささか「不気味な」静けさのようにも見えます。
今後については、スーチーさん自身の活動内容の他、少数民族反政府勢力と軍事政権の衝突も影響しそうです。

【米:「(軍事)政権の今後の対応次第だ」】
欧米諸国は依然ミャンマーの軍事政権・非民主的な総選挙を非難しています。
国連総会第3委員会(人権)にEUが提出した対ミャンマー人権決議案は、ミャンマー総選挙で軍事政権が「自由で公正かつ透明性のある選挙を行わず、国際監視団や記者の受け入れを拒否した」ことを問題視し、国際社会が求める水準以下だったと強く批判しています。

アメリカも制裁を続ける方針です。
****米、対ミャンマー政策変えぬ方針 制裁解除「政権次第」*****
米国務省のクローリー次官補は15日の定例会見で、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん(65)を解放したミャンマー(ビルマ)政府に対する政策を、現時点では変えない方針を示した。制裁解除の可能性については「(軍事)政権の今後の対応次第だ」とし、民主化勢力との対話を迫った。
クローリー氏は、「米国は国民民主連盟(NLD)再建に協力する」とし、クリントン米国務長官がスー・チーさんにメッセージを送ったことも明らかにした。また、「ビルマの人々が(軍事政権の支配とは)違う種類の社会を熱望していることを示している」と指摘。全有権者が参加する政治プロセスを含む「本当の市民社会を見せてほしい」と軍政に注文をつけた。【11月16日 朝日】
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軍事政権側は、豊富な地下資源を武器に、中国・インド・タイなど周辺国との関係を強めており、欧米の制裁に対抗しうる自信を持っているとも言われています。
欧米によるミャンマーへの経済制裁については、スーチーさんは「国民が解除を望み、国民のためになるならば考えたい」と述べています。スー・チーさんは以前にもタン・シュエ議長に対し、制裁解除のために軍政に協力する意思を表した手紙を出しています。

【中国:安定を重視するよう促す】
ミャンマーの「後ろ盾」とも言われる中国は、安定を重視することを求めています。
*****ミャンマー安定を重視=中国*****
中国外務省の洪磊・副報道局長は16日の定例会見で、ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん解放の感想を問われ、「ミャンマーが平和と安定を保ち、民族和解と経済社会発展を推進することを望む」と述べ、軍事政権に安定を重視するよう促した。
中国政府のスー・チーさん解放に対する反応は極めて静か。ノーベル平和賞受賞者であるスー・チーさんの解放が注目を集め、同賞受賞が決まった服役中の民主活動家、劉暁波氏の釈放要求が高まることへの警戒もあるとみられている。【11月16日 時事】
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なお、フランスのサルコジ大統領は、訪仏した中国の胡錦濤国家主席との首脳会談の際に「わたしから胡主席に話をして、中国当局がミャンマー軍政に影響力を行使した」と語っているそうです。【11月17日 時事より】自信家と言うか、自己顕示欲が強いと言うか、いかにも彼らしい発言です。そうした資質がないと政治家・指導者は務まらないのでしょうが・・・・。

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アメリカ・オバマ外交  アジア歴訪に厳しい評価  新START批准難航

2010-11-17 21:57:33 | 国際情勢

(アジア歴訪の最初の訪問国インドでは、ミシェル夫人がダンシング・クイーンとして大人気になったのですが・・・・ ただこれも、“インドではオバマ大統領は、ほぼ相手の望みどおりのことしか言わなかったから”とも言われています。 “flickr”より By U.S. Embassy New Delhi
http://www.flickr.com/photos/usembassynewdelhi/5177628273/# )

【「ソウルでの赤っ恥」、「三振でアウトだ」】
日本の菅政権も中国・ロシアに対する外交問題で強い批判にさらされていますが、アメリカ・オバマ大統領の外交戦略もうまくいっていません。
中間選挙における歴史的敗北後の挽回を狙ったオバマ大統領のアジア歴訪・ソウルG20については、アメリカ国内では非常に厳しい評価がされています。

****「赤っ恥」「三振」=オバマ大統領の歴訪酷評―米メディア*****
オバマ米大統領は14日、中間選挙での与党民主党の歴史的大敗の衝撃が収まらぬ中で出発したアジア4カ国歴訪から帰国した。今回の歴訪では、選挙での手痛い敗北の失点を外交で挽回(ばんかい)できるかが注目されたが、米メディアの報道では「大統領への世界の視線が、この2年間でいかに厳しくなったかが示された」(ワシントン・ポスト紙)など酷評が相次いだ。
「米国の大統領と財務長官が、ここまで総スカンを食らった経済サミットがかつてあっただろうか」。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は13日付紙面に「ソウルでの赤っ恥」と題する社説を掲載。大統領がソウルでの20カ国・地域(G20)首脳会合で、輸出拡大のため金融緩和によってドル安誘導していると非難を浴びたことや、米韓自由貿易協定(FTA)の批准に向けた合意をまとめられなかったことを厳しく批判した。
ABCテレビもソウル訪問では、米韓FTA合意、中国の人民元安政策の転換、G20での対中包囲網形成という三つの目的を達成できなかったとし、「三振でアウトだ」と報じた。【11月15日 時事】
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アメリカの期待する「強いアメリカ」を実現できなかったことへの失望でしょうが、日本国内メディアの評価も同様に、アメリカの指導力の陰りを指摘しています。
****オバマ大統領、アジア歴訪 世界経済、陰る米指導力*****
オバマ米大統領のアジア歴訪は、世界経済における米国の指導力の陰りを印象づけたという見方が出ている。米韓自由貿易協定(FTA)の最終合意や、各国と協調し中国に人民元切り上げを迫るという目標の達成に失敗したからだ。米中間選挙で民主党大敗の原因となった景気回復の遅れと、経済政策運営の行き詰まりが、外交にも影響しているという指摘もある。
大統領の6日からのインド訪問を皮切りにしたアジア歴訪は、中間選挙敗北の挽回(ばんかい)を狙ったものだった。

しかし、11日にソウルで行われた韓国の李明博大統領との会談で、アジア市場に対する輸出促進のカギを握る米韓FTAの批准へ向けた決着を逃したことについて、アメリカン・エンタープライズ研究所のフィリップ・レビー上級研究員は「大統領の失敗であり、世界経済における米国の指導力の弱体化を露呈した」と指摘する。
2007年にブッシュ政権が署名した米韓FTAによって米国には、年間100億ドルの輸出増と7万人の雇用促進が見込まれる。輸出倍増計画を掲げるオバマ大統領もソウルでの首脳会談を「最終合意期限」と位置づけていた。
中間選挙の結果、自由貿易派の共和党が下院を制し、批准への機運も高まっていた。だが、米国産の牛肉や自動車の輸出に対する韓国の障壁をめぐり、韓国側から譲歩を引き出すことができなかった。

主要20カ国・地域(G20)首脳会議でもオバマ大統領は、焦点だった貿易不均衡是正の具体策で合意を主導できず、中国に人民元切り上げを迫る国際的な圧力も強化できなかった。
米連邦準備制度理事会(FRB)が3日に決定した6千億ドルの国債購入による追加金融緩和を、中国やブラジルなどが、米輸出の拡大に有利な「ドル安誘導策だ」と批判し、それへの釈明に追われたからだ。
世界的な経済危機の最中の昨年4月、ロンドンで開かれたG20首脳会議で大統領は、景気対策の国際協調を主導した。だが、当時の指導力は見る影もない。

「彼ら(各国)は一段と自己主張を強めている」。大統領は、合意形成が難しくなった要因は自国本位の風潮にあるとした。また、新興国の通貨上昇の元凶とされるFRBの金融緩和は、「世界の利益だ」と主張した。だが、新興国側からは、米国の景気回復を優先させ、他国の利益を無視した「一国主義だ」との声も上がっている。
「世界的な課題はもとより、国内の経済課題も解決できない弱い米国の大統領-世界がオバマ氏をそうみているのではないかと危惧(きぐ)する」。米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、デイビッド・イグナチウス氏は、こう指摘している。【11月16日 産経】
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【新STARTの年内駆け込み批准も難航】
今回のアジア歴訪に限らず、アフガニスタンは出口がはっきりしない、イラン・北朝鮮の核問題もなかなか進展していない、中東和平交渉はもとより誰も成功を予想していない・・・という状況で、オバマ外交はいまひとつ成果を出せずにいます。

なかでも懸念されるのは、アメリカとロシアが4月に調印した新戦略兵器削減条約(新START)の批准(上院の3分の2の賛成が必要)がアメリカ国内で困難になっていることです。これは外交というより、アメリカ国内問題と言うべきでしょうが。

オバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領は14日、横浜市内で会談。アメリカ議会での批准が難航している新戦略兵器削減条約(新START)について、オバマ大統領は、外交上の最優先課題として取り組んでいることを強調、年内の批准を目指すことを改めて表明し、理解を求めています。

****米露関係「リセット」に影 中間選挙大敗で新START批准難航*****
米国とロシアが4月に調印した「新戦略兵器削減条約(新START)」の米上院(定数100)での早期批准が中間選挙の与党の大敗で困難になっている。オバマ政権は年内まで任期の残る現議会での“駆け込み採決”を目指しているが、批准に必要な上院全体の3分の2の67票の賛成を得るには共和党8議員の協力が必要だ。民主党の議席が少なくなる来年になると、状況はさらに不利になる。14日には横浜市で米露首脳会談が予定されているが、この問題が両国関係に影を落とす懸念も高まっている。

 ◆党派超え結束を
「民主党と共和党の伝統的な争点ではなく、わが国の安全保障の問題なのだ」
オバマ大統領は中間選挙直後の4日、核不拡散への熱意を世界に示すためにも新START批准に党派を超えて結束するよう訴えた。
新STARTは、配備済み戦略核弾頭を1550発、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの運搬手段を800まで削減し、双方の核ミサイル基地への査察を実施する点などが柱となっている。

 ◆最重要政策の一つ
「核兵器なき世界」を掲げるオバマ政権は「リセット」と称してブッシュ前政権下で悪化した対露関係の改善を重視、新STARTの批准を最重要政策の一つに掲げてきた。
だが、北朝鮮やイランの核兵器開発が深刻化しており、条約締結が米国の核抑止力の低下につながりかねないとの懸念は強い。ロシアが強く反対する米国のミサイル防衛(MD)への悪影響も指摘される。
9月の上院外交委では共和党の3議員が賛成に回ったことで批准承認が可決されたが、本会議でどこまで共和党の協力を得られるかは未知数だ。しかも来年の民主党の上院議席は現在の59(民主党系含む)から53に減少する。
このため、ホワイトハウスは年内採決に向けて共和党穏健派の懐柔に乗り出しており、米国が保有する核兵器の近代化など、一部の共和党員が受け入れやすい条件の提示を画策している。

 ◆共和党の動き鈍く
しかし、共和党側の動きは鈍い。支持率低下にあえぐオバマ政権にあえて協力するメリットはなく、条約が批准されればオバマ政権に外交成果を与えることになるからだ。
こうした状況にタウシャー米国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は「本来あるべき姿を超えて(批准の議論が)政治問題化されている」と批判のトーンを強めている。
中間選挙で中断していた米議会は15日に再開予定で、新STARTをめぐる与野党の激しい駆け引きが展開されそうだ。【11月13日 産経】
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オバマ政権としては、中間選挙敗北により来年からは上院での議席差が縮まるため、比較的有利な年内に駆け込み批准したいところですが、共和党の協力が得られていません。
オバマ政権側との交渉窓口だった共和党上院ナンバー2のカイル院内幹事が16日、年内の批准に反対する声明を発表、年内批准は極めて厳しい情勢となっています。
 
****米上院:新START批准暗雲 共和党「年内」反対****
オバマ米大統領が外交上の最優先課題と位置付けている米露間の新しい戦略兵器削減条約(新START)について、政権側との交渉窓口だった共和党上院ナンバー2のカイル院内幹事が16日、年内の批准に反対する声明を発表した。多くの共和党議員が従うとみられ、年内批准は極めて厳しい情勢となった。
年内批准に失敗すれば、「核兵器なき世界」を目指すと提唱してきたオバマ大統領の国際的な信用も大きく失墜しかねず、政権側は必死の説得工作を続けている。
カイル氏は声明で、「議会で多くの法案が残っていることや、核兵器の(抑止力強化のための)近代化について複雑で未解決な問題があることを勘案すると、年内の残り会期では批准すべきではない」と反対姿勢を明確にした。
オバマ政権は、核抑止力強化のため10年間で800億ドル(約6兆6400億円)の核兵器関連予算を計上することをすでに発表しているが、批准への賛同を得るため、さらに今後5年間で41億ドル積み増すことをカイル氏側に提案。交渉は順調に進んでいるとみられていただけに、ホワイトハウスは衝撃を受けている。

オバマ大統領は14日、横浜で行われたロシアのメドベージェフ大統領との会談で、新STARTの年内批准を最優先課題として取り組んでいると表明したばかり。実現できなければ、米露関係に影響し、アフガニスタン戦争や対イラン政策で協力が得にくくなるとの指摘が出ている。
ホワイトハウスのバイデン副大統領は16日、声明を出し「年内批准ができなければ米国の国家安全保障を危うくする。新STARTはロシアとの関係の基盤となるものだ」などと懸念を表明。17日にはクリントン国務長官が連邦議会内でルーガー(共和)、ケリー(民主)両上院議員と記者会見し、党派を超えた批准に協力を求める予定だ・・・・【11月17日 毎日】
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新戦略兵器削減条約(新START)が批准されなかったからといって、すぐに米ロの軍拡競争が始まるような情勢ではありませんし、批准できたからといって「核兵器なき世界」が即実現される訳でもありません。
しかし、核軍縮に向けた制度的枠組みを失うことの意味は小さくありません。
実務面でも、相手国のミサイル基地を査察できる手だてがなくなることで、疑心暗鬼の状況を生みかねません。
上記記事にもあるように米ロ間の信頼、ロシアのアフガニスタンやイランでの協力にも影響します。
また、オバマ大統領の指導力低下を世界に示すことにもなり、様々な交渉における影響も考えられます。
少なくとも、「核兵器なき世界」を掲げて受賞したノーベル平和賞の価値が大幅に減じるの間違いないところです。

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中国  劉暁波氏のノーベル平和賞授賞式を「踏み絵」に

2010-11-16 19:30:12 | 国際情勢

(1月12日、香港で行われた劉暁波氏を支援する集会 “flickr”より By Vox Asia
http://www.flickr.com/photos/voxasia/4376893088/ )

【「誤った選択をすれば、結果に責任を負わなければならない」】
中国・北京の第1中級人民法院(地裁)は昨年12月25日、政治改革を訴える「08憲章」の起草に加わったのは国家政権転覆扇動罪にあたるとして、著名な反体制活動家の劉暁波氏(53)に懲役11年の判決を言い渡しました。
その劉暁波氏のノーベル平和賞授賞式について、中国政府が各国に対し出席しないように露骨な圧力をかけていることは周知のところです。日本は出欠の返答を留保しています。

*****平和賞授賞式、イラン・キューバ欠席へ 中国の要請受諾*****
ノルウェーの公共放送NRKによると、来月にオスロである中国の人権活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)氏へのノーベル平和賞授賞式について、イラン、キューバ両国が欠席の方針を固めた。授賞に反発する中国政府が欠席を求めたのに応じた。一方、日本を含む数カ国が締め切りが過ぎても出欠回答を留保する異例の事態となっている。
12月10日の授賞式には各国の駐オスロ大使が招待されている。服役中の劉氏を「犯罪者」と呼ぶ中国政府は、各国に書簡などで欠席を要請。崔天凱外務次官が「誤った選択をすれば、結果に責任を負わなければならない」と述べるなど、経済力を背景に「踏み絵」を迫っていた。

ノーベル賞委員会への出欠回答期限は15日だったが、オスロの日本大使館は政府の指示待ちで「まだ検討中」。地元メディアによると、インド、パキスタン、インドネシア、スーダンも同様の理由で回答を留保した。期限の延長を求めた国もあるという。
ロイター通信などによると、米国、英国、ドイツ、フランスは参加する予定。他の欧州諸国も出席する見通し。
尖閣諸島を巡って悪化した対中関係の改善を急ぐ日本は、13日に日中首脳会談にこぎつけたばかり。回答の遅れは中国を刺激しない狙いとみられるが、もし欠席を決めた場合は、国内外から「人権軽視」と批判されかねない。
イランでは2003年に同国の女性弁護士で人権活動家のシリン・エバディ氏が平和賞を受賞した際、保守派が反発した。社会主義国キューバは、米国から政治犯の釈放を求められており、両国とも中国と境遇が似ている。【12月16日 朝日】
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中国の経済力を背景にした「踏み絵」であると同時に、国際社会に対しては、人権・政治的自由の重みを国内でどのように認識しているかを表明する「踏み絵」でもあります。

【気が重い判断】
中国との関係は、日本の場合、他の欧米諸国とは単純に比較できないものがあります。経済的関係のウェイトの重さだけでなく、歴史的に微妙な関係・国民感情もあります。
地政学的にも、狭い海を挟んで対峙し、好むと好まざるとにかかわらず互いに強く影響しあう関係にあります。

先の尖閣諸島沖の中国漁船問題で悪化した日中関係ですが、会談だか会晤だかはともかく、中国メディアが西表島沖で遭難の中国人船員を日本の海保が救助したニュースを大きく取り上げるとか、上海市トップの兪正声・市共産党委書記(党中央政治局員)が地元メディアのインタビューで上海万博を総括し、日本館を高く評価するなど、関係修復に向けた動きもようやく出てきたばかりのところです。

「圧力に屈せず、堂々と自国の主張をすべきだ」と言えばそれまでですが、これでまた関係が悪化したら・・・という気の重いところもあります。
結論的には、人権・政治的自由の価値観を重視する立場から、会談だか会晤だかを終えた日本も出席する判断をするのでしょう。人権において、イラン、キューバと同レベルになる訳にもいきません。
国内政治的にも、ここで欠席とかすれば、「中国の圧力に屈した」との批判で、支持率急落の菅政権はいよいよ追い詰められることにもなってしまいます。

今後、「誤った選択をすれば、結果に責任を負わなければならない」と言う中国がどういう対応に出るのかはわかりませんが、現在出欠を留保しているインド、パキスタン、インドネシアも出席して、アジアで日本だけが突出するという事態が避けられればベターではあります。

【“力の誇示”】
南シナ海での領有権問題にしても、尖閣諸島沖での件に関するレアアース禁輸措置しにても、今回の問題にしても、中国の高圧的な、恫喝とも言えるような姿勢が目立ちます。

いささかマイナーな話題ですが、先日のソウルG20サミット終了後のオバマ米大統領記者会見で、中国人記者が見せた不作法な質問態度が論議を呼んでいると、13日、網易が伝えています。
****オバマ大統領記者会見で中国人記者が見せた不作法な態度=中国で議論呼ぶ****
韓国出国前に開催されたオバマ米大統領の記者会見。最後の質問は韓国プレスに与えたいとオバマ大統領は話したが、真っ先に手を挙げ立ち上がったのは中国中央電視台(CCTV)の●成鋼(ルイ・チェンガン、●は草冠に内)アナウンサー。
「韓国人ではなくて失望させてしまうかもしれませんが」と前置きしつつも、「アジアを代表して質問したい」と発言。「公平に見て、韓国プレスの質問の番でしょう」とオバマ大統領はたしなめたが、「じゃあ韓国記者たちがいいと言えば、質問してもいいですよね」と食い下がった。
G20サミット開催国である韓国メディアの質問の機会を奪ったルイ・アナウンサーの発言は中国のネットで話題に。「勝手にアジアを代表するな」との批判の声が巻き起こった。一方で中国の存在感を示したと評価する声も多いようだ。ルイ・アナウンサーの行動を支持するかを問う網易のネットアンケートでは、57%が支持。34%が「謙虚になるべき」と回答している。【11月14日 Record China】
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こうした強引な態度に、“中国の存在感を示したと評価する声も多いようだ”という中国国内反応が気になります。
自分の利益のためなら、手段を選ばず、持てる力をすべて出せばよい。それで成果を出せば、自分の評価も高まる・・・という発想でしょうか。
ルールとかモラルを無視した、強烈な自己顕示欲とも言える“力の誇示”とも見えます。
こうした考え方が、中国社会に溢れ、国家の政治姿勢にも出てくるのでは・・・と感じた次第です。

【これで人権問題が改善されるのか?】
話を劉暁波氏のノーベル平和賞授賞に戻すと、敢えて中国の立場から考えると、その怒りも理解でない訳ではありません。
中国の政治体制は日本や欧米と異質ですし、我々が重視する人権とか政治的自由が侵害されています。
しかし、中国自身は彼らの政治体制を「正しい」と判断している訳ですから、その政治体制に逆らう劉暁波氏は許されざる存在であり、その犯罪者をノーベル平和賞という形で遇するのは、中国の政治体制に対する否定に他なりません。
自国の体制をノーベル賞という国際的ハレの場で否定される訳ですから、面子にこだわる中国ならずとも、色をなして怒り、様々の対抗手段を弄するのは無理からぬところがあります。

中国の圧力に屈することなくノーベル平和賞を選定したノルウェーの委員会には高い評価が寄せられていますが、こうした方法で中国国内の人権や政治的自由に関する状況が少しでも改善されるのであれば結構な話です。
しかし、現実にはむしろ国内での反体制派への締め付けが厳しくなっているとも聞きます。
長い目で見れば、中国政府も国際的な評価に留意して、人権重視の方向に対応が変化する・・・というものでしょうか?
授賞式に日本が出席する云々の話とは別に、今回のような政治的に異質な社会での反体制活動家への平和賞授与については、いろいろ考えさせられるものがあります。もちろん、反体制活動家支援は重要なことだとは思いますが。


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ミャンマー  スーチーさん解放後の演説内容 困難な今後の活動

2010-11-15 20:06:08 | 国際情勢

(13日解放時、自宅前に集まった支持者にあいさつするスーチーさん  14日演説で、カメラ付き携帯電話の多いのに驚いたと話しています。7年半の時間を感じさせます。 “flickr”より By Gordon Whiting
http://www.flickr.com/photos/seeker56/5173026178/# )

報じられていように、13日に7年半ぶりに自宅軟禁から解放されたミャンマーの民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チーさんは、14日にヤンゴンの国民民主連盟(NLD)本部前で、大勢の支持者を前に(朝日では約4万人、毎日では5000人)解放後初めての演説を行いました。

****ミャンマー:スーチーさん、対話による民主主義実現を強調*****
ミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(65)は7年半ぶりの自宅軟禁解除から一夜明けた14日、支持者に向けて演説。今後も政治活動を継続する方針を明確にする一方、軍事政権に対しては「敵意はない。最後まで話し合う」と語り、対話を通じて民主主義の実現を目指す方針を強調した。

スーチーさんは自身が率いる民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)のヤンゴン市内の本部前で演説。「私は自分の思い通りにするつもりはない。すべての民主化勢力や国民とともに、国民和解に向けて取り組む」と述べ、選挙をボイコットしたNLDから分裂して、スーチーさんの意向に反して選挙参加した「国民民主勢力」(NDF)などとの関係修復に取り組む考えを示した。

スーチーさんは集まった5000人の支持者に「私たちが何かを手に入れたければ、恐れずに行動すべきだ」と訴えた。しかし「行動」の中身については、「物理的な力や、大きな声で叫ぶことではない」と述べ、政権を刺激するデモなどではなく、あくまで対話によって民主化を前進させる必要性を強調した。
その後行われた記者会見でも、スーチーさんは「私が解放されたことを、政権が脅威に感じないことを望む」と発言。政権最高指導者のタンシュエ国家平和発展評議会議長に直接対話を求め、米国や欧州連合(EU)の経済制裁解除に向けて政権との協力も拒まない姿勢も示した。【11月14日 毎日】
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【11月15日 朝日】に掲載されたスーチーさんの演説を一部抜粋すると、以下のとおりです。
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【正しい方法で行動しなければ何も得ることはできない】
期待するだけでは何もできません。期待することを実現するためにどうしたらいいか。実現する際にも正しい方法で行動する必要があります。
正しい方法で行動したいというのはなぜかというと、自分が聖人になりたいからではありません。私の経験から言って、正しい方法で行動しなければ目標が正しいものではなくなってしまうからです。だから、正しい方法で自分が実現したいと思っていることを実現しなければなりません。

国民が参加しなければ何も実現できません。それは皆さんもわかっていると思います。国民が国民のために民主化を実現する、それは私の国だけではなく世界中に広がってほしいことです。そういう考えに基づいて、私たちは努力します。私が掲げる目標を平和的に正しい方法で実現できると信じています。
やらなければないことはたくさんあります。行動しなければ何も得ることはできません。
 
【期待を背負うのはとても重い、しかしその責任を恐れない】
ほかの人がしてくれるのを待っていては駄目です。私たちは無理やりやらせるつもりはありません。皆さんが自ら参加することで実現するのです。
このように皆さんがここに来て支持をしてくれるのは、私に期待しているからだということはわかっています。そのような期待を背負うのはとても重いことです。しかし、私はその責任を恐れません。恐れるのは責任を果たせないということだけです。責任を果たすために努力します。

【民主主義の基本である言論の自由】
私たちとは、正直に何も恐れずに接してください。私たちに何を言ってくれても構いません。言いたいことを伝えてください。私と意見が違ったときには私は反論します。これが民主主義の基本である言論の自由です。言論の自由というのは勝手に文句を言い合うことではありません。
時には少し声を張り上げることもあるかもしれません。しかし、お互いが理解できるよう話すことがとても重要なのです。

【失望せず行動を】
私が言いたいのは、失望しないでくださいということです。我が国の状況を見て、失望したくなるときもあります。今まで何も変わらず、発展もしていないという思いもあるでしょう。しかし、失望する理由はありません。私たちは努力しなければなりません。努力はとても重要です。努力を重ねなければなりません。行動を起こす際にも、その途中でも、目的に達するまで努力をしなければなりません。
行動を起こすということに終わりはありません。国を造っていく際には、行動しなければなりません。この世に完全な満足ということはありません。しかし、ある程度の満足は絶対に必要です。そのような満足できる状況に達することができるよう、皆が協力して努力しなければなりません。

【1人で行動するのは民主主義ではない】
私がすべてしてあげられるとは言えません。国民の信頼、国民の期待、国民の支持があってはじめて、私の力は大きくなるでしょう。そのような力で国民とともに行動したいと思います。
私1人ではできません。私1人ではやりたくありません。1人で行動するのは民主主義ではありません。この考えを忘れないでください。私は1人で行動するつもりは全くありません。多くの皆さんと一緒に行動します。国民の皆さんと一緒に行動します。私たちを支持し、私たちに共感する世界の人々とともに一緒に行動します。そういう思いを心にしっかりと持ってください。

【多くの国民が少数の支配者を動かす権利をもつことが民主主義】
民主主義の重要な点は何かというと、前面に立って活動している人を後ろの人たちが動かすことが必要で、その権利がなければならないということです。それが民主主義です。多くの国民が少数の支配者を動かす権利を持たねばなりません。それが民主主義です。
国民が私たちを動かすことは受け入れます。しかし、国民でないものが私たちを拘束することはあまり受け入れたくありません。特に深い意味はありません。頭に浮かんだことを今話しただけです。

【すべての人たちとの間で対話を】
私は国民との間で、すべての人たちとの間で対話を続けていきます。この人とは対話がうまくできないとか、この人とは話し合いができないということは全くありません。どんな人ともうまくいくようにしたいという思いがあれば、それは可能です。話をしたいという思いがあれば、できるでしょう。私はそういう方法でやっていきたいと思います。私たちの側には国民の力が必要です。

【今ははっきりと言えないが、多くの声を聞いて決めていく】
国民の理解、支持を得て、引き続き活動していきます。今ははっきりと言えないことを許してください。しかし、たった今軟禁を解除され、今これをやりますと言ったとしても、深く考えずに語った言葉になってしまいます。最近の人々の声をたくさん聞きたいと思います。そのような声を聞きながら、これからの旅をどのように続けたらいいかということを私たちは決めたいと思います。

【民主主義を求めるグループすべてと連携して活動】
最も重要なのは、国民の力をもって私たちが行動するということです。民主主義を求めるグループすべてと私は連携して活動します。そして、私たちは対話が実現するよう活動していきます。

【時には傷つくことも】
対話の実現のために努力し、国民が最も傷つかない方法で、でも、まったく傷つかないとは私は言えません。そのように私が保証すれば(国民に)わいろを与えるようなものになってしまいます。
私を支持することでまったく傷つかないとは言えません。時には傷つくこともあるかもしれません。私を支持してくれる人も傷つくかもしれません。私たちも傷つくかもしれません。しかし、国民が最も傷つかない方法を私たちは探していきます。
国民も時には傷つくことを恐れないでください。私は今、言いたいのです。正しいことと悪いことの違いを知らなければなりません。正しい側にとどまり続ける勇気がなければなりません。悪いことと正しいことは時とともに変わることもあります。時間が変わるように、状況が変わるように、答えも変わります。

【対話だけを信じて行動】
一緒に行動してこそ実現するのです。期待だけで実現するのではありません。欲しいと思うだけで得ることはできません。欲しいものを得るために行動をして初めて、行動を起こす勇気があって初めて、行動できて初めて、獲得することができるのです。
私は最良の方法を探します。先ほど私が言ったとおりです。もう一度言いましょう。私たちは最良の方法を探して、目標に到達しなければなりません。私は対話だけを信じています。この方法を私たちが使わなければならないということを私は信じています。

【“警備していた人たち”に憎しみはない】
この本部に来て、私を支持をしてくれている皆さんの前で正直に話させてください。私を警備していた人たちに対して、私は憎しみの気持ちはありません。
私の性格からして、誰かを憎んでいるわけではありません。そのような感情は私にはありません。私は拘束を受けていた期間、私の警備の担当者たちは私に対しとても良く接してくれました。私は事実を言っているのです。私に本当に良くしてくれました。私はそれを大事にしたいと思います。感謝しています。
このようにいかなる地位であっても、いかなる分野にある人であっても、一人ひとりが思いやりを持って付き合ってほしいと思います。そのように私に対して丁寧に付き合ってくれたように、国民に対しても思いやりを持って接してくれればどんなに良いことでしょうと思いました。
私を自宅軟禁にしたように、人々を軟禁状態に置かないでください。私に丁寧に接したように、国民に対しても丁寧に接してくださいとお願いしたいです。自分が嫌いだからと言って、すべてが悪いと言ってはいけません。良いところもあれば、悪いところもあるでしょう。悪い部分を「悪い」と言われても怒る必要はありません。悪いことはしなければいいのです。良い点を大事に思って、感謝をしましょう。

【民主主義を信じているグループと相談しながら行動】
私たちは民主主義を信じているグループと相談しながら行動していきます。国民民主連盟1団体だけで行動するのではありません。多くの人たちと連携しながらやっていきます。それを支えるのが国民の皆さんです。国民が加わらなければ私たちは何もできません。国民の協力が必要であればお願いをしたいと思います。お願いをした際には私たちを信頼して、皆さんの力で支えてください。

【命を落とした民主化活動家に敬意】
人はいつかは死ぬのです。死ぬまでの間にどのように生きてきたかが重要です。今私たちはこれまでに命を落とした民主化活動家に敬意を表したいと思います。獄中にある民主化活動家にも敬意を表したいと思います。すべての活動家が釈放されるように祈りたいと思います。【11月15日 朝日より】
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軍政や不正選挙疑惑に対する直接的な批判は慎重に避け、対話をとおして、民主主義を求めるグループすべてを再結集して行動していくことを訴える内容となっています。
さすがにカリスマを感じさせる演説ではありますが、すでに総選挙で大勢は決しており、スーチーさんら活動の具体的道筋は定かではありません。多くのメディアが報じているように、今後彼女が地方遊説など活動を本格化させれば、再度軟禁・拘束ということも容易に推測されます。

総選挙結果は予想どおり軍事政権側の圧勝でしたが、国民民主連盟(NLD)から分派し、選挙に参加した国民民主勢力(NDF)も上下両院合わせて10議席前後程度は確保したと言われています。
わずかな議席ですが、圧倒的に不利な条件下での選挙、投票時に政権側の監視がなされるとか、投票用紙に番号が振られており誰に投じたかわかる・・・とも言われる状況を考えれば、重みのある数字です。
もし、スーチーさんがNLDの総選挙参加の方針をとっていれば、この2~3倍の数字は・・・という思いもあります。スーチーさんの総選挙ボイコットは軍事政権側には好都合だったとも言えます。

NLDは解党状態となっているなかで、どんな具体的行動ができるのか、新体制・総選挙をボイコットしたスーチーさんが、議会内の民主化勢力とどのような関係を持っていくのか注目されます。

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オーストラリア  個人を対象にした排出権取引の実験

2010-11-14 20:22:15 | 環境

(本文とは無関係な、ただの値引きクーポンです。 “flickr”より By LZBone
http://www.flickr.com/photos/27232603@N00/2583975100/ )

温暖化防止の方策として国家間の排出権取引が行われていますが、オーストラリアの島で個人間での同様の制度も試みがなされているそうです。
なお、オーストラリアではラッド前首相が公約に掲げていた国内の企業・団体による温室効果ガス排出量取引制度導入法案が上院で2度にわたって否決され、導入時期先送りに追い込まれたことで国民から「指導力不足」との批判を受けたことが、現在のギラード首相に交代を余儀なくされた一因とされています。

****南の島の実験*****
温室効果ガスのうち、二酸化炭素(CO2)の1人当たり排出量が、先進国では米国に次ぐ2位というオーストラリア。ギラード政権は、排出権取引制度の導入などが進まぬなか、本土から遠く離れた南太平洋のノーフォーク諸島で、個人を対象にした排出権取引を始めるという。

実験は、同国のサザンクロス大学が中心となり、連邦政府からの40万豪ドル(約3300万円)を元に来年からスタート。1800人の住民に対し、一定額の排出権のポイント券を発行。住民は何かを買ったり、サービスを受けたりするたびに、商品やサービスで消費するCO2排出量に見合う額のポイントを支払う。
1年を通じて残ったポイントは換金できる仕組み。ガソリンなどをたくさん買えば、すぐにポイントは無くなってしまうので、CO2の消費を抑えることができる。ちなみに、CO2だけでなく食べ物も対象で、脂肪量に応じてポイントを支払う。同島は本土から遠く、ほとんどの物を輸入に頼っており、島でできる野菜などの消費を増やすことで、肥満解消にもつなげようというわけだ。

同島の住民は有名な「バウンティ号」で反乱を起こして逃走した船員の子孫が多いというが、太陽光発電などにも熱心といい、環境に優しい島として世界にアピールしようとしている。【11月10日 産経】
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ここから先は、近未来社会SFのB級映画の見過ぎによる妄想の世界の話。
「結構な取り組みだけど、ポイント券をいちいちやり取りするのは煩雑。ICカードみたいなものを発行して商品購入時にチェックするようにしたら・・・」なんてことにもなるかも。
更に、せっかくのICカードだから個人情報を入れて身元確認用にも使えば・・・。そしたらすべての国民の生活行動がチェックできてテロ防止対策にもつながるかも。
健康状態に関するデータも入っていて、高脂肪食品を買おうとすると、「警告!この商品はあなたの健康をそこなう恐れがあります。購入は控えましょう」なんてメッセージが出たりして。

話を現実にもどすと、各地の紛争で無人偵察機が活用されていますが、人々の行動を空から監視する「個人用の無人偵察機」の開発競争が進んでいるそうです。アメリカの離婚問題を専門に扱うある弁護士は、「世の夫は、夜11時に外出する妻の行動を確実に追跡できるようになる」とも言っています。【11月17日号 Newsweek日本版より】

再び、妄想の世界の話。
今現在、街中のあちこちに監視カメラが設置されていますが、将来は犯罪防止のために国家による無人偵察機が街の上空を飛び交うようなこともあるかも。
テロが頻発すれば、「いっそのこと国民の皮膚の下に小さなチップを埋め込み、GPSや無人偵察機で瞬時に誰がどこで何をしようとしているか確認できるようにしたら・・・」なんてことにもなるかも。

管理する側のルールに従う限り、安心・安全で快適な生活が保証される。ただし、そのルールに疑問を抱く者は社会に害を及ぼしかねない者として抹殺される・・・よくあるB級近未来社会SF映画のストーリーです。

昔の社会は、“世間”とか村落共同体的なインフォーマルな相互監視がありました。
将来の社会も、ひょっとすると上記のような“管理社会”に近づいていくのかも。
現在はその過渡期で、つかの間の個人の自由が楽しめる時代なのかも。

せっかくの環境を考えた革新的な取り組みを、つまらない与太話で茶化しては申し訳ないので、今日はここまで。

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アフガニスタン情勢:カブール陥落から9年  米軍のGPS誘導移動式ロケット、ロシアの復帰

2010-11-13 22:30:41 | 国際情勢

(1メートル以内にピンポイントで命中するGPS誘導される単弾頭の誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS) “flickr”より By Defence Images  http://www.flickr.com/photos/defenceimages/5038806268/ 
多連装ロケットシステム自走発射機は、もともとはクラスター爆弾様のロケット弾を使用しており、イラク戦争では「鋼鉄の雨(スチール・レイン)」とイラク軍に恐れられたそうです。【ウィキペディアより】)

【カブール陥落から9年】
アフガニスタンの首都カブールから旧支配勢力タリバンが排除されてから13日で9年になったそうです。
しかし、復活したタリバンとの戦闘は続いています。治安が回復したかに見える首都カブールでも自爆テロが起きています。

****アフガン:首都カブール陥落から9年 治安回復も自爆テロ*****
01年の米同時多発テロへの報復として始まったアフガニスタン戦争で、首都カブールが陥落し、旧支配勢力タリバンが排除されてから13日で9年となった。その首都で12日、自爆テロがあり、アフガン国軍と北大西洋条約機構(NATO)軍の兵士2人が負傷した。

アフガンでは南部や東部で旧支配勢力タリバンが勢いを盛り返している。だが、カブールでは、アフガン兵や警察が治安を守り、復興の兆しを見せていた。市内のあちこちで道路や新築ビルの工事が進み、商店や飲食店はにぎわい、夜中まで色とりどりの電灯を店先にぶら下げている。車を持つ人が増え、街を走る車の9割は左ハンドルの中古の日本車だ。
そこに起きたテロ。NATO軍の四駆車の車列が狙われた。現場から約300メートル離れた小高い丘から見下ろすと、自爆したワゴン車は黒くこげ、原形をとどめていなかった。アワフ・ドワドさん(28)は、「土煙がこの丘まで舞い上がり、辺り一帯が真っ白になった。子供たちは『世界の終わりだ』とおびえ、逃げ回った」と話した。(中略)
この国は79年のソ連の軍事侵攻以降、30年にわたるさまざまな戦争を経験し、いまだに出口が見えない。【11月13日 毎日】
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余計なことですが、カブールの車の9割が中古日本車だとは知りませんでした。
ちなみに、タリバン御用達の愛車もトヨタのピックアップトラック「ハイラックス」だそうです。こちらはタリバンだけでなく、世界中の紛争地帯のゲリラ・武装勢力から絶賛を得ています。
機動性が高く、耐久性に優れ、荷台に重火器を設置すれば有効な兵器になります。
みんなが使っているので交換部品が入手しやすく、整備できる人間も多いというメリットもあります。
80年代のチャド内戦では、政府軍・反政府軍双方がハイラックス改造車を多用したため、「トヨタ戦争」とも呼ばれたとか。【10月27日号 Newsweekより】

話を本題に戻すと、翌13日にはタリバンによるNATO軍空港襲撃も報じられています。
****アフガン:テロ 北部で子供ら8人死亡、NATO軍空港も*****
アフガニスタン北部クンドゥズ州の市場で13日、バイクに仕掛けられていた爆弾が爆発し、子供3人と警察官2人を含む8人が死亡、市民約20人が負傷。東部ナンガルハル州ジャララバードでも同日、武装集団が同国に駐留する北大西洋条約機構(NATO)軍の空港を襲撃し、NATO軍との激しい交戦に発展、武装勢力側約10人全員が殺害された。
ナンガルハル州当局者によると、空港を襲った武装勢力の一部はアフガン軍の制服姿だった。爆弾入りのジャケットを着た者もおり、自爆攻撃を図ったらしい。旧支配勢力タリバンのムジャヒド広報官が、空港襲撃を認める声明を出した。
13日は01年に始まったアフガン戦争で首都カブールが陥落し、タリバンが排除されてから9年。武装勢力がこの日に合わせて攻撃してきた可能性がある。【11月13日 毎日】
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【誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)】
ここのところのアフガニスタン情勢については、攻勢を強めるタリバンと統治能力を疑われるカルザイ政権に出口が見えないアメリカという図式が一般的で、上記記事にあるようなタリバンの攻撃もその一環です。

一方で、11月3日ブログ「アフガニスタン アメリカの戦略変更 現地民衆懐柔重視から軍事作戦強化へ」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101103)でも取り上げたように、統治の安定を促す包括的なアプローチである民衆を懐柔する典型的な対反政府武装勢力戦略(COIN)から軍事作戦強化に重点を移したアメリカの戦略変更を受けて、アメリカ側が「戦術的」にはそれなりの効果をあげつつあるとの指摘もあります。
“それでも、流れは変わりつつある。戦争に懐疑的だった米高官は最近のメールで「それなりに成功しそうな、それなりの作戦が実施されている」と書いている。NATOの顧問は3ヵ月前は完全に悲観的だったが、「今はどちらかというと楽観的だ」と語る。ただし、これらは「戦略的」成功ではなく「戦術的」進歩に関する発言だ。” 【10月27日号 Newsweek日本版】

タリバン側の自爆攻撃に対して、アメリカ側の攻勢を支えるのはやはりハイテク兵器です。
最近非常にタリバン側に打撃を与えつつある兵器に、誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)というものがあるそうです。
****タリバンが震え上がる米軍の新兵器*****
アフガニスタン南部のカンダハル州で米軍とアフガニスタン軍が反政府勢カタリバンに圧勝していると、ニューヨーク・タイムズが報じている。その主な理由の1つは、抜群の精度を誇る新型の移動式ロケットだ。
ロケットはタリバンの潜伏場所を破壊して司令官たちを殺害。命拾いした者は武器を捨てて逃走し、パキスタンヘ避難する者もいるという。

絶賛されているこの兵器は誘導型多連装ロケットシステム(GMLRS)。GPSシステム搭載で射程距離は約70キロ。抜群の破壊力を持つ弾頭を標的の1メートル以内に命中させる。05年からアフガニスタンで使われているが、米軍が砲兵部隊への配術数を増やしたのは昨年のことだ。
だが作戦を成功させるには正確無比なロケットだけでなく、敵の位置に関する高精度の情報が必要だ。米軍はこの点でも、数カ月前から大きな成果を挙げ始めた。砲兵部隊はどこに敵が潜み、どこを狙って攻撃すべきかをより正確に把握できるようになっている。
アフガニスタン駐留米軍司令官のデービッド・ペトレアスはタリバンヘの攻勢を強める一方で、諜報活動を強化。ハイテク機器を利用して集めた情報を専門のアナリストに分析させている。これを特殊部隊員のほか、タリバンを嫌う地元民の信頼を得やすいアフガニスタン治安部隊員からの情報とも照らし合わせて精度を上げている。
あるNATO関係者によれば、タリバンは隠れ家や拠点の周囲に簡易爆弾を設置して防御していることが多い。そこを攻撃するには空からの誘導弾か、遠距離からのロケットが有効だ。
米軍がこうした攻撃を可能にする情報を集められるようになったのはここ数カ月のこと。しかし既に、タリバンに大きな打撃を与えている。
冒頭の記事によれば、タリバンは着弾点のあまりの正確さに震え上がり、ロケットに対して「畏怖の念」を抱いている。多くの戦闘員が逃亡し、一部の司令官は上官から米軍への反撃を命じられても従わない状態であるという。【11月10日 Newsweek】
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戦闘がどちらに有利に進んでいるのかは部外者にはさだかではありません。

【帰ってきたロシア】
最近アフガニスタンで見られたもうひとつの変化は、かつてアフガニスタンから撤退したロシアのアフガニスタンへの「麻薬取締」の形での復帰です。アフガニスタン・カルザイ大統領は旧支配者ロシア復帰に不快感を表明しています。

****アフガン:露部隊が麻薬工場破壊、カルザイ大統領は反発*****
アフガニスタン東部のパキスタン国境に近いナンガルハル州でこのほど、北大西洋条約機構(NATO)軍とロシアの麻薬取り締まり部隊が、薬物製造工場4カ所を破壊する大規模な作戦を実施した。ロシア当局によると、作戦には約70人の将校らと複数のヘリが参加しており、ロシアにとっては旧ソ連軍が89年にアフガンを撤退して以来の本格的な軍事作戦への参加となった。しかし、アフガンのカルザイ大統領は「ロシアには軍事行動の許可を出していない」と反発している。(中略)
ロシアのラブロフ外相も30日、訪問先のハノイで、29日の合同作戦について「よい結果がもたらされ、我々は満足している。米露は(アフガンでの)麻薬密輸やテロとの戦いを続行することで一致した」と述べた。

01年に米軍などがアフガンに軍事介入した後も、ロシアは復興や治安維持へ向けた国際的な取り組みへの参加には消極的だった。ソ連時代のアフガン侵攻(79~89年)の失敗がトラウマになっているのが主な背景だが、今回の大規模作戦への参加は、ロシアがアフガン復興への積極関与にかじを切ったことを示す出来事といえる。
ただ今回の作戦について、アフガンのカルザイ大統領は30日、関知していないとして不快感を表明。カルザイ政権は旧支配勢力タリバンとの和解交渉を進めている最中で、タリバンの資金源となっている麻薬産業の破壊を外国軍が強行したことに反発している模様だ。
カルザイ政権の反発に加え、旧ソ連のアフガン侵攻の経験から住民のロシア人に対する反感は今でも改善されておらず、アフガンへの「ロシア復帰」は一筋縄ではいきそうにない情勢だ。【11月2日 毎日】
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ロシアのアフガニスタン復帰の背景には、当然ながらしたたかな思惑があります。
****NATOと連携したロシアのしたたかさ******
ソ連のアフガニスタン撤退から20年以上たった今、NATO(北大西洋条約機構)が再びロシアをこの国に呼び戻そうとしている。目的は、麻薬密輸組織との戦いや、治安部隊の再建で協力を得るためだ。
対口関係の「新たなスタート」としてNATOのラスムセン事務総長が推進した協定では、ロシアはアフガニスタン治安部隊に物資や訓練を提供し、麻薬対策プログラムと国境警備を支援することになるが、戦闘部隊の派遣は行わない。今月中旬にリスボンで開かれるNATO首脳会議でロシアのメドページェフ大統領が協定に署名する。これにより、NATO拡大とロシアの08年のグルジア侵攻で悪化した両者の関係の修復が期待される。

だがロシアは大きな見返りも要求。旧ソ連圏へのNATOの派兵規模を3000人規模までに限定すること、東欧諸国に25機以上の軍用機を配備する場合は42日未満とすること、ロシアの同意なしに中欧とバルカン半島、バルト3国に大規模な追加派兵をしないことI-―-といった条件を突き付けている。
メドベージェフの強気の理由は、NATOにとってロシアとの連携が不可欠であることを熟知しているからだ。ロシアがその気になれば、中央アジアでNATOの後方支援活動を妨害することもできるし、NATO内部の分裂を誘うこともできる。

とはいえ、メドベージェフも限度を心得ていると、専門家は言う。NATOが01年にアフガニスタンに展開して以来、彼らはロシアの国境の南側を「守ってくれる」存在だからだ。アフガニスタンにおけるNATOの失敗は、すなわち国境地帯の不安定化を招く。だから「建設的な」関係を結びたがっていると、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのドミトリ・トレーニン所長は指摘する。
どうせ旧ソ連圏からNATOを追い出すことは不可能だ。それならば、アフガニスタンで彼らに恩を売っておいたほうが得策だ、ということだろう。【11月17日号 Newsweek】
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EU加盟準備を進めるセルビア  ムラディッチ被告拘束とコソボとの関係が障害

2010-11-12 22:17:09 | 国際情勢

(11月4日 クロアチア東部ブコバルで犠牲者に哀悼の意を示し、謝罪したタディッチ・セルビア大統領
“flickr”より By cvrcak1 http://www.flickr.com/photos/29320956@N03/5145395763/ )

【「過去との決別」】
旧ユーゴ紛争で国際社会から孤立したセルビアは、タディッチ大統領のもとでEU加盟、国際社会への復帰の準備を進めています。

****セルビア:大統領が「謝罪の旅」 EU加盟へ「和解」演出****
セルビアのタディッチ大統領が、90年代の旧ユーゴ紛争でセルビア人勢力による虐殺が行われた隣国への慰霊行脚を続けている。「第二次大戦後最悪の虐殺」と呼ばれるスレブレニツァ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)への今夏の訪問に続き、今月初めにはセルビア大統領として初めてクロアチア東部ブコバルで犠牲者に哀悼の意を示し、謝罪した。

旧ユーゴスラビアの解体に伴う90年代の紛争は、独立を図るクロアチアやボスニアに対し、セルビア系住民の保護を名目にセルビア本国が介入する形で展開。クロアチア系やイスラム系の武装勢力による虐殺も頻発した。
セルビアは欧州連合(EU)加盟を目指しているが、隣国との和解が事実上の加盟条件となっている。タディッチ大統領の慰霊の旅には、そのために「和解」を演出する狙いもあるとみられる。
クロアチアは91年6月に独立を宣言。ブコバルは同年11月、セルビア人武装勢力による3カ月の包囲戦を経て陥落した。病院にいた200人以上の患者などが町外れの養豚場へ連れ出され、虐殺されたという。
タディッチ大統領は今月4日、クロアチアのヨシポビッチ大統領とともに同地の慰霊碑に献花。「犠牲者に敬意を表し、謝罪し、両国の新たなページを開くためここに来た」と述べた。ヨシポビッチ大統領の外交顧問は「両国間の緊張を緩和させるものだ」と前向きに評価している。

タディッチ大統領は7月にも、ボスニア紛争末期の95年にボスニア人(イスラム教徒)約8000人が虐殺されたスレブレニツァを訪問したばかり。謝罪を含む慰霊行脚には相手国の民族主義者だけでなく、セルビア国内の右派勢力などからも非難の声が上がるが、「過去との決別」を誓う大統領の決意は変わらない。
ただ、セルビアは旧ユーゴから最後に分離したコソボの独立を認めていない。欧米はコソボとの和解もEU加盟の条件にしており、タディッチ大統領にとって最大の難関になっている。【11月9日 毎日】
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上記記事にもある「スレブレニツァの虐殺」は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中にボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァで1995年7月に発生した大量虐殺事件で、ラトコ・ムラディッチに率いられたセルビア人勢力のスルプスカ共和国軍によって推計8000人のボシュニャク人(ムスリム人)が殺害され、「第二次大戦後最悪の虐殺」とされています。
当時、スレブレニツァは国連の「安全地帯」に指定されPKOオランダ部隊が展開しており、ボシュニャク人を保護する立場にあったオランダにとっても、セルビア勢力の武力に屈する形でボシュニャク人を引き渡さざるを得ず、虐殺を防止できなかったということで、同事件は深い傷跡を残しています。

セルビア議会は今年3月31日に、スレブレニツァで起きた虐殺を非難する決議を採択しています。
決議は遺族に哀悼の意と謝罪を表明。また、虐殺を指揮した武装勢力司令官、ラトコ・ムラディッチ被告の発見・拘束が重要だと強調しています。ただ、事件を「ジェノサイド(集団殺害)」とは認めていません。【3月31日 時事より】

【EUはセルビアを含む旧ユーゴ構成国の将来的な加盟を想定】
セルビアでは08年5月の総選挙を受けて、EUが懸念する極右・セルビア急進党の政権参加を排除、タディッチ大統領率いる民主党中心の親欧州派政権が発足し、EU加盟を進める方向で動いています。
09年12月22日には、タディッチ大統領がストックホルムを訪問、EU議長国スウェーデンのラインフェルト首相にEU加盟申請書を手渡しました。
これを受けてEU側もセルビアの加盟について検討を本格化させています。

****EU:セルビア加盟候補国入り検討開始*****
欧州連合(EU、加盟27カ国)は25日、ルクセンブルクで外相会議を開き、旧ユーゴスラビアの主要構成国だったセルビアの加盟候補国入りに向けた手続きを開始することを決めた。コソボとの対話の用意を示しているタディッチ・セルビア大統領に対してEUとして支援姿勢を示す意図がある。

EUは(1)セルビアが独立を認めていないコソボとの対話進展(2)旧ユーゴ国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)に対する「完全な協力」--を候補国入りの条件に据えている。ボスニア紛争の元セルビア人勢力司令官、ムラディッチ被告らの拘束を求めるオランダの主張に配慮した形だ。
今後、EUの行政府・欧州委員会がセルビアの政治・経済改革や民主化への取り組みなど、候補国入りの環境が整っているかどうかを検討する。調査の結果、候補国にふさわしいと判断されれば加盟交渉が正式に始まる。タディッチ大統領は数年以内の加盟実現を目指している。

セルビアは08年4月にEU加盟申請の前提となる「安定化・連合協定」を締結し、昨年12月に加盟申請にこぎつけた。だが、国際司法裁判所(ICJ、ハーグ)が今年7月にコソボ独立宣言を合法と判断したことにセルビアが反発、EU加盟手続きにも影響が出るとの観測も出ていた。
EUはセルビアを含む旧ユーゴ構成国の将来的な加盟を想定している。旧ユーゴではスロベニアが04年に加盟、クロアチアが12年加盟を目指している。【10月25日 毎日】
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【今なお潜伏するムラディッチ被告】
セルビアのEU加盟にとってハードルとなっているのは、上記記事にもあるボスニア紛争の元セルビア人勢力司令官、ムラディッチ被告らの問題と、コソボとの関係修復です。
セルビアは08年に、ボスニア紛争時の戦犯のひとりカラジッチ被告を起訴から13年ぶりに拘束しました。
これは、いまなお彼らを英雄視する民族主義勢力も強い同国にあって、EU加盟への強い決意を明確に示したものとされています。

しかし、もうひとりの大物、「スレブレニツァの虐殺」を指導したラトコ・ムラディッチ被告については、「セルビア軍の協力者にかくまわれているため、拘束は容易ではないだろう」(英情報機関元幹部)とも見られています。軍内部にはEU加盟を望む親欧派が少ないとも【08年7月31日 産経より】
09年6月には、ムラディッチ被告が家族とともにリゾート地でスキーを楽しんでいるとみられるビデオ映像がTV放映され、セルビア政府を苛立たせています。セルビア政府は、同ビデオは古いもので、すでに押収して旧ユーゴ国際戦犯法廷に提出済みのものだとしています。

最近、セルビア政府は、ムラディッチ被告の情報提供に対する懸賞金を10倍に引き上げ、拘束への意思を改めて表明しています。
****ボスニア逃亡戦犯に懸賞金1000万ユーロ*****
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中、ボスニア内のセルビア人勢力の軍司令官だった大物戦犯で、逃亡を続けているラトコ・ムラディッチ被告を追うセルビア政府は28日、拘束につながる情報提供に対する懸賞金をこれまでの10倍に増やし、1000万ユーロ(約11億2000万円)を支払うと発表した。(中略)
戦犯法廷のブルーノ・ベカリッチ次席検察官は「欧州連合(EU)加盟の最後の障害を取り除きたいという政府の明確な政治的意志の表れ」だと述べ、「逃走中の2人(ムラディッチ被告と、クロアチア領内のセルビア人勢力指導者だったゴラン・ハジッチ被告)はわが国全体を人質にとっているだけではなく、彼ら自身の家族や未来の世代までをも人質にしている」と非難した。(後略)【10月29日 AFP】
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【対コソボ:「和解しなければならない」が独立承認は・・・】ムラディッチ被告の拘束以上に難しいのが、独立したコソボとの関係修復です。
セルビア側も最近は和解の姿勢は見せていますが、「独立承認」は難しい情勢です。
****コソボに和解呼び掛け=独立は認めず-セルビア大統領****
セルビアのタディッチ大統領は6、7の両日、セルビア正教会のクリスマスに合わせ、同国からの独立を宣言したコソボ西部にある同正教会のデチャニ修道院を訪問した。
大統領は修道院で行われたミサに出席。セルビアのメディアなどによると、「過去に起因する問題の解決を探るため、和解しなければならない」と呼び掛けた。その一方で、コソボはセルビアの枠内で欧州連合(EU)に加盟すべきだと述べ、独立を認めない考えを改めて示した。【1月8日 時事】
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セルビアにとって誤算だったのは、コソボ独立の「適法性」についてセルビア自身が提訴した国際司法裁判所(ICJ)の判断でした。
****セルビア コソボ独立「適法」に衝撃 EU加盟の野心 揺らぐ反対姿勢 *****
国際司法裁判所(ICJ)は7月22日、コソボの独立宣言が国際法に違反せず、コソボ紛争の解決に関する国連安全保障理事会決議1244号にも違反しないとの判断を示した。この判断は、コソボと独立に反対しているセルビアのどちらにも喜ばれない、あいまいな態度をICJがとると予想していた多くの人々を驚かせた。タディッチ大統領を含むセルビアの上層部は、同国側に有利な判断が出ることを予想していたため、衝撃を受けている。
ICJの判断に対抗し、セルビア議会は7月26日にコソボの独立反対の政府決議を可決した。同決議では、ICJの判断は独立宣言の正当性を認めたが、コソボの独立そのものの正当性を考慮していないという点で限定的だと指摘している。

セルビア政府はコソボ独立反対をあきらめないと断言し、国連総会にコソボとセルビアとの交渉を提案する決議案を提出した。(中略)
政府は欧州連合(EU)への早期加盟とコソボ独立への反対を両立する道を模索してきた。これは、民族主義的なセルビア民主党(DSS)のコシュトニツァ前首相が、コソボ独立への反対を優先してEUとの関係を悪化させたのとは対照的である。現在のタディッチ大統領と親EU政権は、コソボ独立反対の堅守を主張する野党に攻撃されやすい。政府がコソボの独立宣言の正当性についてICJに提訴したのは、常にコソボ問題に縛られる状況を打開してEU加盟を目指すための時間稼ぎであったが、ICJの判断が出たことで、政策の信頼性は失われた。(中略)

◆あきらめムード
コソボ問題はセルビア国民の感情を揺さぶる問題であり、世論が過熱したこともあったが、今では独立が承認されても仕方がないとのあきらめが広がっている。野党の小政党である自由民主党(LDP)と連立与党の小政党であるセルビア再生運動(SPO)は、現実的になってICJの判断とコソボの独立を受け入れるよう呼びかけている。(後略)【8月5日 オックスフォード・アナリティカ】
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現実問題として、現在、欧米各国など71か国が承認しているコソボ独立が取り消される可能性はなく、世論にも次第にEU加盟を重視する「あきらめムード」が広がりつつあるようですが、そうは言っても公にコソボ独立を認めることはセルビアにとっては容易ではありません。今後、EU加盟に向けて、コソボとどのような関係修復が可能かが模索されています。
なお、コゾボ側も11月2日、内閣不信任案が可決され12月に総選挙が行われる内政混乱状態で、EUが仲介するセルビアとの国交正常化交渉が遅れることも懸念されています。

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スーダン  南部独立への動きにみる“国際開発援助の限界”

2010-11-11 19:47:40 | 国際情勢

(08年3月 握手を交わすバシル大統領(右)と南部自治政府のキール大統領(左) “flickr”より By Ethio Sudanese Nations  http://www.flickr.com/photos/ethiosudanese/2310250586/ )

【危ぶまれる住民投票実施】
アフリカ・スーダンは、西部地域で「史上最悪の人道危機」とも言われるダルフール紛争を抱え、指導者バシル大統領は09年3月、国際刑事裁判所 (ICC) から、ダルフールにおける人道に対する罪、ジェノサイド罪で逮捕状が出されています。

一方、スーダンではかつて激しい南北紛争がありましたが、05年の南北包括和平合意(CPA)で停戦が実現して南部には自治政府が置かれ、来年1月9日にはCPAで定めたところに基づき、南部の分離独立の是非を問う住民投票が行われることになっています。

しかし、これまでも何回か取り上げたように、バシル大統領が南部独立につながる住民投票を公正に実施する気があるのか、その投票結果に従うのか・・・大きな疑問があります。

*****スーダン:南部独立巡る住民投票まで2カ月 欧米けん制も*****
アフリカ・スーダンで来年1月9日に予定される南部の分離独立の是非を問う住民投票まで2カ月を切った。南部支援を鮮明にして住民投票実現を求める欧米と、北部主導で南部独立に消極的立場のスーダン統一政府と姿勢の違いが浮き彫りになってきた。スーダン統一政府からは、住民投票を延期すべきだとの声も聞かれ、予定通りの投票実施が危ぶまれている。

オバマ米大統領はケリー上院議員を先月から今月にかけ2度にわたりスーダンへ派遣した。米国は、公正な住民投票の期日通りの実施▽選挙結果の受け入れ▽投票前の南北境界と南北での石油利益配分の確定--を条件に、「早ければ来年7月にもテロ支援国家指定(93年から継続)を解除する意向がある」と統一政府に伝えた。
一方で米政府は今月1日、スーダンへの制裁(97年から継続)を1年延長し、「アメとムチ」で何としても住民投票を実施させたい考えだ。欧州各国も住民の意思で南部を独立させ、それを支持したいとの思いは強い。
イスラム色の強い北部に対し、南部にはキリスト教徒が多いほか、地下資源開発への思惑もあるためだ。

これに対し、統一政府の本音は、南部の独立を阻止しスーダン統一を維持すること。バシル大統領率いる統一政府与党「国民会議」は、「南北境界を画定しないまま住民投票を実施すれば再び内戦になる」と明言し、欧米の圧力をけん制している。
南北の境界については、油田のあるアビエイ地区の帰属などで南北双方が対立したままだ。そうした中、南部の住民投票管理委員会は先月、投票登録を11月半ばに開始すると発表。統一政府高官は「アビエイ地区について誰が投票するかで合意ができておらず実施の延期は避けられない」と述べた。

スーダンではアラブ系でイスラム教徒中心の政府が80年代、キリスト教徒や土着宗教中心の南部にもイスラム法を導入しようとしたことなどを機に内戦に突入。政府と南部の主要勢力「スーダン人民解放運動」(SPLM)が05年に「包括和平合意」(CPA)を結んだが、約20年間で推定200万人が死亡した。
南部独立の住民投票は南部出身者が投票する予定でCPAの合意事項の一環。CPAには、同時にアビエイ地区住民の帰属決定投票の実施も盛り込まれている。欧米メディアは南部独立を支持する有権者が多数との見方を示しているが、南部を主導するSPLMは一部部族に支配されていることや不十分なインフラへの不安もあり、独立に否定的な南部住民もいる。【11月10日 毎日】
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上記記事にもあるように、アメリカを中心とする欧米は、アラブ系でイスラム教徒中心の統一政府からの南部独立を支援してきました。背景には資源開発の思惑もあるでしょうし、「史上最悪の人道危機」を招いた政府・バシル大統領への不信感もあるでしょう。
住民の北部への不満も強く、住民投票が実施されれば、おそらく圧倒的に独立賛成が多数を占めると思われます。

【開発援助の弊害、新たな火種にも】
しかし、仮にそういう形で南部独立が実現して、果たしてアメリカなどが望むような民主的な国家が南部地域に建設されるのか・・・疑問も呈されています。

****スーダンが問うアメリカの限界*****
内戦終結から5年、北部からの独立を目指す南部スーダンを米政府は支援し続けているが国家の基礎づくりが進まないのはなぜか

・・・・5年前にスーダン政府から限定的な自治権をもぎ取った南部スーダン。かつては反政府武装組織「アニヤニヤ(蛇の毒)」のゲリラだったキールは現在、その行政の中心地ジュバで自治政府を率いている。
欧米はキール率いる自治政府に多額の援助を与えてきた。武闘派の民族主義者で、敬虔なキリスト教徒でもあるキールは、特にブッシュ前政権時代には米政府のタカ派に受けが良かった。
援助熱はやや冷めたとはいえ、現在のオバマ政権も南部スーダンに年3億ドル以上をつぎ込んでいる。来年早々には、イスラム教徒が多数を占める北部からの分離独立の是非を問う住民投票が実施される。アメリカはその日をにらみつつ、自治政府へのてこ入れを続けてきた。

60億ドルの効果に疑問
だが多額の援助にもかかわらず、キールの改革は思うように進んでいない。22年間で200万人以上の死者を出したスーダン内戦は05年にようやく終結したが、今も再燃の危険性があると、人権活動家は警告する。
取材に応じたキールの顔色は冴えなかった。住民投票が無事に実施できたとしても、今の南部スーダンは自立の準備がまったくできていないと、欧米の外交筋は指摘する。
キールが案じているのは、国内問題に悩むアメリカが面倒を見てくれなくなることだ。「アメリカは何でもできると思っていた。でも、ここでは違った。今の彼らには、ほかにやるべきことが多過ぎるのだ」

南部スーダンは、アメリカにとって重要な試金石になりつつある。問われているのは、厄介な問題を抱える遠い外国で改革を進める力があるかどうかだ。
他国の改革を支援するという使命感は、アメリカの外交政策に脈々と受け継がれてきた。しかしイラクとアフガニスタンで国家建設が行き詰まり、アメリカの力の限界がささやかれるようになった。
何兆ドルものアメリカの富が一夜にして消える今の時代、財政赤字の増大を嫌う国内の財政再建派は、外国の改革に多額の援助を行うことに懐疑的だ。最近の調査によれば、アフリカ向けの開発援助は相手国の経済成長にほとんどつながらず、場合によっては弊害のほうが多いという結果も出ている。

和平合意を後押ししたブッシュ政権の政策はオバマ政権に受け継がれ、米政府は過去5年間に約60億ドルをスーダンにつぎ込んできた。アメリカはスーダンの最大の援助国であり、スーダンはアフガニスタンとパキスタンに次ぎ3番目に多い援助を米国際開発庁(USAID)から受けている。(中略)
今年6月にUSAIDの委嘱で実施された調査は、厳しい現実を突き付けている。
「南部スーダンにおける(統治)能力構築の試みは……少数の例外を除き、目標が大ざっぱで、具体性を欠き……評価不能であり、成功は望めない」

アメリカ側からは、南部スーダンの自治政府が無能なせいだという声が上がっている。そもそも自治能力の秀でた政府をつくるための援助だったはずなのに、これでは八方塞がりだ。
ジュバの欧米人治安関係筋によれば、大半の公務員は十分な教育を受けておらず、治安部隊の兵士の約85%は読み書きができないという。教育レベルの高い人々は、多くが内戦勃発後によそへ移住してしまった。
南部スーダン向けに5億ドル規模の信託基金を管理している世界銀行は今年、まだ基金のかなりの耶分か残っていると発表した。自治政府の能力が低過ぎて、適切な使い道が見つからないことも理由の1つだ。

援助マネーの争奪戦も
なのに援助関係者や外交当局者は、南部スーダンの国家建設には今よりはるかに多くの資金が必要だと主張する。(中略)短期的な開発目標を掲げる援助関係者は、長い目で見ると「地元経済に悪影響を及ぼす」と(ジュバの醸造所に約5000万ドルを投資した外資系ビール会社の幹部)オルズワースエルビーは言う。「彼らは説明責任を負わずに他人のカネを使っているからだ」
巨額の援助は新たな暴力の火種にもなり得る。既にスーダンでは、援助以外の主な収入源である石油の利権をめぐり、争奪戦が激化している。対立し合うスーダンの各勢力が豊富な援助マネーに目を付ければ、「紛争の危険性が高まりかねない」とニューヨーク大学のイースタリーは指摘する。(後略)【11月10日号 Newsweek日本版】
******************************

記事は「アメリカの限界」を指摘していますが、より一般的に言えば、国際援助によって民主的で経済的にも豊かな国を導くことができるのかとういう問いかけでしょう。
“アフリカ向けの開発援助は相手国の経済成長にほとんどつながらず、場合によっては弊害のほうが多い”
“短期的な開発目標を掲げる援助関係者は、長い目で見ると「地元経済に悪影響を及ぼす」”
“巨額の援助は新たな暴力の火種にもなり得る”
こういう現実はアフリカで多く目にします。
統治能力を欠き、統治の意思すら疑われるような国家への援助は、権力周辺の一部の者を利するだけに終わる現実も多々あります。

アメリカを中心とする国際社会は、スーダン南部独立につながる住民投票実施を推し進めていますが(それがCPAの合意条件でもありますので)、それは新たな破綻国家を生みだすだけに終わるかもしれない・・・・そんな不安もあります。杞憂であればいいのですが。

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ラオス 「クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)」第1回締約国会議

2010-11-10 20:50:07 | 国際情勢

(ラオスで行われているクラスター爆弾不発弾除去作業 “flickr”より By ICRC
http://www.flickr.com/photos/icrc/4837342658/in/photostream/ )

【クラスター爆弾のない世界へ向けて】
不発弾の多さから、投下後も市民を巻き添えにする被害が絶えないクラスター爆弾を禁止する条約「クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)」が今年8月、禁止に消極的な米中ロなど軍事大国を枠外に残したまま、NGOの強い働きかけのもと日本を含めた禁止に同意する各国の間で発効しました。
その締約国による初の会議が9日、世界最悪の被害国であるラオスの首都ビエンチャンで始まっています。

8月に発効した条約には現在、108か国が署名し、日本を含む46か国が批准。
条約はクラスター爆弾の使用や製造、保有を禁じており、保有国は発効から原則8年以内に爆弾を全面廃棄しなければならず、被害国も10年以内に不発弾を完全除去することが義務づけられています。
締約国はクラスター爆弾の被害を受けた締約国に財政的支援を行うことも定められています。
今回会議では、爆弾廃棄や不発弾除去に向けた今後5年間の道筋を示す「ビエンチャン行動計画」、非加盟国の参加を訴える「ビエンチャン宣言」を採択することになっています。

****クラスター爆弾禁止条約、初の締約国会議開幕 ラオス*****
クラスター(集束)爆弾の使用を禁止した「クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)」の第1回締約国会議が9日、ラオスの首都ビエンチャンで開幕した。
開会式でラオスのチュンマリ・サイニャソーン大統領は、「わが国はクラスター爆弾の被害が世界で最も大きい国のひとつだ。今も国民が不発弾に生命を脅かされている」と述べ、開発や貧困撲滅を進める上で不発弾の除去は急務だと強調し、国際社会に支援を呼びかけた。

■今後10年で240億円必要
ベトナム戦争時、米軍はラオスにも大量のクラスター爆弾を投下し、ラオスは人口1人当たりの投下された爆弾の量が世界で最も多い国となってしまった。まき散らされた子爆弾の30%近くが不発弾となり、今も国内各地に残っている。今年の8月1日に発効したオスロ条約はクラスター爆弾の使用や製造、保有を禁じているほか、締約国がクラスター爆弾の被害を受けた締約国に財政的支援を行うことも定めている。
国連のラオス担当コーディネーター、ソナム・ヤンチェン・ラナ氏によると、不発弾の除去、クラスター爆弾の被害者支援、子どもたちに不発弾の危険性を教える活動などで、ラオスは今後10年間で3億ドル(約240億円)が必要だという。
ラオスとベトナムに次いで、イラクやカンボジアにも多数のクラスター爆弾が不発弾として残存している。

■ラオス初の国際会議
インドシナ半島内陸の社会主義国家であるラオスは人口が約600万人で国土のほとんどが山地に属する。アジアの最貧国の1つで、同国で国際会議が開かれるのは初めて。会場となった劇場に向かう道路脇では、花を手にした生徒たちが立ち並び、会議の開幕を祝った。
4日間の日程で行われる会議に参加するため、締約国の政府や軍の関係者、非政府組織の職員、さらにクラスター爆弾の被害者など1000人あまりがラオスを訪れた。【11月9日 AFP】
******************************

国際政治の舞台では殆んど登場することのないラオスでの国際会議ということも注目されます。
ラオスは記事にもあるように、クラスター爆弾の最大の被害国です。
“ラオスは、ベトナム戦争で米軍が200万ご以上の爆弾を投下し、8千万個以上の子爆弾が不発弾として残る世界最悪の被害国。中でも最大の汚染地帯のシェンクワン県では、事故は日常茶飯事だ。不発弾処理を担う政府機関の現地事務所によると、不発弾事故は年平均50件、20入が死亡、30人が負傷しており、うち6割がクラスター爆弾によるという。犠牲者の半数が子供なのも特徴だ。野球ボールを大きくしたような鉄球で、触れやすいせいでもある。”【11月9日 朝日】
シェンクワン県では、94年からの16年間で除去が終了し安全が確認されたのは全県の0.4%に過ぎません。アメリカは爆撃地点の資料を提供していますが、資料にないところからも不発弾が発見されています。【11月3日 毎日より】

【今も続く悲劇】
クラスター爆弾の不発弾による事故は、各紙が報じているように枚挙にいとまがありません。
****戦後35年 続く悲劇 ラオス****
ラオスではベトナム戦争で米軍により投下されたクラスター爆弾で09年に33人が死傷するなど、戦後35年たっても不発弾に苦しめられている。
シェンクワン県では、住民が不発弾で死傷する事故が日常的で、貧しい農民の暮らしを脅かしている。

「ドーン」。先月4日朝、静かな農村に爆発音が響いた。家族が外へ飛び出すと、自宅前で一家を支えるラドンさん(22)が、立ったまま血まみれで気を失っていた。
暖を取るため家の前でたき火を始めた際、正体不明の不発弾が爆発した。左手の小指を失い、顔面に破片の直撃を受けて目が開かない。4年前に結婚した妻のヌンさん(21)が付きっきりで介抱するが、医師は「目が見えるようになるかはわからない」という。
現地では各国の民間団体が支援して結成した不発弾被害者の治療費を負担する組織があり、一家は治療費を負担する必要はない。昨年からは日本の「難民を助ける会」も治療費支援に加わった。だが被害者や家族の生活費まで支援する枠組みはなく、11月からのコメの収穫期を前にした父カムタンさん(62)は「このままでは稲刈りができない」と途方に暮れる。

険しい山間部の村で、長男のキェオ君(10)が4月、農作業中にクラスター爆弾の被害を受けたトンク・ハーさん(35)一家はさらに深刻だ。手術費は「助ける会」からの支援で賄われたが、家族が3カ月間首都の病院に付き添った費用は、一家の年収に相当。10人の子供を抱えるトンクさんは、キェオ君の介護のため今年、稲作ができなかった。【11月2日 毎日】
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条約発効により20カ国が廃棄に取り組み、うち6カ国が完了していますが、今なお74カ国がクラスター爆弾を保有しています。
日本は08年11月28日の安全保障会議で自衛隊が保有するすべてのクラスター弾の廃棄を決定、オスロ条約署名後も、日本外交にしては珍しく他国に先駆ける形で条約批准などを進めてきました。

****クラスター爆弾:最大8.5万人死傷 NGO世界調査****
不発弾が市民を殺傷しているクラスター爆弾による死傷者が最大8万5000人にのぼることが非政府組織(NGO)「クラスター爆弾連合」の調査でわかった。従来のNGOの調査では最大約6万5000人とされており、被害がより深刻な実態がわかった。また、同爆弾が使われた少なくとも39カ国・地域のうち約4分の1の9カ国で除去作業が行われていなかった。9日から最大の被害国の一つ、ラオスで、クラスター爆弾禁止条約(オスロ条約)第1回締約国会議が始まる。条約は発効から10年以内の除去を定めており、調査で課題が浮かびあがった。

同連合が1日、明らかにした調査によると、死傷者の確定数は1万6816人だが、潜在的被害が多く5万8000人~最大8万5000人にのぼる。09年は10カ国・地域で100人が死傷した。
オスロ条約の今年8月の発効後も74カ国がクラスター爆弾を保有。子爆弾は10億発を超える。これまで15カ国がクラスター爆弾を使用したとされてきたが、調査では少なくとも18カ国が使ったことがわかった。17カ国で生産が続いている。
一方、8年以内の廃棄を定めるオスロ条約発効を機に20カ国が廃棄に取り組み、うち6カ国が完了。16カ国が製造への投資を禁止する意向だ。【11月2日 毎日】
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【コソボ、レバノン:除去作業を遅らせる資金不足】
不発弾除去作業のネックはやはり寄付金に頼る資金不足です。条約では、締約国はクラスター爆弾の被害を受けた締約国に財政的支援を行うことも定めていますが、爆弾投下国が参加していない場合の費用負担はどうなっているのでしょうか?今回会議で、資金的な面での制度的枠組みの確立・具体化が期待されます。

****クラスター:不発弾除去、資金難 世界経済悪化で寄付減り*****
不発弾が市民を殺傷しているクラスター爆弾の不発弾の除去作業が、世界各地で資金不足に陥っていることがわかった。金融危機に端を発した経済悪化で寄付金が少なくなった影響が大きい。同爆弾が大量に撃ち込まれたかつての紛争地では、資金不足が除去作業の長期化に直結し「不発弾による死傷者が出続ける」と憂慮の声があがっている。

コソボ紛争に伴う99年の北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆でクラスター爆弾が投下されたコソボでは、不発弾除去の活動資金は事実上すべて外国の政府や企業からの寄付金に頼っている。今年は米、スイス両政府の資金で65人の爆発物処理班を維持できるが、来年の寄付のあてはまだない。資金不足で活動できなくなれば、政府系組織やNATO指揮下の国際治安部隊だけで処理にあたることになり、作業の長期化は避けられない。完了まで15年はかかる見込みという。
また、同じくコソボ紛争を巡るNATO軍空爆を受けたセルビアでも資金不足は深刻だ。ベオグラードの政府機関「セルビア地雷行動センター」によると、150以上の処理計画を立てたが、資金不足で実行できずにいる。また、今年は寄付金の集まりが遅く、8月まで不発弾処理を始められなかった。

一方、06年の第2次レバノン戦争で、イスラエル軍が子爆弾で400万発のクラスター爆弾を撃ち込んだレバノン南部では、07年には114あった除去チーム(国際非政府組織、国連のチーム含む)は、現在、半分以下の45に減少した。08年の金融危機以降、支援の出足が鈍っている。
除去費用は、1平方メートルあたり25~30米ドル(約2200~2600円)と見積もられるが、小国レバノンには重い負担だ。レバノン国軍の担当者は「資金不足は深刻だ」と話す。
非政府組織「ランドマイン・アクション」の08年5月の報告書によると、レバノンでクラスター爆弾の除去費用や民間人の死傷で生じた費用も加えれば、被害総額は最大2億3300万ドル(約201億円)にのぼる。同爆弾は「貧困層の多い南部の経済状況を、さらに悪化させ」(同報告書)ており、各国の資金援助の回復が求められている。【8月15日 毎日】
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【不参加国:使用回避への実質的影響】
全世界のクラスター爆弾の7~9割を保有する米ロ中は、クラスター爆弾は軍事的に必要との判断に加え、廃棄に多額の費用がかかるため、条約に参加していません。3国とも共に加盟する別の条約の下で、より規制の緩い「議定書」を作る交渉を5年以上も続けており、すでに禁止を明記している締約国からは「冗談のような交渉」(外交筋)と冷たい視線を浴びているとか。【11月9日 朝日より】
今回会議への当事国アメリカのオブザーバー参加が期待されていましたが、見送られました。
ただ、オスロ条約発効によって、たとえ不参加国であっても実際にクラスター爆弾を使用することへは国際的ハードルが高くなっていることも事実です。

対人地雷やクラスター爆弾の禁止、核兵器廃絶への取り組み、無人飛行機攻撃の問題・・・個々の兵器の問題への取り組みは進めるべきことでしょうが、その結果としての「人道的に問題のない兵器による戦争」というのも妙な話で、当たり前の話ではありますが、戦争はどんな兵器を使おうが悲劇を生むのは間違いありません。

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