孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリア  一帯一路で中国との覚書締結 EUとしての統一対応を軽視した行動への批判も

2019-03-21 22:29:28 | 欧州情勢

(中国との覚書に署名済みの13カ国【3月21日 朝日】 なんだか、すでに外堀は埋まっているようにも いよいよイタリアという内堀にも手を伸ばしているように見えます。)

【欧州への影響力を強める中国】
昨日ブログでは、欧州、特にその中心国ドイツに対するアメリカの「アメリカをとるのか、中国をとるのか、はっきりさせろ!」と言わんばかりの5G通信網からの中国通信機器大手ファーウェイ排除を求める強硬な対応を取り上げました。

一方の中国は、“一帯一路”を掲げて、欧州へのアプローチを着々と進めてきました。

****要警戒!世界を中国化する「一帯一路」の危ない誘い****
(中略)中国は一帯一路の足掛かりとして、2012年からスタートしている中国と中・東欧首脳によるサミット「16+1」をフォーマットとして、EUを分裂させるための「トロイの木馬」を仕込んだ、と批判されている。

たとえばギリシャのピレウス港の67%にのぼる株式の買収。ここは海のシルクロードの起点の1つである。

続いてハンガリー・セルビア高速鉄道の入札。バルカン半島という地政学的要衝地が大量輸送インフラでつながれることになった。

中国国家電網はギリシャ電網の株の24%を押さえており、ポルトガルでも電信、エネルギー、保険の4分の1を中国資本が押さえた。

中・東欧から南欧に、すでに中国の経済力を通して政治力が浸透し始めている。チャイナマネーになびいたギリシャやハンガリーは、EUが中国の南シナ海問題や人権問題について非難の声明を出そうとすることに反対して、中国を名指しした非難声明が見送られたこともあった。
 
べったりとした親中派であったドイツは、中国にハイテク産業ロボットメーカー「クーカ」を2016年に買収されて少し目が覚め、「中国がEU事務に干渉している」と何度も非難するようになった。

だが、華為科技(ファ―ウェイ)製品の全面締め出しには躊躇し、米国から「ファ―ウェイ製品を排除しなければ重要情報が共有できない」と圧力を受けているところだ。

EU本部は域外からの投資審査を強化する仕組みを2020年秋から導入するが、これは中国の戦略的重要領域への投資に対するコントロールを強化するためでもある。

だが、EU内部は再び中国の戦略に振り回され、その結束は乱れているのだ。ちなみにハンガリー・セルビア高速鉄道はその入札プロセスに疑義があるとして、着工が事実上の棚上げになっている。(後略)【3月14日 福島 香織氏 JB Press】
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【インフラ整備、貿易で中国へ期待するイタリア EUの足並みに乱れも】
こうした欧州をめぐって、アメリカと中国が競い合う微妙な時期に、欧州主要国の一つ、イタリアが「一帯一路」に関する覚書を締結すという形で、中国に接近する姿勢を見せています。

上記のように、中・東欧やギリシャなどへの影響力を強めている中国ですが、やはりイタリアという欧州主要国、かつG7メンバーとの関係を強化することは、大きな意味合いがあります。

ただ、周知のようにイタリアは、「同盟」と「五つ星」の連立による、いわゆる“ポピュリズム政権”にあって、EUとも距離を置き(イギリスの混迷も目にして、EUから“抜ける”とは言いませんが)独仏とは異なる主張が多く、今回の中国接近についても欧州の足並みを乱す「勝手な行動」的な批判もあるようです。

なお、これまで中国と覚書を交わしたEU加盟国はバルト三国、中東欧(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、クロアチア、ブルガリア)、南欧(ギリシャ、マルタ、ポルトガル)の13か国で、イタリアが14番目になるようです。

****イタリア、一帯一路参画へ 中国マネーに期待 G7で初、対中でEU足並み乱れ****
中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」について、イタリアが主要7カ国(G7)では初めて関連文書に署名し、参画する。

インフラ整備にチャイナマネーを呼び込むとともに、対中貿易を通じた経済回復をめざす狙いがある。中国の影響力拡大を警戒する欧州連合(EU)の足並みが乱れている。
 
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は21~26日にイタリア、モナコ、フランスを訪問し、イタリアでマッタレッラ大統領やコンテ首相と会談する。滞在中に一帯一路の一環として、インフラ整備や銀行システム、通信技術などの協力に関する覚書に署名する予定だ。
 
コンテ氏は15日、覚書について「中国との関係を発展させる分野を確認するための合意で、拘束力のある国際的な協定ではない」と強調し、各加盟国に域内の通商ルール順守を求めるEUの懸念払拭(ふっしょく)に努めた。
 
イタリアは欧州第4位の経済大国。昨年6月に発足した政権は直後から、2四半期連続でマイナス成長となる景気低迷が続く。

政権の一角「五つ星運動」党首のディマイオ副首相は対中輸出を拡大させ、2017年度の対中貿易赤字150億ユーロ(約1兆9千億円)を減らすとともに、港湾などのインフラ整備に中国資本を呼び込むことも狙う。
 
イタリアは、米国が「安全保障上の懸念がある」として排除を呼びかける中国の華為技術(ファーウェイ)による次世代通信規格「5G」の導入にも前向きだ。同社はコンテ首相の地元プーリア州などを拠点に、研究開発を進めており、今回の覚書にも「通信技術分野での協力」が盛り込まれている。
 
一帯一路に代表される中国の経済戦略について、欧州委員会は今月12日に発表した行動計画案で中国を「競争相手」と位置づけ、警戒心をにじませる。EUは21~22日の首脳会議でも対中国戦略を議論する。
 
ただ、EU加盟国ではすでにギリシャやポルトガルなどが一帯一路の覚書に署名している。一方フランスは、欧州の市場が中国企業に無秩序に席巻されるのを防ぎたい考えで、「欧州で一致した対応が必要だ」(大統領府)と強調している。

今回の習氏の訪仏でも、「イタリアとは異なるアプローチをとる」(同)として中国とは一定の距離を保つ見通しだ。
 
■「欧州接近の好機」 中国
中国は一帯一路を通じて、貿易や対外投資を通じて世界経済を主導する戦略を描く。このため、今回、イタリアが一帯一路に加わるインパクトは大きい。

王毅(ワンイー)・国務委員兼外相は8日の会見で「習近平国家主席は今年最初の外遊先に欧州を選んだ。イタリアを含む欧州各国が積極的に一帯一路に加わることをもちろん歓迎する」と欧州側に秋波を送った。
 
中国は、「米国第一」を掲げるトランプ米大統領から関税見直しなどを迫られるなか、同じく米国の圧力を受ける欧州連合(EU)への接近を図っており、それが奏功した格好でもある。

李克強(リーコーチアン)首相は15日の会見で「中米貿易摩擦は二国間の問題であり、第三国を利用することも害することもない」とかわしたが、中国外交筋は「敵の敵は味方になり得る。欧州と接近する好機だ」と語る。【3月21日 朝日】
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中国はイタリアを突破口にして、更に欧州の奥深くに・・・といったところでしょう。

****イタリアとの関係を「新たな時代」に、中国主席が伊紙に寄稿****
中国の習近平国家主席は21日のイタリア訪問を控え同国の新聞に寄稿し、中国はイタリアとの「グローバル戦略パートナーシップ」を強化する用意があると表明した。

習主席はコリエレ・デラ・セラ紙への寄稿文で「私の訪問では、イタリアの首脳らとともに両国関係の指針を提示し、両国関係を新たな時代に進めたいと考えている」とした。

同主席は、気候変動といった国際問題を巡りイタリアとより密接に連携する用意があると表明。また、中国とイタリアは港湾や海運、通信、医薬品といった分野で協力プロジェクトを進め、第三国における両国企業の協力を後押しすることができるとした。【3月20日 ロイター】
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中国との関係を強化する・・・というのはひとつの選択であり、一概に否定されるべきものでもないでしょう。

ただ、イタリアの今回対応に批判があるのは、中国とどういう関係を持つにせよ、まずEU内部で統一的な対応を検討すべきないか、それを行わず、イタリア国内にも中国警戒論が強い状況で、軽々に中国に寄り添うのはいささか思慮に欠けるのではないか・・・というところです。

****中国に擦り寄るイタリアの日和見主義*****
世論と国益を考えない対中接近策の「甘さ」
 
中国にとって、3月22日からの習近平国家主席によるイタリア訪問は、自国の外交力と経済的影響力を測る上で重要な試金石だ。イタリアは中国の広域経済圏構想「一帯一路」への参加を決めたとも言われている。
 
イタリアが参加すれば主要7力国(G7)では初。アメリカはイタリアに、参加すれば国の評判が傷つくと警告している。
 
イタリアが最近見せている中国寄りの姿勢は、一帯一路構想と同じくらい移ろいやすい。イタリアのポピュリスト政権は中国にいい顔をしながらも、実際に中国とどのような関係を築きたいか決めかねている。
 
中国はイタリアに過去10年で約230億ドルの援助を行っている。イタリアが獲得している中国からの援助は、ヨーロッパ諸国で3番目に多い。中国国有の巨大化学メーカー、中国化工集団によるイタリアのタイヤメーカー、ピレリの買収は、中国企業によるEU加盟国企業の買収としては史上最大だった。
 
イタリアの歴代政権は、中国による国内企業の「爆買い」を必ずしも快く思っていなかった。だが現政権は、中国からの投資誘致に熱心だ。対中政策でも、中国に近づくことにリスクを重要視していない。
 
こうした路線転換を主導しているのが、中国で10年生活したことのある経済発展省のミケーレ・ジェラーチ次官だ。省内に中国タスクフォースを設置し、外務省を脇に置いて中国との関係強化に取り組む。
 
新たな対中政策の背後には、中国からの投資がイタリアの財政改革の助けになり、アフリカで中国と協力することによって地中海からの移民流人を減らせるという考え方がある。しかし専門家からは、非現実的な思惑だという批判が聞こえる。

しかも、ジェラーチの親中姿勢は世論を反映したとは言い難い。イタリア人の3分の2は中国に否定的な見方をしている。

優先順位を見極めるべき 
対中政策をめぐるイタリアの分断は、華為技術(ファーウェイーテクノロジーズ)の5G(第5世代移動通信システム)参入をめぐる議論にも見られる。

この問題についてジェラーチは、安全保障上のリスクはないと考えているようだ。だが連立与党の一角を成す極右政党「同盟」の一部議員は、EUの外資規制権限(黄金権限)を適用して、ファーウェイの参入決定を無効にするよう主張している。
 
一帯一路構想にイタリアの港を参加させる戦略についても、国内の意見は割れている。中国の目的と、イタリアが中国の世界進出を支援することで得る利益に関しても、懐疑的な見方が根強く残っている。
 
こうした現状は、政権が代われば一帯一路への参加もなくなる可能性を示している。(中略)

イタリアは中国を重視すべきではないと言っているのではない。ただ、優先順位が違うのだ。
 
長期的に見れば、他のヨーロッパ諸国との間でこれ以上溝が深まるのはイタリアにとって得策ではない。自国に利益をもたらす中国との連携を模索するなら、他のヨーロッパ諸国と団結して行うのが最善の方法だ。
 
欧州委員会が新しい報告書に書いているように、中国の影響力を調整しつつ双方に利益をもたらす関係を築いていくには、ヨーロッパが足並みをそろえる以外に方法はない。【3月26日号 Newsweek日本語版】
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【“足並み”云々には関心がないポピュリズム政権 極右「同盟」が「五つ星」を凌駕 フランス叩きを競演】
ただ、“ヨーロッパが足並みをそろえる”云々はEUの統一を重視する立場の見解であって、もともとEUに対し懐疑的なイタリア・ポピュリズム政権にとっては「何言ってんだか・・・」といったところでしょう。

イタリアのコンテ首相は1月25日、フランスとドイツが自国の国益を追求している一方で、口先だけは欧州寄りの表現をしていると非難、「両国はわれわれをだましている」との刺激的表現も。

また、最近のイタリアは“足並みをそろえる”どころか、隣国フランスにケンカを売りまくっており、フランス・マクロン大統領も相当に苛立っています。

国内的に受けがいい施策であれば、対外協調など考える必要もないというのが、ポピュリズム政権のポピュリズムたるゆえんです。

****イタリア・ポピュリズム2与党 フランスたたき「競演」 EU選挙前に支持率逆転で、せめぎ合い?****
イタリアのポピュリズム(大衆迎合主義)政権の2人の副首相が、フランスのマクロン政権への批判を連発し、両国関係が悪化している。「フランス叩き」の背景には、連立2党の支持率が逆転し、5月の欧州議会選を前にせめぎ合いが活発化していることがある。
 
イタリアのサルビーニ副首相兼内相は23日、国営ラジオでマクロン大統領について、「彼は支持率が低迷している。仏国民は別の選択をすべきだ」と発言した。

22日には、不法移民の流入はリビアの政情不安が一因だとしたうえで、「フランスは石油権益があるから、リビア安定化に無関心だ」となじった。
 
ディマイオ副首相兼経済発展・労働相も負けていない。「アフリカから移民が来るのは、フランスが植民地化したせいだ」と批判。仏外務省は駐仏イタリア大使を呼んで抗議した。
 
今月半ばの支持率調査で、サルビーニ氏の第2与党「同盟」は36%、ディマイオ氏の第1与党「五つ星運動」は25%。昨年3月の総選挙で五つ星は33%、同盟は17%を得票したが、サルビーニ氏が移民強硬策で支持を大きく広げた。

力関係が変化し、経済政策をめぐる立場の違いも出始めた。イタリアでは、同国の移民政策を批判するフランスへの反発が強く、2人の副首相はそれぞれ「フランス叩き」を支持拡大の材料に使っているとみられる。

欧州議会選でも双方はたもとを分かち、同盟は仏極右「国民連合」と連携。五つ星はフランスで反政府デモを続ける「黄色いベスト」運動に接近している。
 
マクロン氏は昨年、移民救助船の寄港を拒否したイタリア政府を「無責任」と批判。伊世論調査で、「欧州で最も敵対的な国」にフランスをあげた人は最多の38%にのぼり、3年前の約3倍に増えた。【1月28日 産経】
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****仏大統領、イタリアに関係改善訴え ナショナリズムの台頭警告***
マクロン仏大統領は、ナショナリズム台頭の危険性を警告した上で、フランスとイタリアは最近の外交上の対立を乗り越え、欧州のために協力する必要があると訴えた。イタリア公共放送のインタビューで述べた。

フランスとイタリアは伝統的に緊密な同盟国だが、イタリアのディマイオ、サルビーニ両副首相が移民問題などを巡ってマクロン大統領やフランス政府への批判を強めたことから、2018年半ばごろから関係が悪化。フランス政府は先月、駐イタリア大使を一時的に召還した。

マクロン大統領はインタビューで、両国は利害を共有していると強調。「誤解があった。最近の対立は深刻なものではなく、克服しなければならない」と語った。

マクロン大統領は、欧州連合(EU)加盟国はナショナリズムを廃し、アフリカからの大量移民や景気減速といった数多くの問題に協力して取り組むべきだと主張した。

大統領はまた、仏リヨンと伊トリノを結ぶ高速鉄道(TAV)の建設計画について、反対を取り下げるようイタリア政府に要請した。

TAVの建設計画は、ディマイオ氏率いるポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」が環境への影響やコストなどを理由に反対している。【3月4日 ロイター】
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「同盟」と「五つ星」の力関係逆転については、“2月25日、イタリア西部サルデーニャ島で24日行われた首長選で「同盟」など右派連合が勝利した。中央政府レベルで同盟と連立政権を組む「五つ星運動」は惨敗となり、5月の欧州議会選挙に向け不安を残す結果となった。”【2月26日 ロイター】とも。

“伊世論調査で、「欧州で最も敵対的な国」にフランスをあげた人は最多の38%にのぼり、3年前の約3倍に増えた”という政治状況では、フランスとの協調やEU全体の統一的対応重視といった選択は出てこないでしょう。

イタリアが中国とどういう関係を持つかという話より、イタリアがEUに背を向け、フランス叩きに躍起になっているということの方が、今後に欧州・EUにとっては重要でしょう。

極右「同盟」が最大勢力となるイタリアは、どこへ向かうのか?

その他、最近のイタリアに関しては“伊元首相の淫行疑惑裁判で証言した女性、謎の死遂げる 毒殺の可能性”【3月17日 AFP】、“イタリアのバス放火事件 移民や難民の犠牲に反発か”【3月21日 NHK】といった興味深い話題もありますが、また別機会に。

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独自の利害で中国・ロシアとの関係を進めるドイツ 苛立つアメリカはファーウェイ排除を強要

2019-03-20 23:15:19 | 欧州情勢

(【3月20日 MAG2 NEWS】)

【圧力を強めるアメリカ ドイツがファーウェイ採用すれば、米軍はドイツ軍との通信を断つ】
アメリカ・トランプ大統領と欧州の関係がNATOの費用負担などをめぐってギクシャクしており、とりわけ難民対応などをめぐってドイツ・メルケル首相とは全くウマが合わないことは周知のところです。

一方、アメリカは中国との覇権争いに傾注しており、その象徴として5G通信網からの中国通信機器大手ファーウェイの排除を各国に求めています。(日本も欧州と同様な立場にありますが、アメリカの主張に沿う形を明らかにしています。)

上記のような情勢にあることは承知の上でも、下記のようなアメリカ側の強硬な姿勢にはやや驚きも感じます。

****ファーウェイ採用すればドイツ軍との通信を断つ、米欧州軍司令官****
中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)をめぐり、米国が欧州諸国に対して、同社を第5世代移動通信網構築への参入から排除するよう圧力を強めている。

米欧州軍のカーティス・スカパロッティ司令官は13日、ドイツがファーウェイの技術を採用した場合には、ドイツ軍との通信を断つ方針を示した。
 
米国と欧州の同盟国は、中国政府と緊密な関係にあるファーウェイは安全保障上のリスクをもたらすと懸念し、5G通信網構築の入札からファーウェイを排除してきた。
 
北大西洋条約機構軍最高司令官を兼務するスカパロッティ氏は13日の米下院軍事委員会で、ドイツを念頭に置いた欧州との貿易交渉に関する質問を受け、「特に5Gについて、周波数帯域幅の情報処理能力や性能は途方もないという点で、電気通信の根幹に関わる」と懸念を示し、防衛通信網内にそうした危険が存在する国とは通信しない考えだと述べた。
 
ファーウェイの5G技術は、スウェーデンの通信機器大手エリクソンやフィンランドの通信機器大手ノキアといった競合他社をはるかにしのぐと高い評判を得ており、早急に5G通信網を展開したい通信事業者にとっては魅力的な選択肢となっている。 【3月14日 AFP】
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【技術面で中国の台頭を座視できないアメリカの焦りも】
アメリカの強硬姿勢の背景には、ドイツがファーウェイ製品の排除を強行しない方向で調整を進めていることへの強い苛立ちがあります。

更に言えば、基本的には、アメリカの強硬姿勢は、中国が技術面でアメリカを凌駕する場面も出てきている(その代表がファーウェイであるわけですが)ことへの焦りと裏腹の関係にあります。

****2018年国際特許出願、アジアが急増 企業別はファーウェイが最多****
国際連合の世界知的所有権機関は19日、国際特許出願の内訳に関する年次報告を発表し、2018年の出願の過半数をアジア諸国が占めたと明らかにした。WIPOは、この結果により、技術革新が「西から東へ」とシフトしていることが一層明確になったとしている。
 
報告によると、2018年の国別の出願件数は依然として米国が一番多いものの、地域別ではアジアからの出願が引き続き急増している。
 
WIPOの国際特許登録制度は複雑で複数のカテゴリーがあるが、主要カテゴリーである特許協力条約に基づく国際出願の件数は、1位が米国(5万6142件)、2位が中国(5万3345件)、3位が日本(4万9702件)だった。また、インドの出願は2017年の1583件から2013件へと27%増加し、トップの伸び率を記録した。
 
企業別では、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)が5405件を出願し、一企業としての最多記録を更新した。 【3月19日 AFP】AFPBB News
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****中国がAI分野で間もなく米国を越える、米シンクタンク****
米アレン人工知能研究所は13日、AI(人工知能)に関して中国の学術論文が急増しており、米国は間もなくAI分野で中国に追い抜かれるとの分析結果を公表した。
 
同研究所の分析によると、AI関連論文の発表数で、既に中国は米国を上回っているが、多くは質の面で中レベルか低レベルのもの。それでも、最も引用された回数の論文ランキングで、中国は2019年中に上位50%、来年は上位10%で、2025年までに上位1%に入る見通しで、米国を上回るという。
 
分析結果は、自動運転車、仮想現実、第5世代移動通信網などの主要技術分野で中国に先を行かれているとの米政府やIT業界の懸念を浮き彫りにした。(後略)【3月14日 AFP】
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【ドイツ 対米関係を基軸に据えていると強調するも、ファーウェイ問題の議論は続く】
欧州各国としては、技術的に優れたファーウェイを使って早期に将来社会の基幹となる5G通信網を立ち上げるか、それとも時間的・技術的に劣後することを覚悟したうえでアメリカの強面の要求に従うかの選択を迫られています。

さすがに、ここまで言われるとドイツとしてもアメリカの要求(恫喝?)を重視せざるを得ません。

****ドイツ政府、米との協力重視 ファーウェイ製品排除問題で****
ドイツ政府報道官は15日までに、同国の第5世代(5G)移動通信システム整備で中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)製品を採用すれば機密情報の共有を制限すると米国が警告したことに関連し、米独情報機関の協力は「非常に重要だ」と述べた。対米関係を基軸に据えていると強調した形だ。(後略)【3月15日 共同】
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ただ、実際にファーウェイ製品を5G通信網から排除するのかどうかは“議論続く”ということで、定かではありません。

****ドイツ、5G周波数割り当ての入札開始 ファーウェイ問題で議論続く****
中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)をめぐる安全保障上の懸念について米・欧州間で議論が過熱する中、ドイツで19日、第5世代(5G)移動通信網構築用の周波数割り当ての入札が始まった。
 
米国は、中国製品が欧米の企業や政府への中国政府によるスパイ活動に利用されている恐れがあると主張し、ドイツにはファーウェイ製品を排除しなければ機密情報の共有をやめると圧力をかけている。
 
ドイツ連邦ネットワーク庁のヨッヘン・ホーマン長官は外国企業の参入について、「スウェーデンであろうと中国であろうと企業は認可条件を満たし、安全性の審査に通らなければならない」と述べるなど、騒ぎの火消しに躍起だ。
 
ワイヤレス通信のダウンロード速度で世界46位にとどまる欧州最大の経済国ドイツは、5Gへの移行によりデジタル分野での大幅な遅れを取り戻したいと考えており、入札で周波数を勝ち取った企業は98%の世帯や国内の高速道路、鉄道線路に回線を行き渡らせる必要がある。
 
周波数割り当ての入札に参加するのはドイツテレコム、ボーダフォン、テレフォニカ・ドイツ、ユナイテッド・インターネットの4社。
 
ファーウェイは入札には参加していないものの、入札参加4社にアンテナやルーターなどの重要機器を提供している。【3月19日 AFP】
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【ロシアとの関係を強めるパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画へのアメリカの反対】
一方で、ドイツはロシアとの関係でも、ロシアからバルト海経由で天然ガスを直接ドイツに送るパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画をめぐって、“米国は、ノルド・ストリーム2に関わる企業への制裁をも示唆して、プロジェクトの中止を強硬に迫ってきた”という、アメリカ・トランプ政権との対立があります。

この問題は、アメリカとの関係だけでなく、欧州内でも利害の対立があり微妙な問題となっています。(工事の方は着々と進行していますが)

****ノルド・ストリーム2をめぐる深刻な対立と混乱*****
ロシアからバルト海経由で天然ガスを直接ドイツに送るパイプライン「ノルド・ストリーム2」計画は、欧州のロシアに対するエネルギー依存を高め、ロシアの欧州に対する政治的影響を強める結果になるとして、米国はこれに強く反対しており、EU内でも懸念が高まっている。

欧州議会は、計画について「欧州のエネルギー安全保障の脅威となる政治的プロジェクトである」と非難する決議を採択した。

これに対し、ドイツは、同計画を推進する強い立場を一貫して維持している。こうした中、2月13日EUは、「ガス指令」を改正し域外の第三国と加盟国とを結ぶパイプラインにも適用できるようにする案に、暫定的に合意した。
 
事態が大きく動いたのは、2月7日である。フランス外務省は突如として、2017年11月に欧州委員会が提案したガス指令の改正に賛成すると表明したのである。

この指令はEUと域外を繋ぐパイプラインにも第三者アクセス、料金、パイプラインの所有とガス供給の分離、透明性に係わる原則を適用しようとするものである。

ドイツは、プロジェクトを頓挫させるかも知れないこの改正に反対で、EU内で必要な数の反対票を確保すべく強烈なロビー活動を行って来たとされる。

ドイツの側に立つ加盟国はオランダ、ベルギー、オーストリアなどプロジェクトの恩恵を得る国のようであるが、フランスが改正に賛成するとなると、必要な数の反対票が集まらないことになる。
 
ところが、翌2月8日、これまた突然、フランスとドイツの妥協が成立した。その内容は、ガス指令の適用に当たっては、域外からのパイプラインが到達する地点のEUの国(ノルド・ストリーム2の場合はドイツ)が欧州委員会の監視の下において、このルールとその例外の適用に責任を持つ、ということのようである。

つまり、ノルド・ストリーム2をガス指令との関係でどのように扱うかについてドイツが裁量権(どの程度の裁量権は良く判らない)を持つということである。

今後、ガスプロムがノルド・ストリーム2の所有の形態を手直しすることを強いられたりすることがあるかは不明であるが、プロジェクトが大きく遅れたり頓挫することはないであろう。

ガス指令の改正は今後理事会と欧州議会の承認を要するが、改正が成立しないことがあるとしても、ドイツにとっては、むしろ、それに越したことはない。
 
フィナンシャル・タイムズ紙の2月14日付け社説‘Nord Stream 2 marks a failure for EU energy policy’は、「フランスとドイツの妥協に基づく今回の合意はEUのエネルギー政策の挫折」として強く非難している。

ノルド・ストリーム2を有害無益のプロジェクトと見る立場からはそういう結論になるであろう。その立場は解るが、ドイツの意向を無視してもプロジェクトを潰せた筈だとまで言うのは無理があると思われる。
 
米国は、ノルド・ストリーム2に関わる企業への制裁をも示唆して、プロジェクトの中止を強硬に迫ってきた。

欧州委員会は、今回のガス指令の改正によって米国が制裁を不要と考えるよう期待しているとの報道があるが、ガス指令の改正が計画を止めるに至ると考えられない以上、そのように期待する根拠はないように思われる。

ポンペオ米国務長官は2月12日、ワルシャワの記者会見で米国による制裁の可能性について問われて、「エネルギーに関しては欧州の安全保障を確保するため米国はその権限で出来ることをやるつもりだ」と述べている。

米独間の対立はますます深まっている。2月15-17日に開催されたミュンヘン安全保障会議では、ペンス副大統領は「東側に依存することで西側諸国を強化することはできない」「計画に反対している国々を称賛する。他の国にも同じ行動を要求する」などと述べ、メルケル首相は「ロシアがエネルギー供給国として信頼性を欠くと決めつけるのは妥当でない」などと述べた。
 
他方、ノルド・ストリーム2をめぐっては、独仏間の複雑な関係にも焦点が当たる結果となった。

2月7日、米国のグレネル駐独大使、サンズ駐デンマーク大使、ソンドランド駐EU大使が連名で、ノルド・ストリーム2計画に反対し中止を求める論説をドイツの公共放送Deutsche Welleのウェブサイトに寄稿したが、その直後というタイミングでフランスがガス指令改正への賛成を表明したことは、ドイツに衝撃を与えた。

妥協が成立し、ひとまず独仏関係の危機は回避されたが、1月22日に協力推進を謳った「アーヘン条約」を締結したばかりの両国関係がぎくしゃくしたものであることが露呈した。
 
対ロシアをめぐり結束を強めるべきNATOとEUであるが、ノルド・ストリーム2の問題一つだけとってみても、いくつもの深刻な対立と混乱を孕んでいることが分かる。【3月1日 WEDGE】
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ノルド・ストリーム2が稼働すれば(1本目のノルド・ストリームはすでに稼働中)、欧州の天然ガス対露依存度が高くなること、およびロシアからウクライナ経由欧州向けトランジット輸送がなくなり、ウクライナ経済が疲弊するという理由で、アメリカおよびウクライナは強く反対しています。

この問題に深入りすると長くなりますが、“欧州の天然ガス対露依存度が高くなる”ということの意味合いだけ少し。
常識的な「ロシアはガスを政治利用する」という議論に対し、以下のような反論もあります。

****「新パイプラインはロシアの罠」は真っ赤な嘘!****
英エコノミスト誌の「作文」を鵜呑みにした日本の新聞

(中略)確かに、ロシアはウクライナ向け天然ガス供給を過去3回止めました(2006年、2009年、2014年)。

しかしそれはあくまで経済問題であり、政治問題ではありません。商品代を払わない買い手に、商品供給を続ける売り手はいません。(中略)

「アラブの春」で北アフリカから地中海縦断海底P/Lが止まり、天然ガス不足となり困ったのが南欧です。
この時、追加供給して欧州の不足分を補填したのが露ガスプロムですが、別に経済支援したわけではありません。
ビジネスとしてガス供給を増やしただけですが、結果として双方の利益になりました。(中略)

ロシアの天然ガス輸出は商業契約です。契約に従い量も価格も規定されており、過去50年間、供給が政治的理由で途絶えたことはありません。
 
ロシアにとり石油(原油と石油製品)と天然ガスは主要な外貨獲得源ですから、自らバルブを閉めることは自分で自分の首を絞めることと同義語です。【3月7日 杉浦 敏広氏 JB Press】
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【アメリカの強い姿勢の背景に、ドイツのファーウェイ対応で欧州全体の対応も決まることが】
話をドイツに戻すと、ファーウェイをめぐるアメリカの強圧的とも言える姿勢は、ドイツ、ひいては欧州に踏み絵を迫った形にもなっています。

****中国につくか、米を選ぶか。ドイツの選択が決める世界覇権の行方****
(中略)
ドイツとアメリカの軋轢
ドイツといえば、世界第4位の経済大国。しかし、エマニュエル・トッドさんのように「EUは、事実上のドイツ帝国だ!」という人もいる。つまり、ドイツは、EUを支配していると。そうなると、ドイツは、「巨大な力」をもっていることになります。

GDPでみると、アメリカは世界GDPの約24%、EUは約22%、中国は15%、日本は6%。というわけで、ドイツ(=EU?)は、世界で2番目のパワーをもっていることになる。

そんなドイツは、アメリカと問題が多いのです。まず、トランプさんは、メルケルさんが大嫌い。はじめて会ったとき、握手も拒否したぐらい嫌い。

そして、政策面でもたくさん軋轢があります。たとえば、ドイツは、イラン核合意支持。アメリカは、離脱した。ドイツは、パリ協定支持。アメリカは、離脱した。

トランプさんは、「NATO加盟国は、もっと軍事費増やせ!」と要求している。ドイツの軍事費は、GDP比で1.2%しかなく、トランプさんは「少なすぎだ!」と怒っている。

トランプさんは、ロシアとドイツを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」プロジェクトに反対している。アメリカは、「欧州のロシア依存が高くなりすぎる」と主張している。しかし、ドイツは、「ただアメリカ産の液化天然ガスを売りたいだけなんじゃないの?」と反発している(もちろん、アメリカ産ガスの方が高い)。

というわけで、アメリカとドイツ間の問題は多い。そうなると、ドイツは、当然ロシアとか中国の方にむかってしまう。そんな状況になっているわけです。

ドイツの決定は重要
ちなみにドイツがファーウェイを採用するかどうかは、とても重要です。なぜか?「EU=ドイツ帝国」でしょう?実際そうかどうかは別として、「ドイツは、EU内で最強」というのは間違いない。

つまり、「ドイツがファーウェイをやめれば、他のEU諸国もやめる」可能性がグンと高まる。逆に「ドイツがファーウェイを採用すれば、他のEU諸国も採用する」可能性が高まる。

そして、EUは世界GDPの22%を占めている。ここを中国が取るのか、それとも失うかは、米中覇権戦争の行方にも、大きな影響を与えることでしょう。【3月20日 北野幸伯氏 MAG2 NEWS】
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“ドイツの選択が決める世界覇権の行方”という見出しは、いささか誇張がありますが、アメリカが中国やロシアとの関係も独自のスタンスで重視するドイツに苛立ちを示し、“忠実なパートナー”となることを要求しているのは事実でしょう。

そういう二者択一的な構図は覇権を争うアメリカの視点であり、国際社会の本来の在り方とはまた別物です。

欧州にしても、日本にしても、「どっちをとるのか」と迫られれば、現段階ではアメリカを選択するでしょうが、アメリカには、腕力ではなく理念・価値観で躊躇なく寄り添える国であって欲しいものです。

本当は、この中国をめぐるドイツとアメリカの確執の話は前置きで、そういう中でイタリアが中国と「一帯一路」を・・・という話をするつもりだったのですが、長くなったのでまた別機会に。

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タイ総選挙 勢いをそがれたタクシン派 立場を利用する政権側 “生きのいい”新党も

2019-03-19 23:16:36 | 東南アジア

(「若者は強権的な古い政治から、民主主義の新しい政治への変化を求めている」と語る「新未来党」タナトーン党首【3月17日 西日本】)

【タクシン派 「奇策」失敗で苦しい展開に】
24日に実施されるタイの民政復帰に向けた総選挙については、2月8日ブログ“タイ総選挙に衝撃 タクシン派政党がウボンラット王女を首相候補擁立 にわかに波乱含みの展開に”で扱ったタクシン派政党の奇策で流れは一気にタクシン派側に傾くのか・・・とも思ったのですが、周知のようにその夜の国王の反対を受けて王女擁立断念、政党自体も解党に追い込まれ、逆にタクシン派は窮地に追い込まれるという目まぐるしい展開をみせました。

****タクシン派政党に解党命令 王女擁立「中立脅かす」 タイ憲法裁****
タイの憲法裁判所は7日、24日に実施されるタイの総選挙に向け、ウボンラット王女を首相候補に擁立しようとしたタクシン元首相派のタイ国家維持党の解党を命じた。同党の候補者は立候補資格を失う。タクシン派はタイ貢献党という主要政党が残るものの、厳しい選挙戦を余儀なくされることになった。
 
「この決定に非常に当惑している」「我々は純粋な意図で国のためになることをしようとした」。法廷から硬い表情で出てきた国家維持党のプリチャーポン党首は、報道陣に囲まれながらこう話した。
 
発端は2月8日、国家維持党がワチラロンコン国王の姉のウボンラット王女を、党の首相候補として選挙管理委員会に届け出たことだ。2014年のクーデターで自派の政権を覆されたタクシン派にとり、王女の擁立は政権奪還に向けた「妙手」のはずだった。
 
だが、その日の夜に国王が王女の政治関与を「非常に不適切」とする声明を発表。選管も王女を候補として認めず、逆に憲法裁に同党の解党を申し立てた。
 
同党は「擁立には王女の同意があった」と反論したが、憲法裁はこの日、王女の擁立は王室の政治的な中立性を脅かし、政党法が禁じる立憲君主制に敵対する行為だったとして、解党を命令した。幹部らの選挙への立候補や政党設立などを10年間禁じることも言い渡した。
 
ウボンラット王女は解党について、自身のインスタグラムに「悲しいことだ」と投稿した。
 
■軍政からの政権奪還に逆風
民政移管に向けた今回の総選挙は、軍事政権のプラユット暫定首相を首相候補に据え、軍主導の政権の継続を目指す国民国家の力党などの親軍政勢力とタクシン派などの反軍政派、双方と距離を置く民主党などが争う構図となっている。
 
世論調査の政党支持率で首位を走っているのは、農村や都市の貧困層から根強い支持を受けるタイ貢献党だ。だが、軍政下で導入された小選挙区と比例代表制による今回の選挙制度は特定政党が大勝できない仕組みになっており、タクシン派は国家維持党に勢力を分散し、双方で議席を確保する戦略をとっていた。
 
貢献党は350の小選挙区のうち250選挙区にしか候補を立てておらず、174選挙区に擁立した国家維持党の解党で、タクシン派候補がいなくなる選挙区が出る。反軍政を掲げる別の党に票が流れるとの見方があるが、タクシン派を目の敵にしてきた親軍政派にプラスに働くのは確かだ。
 
また、総選挙後の首相指名選挙では、事実上軍政が任命する250人の上院議員が、総選挙で選ばれる下院の500人とともに投票に加わる。

上下両院合計の過半数は376人。上院議員が親軍政派に同調する可能性が高いことを考えると、親軍政派はプラユット氏を首相に就けるために総選挙で126議席を取ればよいことになる。
 
専門家は「タクシン派は下院では第1党になるだろうが、政権奪還という意味では解党が逆風であることは間違いない」と話す。【3月8日 朝日】
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ウボンラット王女が首相候補を受諾するにあたって、兄のワチラロンコン国王に何も伝えていなかった・・・・というのは、考えにくいようにも思うのですが・・・・。(二人は別に疎遠という訳でもなく、親密な関係にあるとも言われていますので)

それはともかく、タクシン派の方でもある程度はこういう事態を想定したうえでの、主力政党ではない分派政党での擁立だった・・・・ということでしょうか?

いずれにしても、流れは再び親軍政党・軍部側に。
タクシン派の貢献党は第1党となっても、首相選出などでは苦しい状況にも。

****タイ総選挙 連立視野に3勢力が主導権争い “軍政延命”焦点****
タイの民政復帰に向けた総選挙(下院、定数500)は24日の投票日まであと4日。総選挙は約8年ぶりで、2014年から続く軍事政権の事実上の延命を許すかどうかが最大の焦点だ。

プラユット暫定首相の続投を目指す「国民国家の力党」などの親軍政派と「タイ貢献党」などタクシン元首相派とが対抗。これに両派と距離を置く民主党などが絡み、選挙後の連立を視野に主導権を争う。
 
18日、バンコクで開かれたタイ工業連盟の討論会に各党の首相候補らが顔をそろえた。
 
タイでも所得格差は問題となっているが、国民国家の力党は14日、1日の最低賃金を一気に約30%引き上げ、最高425バーツ(約1495円)にするとの公約を発表。タクシン派政党の支持者が多い農民ら低所得層の切り崩しを狙ったようだ。(中略)
 
一議席でも上積みし、選挙後の連立工作で主導権を握りたい各党は、実現性や持続可能性に疑問を投げかける報道を意に介せず、減税策や子供手当など、庶民受けする公約を並べる。
 
各種調査では、第1党は貢献党だが、過半数の確保は難しいとみられている。第2党は民主党だとみる調査が多いが、タイの政治専門家は「国民国家の力党だと分析する人もおり、競っているようだ」と語る。
 
選挙後の連立工作には「反軍政」と、「反タクシン派」という複雑な感情が交錯する。民主党は基本的には反軍政の立場だが、タクシン派も長年のライバルだ。

民主党党首で首相候補のアピシット元首相は、毎日新聞の取材に貢献党との連携の可能性を否定し、「国民国家の力党が我々との連立を検討する可能性がある」と指摘した。

一方、アピシット氏は別の場でプラユット氏の続投には反対だとも明言。貢献党が第1党となった場合、反タクシン派では共通する国民国家の力党と民主党のうち第2党になった方が政局の主導権を握る可能性があり、選挙前から相手に揺さぶりをかけている。
 
また、「軍の支配を終わらせる」ことが党の使命だと強調するタナトーン党首の新未来党は、政策や方針を共有できる政党と柔軟に連携する姿勢を示しており、総選挙で党勢が伸びれば重要な役割を果たす可能性もある。(後略)【3月19日 毎日】
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【「それは安定とは言わない。圧政だ」 “生きがいい”「新未来党」 どこまで議席にむすびつか】
旧態依然のタクシン派、軍事政権維持勢力、民主党がバラマキ政策の人気取り公約で争うという構図の中では、どこまで議席をのばせるかはわかりませんが、タナトーン党首の新未来党が新鮮味があります。

****タイ「新未来党」が存在感 総選挙、700万人新有権者に注目****
24日に予定されるタイ総選挙では、初めて投票する18〜25歳の新有権者が約700万人にのぼる。総選挙の実施が約8年ぶりとなるためで、全有権者の1割を超える。

2014年から続く軍事政権下で育った若者の票の行方が注目される中、軍政批判と変革を訴えて存在感を増しているのがタナトーン党首(40)率いる「新未来党」だ。

タナトーン氏は毎日新聞の取材に「タイに民主主義を取り戻す」と意気込んだ。
 
タナトーン氏は、タイ自動車部品製造大手の創業者一族出身で、副社長だった昨年、新未来党を結成。党の世論調査での支持率は、タクシン元首相派の中核政党「タイ貢献党」や親軍政政党「国民国家の力党」などに次ぐ4位だが、若者の間での人気は高い。
 
選挙戦終盤の14日、新未来党は提唱する次世代交通システム「ハイパーループ」の調査結果を発表。ハイパーループは、減圧されたチューブ内を列車が高速移動する。軍政には高速鉄道計画はあるが、タナトーン氏は「高速鉄道は15年もすれば時代遅れになる。最初から次世代のシステムを目指すべきだ」と語った。
 
こうした「変革」を志向する姿勢は選挙戦での主張にも表れる。タナトーン氏は「軍の支配を終わらせ、軍政下で制定された憲法を改正する」のが党の使命だと強調。国防費の大幅削減も提言する。
 
そのうえで「どの政党も下院(定数500)で過半数を確保できない」との見通しを語り、新未来党の方針を共有できる政党とは、連携が可能だとの認識を示した。
 
軍政下でタイは安定を取り戻したとの意見もあるが、タナトーン氏は「それは安定とは言わない。圧政だ」と一蹴。政権批判をしたことで自身が刑事訴追される可能性があることを例に出して反論した。【3月17日】
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「それは安定とは言わない。圧政だ」・・・・生きがいいですね。

タナトーン氏は軍政を批判し、クーデターを禁じる憲法改正や軍の人員半減などの公約を打ち出しており、「基本的人権を尊重し、東南アジアの希望でもあった以前のタイを取り戻したい」と語っています。【3月17日 西日本より】

政権からの圧力もあるようで、“タイ選挙管理委員会は14日、若者に人気の革新政党「新未来党」のタナトーン党首(40)に関する経歴詐称の調査を終了したと発表した。選挙関連法に違反する証拠が見つからなかったとし、不問に付した。”【3月15日 NNA ASIA】とも。

“人気が高まる半面、タナトーン氏が過去にインターネット上で行った軍政批判の違法性を指摘する告発も相次ぐ。解党されるリスクをはらむが、タナトーン氏はこうした圧力について「全く恐れていない。むしろ批判する側が私たちを恐れている」と一蹴した。” 【3月17日 西日本より】・・・・やっぱ生きがいいですね。

この生きのよさがどこまで議席にむすびつか・・・ですが、“進歩的な考えに対して特に若年層を中心に人気を集め、軍政の警戒心を買っている。ただし政党としては新しいため、候補者の多くは政治家としての地方での活動経験がなく、小選挙区での大政党のような議席獲得は見込めない。その代わりこのような政党への票は、今回の制度の下で比例区の議席となる可能性がある。”【3月15日 真辺 祐子氏 NIDS コメンタリー】とのこと。

主要政党の潰し合いの結果、キャスティングボードを握る立ち位置に立つ可能性もありえます。

【政権側の“不公平な選挙キャンペーン” 野党側に跳ね返す力・勢いは?】
プラユット暫定首相は、その立場を利用した「選挙活動」で親軍政党をてこ入れしています。

****タイ軍政の暫定首相、反対派の地盤を視察 念頭に選挙か****
タイ軍事政権のプラユット暫定首相が13日、東北部のコンケンとナコンラチャシマを訪れた。週末には北部のチェンライを訪問する予定だ。

いずれも公務による視察という名目だが、東北部と北部は24日の総選挙で親軍政派が対立するタクシン元首相派の地盤。選挙戦最終盤での親軍政派への「てこ入れ」との見方がもっぱらだ。
 
プラユット氏は親軍政派の国民国家の力党の首相候補だが、現職の首相が政党の集会などで演説をすれば選挙法関連法に違反する恐れがあると指摘され、党の選挙運動への参加を見送っている。
 
一方で、国民国家の力党はタクシン派の地盤では苦戦を強いられているとの見方が強く、選挙最終盤で東北部と北部での運動に力を入れている。

プラユット氏の視察先は党が最近、選挙集会などを実施した県とほぼ一致しており、「視察という形で有権者に姿を見せることで、党を支援する目的があるのは明らか」と政界筋はみる。
 
プラユット氏は13日、コンケンで鉄道施設などを視察した後、ナコンラチャシマの大学構内で演説。5年近くにわたる自らの政権下での成果を強調し、「(選挙で)決めるのはあなたたちだ」などと述べた。
 
プラユット氏は、週明けには南部のナコンシータマラートも訪れる予定。南部はタクシン派や親軍政派とも距離を置く民主党の地盤で、南部でもてこ入れを図るとみられる。【3月14日 朝日】
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これまでも、政権側はその立場を利用して“不公平な選挙キャンペーン”を展開してきました。

****不公平な選挙キャンペーン****
2014 年 5 月 22 日クーデター以降、政治活動や 5 人以上の集会は禁じられてきた。選挙に向けて徐々に政党の活動が解禁されてきたものの、反軍政的な言論は処罰の対象となり、政党によるオンラインでの政治活動にも厳しい監視の目が向けられている。

軍政は、これまで「コンピューター関連犯罪法」を解釈し、オンラインでの不敬及び反軍政的言論を抑える手段としてきたが、選挙活動においても反軍政的性格の強い新未来党党首らのフェイスブック投稿や同党ウェブサイトなどに同法を適用した訴えを度々起こしている。

反軍政的性格の政党は、限られた言論の自由と共に、主要プラットフォームであるソーシャルメディアを監視された上に、解党のリスクと背中合わせの選挙戦を強いられている。

なお、 今回の選挙で初めて投票をする有権者は約 700 万 人おり、新未来党の主要支持層であるソーシャルメディアを積極的に使用する若年層が多く含まれる との分析もある9。

一方で、軍政の元閣僚が組織し、プラユット現首相を首相候補と掲げる国民国家の力党は、新年の低 所得者への 500 バーツ支給などの多くのバラマキ 政策や、地方遊説、SNS のオフィシャルページで の広報など、現役首相として政治活動が禁止されていた他政党に先駆けて事実上の選挙キャンペーンを行ってきた。

これに関して、選管は、(下院議員 選挙法 78 条で国家公務員の地位や職権の使用を禁 じているが)首相候補であるプラユット現首相が選挙キャンペーンに関与することは問題ないとの見 解を示している。

国民国家の力党は、昨年末には 6 億バーツを集めたとされる政治資金パーティーを開催したが、これも問題ないとしている。

現役首相 であるプラユットは、5 年近い政権運営で知名度は 抜群な上、治安維持を名目に多くの権限を有し、5 年近い政権運営で選挙後も拘束力のある長期戦略を持つため、現政権や首相自身への賛否が選挙の争点となっている面がある。【3月15日 真辺 祐子氏 NIDS コメンタリー】
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やりたい放題ではありますが、このあたりはタイに限らず多くの国でも見られることです。
野党側には、こうした“不公平”を跳ね返すだけの力・勢いが求められます。

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フィリピン  中国寄り姿勢、麻薬問題対  “我が道”を行くドゥテルテ大統領

2019-03-18 23:03:57 | 東南アジア

(フィリピンの首都マニラで、給水車と消防車による給水の順番を待つ市民ら(2019年3月15日撮影)【3月17日 AFP】)

【アメリカは中国からフィリピンを防衛とは言うものの、ドゥテルテ大統領の心中は・・・】
下記の記事を目にして、ちょっと奇異な感じもうけました。

****南シナ海でフィリピンに攻撃あれば米が防衛、ポンペオ氏 中国けん制****
マイク・ポンペオ米国務長官は1日、南シナ海の大半の領有権を主張する中国を念頭に、同海域でフィリピンに対する武力攻撃が行われた場合には相互防衛条約に基づいて同国を防衛すると明言した。
 
ポンペオ氏はフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領との会談後、記者会見を行い、その中でフィリピンなどが領有権を主張する南シナ海の南沙諸島(スプラトリー諸島)で中国が推し進めている人工島建設について、米比両国にとっての潜在的脅威だとの認識を示した。
 
ポンペオ氏は「南シナ海における中国の人工島建設や軍事活動はフィリピンのみならず、米国の主権や安全保障、ひいては経済活動をも脅かしている」「南シナ海は太平洋の一部であり、フィリピン軍や航空機、公船に対する武力攻撃が行われた場合には米比相互防衛条約の第4条に基づき、相互防衛義務を発動する」と明言した。
 
米政府高官が南シナ海における同盟国防衛について公式に発言したのは今回が初めて。 【3月1日 AFP】****************

アメリカが南シナ海で中国と覇権を争っているのは今更の話ですし、そのアメリカとフィリピンが同盟関係にあるのも事実ですから、本来は“奇異”でもない、当たり前の話のはずです。

にもかかわらず奇異な感じがぬぐえないのは、ドゥテルテ大統領は就任以来の反米的発言を繰り返し、中国と領有権を争う南シナ海問題について、2016年7月、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が中国主張を退ける判決を出したにもかかわらず、この自国有利の判決を棚上げするかのように中国との“蜜月”を進めているからです。

ドゥテルテ政権の「中国寄り姿勢」を示すものとしては、最近では以下のようなものも。

****米国務長官「ファーウェイは脅威」、比国防相「心配する理由ない」****
2019年3月2日、観察者網は、米国のポンペオ国務長官が訪問先のフィリピンで、ファーウェイの脅威について伝えたところ、同国のロレンザーナ国防相から否定されたと伝えた。

記事は、比メディアの報道を引用。「1日にポンペオ国務長官は、ファーウェイが透明性に欠けており、フィリピンに対してリスクとなるため、ファーウェイと合意や契約をしないよう勧め、米国企業こそ最良のパートナーだと語った」と伝えた。

これに対し、ロレンザーナ国防相は、ファーウェイを心配する理由はないとの見方を示し、「(何の問題も)見当たらない。われわれはとてもオープンであり、彼ら(ファーウェイ)はフィリピン全土に行くことができるのではないだろうか」と答えたという。

ロレンザーナ国防相は、「私たちには何の秘密もない。米国人に対してであっても、私たちに何か隠せるものなどあるだろうか」とも述べ、「情報と通信技術部の役人は、その職責を全うしている。彼らは私に、きちんと審査をしており、私たちの安全が損害を受けることはないと保証した」とも語った。【3月4日 レコードチャイナ】
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****フィリピンは中国への借金に溺れている?比財務相「なぜ日本のことは言わない?」****
2019年3月10日、中国メディアの観察者網は、フィリピンのカルロス・ドミンゲス財務相がこのほど、同国が中国への借金に溺れているとする主張に反論したと報じた。

記事は、フィリピン華字紙・世界日報が7日、「ドミンゲス財務相は、フィリピンが中国への借金に溺れているとする可能性を却下した」と報じたことを紹介した。

それによると、ドミンゲス財務相は「ドゥテルテ大統領の任期が終わる頃には、フィリピンは依然として中国以外の国々に多くの債務を負っているだろう」と指摘した。

その上で、ドミンゲス財務相は「22年末までに、中国から資金提供されたすべてのプロジェクトにおける債務額が、国の債務総額に占める割合は4.5%になるとみられる。一方、日本への借金が債務総額に占める割合は9.5%になるとみられるが、私はなぜ人々が『フィリピンが日本への借金に溺れている』とは言わないのか分からない」と述べたという。【3月10日 レコードチャイナ】
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日本からの借金ならよくて、どうして中国からの借金は問題視されるのか?・・・との主張です。

中国からの借金については、「債務のわな」云々の議論はありますが、今回はその点はパスします。

こうした政権の中国寄り姿勢はドゥテルテ大統領の意向を反映したものでしょう。

さすがにドゥテルテ大統領も最近では露骨な反米発言は耳にしなくなりました。(ウマが合うトランプ大統領登場のせいでしょうか)

ただ、就任以来の言動を考えると、オバマ前大統領当時の人権問題批判もあるでしょうが、要するに“アメリカが嫌い”ということなのでしょう。そこには、植民地支配していたアメリカとフィリピンの歴史問題もあるでしょう。

冒頭のポンペオ米国務長官のフィリピン防衛義務発言にしても、フィリピンにとって中国・アメリカの間でバランスをとるというのは、極めて重要な安全保障戦略ですからドゥテルテ大統領も何も言いませんが、おそらくドゥテルテ大統領は心中“誰がアメリカに防衛を頼むか!いつまでも主人面するんじゃねえよ!”といったところではないでしょうか。もちろん私の勝手な妄想です。

【フィリピン世論はアメリカに高い信頼】
ドゥテルテ大統領の“アメリカ嫌い”“中国寄り”にもかかわらず、フィリピン世論はアメリカへの信頼が高いようです。

****フィリピン世論 中国に警戒感****
(中略)
フィリピンのドゥテルテ政権が進める「米国離れ中国寄り政策」にも関わらず、フィリピン人が最も信用し頼りにしている国は米国で、中国に対しては「過度の信用は禁物」と警戒感を抱いていることが世論調査の結果から浮き彫りとなった。

世論調査は、フィリピンの民間調査会社「パルス・アジア」が2018年12月14日から21日にかけてフィリピンで1800人の成人を対象に実施したもので、1月15日のフィリピン紙「フィリピン・スター」などが伝えた。

その結果によると、フィリピンが今後さらに関係を強化するべき信頼する国として84%の人が米国を挙げた。これは2017年3月の同様の調査での回答79%を上回るもので、フィリピン人の米国への信頼度がさらに高まっていることを反映している。

米国に次いで信頼する国として日本が75%、オーストラリアが72%と続いており、日本に対するフィリピン国民の信頼度も高いことを示している。

一方、南シナ海でフィリピンと領有権争いをしている当事者でもある中国については信頼できるとしたのは60%で前回の63%より微減している。そして40%が「中国を過度に信用すべきではない」と回答し、警戒感を抱いていることも分かった。【1月19日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
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****中国人留学生による「豆腐花ぶっかけ事件」、フィリピンに反中感情か****
2019/02/15 15:10
2019年2月14日、米華字メディア・多維新聞によると、フィリピンに留学中の中国人の女が起こした「豆腐花ぶっかけ事件」が現地の反中感情に火をつけたもようだ。

この事件は、液体の持ち込みが禁止されている地下鉄に女が豆乳デザートの「豆腐花(豆花)」を持って乗ろうとしたことが発端となった。女は「食べ終わってから乗るように」という警備員の指示を拒否し、通報を受けて現場に来た警察官に豆腐花を浴びせかけ、逮捕された。

記事が英BBCの報道を引用し伝えたところによると、同国のロブレド副大統領は「全てのフィリピン人を侮辱した」と女を非難。ある大学教授は「フィリピンの人々の強烈な反応は多くのフィリピン人の中国に対する態度を明確に示している」と話し、「近年、大勢の中国人がフィリピンに流れ込み、オンラインカジノの仕事に関わっている。多くの中国人旅行者がフィリピンを訪れていることもフィリピン人にネガティブな対中感情を持たせている」と指摘したという。

ドゥテルテ大統領はこれまでのところ、事件についてコメントしていないが、大統領報道官は「個別的な事件であり、あおり立てるべきではない」と強調している。【2月15日 レコードチャイナ】
*********************

【強硬な麻薬問題対策への批判は受け入れず】
一方、超法規的殺人を含む麻薬対策はおおむね国内的には好評なようで、大統領支持率も高いレベルを維持しています。

*****ドゥテルテ大統領はフィリピンの救世主である****
(中略)
先日、ビサヤ諸島出身でバルセロナに叔母のいる、スペインの血筋を引く女性と食事をする機会があった。彼女はこういった。
 
「少し前にもマカティのナイトクラブが閉鎖されたわ。薄暗くてそこでドラッグが売買されていたの。ドラックにかかわるお店が閉められるのはいいことよ。大統領、もちろんドゥテルテがいいわ。(中略)」
 
ドゥテルテが3期25年も知事として君臨したダバオはまれにあるイスラム過激派のテロを除けば、東京と同じほど治安のいい街である。(中略)

「心配なのは、もし大統領がドゥテルテから他の人に変わったら、元のフィリピンに戻ってしまうんじゃないかってことね」 彼女はやや不安気にいった。
 
数々の暴言があっても、ドゥテルテ大統領の支持率は76%である(2019年1月14日付け 日刊まにら新聞)。(後略)【2月9日 WEDGE】
*******************

ドゥテルテ大統領は、麻薬問題での国際的人権批判に歩み寄る姿勢は全くないようです。

****フィリピン、国際刑事裁判所から正式脱退 麻薬戦争めぐる予備調査に反発****
フィリピンは17日、国際刑事裁判所から正式に脱退した。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領の推進する麻薬撲滅戦争をめぐってICCが予備調査を開始したことを受けての対応だ。ただ、ICCは違法な殺人が横行している疑惑の調査を続行する方針を示している。
 
フィリピンのICC脱退は、ICCの設立条約「ローマ規程」に基づき、昨年3月にドゥテルテ大統領が国連に脱退を通告してからちょうど1年後の17日に発効した。(中略)
 
戦争犯罪を裁く世界唯一の常設裁判所であるICCは、ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争で多数の死者が出ており、国際的な批判が高まったことを受け、昨年2月に予備調査を開始。フィリピン政府はこれに反発し、脱退を表明していた。
 
ただし、ICCは麻薬撲滅戦争において「人道に対する罪」があったかどうかをめぐるファトゥ・ベンスダICC主任検察官の予備調査は続行されると表明している。ローマ規程では、締約国の脱退発効前にICCで審議されていた問題は全て、脱退後もICCが司法権を有する。

 一方、フィリピン大統領府のサルバドール・パネロ報道官は17日、「フィリピンがローマ規程の締約国だったことはない」と述べ、批准過程を完了していなかったとの立場を強調。ICCは「実在しない法廷であり、その行動は無益だ」と主張した。ドゥテルテ大統領はすでに、ICCの調査には一切協力しない姿勢を明らかにしている。

ICCをめぐっては近年、脱退の動きが広がっているほか、予想外の無罪評決・判決が下されるなど、逆風が吹いている。

2017年にアフリカ中部ブルンジが世界で初めてICCから脱退した後、ザンビアや南アフリカ、ケニア、ガンビアなどアフリカ諸国が、アフリカ人への偏見があるとして脱退の意向を表明している。 【3月18日 AFP】
******************

ドゥテルテ大統領の看板政策である麻薬取り締まりを巡り、すでに数千人(5000人とも)の容疑者が警察や謎の組織によって殺害されています。その中には根拠のないもの、警察不正の口封じも含まれています。

この強硬姿勢によって治安が回復したのは事実でしょうが、だからといって、超法規的に“社会に害をなす者”を殺していいということにはなりません。

その暴力は、麻薬犯罪者だけに向けられる保証もありません。いつの日か“政府にたてつく者”に向けられることも。

****政権批判のメディア経営者逮捕、中傷容疑で フィリピン****
フィリピン国家捜査局は13日、ネットメディア「ラップラー」の最高経営責任者マリア・レッサ氏を、インターネットを使った中傷の容疑で逮捕した。ラップラーはドゥテルテ政権批判を恐れない姿勢で知られ、政権によるメディアへの圧力を懸念する声が上がっている。
 
問題とされたのは2012年5月の記事。麻薬密輸などへの関わりがあると指摘された男性が「悪意をもって私をおとしめようとしている」として、17年になって被害を申し立て、フィリピン法務省が「サイバー犯罪法」に違反するとしてレッサ氏を告発していた。
 
ラップラーは、ドゥテルテ大統領支持のネット世論が偽アカウントから拡散していることや、政府による麻薬犯罪取り締まりで、犯罪に関わったとされる市民が殺されていることなどを批判してきた。
 
これに対し、ドゥテルテ氏は「フェイク(偽)ニュースの媒体」とラップラーを批判している。昨年1月には、ラップラーが米国の投資家に預託証券を発行して資金調達したことが、外資によるメディア経営を禁じる憲法に違反するとみなされ、フィリピンの証券取引委員会から企業認可取り消しを命じられた。同2月からは同社記者の大統領府取材が禁じられている。
 
ラップラーは13日、「我々はジャーナリストとしての仕事を続け、私たちが見聞きした真実を報じ続ける。脅しには屈しない」との声明を出した。【2月13日 朝日】
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以下の体罰に対する考えも、麻薬問題への実力行使路線に沿うものでしょう。

****子どもへの体罰禁止法案、ドゥテルテ大統領が署名を拒否 フィリピン****
フィリピン上下院が可決した子どもへの体罰を禁止する法案について、ロドリゴ・ドゥテルテ大統領が拒否権を発動したことが分かった。フィリピン大統領府が2月28日、明らかにした。
 
法案は、親や教師が仕置きやしつけ目的で子どもに体罰、精神的な暴力、人格をおとしめる行為を加えることを禁ずる内容。常習者に対しては、怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」のカウンセリング受診を義務付けている。
 
だがドゥテルテ氏は2月28日に出した声明の中で、「欧米諸国で、子どもに対するあらゆる種類の体罰を時代遅れなしつけとみなす傾向が高まっていることは認識している」とした上で、「わが国はこうした流れにあらがうべきだと、私は固く信じている」と法案に署名しない理由を説明。親は子に体罰を与えても構わないとの見解を示した。
 
ドゥテルテ氏は、現在は15歳となっている刑事責任年齢についても引き下げを主張している。自身が進める「麻薬撲滅戦争」へのてこ入れが狙いとみられるが、これまでに密売容疑者とされた5000人以上が殺害されている。 【3月3日 AFP】
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下記の記事などは、ドゥテルテ大統領の歴史認識にかかわるものでしょう。

****フィリピン国名、マハルリカに? 大統領、植民地由来に嫌悪****
フィリピンの国名が「マハルリカ」になるかも―。ドゥテルテ大統領が演説で植民地由来の国名を変更する考えに言及し、国内で論議を呼んでいる。
 
「マルコスは正しかった。彼は『マハルリカ共和国』に変えたかったのだ」。ドゥテルテ氏は2月11日の演説で、長期独裁政権を敷いた故マルコス元大統領を持ち出し、改名に前向きな意向を明らかにした。
 
フィリピンという国名は、16世紀に宗主国だったスペインのフェリペ皇太子(後の国王フェリペ2世)にちなんでいる。
 
マハルリカの意味は、マレー語の「自由」の派生語やサンスクリット語の「気高く誕生した」など、複数の説がある。【3月9日 共同】
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ドゥテルテ大統領の独自路線は当分続きそうです。

【対応が遅れる首都マニラの水不足】
なお、フィリピンには麻薬以外にも緊急を要する問題もあるようです。

*****フィリピン首都で「最悪」の水不足、輪番断水で給水車には長蛇の列*****
フィリピンの首都マニラが、ここ数年来で最悪の水不足に見舞われている。給水車の前にはバケツを手にした市民が一家総出で数時間待ちの大行列をつくっているほか、複数の病院が重篤患者以外の受け入れを取りやめた。
 
マニラでは少雨に加え、水道インフラの不備により水不足が発生。人口約1300万のうち、およそ半分の世帯が1日4時間から20時間におよぶ輪番断水の対象となり、10日ほど前から市民生活への影響が表れ始めた。(中略)

マニラでは、1985年から人口が倍増し大都市となった首都の成長速度に追い付かないまま、水道水供給網やダムの老朽化が進んでいる。政府も、水需要の急増による問題はかなり前から存在すると認識してきた。

だが、水道水供給能力の拡大プロジェクトは遅滞しており、こうした問題に対応できていない。 【3月17日 AFP】
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気候変動 「(大人には)私たち(若者)が日々恐れていることを感じてほしい。そして、行動してほしいのです」  気候変動は「好機」

2019-03-16 22:01:29 | 環境

(気候変動対策として、マンハッタンを防波堤の役割を果たす高台で囲む「ビッグU」のイメージ図【3月4日 GLOBE+】)

【プラごみ対策 気候変動対策のデジャブ】
これまでもたびたび取り上げてきたように、プラスチックごみによる海洋汚染等に国際的関心が集まっており、日本を含めて各国が使用禁止などの規制を強化する流れにあります。
(3月6日ブログ“プラごみ海洋汚染対策の国際的ルールづくり インドの深刻な大気汚染 韓国は中国との協議を提起”等)

こうした流れを受けて開催された国連環境総会でしたが、アメリカの反対で目標設定が低く抑えられ、更に、そのアメリカは大幅削減に関しては不参加ということに。

****使い捨てプラ、閣僚宣言案が後退 国連環境総会、米が反対****
ナイロビで開催中の第4回国連環境総会(UNEA4)で協議している閣僚宣言案の修正版が12日、判明した。原案にあった、2025年に使い捨てプラスチックを廃絶するとの文言が消え「30年までに大幅に減らす」と表現が大きく後退した。
 
交渉関係者によると、欧州連合(EU)などは「廃絶」の表現を支持したが、米国などが反対し日本も支持しなかった。環境保護団体などからは「野心的な目標が失われた」と批判が出ている。交渉は続いており会期末の15日の採択を目指す。【3月12日 共同】
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****使い捨てプラ、2030年までに大幅削減へ 米国不参加****
深刻化する世界の海洋プラスチックごみ問題について、世界約160カ国が2030年までに使い捨てプラスチック製品を大幅に削減する方向でほぼ合意した。

ケニアの首都ナイロビで開かれている国連環境総会で15日、閣僚宣言を採択した。しかし、米国は閣僚宣言のうち、大幅削減に関しては「特定の製品だけをターゲットにすべきでない」として不参加を表明した。
 
世界経済フォーラム(ダボス会議)は、世界で少なくとも年800万トンのプラスチックごみが海に流出しており、50年には海のプラスチックが魚の重量を上回ると試算している。
 
11~15日に開催された総会では、海洋プラスチックごみや微細化して生きものの体内に入り込む「マイクロプラスチック」について世界各国が協議。30年までに使い捨てプラスチック製品を大幅削減するという文言を閣僚宣言に盛り込むことでほぼ合意した。
 
一方、米国は持続可能な社会を目指す閣僚宣言の方向性には賛成しつつも、使い捨てプラスチック規制には「流出量の多いアジア諸国の廃棄物管理を優先すべきだ」などとして部分的に不参加を表明した。加盟国は今後も議論を続けるという。【3月16日 朝日】
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アメリカ・トランプ政権が気候変動に関するパリ協定からの離脱を決めたことのデジャブを見ているような感じも。

【世界各地で「学校ストライキ」 「私たちが生き残るために、グレーの部分はありません」
一方、気候変動・温暖化に関しては、2月23日ブログ“地球温暖化対策を呼び掛ける16歳少女の訴え、欧州各地に拡大 世界で広がるプラごみ対策”でも取り上げたように、スウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリさん(16歳)の抗議行動をきっかけに、世界各地の高校生らに「学校ストライキ」などの抗議運動が広がっています。

一番深刻な被害を受けるのが、これから数十年この地球上で生きる若者であることを考えれば、当然の要求でもあります。

****120カ国で授業ボイコット 温暖化止める「学校スト」*****
授業をボイコットして地球温暖化を食い止めるために行動を迫る若者たちの「学校ストライキ」が15日、世界各地で一斉に開かれた。

スウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリさん(16)の抗議行動をきっかけに昨年から欧州各地で始まった運動は、日本や米国など世界約120カ国2千カ所に広がった。
 
米首都ワシントンでは、連邦議会議事堂前に約1500人が集まった。呼びかけ人の一人、メリーランド州のナディア・ナザールさん(16)は「私たちは温暖化の影響を受ける最初の世代。そして温暖化に対処できる最後の世代だ。政治家は我々の声を聞くべきだ」と訴えた。
 
トゥンベリさんが触発されたのは、銃規制を求めて授業をボイコットした米国の高校生の運動だ。

今回ユタ州でストライキを企画したケイト・デグルートさん(17)は「どうやって運動を起こしたらいいのか知らなかった若者を後押しした。それが米国に戻ってくるのは素晴らしいことだ」と話す。昨年5月には、保守的なユタ州で高校生の運動から温暖化対策を進める決議が成立した。
 
連邦議会には、若者らが後押しして温暖化対策と社会正義を実現する「緑のニューディール」決議が出されている。民主党の大統領選候補も温暖化対策を訴えており、次回選挙の争点になる可能性もある。
 
温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」では、気温上昇を産業革命前と比べて2度未満、できれば1・5度未満に抑えることを目標に掲げる。国連の報告書は現状のままでは30年にも1・5度に達するという。
 
国連のグテーレス事務総長は英ガーディアン紙への寄稿で、「我々の世代は気候変動に速やかに対応することに失敗した。若い世代が怒るのも無理はない」と述べ、9月に開く温暖化対策の首脳級会合で各国の取り組みの加速を求めた。【3月16日 朝日】
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“国連のアントニオ・グテレス事務総長は、この活動に強い支持を表しており、英紙ガーディアンへの寄稿で「野心的な活動なくしては、パリ合意は無意味になる」と指摘した。”【3月16日 AFP】とも。

“日本や米国など”とありますが、日本でも「学校ストライキ」みたいな取り組みが行われたのでしょうか?(多分、未成年者の政治参加を極度に嫌う日本ではそうした行動はないようにも思います。)

トゥンベリさんは1月、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にも招かれ、「やるか、やらないか」と行動を国際社会に迫っています。

****グレタ・トゥンベリさんの世界経済フォーラム年次総会での演説要旨*****
ダボスのような場所で、人々は成功を語りたがります。でも、彼らの経済的な成功は、気候変動について考えられないほどの代償を伴いました。私たちは失敗したということを認めなければなりません。
 
ただ、まだ時間はあります。最大の解決策は、とても単純で、小さな子どもでも理解できることです。温室効果ガスの排出をやめなければなりません。
 
白黒つけられる問題などないと言われますが、それはとても危険なウソです。地球の気温上昇を1.5度未満に抑えるか、抑えないか、私たちが生き残るために、グレーの部分はありません。
 
大人たちは、こう言い続けています。「自分たちには、若者に希望を与える責任がある」と。でも、そんな希望は望んでいません。大人たちは、私たちが日々恐れていることを感じてほしい。そして、行動してほしいのです。【3月15日 朝日】
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とかくものごとをグレーとして見がちな大人にとっては(そのこと自体は多くの場合、賢明な対応ではありますが)耳の痛い16歳の直言です。確かに、大きな流れを変えるためには、不退転の決意で臨む覚悟が必要であり、白黒をはっきりさせる必要があるでしょう。

【「気候変動は脅威でなく好機」「気候変動で稼ぐ」「よき災害を決して無駄にするな」】
ただ、現実問題として対応を進めていくうえでは“覚悟”だけではなく、具体的な方策が必要です。

そのとき最大の問題となるのが、3月5日ブログ“地球温暖化の進行を止められる新技術となるか? 大気中のCO2除去技術”でも取り上げた、規制強化が経済活動の足かせになるという問題です。

ここを突破するには、気候変動対策が“カネ”になるという道筋をつくり、多くの民間資本や人材がこの分野に流入する枠組みをつくるのが一番効率的です。

気候変動対策を“制約”としてではなく、“ビジネスチャンス”としてとらえる発想です。
更に、その“チャンス”を生かすことで、“”規制を受ける生活ではなく“新たな生活環境”を作っていくという姿勢も重要です。

3月5日ブログでは、大気中のCO2を吸収して新たな燃料に変えていく事業を紹介しましたが、海面上昇や異常気象に対応するための防災都市建設も新たなビジネスチャンスの場となります。

****NY市、マンハッタン洪水対策に560億円 気候変動に備え****
米ニューヨーク市は14日、米国の経済・文化の中心地マンハッタンの一部地域を気候変動による洪水から保護するため、5億ドル(約560億円)を投資すると発表した。
 
投資対象は、洪水リスクの高いマンハッタン南端地域の保護を目的とした4事業。うち一つは、ウォール街の数ブロック先にあるバッテリーパークシティーの南に恒久的な防護壁を建設するもの。
 
民主党のビル・デブラシオ市長が14日に発表したところによると、マンハッタン南部の保護に必要な金額は推定100億ドル(約1兆2000億円)で、今回の投資はそのほんの一部にすぎない。予算の大部分はまだ確保できておらず、連邦政府の支援が必要になる可能性が高い。
 
米政府は気候変動に関する報告書「全米気候評価」で、炭素排出による気候変動がこのまま進めば膨大な経済損失が生じると警鐘を鳴らしているが、共和党のドナルド・トランプ大統領はこの報告書の内容を否定している。
 
マンハッタン南部は、2012年10月の大型ハリケーン「サンディ」で特に深刻な被害を受けた。サンディはニューヨーク市で約40人の死者を出したほか、ニューヨーク、ニュージャージー両州の沿岸部が高さ3メートルの洪水に見舞われ、ニューヨーク州の被害総額は420億ドル(約4兆7000億円)に上った。
 
ニューヨーク市経済開発公社が14日に発表した調査結果によると、マンハッタン南端にある建物の37%が、2050年までに洪水に見舞われる恐れがある。 【3月16日 AFP】AFPBB News
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マンハッタン南部を保護する全体計画は「ビッグU」と呼ばれるもののようです。
いま、そこに多くの企業が参入しようとしているとも。治水対策では歴史的実績があるオランダの企業もそのひとつです。

****水を食い止めろ ニューヨークで進む巨大事業、多国籍企業が治水で稼ぐ****
気候変動対策という巨大ビジネス
東京、ニューヨーク、上海、ジャカルタ……。気候変動に伴い、河口付近の低地に発達した世界中の大都市で大洪水のリスクが高まっている。これらの都市に治水の知恵を売り込むのが、「低地の国」オランダだ。

治水計画の策定・マネジメントを得意とするオランダ発の多国籍エンジニア企業アルカディスは、売上高32億ユーロ(約4千億円)と、この10年で倍増する急成長を遂げている。(中略)

マンハッタンでもっとも低地となる地下鉄駅付近は、2005年にハリケーン「サンディ」が来襲した際、約2メートルの深さの水に覆われて駅は水没。インターネットも長期間使用不能になった。

「10年後にこのあたりに来ると、オランダ式の多機能堤防が見られるはずです」。(アルカディス社の北米部洪水対策担当リーダー)ヴェスターホフは公園の一角を指さして、そう話した。

「低地の国」の知恵の結晶
ニューヨークでは今、アルカディス社も参加する「ビッグU」と呼ばれる気候変動対策が進む。マンハッタンのU字形沿岸部約10マイル(16キロ)を堤防の役割を果たす高台で囲み、洪水や海水面の上昇から守ろうという壮大な計画だ。

見込まれる費用は70億~80億ドルに達する。

高台には商店街やレクリエーション施設、海水面の上昇が観察できる水族館などが設けられ、外観は堤防には見えない。気候変動対策と都市の活性化という「一石二鳥」を狙う。

私はニューヨーク取材の前にオランダのロッテルダムで見た光景を思い返した。一見、ショッピングモールにしか見えない建物は、屋上部分が広い公園になっている。

だが、港から水が押し寄せてきた際には、長さ約1.2キロの施設全体が堤防として機能し、背後にある住宅街を洪水から守る。

国土の多くが海面よりも低く、何百年にもわたって水と闘い続けてきた低地の国、オランダならではの「知恵の結晶」だった。(中略)

「気候変動は脅威でなく好機」
「気候変動と都市化が進む現代にあっては、治水事業は大規模な輸出産業だ」
アルカディスの水管理部門グローバルリーダー、ピート・ディルケは断言する。

米国・ニューオーリンズ市にハリケーン「カトリーナ」来襲した05年の1年前から、ディルケはこの地で治水対策の売り込みに努めていた。

そして、カトリーナ来襲の前日、治水事業を担う米国陸軍工兵隊を相手に、やっと200万ドルで最初の契約を結んだことを、ディルケは「後になって思えば、最も幸運な瞬間だった」と話す。

軍に再び呼ばれ、こう言われたのは、その数日後。「前の契約のことは忘れてくれ。やってもらうことが山ほどできた」。アルカディスが関与する契約の額は、あっという間に2億ドルに膨らんでいた。

そして、最終的に、市の洪水対策事業総額145億ドルの約半分について、プランニングとマネジメントを請け負うことになる。

アルカディスの躍進のもう一つの鍵は、ロッテルダム市にある。

市は05年以降、「気候変動を脅威ではなく、街づくりと経済を活性化させる好機と捉える」というコンセプトを掲げ、気候変動対策で世界中の都市をリードすることをめざしている。

商業施設を備えた堤防はその一環だが、ほかにも大雨に備えた排水施設・貯水池を市民の憩いの場として活用する「ウォーター・プラザ」などのアイデアを民間企業の協力で続々と実現させている。

市でこれらの事業を統括する責任者のアモウド・モレナーは「アルカディスはロッテルダムの成果を世界に伝える大使の役割を果たしている」と話す。一方、アルカディスはロッテルダムを「巨大なショーケース」として、ブラジル・サンパウロ、中国の武漢など、世界の各都市でビジネスを展開する。

コラボという新文化
もう一つ、オランダが米国の治水計画に持ち込んだものとして「コラボレーション」の文化がある。

米国では従来、水害に対して、個々人や各企業が損害保険に加入するなどして自力で備えようとする一方で、統合された対策を講じようとする傾向が乏しかったという。

現在、オランダ政府の国際水資源問題特使を務めるヘンク・オヴィンクは「サンディ」被災後の再建計画についてオバマ政権にアドバイス。デザインコンペによって民間から広くアイディアを募り、合意を形成してゆく手法を確立させた。「ビッグU」はその成果の一つだ。

ヴェスターホフは言う。「治水事業は『AかBか』という単純な選択で成立するものではなく、行政府や企業、地元住民らが協力し、『最適解』を求めて作り上げていくものだ。

オランダには『よき災害を決して無駄にするな』ということわざがある。災害の経験を必ず生かし、次に備えること。この精神を根付かせたい」【3月4日 GLOBE+】
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パレスチナ・ガザ地区  再びロケット弾攻撃、イスラエルの報復 その狙い、影響は?

2019-03-15 23:06:47 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ地区で15日未明、イスラエル軍の報復空爆を受けて炎上する市街地=ロイター【3月15日 朝日】)

【復興を目指すパレスチナ・ガザと東日本大震災被災地の“絆”】
遠く離れた紛争の地・パレスチナ自治区ガザ地区と日本には意外な“絆”もあるようです。

****ガザで「日本の日」 東日本大震災からの復興の願い込めたこ揚げ****
パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスで14日、「日本の日」と銘打ったたこ揚げイベントが開かれた。参加した約500人の子どもたちは東日本大震災からの復興への願いを込め、色とりどりのたこを泳がせた。

日本の高校生からの動画メッセージなども上映され、約9000キロ離れたガザと日本で交流を深めた。
 
イベントは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が主催して東日本大震災の翌年の2012年から開かれており、今回が8回目。

参加者を代表してハナ・アブムスタファさん(14)が「私たちは日本の方々の痛みを忘れません。パレスチナ人は『あきらめない』という教訓を得ました」とあいさつした。
 
岩手県釜石市とガザは東日本大震災を機に交流を続けている。今年もたこを揚げる様子などを互いに配信。アラブの伝統舞踊ダブケなども披露し、日本側からも釜石市や広島、東京の高校生らから動画メッセージが寄せられた。【3月14日 毎日】
******************

「天井のない監獄」とも言われる封鎖状態のガザの方は、戦乱からの復興が今なお難しい状況が続いています。日本の被災地は・・・・どうでしょうか?

【焼夷風船vs地対空ミサイル迎撃システムiron dome 毎金曜日の境界での衝突】
そのパレスチナでまた、イスラエルに対するガザ地区からのロケット弾攻撃と、それに対するイスラエル軍の大規模報復空爆がありました。その話の前に、緊張が続いているガザ地区の最近の状況ついては、以下のように。

****悪化するガザ情勢****
ガザを巡っては、5~6日にかけて焼夷風船への報復として、IDF(イスラエル軍)がガザのハマス軍事組織拠点を攻撃したが、双方に人的被害はなかったことを報告しましたが、ガザを巡る緊張はその後増大しているようです

al qods al arabi net とhaaretz net は、その翌日の6~7日にかけて、また焼夷風船が飛ばされ(技術的な改良の後が見られ、風船から爆発物を落すことができるようになった由)、またロケット弾が飛ばされた由。

これに対して、IDF機がハマスの軍事組織拠点に対し、6発のロケット弾を撃ち込み、また(久しぶりに)短距離地対空ミサイル迎撃システムのiron dome が作動した由。

境界線上での衝突で、銃撃された16歳のパレスチナ青年が死亡した由(中略)

昨日の記事に書きましたが、どうやらガザでの緊張の激化の一つの要因は「帰還のための行進」開始から1周年ということのようですが、最近では毎週金曜礼拝の後で、大きなデモと衝突が起きていました。

明日がその金曜ですが、金曜日に照準を合わせたように、ガザでは、日を追って緊張が増大しているように見えるので、明日の動きが気になります。取りあえず。【3月7日 「中東の窓」】
*******************

“焼夷風船”というのは、いわゆる風船爆弾ですね。(冒頭“たこ揚げ”の延長でしょうか)
人的被害はなくても山火事などを起こすため、イスラエル側は相当に苛立っています。

パレスチナ側からすれば、「超安価な焼夷風船vs高価な地対空ミサイル迎撃システムiron dome」というのは、おそろしく費用的に効率のいい攻撃です。

【ハマスが住民不満を外部にそらすため? 和平協議へ反対する勢力の妨害行為?】
上記のような悪化した状況での今回の衝突です。

****イスラエル最大の商業都市にロケット弾攻撃 空爆で報復****
中東のパレスチナ暫定自治区から発射されたロケット弾がイスラエルの商業都市テルアビブに飛来し、これに対し、イスラエル軍は報復に乗り出して、ガザ地区の100か所以上を空爆し、双方の衝突が激しくなっています。

イスラエル軍によりますと、14日夜、パレスチナのガザ地区から発射されたロケット弾2発が、およそ70キロ離れたイスラエル最大の商業都市テルアビブに飛来し、空き地などに着弾したとみられ、けが人はいませんでした。

ハイテク企業が集積し、日本企業の進出も相次いでいるテルアビブがロケット弾攻撃の標的になるのはおよそ5年ぶりで、テルアビブ周辺では一時、空襲警報が鳴り響き、さらなる攻撃に備えて避難用のシェルターが開放されました。

一方、イスラエル軍は、ロケット弾攻撃はガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスによるものだとして報復に乗り出し、戦闘機などを使ってガザ地区にあるロケット弾の製造施設など、100か所以上の軍事施設を空爆し、これにハマス側もロケット弾で応戦して、双方の衝突が激しくなっています。

ハマスはロケット弾攻撃への関与を否定しています。

ただ、ハマスは、この直前にガザ地区の各地で発生したハマスに対する異例の抗議デモを武力で鎮圧していて、現地メディアの間では、住民の関心をそらそうとイスラエルへの攻撃を仕掛けたのではないかという見方も出ています。【3月15日 NHK】
********************

“ロケット弾攻撃はガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスによるものだとして”というのは、ハマスの関与の有無にかかわらず、ガザ地区を実効支配するハマスが「ガザで発生したすべての事案に対する責任を負う」というイスラエル側の立場です。

上記NHK記事の最後にある“ハマスは、この直前にガザ地区の各地で発生したハマスに対する異例の抗議デモを武力で鎮圧”云々については、上記以上の情報は目にしていません。

最初に少し触れたように、ガザ地区では復興が進まず、住民の経済状態も困窮が続くという状況ですので、謝意するハマスへの不満を強まっている・・・ということを背景にしたものでしょう。

誰がどういう思惑でロケット弾攻撃を行ったのかはわかりません。上記のようなハマスが、住民不満を外部にそらすためという見方は、ひとつの見解ですが。

“イスラエルとハマスは、エジプトの仲介で停戦の長期延長に向け協議していたとされ、これに反対する勢力が妨害目的でロケット弾を撃った可能性がある。”【3月15日 時事】という見解もあるようです。

どの紛争でも、和平の動きに対しこれを妨害しようとする勢力がありますので、ありえない話ではありません。

【総選挙を控え逆風下にあるイスラエル・ネタニヤフ首相にとっては追い風?】
一方、今回の衝突はイスラエル側の政治状況にも大きく影響しそうです。(別に、その思惑でイスラエル側が仕掛けたという訳ではありませんが)

イスラエルでは総選挙を前に右派ネタニヤフ首相が汚職で起訴されることになり、与党側の苦戦も報じられています。

****イスラエル 10年ぶり政権交代も 4月総選挙、右派苦戦*****
イスラエル総選挙が4月9日に実施される。選挙戦は5期目を目指すネタニヤフ首相率いる右派政党リクードと、ガンツ元軍参謀総長とラピド元財務相の中道政党連合「青と白」が第1党の座を争う構図となっている。

選挙後にネタニヤフ氏を収賄罪などで起訴する検察の方針を受けて、リクードは苦戦を強いられており、10年ぶりの政権交代の可能性も出ている。
 
「今後も首相として国民と国に奉仕する」。検察が起訴方針を示した2月28日、ネタニヤフ氏は無実を主張し、首相続投への意欲を強調した。

イスラエルでは首相が違法行為で起訴されたとしても辞任する法的義務はない。仮に起訴された場合、法廷闘争を続ければ有罪になっても5期目の任期中に収監されることはないとみられ、ネタニヤフ氏は強気の姿勢を崩さない。
 
起訴方針が明らかになった後の3月初旬の世論調査では、「青と白」が定数120のうち36〜38議席を獲得すると予想され、29〜30議席のリクードは劣勢だ。

だが、リクードと連立を組んできた右派や宗教政党は、なおネタニヤフ氏の首相続投支持を表明。右派・宗教政党ブロックの結束は固い。
 
ネタニヤフ氏は、エルサレムをイスラエルの首都と認定し大使館をエルサレムに移転したトランプ米大統領との蜜月ぶりなど、外交面の成果を誇示。通算で約13年に及ぶ首相としての実績を強調している。
 
一方、ガンツ氏はネタニヤフ氏を「汚職にまみれた首相」と呼び辞任を要求。「右派も左派もない」と国民の結束を呼びかけ、中東和平プロセスの進展を目指すとも公言。ガンツ氏の他にも元軍参謀総長2人が合流しており、安全保障面での強みもアピールしている。
 
ガンツ氏はネタニヤフ氏の起訴方針が発表された後に「ネタニヤフ氏と同じ政権にいることはあり得ない」と、連立には加わらない考えを示した。ただリクード内でネタニヤフ氏降ろしが起きれば、リクードとの連携もあり得るとの立場だ。
 
4月の総選挙に向けて42政党が名簿を提出しているが、実際に議席を獲得できるのは13〜14政党とみられている。単独政党が過半数を獲得する見込みはなく、選挙後の連立協議で政権が樹立される。【3月9日 毎日】
******************

上記のようなネタニヤフ首相にとって逆風が吹くなかでの今回衝突です。その影響は?

****テルアビブへのミサイル発射(イスラエル、ガザ)****
(中略)他方、この時点でテルアビブにミサイルが発射された背景が懸念されるところで、4月には(確か9日か?)イスラエル総選挙があることになっていて、パレスチナの誰かがそれを狙ったか否かは別として、haretz net は選挙を控えたネタニアフとしては、十分な反撃(報復)をしないことも、やりすぎて本格紛争に至ることも、選挙に影響するというジレンマを抱えているとしています。

他方現在エジプトの情報機関等が、ハマスとイスラエル間の緊張緩和を働きかけ、それとは別にカタールもハマスの資金援助等を通じて同じようにはたきかけているところ、haaretz net は彼らの動きに期待を表明しています。(中略)

いずれにしても、本日が金曜日で、恒例の?ガザでの緊張の日ですが、昨夜の動きを踏まえて、どういうことになるのか大いに懸念されるところです。

またイスラエル紙が指摘しているところ、この事件のイスラエル総選挙に対する影響が気になりますが、ネタニアフの汚職疑惑等から彼の率いる右翼グループの支持率が下がっていて、元参謀長たちの新しい政党が人気を得つつあるとの報道もあるところ、今回もこのような事件で右翼の強硬派に対する支持が盛り返すとすると、ネタニアフはラビン首相暗殺後、ペレス労働党が当然勝つものと思われていたのが、パレスチナのテロでリクードが勝った二の舞、と言うかまたもやパレスチナの過激派の動きで、ネタニアフが得をすることになるのか、更には彼が占拠を気にして、地上進攻などの強硬策をとることにならないか気になるところです。

気になる事ばかりですが、取りあえず。【3月15日 「中東の窓」】
*************************

haretz netは“十分な反撃(報復)をしないことも、やりすぎて本格紛争に至ることも、選挙に影響するというジレンマを抱えている”としていますが、一般的には、こうした衝突はパレスチナへの強硬姿勢を示してきた右派(つまりネタニヤフ首相など)に有利に働くと思われます。

テロリスト側の過激派と右派強硬派の利害が、「和平の動きをとん挫させ、緊張状態を高め、主戦論主張勢力の立場を強くする」と言う点で一致する(裏でつながっているのでは・・・と思いたくなるほど)というのは、これまたどの紛争でも見られる現象です。

【進まないパレスチナ和平協議 「世紀の取引」は?】
上記記事にあるエジプト、あるいはカタールの和平調停の最近の動きについては知りません。(エジプトについては、シナイ半島をパレスチナに提供して、その代わりに・・・・なんて、実現できそうもない話は以前ありましたが)

エジプトの調停と言っても、できることは、自分のところに火の粉が飛んでこないようにという“とりあえず”の対応でしょう。

トランプ大統領の「世紀の取引」も、どうなったのかは知りません。そのうち、パレスチナ側の意向は無視しても、“華々しく”公表されるのかも。

基本的にトランプ大統領は中東に関心があるようには見えませんし、エルサレムへの大使館移転に見られるように中立的立場を捨ててイスラエル支持を鮮明にしていますので、仲介も困難になっています。

また、根気強く時間をかけて、入り組んだ利害の調整を行う気もないでしょう。「どうしてアメリカの得にもならないパレスチナなんかに、時間・カネをかける必要があるんだ?」といったところでしょう。

でも国内外からの賞賛は欲しい。オバマ前大統領がもらったノーベル平和賞も欲しい・・・とにかく短期の華々しい成果を誇示することしか念頭にないと思われますが、今はロシア疑惑だ、中国だ、北朝鮮だ・・・で忙しく、パレスチナどころではないとも思われます。

それとも、だからこそパレスチナ「世紀の取引」で一発逆転狙いでしょうか?

【自治政府 ハマスとの統一政府樹立は困難に】
ところで、パレスチナ自治政府は何をしているのか?

****パレスチナ首相にファタハ高官 ハマスとの統一、難航か****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は、自治政府の主流派組織ファタハ高官のムハンマド・シュタイエ氏を新首相に任命した。

シュタイエ氏はアッバス氏の側近で、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスには批判的とされる。ファタハとハマスの分裂状態を解消し、統一政府樹立をめざす和解交渉はいっそう難航する可能性がある。
任命は10日。

今年1月末にアッバス氏に辞表を提出したハムダラ前首相は、ハマスとの和解交渉を主導したが、18年3月にガザ地区を訪れた際、自らの車列を狙った爆発事件が起きたこともあり、和解交渉は停滞している。
 
シュタイエ氏は以前、イスラエルとの和平交渉を担当したが、イスラエル寄りのトランプ米政権は、在イスラエル米大使館をエルサレムに移し、パレスチナへの支援を大幅に削減するなど圧力を強めている。

パレスチナは米国が仲介するイスラエルとの和平交渉を拒否し、米国が近く示すとみられる和平案にも応じない構えを見せている。【3月12日 朝日】
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ハマスとの統一ができないと、イスラエル・アメリカとの交渉も進められません。

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イコール・ペイ・デイ 男女間の賃金格差問題への注意を喚起するための取り組み

2019-03-14 22:45:27 | 女性問題

(米国でのイコール・ペイ・デイのイベントで販売されるレモネード。男女間で値段に差があるのが分かる(2016年4月16日撮影)【2017年11月19日 The Telegraph】

【ドイツ イコール・ペイ・デイに女性の運賃割引 でも、女性であることの確認は?】
男女間の賃金格差問題への注意を喚起するための「イコール・ペイ・デイ」という日があるそうです。

いつに設定されるかは、その国の格差状況によるとのことで、例えば女性が77日間多く働いてようやく男性と同じ賃金になるといった格差がある場合、1月1日から77日目の3月18日が「イコール・ペイ・デイ」ということになります。

上記の77日というのはドイツの事例ですが、欧州にあっては男女格差が大きいドイツでは率にすると21%の差があるとか。そこで・・・・

****ベルリン:男女の賃金格差は21%、だから女性の運賃を21%割引に****
<ドイツはヨーロッパで男女間の賃金格差が最も大きい国の一つ。この格差解消を訴えるキャンペーンの一環として、ベルリン公共交通BVGが施策を発表した>

来る3月18日月曜日はドイツのイコール・ペイ・デイ「同一賃金の日」だ。男女間の賃金格差問題への注意を喚起するのが目的だ。欧州委員会の統計局ユーロスタットの2017年のデータによると、ドイツはヨーロッパで男女間の賃金格差が最も大きい国の一つで、21%の差がある。ドイツより格差が大きいのは、エストニアとチェコのみだ。

格差解消を訴えるキャンペーンの一環として、首都ベルリンではベルリン公共交通BVGが、女性のために通常の1日券より21%安い「女性チケット」を3月18日限定で販売することを公表した。

男女賃金格差を示すイコール・ペイ・デイの日付
イコール・ペイ・デイは世界的に見られるが、その日付は国、そして年によって異なる。これは、その国の男女間の賃金格差によって算出されるもので、差が21%であるドイツでは女性が男性より77日多く働いてやっと同一賃金が達成されるということになり、それが2019年では3月18日というわけだ(2018年1月1日を基準にした時)。

したがって、イコール・ペイ・デイの日付はその国の格差状況を如実に表しているといえる。

BVGはこの象徴的な数字を使用し、この日、通常7ユーロする1日乗車券より約21%安い「女性チケット」を5.5ユーロで販売する。

ベルリンは今年始め、ドイツで初めて3月8日の「国際女性デー」を祝日にすることを決定し、先日さっそく実施したばかりだ。(中略)

首都が一丸となって女性を支援、巷の反応は?
市が有する公共の交通機関であるBVGの今回のキャンペーンにより、ベルリンは市としての女性への支援を連続して前面に押し出す形となった。ポリティコEU版によると、BVGは「ベルリンのほとんどの男性は、今回のアクションを理解しているだけでなく、サポートもしている」と考えている。

だがSNSなどの反応を見ると、巷での評判はいまいちのようだ。「イコール・ペイ」とは本来「同一の仕事に対する同一賃金」を目指すものなので、平均的な21という数字を利用して、職業の区別なく女性にだけ一律にディスカウントを提供するのはおかしいと言う男性もいる。

さらに、BVG は今週14日にストライキを予定していること、バス全線でWi-Fiの使用可能を目指すなど「無駄なコスト」をかけすぎていること、そして時間に正確でないことなどから、今回のキャンペーンを諸問題から市民の目をそらせるためのポーズだと見る向きもある。

また、ドイツ人はこのような形の割引に慣れていないのかもしれない。以前日本に来たドイツ人男性は、日本の居酒屋や旅館などでよくある「女性割引」について、「女性を(子供のように)格下に見ているようで、おかしい」と苦言を呈した。

国ごとの男女賃金格差を如実に表す
しかしながら、大半は「たった1日、イコール・ペイへの注意を喚起するためのアクションに目くじらをたてることもなかろう」という意見のようだ。賛成する者も多い。

「女性チケット」は女性の使用に限られ、男性が使用した場合は、子供やシニアなど通常の割引チケット使用適用外のときと同じように罰金を課される。

つまり、女性であることを身分証明書などで証明する必要があるわけだが、性の定義が複雑になってきた昨今、どのように対処するのか興味深いところだ。

肝心のBVG自体ではイコール・ペイが実現されているようだ。また、現在1万5千人いる従業員のうち約20%が女性だが、これを2022年までに27%に増やすことを目標としているという。

ちなみに今年、スイスのイコール・ペイ・デイは2月22日だった。アメリカでは4月2日が予定されている。日本では昨年、4月6日がイコール・ペイ・デイとされ、各種の催し物が行われたようだが、今年の情報はまだ見当たらない。

男女間の賃金格差ワースト常連国の日本。格差が縮まれば縮まるほどイコール・ペイ・デイの日程は早くなる。いつかイコール・ペイ・デイそのものがなくなることを願う。【3月14日 モーゲンスタン陽子氏 Newsweek】
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イコール・ペイ・デイの設定の仕方はいろいろあるようです。

****女性は年末までタダ働き****
EU内での男女間の賃金格差は16%にもなり、丸一年男性と同様に働いても女性は昨日の11月3日分までしかお給料をもらえない計算なるとEU委員会が発表している。

委員会は認知を高めるため、11月3日をイコールペイ・デーとした。

EU委員会の計算では12%の差異があるとなっているスウェーデンでも同様の「16時02分」の指標がある。こちらは毎日8時から17時まで働いても、女性は16時2分まで分しか給与を払ってもらっていないことを表している。【2018年11月4日 https://swelog.miraioffice.com/entry/equal-pay-day
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イコール・ペイ・デイという企画も面白いですが、割引対象となる女性であることを“性の定義が複雑になってきた昨今、どのように対処するのか”という問題が生じるあたりは、更に面白いところです。

“性の定義が複雑になってきた昨今”を如実に示す問題にアメリカ・米軍の対応も揺れています。

****米軍のトランスジェンダー制限、国防総省が新方針発表****
米国防総省は13日、性別適合手術を受けた人やこれから受ける意向の人の軍新規入隊を禁止とし、ほとんどの兵士に出生時に決められた性に基づいて勤務するよう求める新方針を明らかにした。
 
米連邦最高裁判所は今年1月、心と体の性別が一致しないトランスジェンダー(性別越境者)の軍入隊を制限するとしたドナルド・トランプ大統領の措置について、訴訟が結審するまで発効を認めると判断。
 
この措置が発効となる4月12日以降、トランスジェンダーの兵士は出生時に決められた性に基づいて勤務している人のみ、軍にとどまることが認められ、ホルモンの服用や性別適合手術を受けることは禁止される。
 
この動きは自らが認識する性に基づいて軍に勤務することを認めたバラク・オバマ前大統領の方針に逆行するもので、トランプ政権の措置に対しては直ちに民主党や人権団体などから非難の声が上がった。
 
訴訟合戦を経て、現在の国防総省の方針はトランスジェンダーの人々が軍務に就くことを完全に禁止するものではなくなっている。

また、トランスジェンダーの兵士は4月12日の発効期限までホルモンの服用や性別適合手術を受けることができる。
 
しかし発効以降、性別適合手術を受けた人や性別違和と診断された人は入隊できず、すでに出生時に決められた性で入隊している兵士はそのままの性で勤務を続けることが求められ、性別適合治療は断念しなければならなくなる。
 
匿名を条件に取材に応じた国防総省当局者によると、米軍の現役兵130万人のうちトランスジェンダーだと自認する兵士は約9000人おり、すでに性別適合手術を受けた、またこれから受ける意向の兵士は約1000人に上るという。 【3月14日 AFP】
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130万人中の9千人・・・多いのか少ないのか?

【アメリカ 大統領を目指す女性の政治塾】
話を男女格差に戻すと、格差は賃金だけでなく、ヒラリー・クリントンが涙した「ガラスの天井」といった、女性の進出を阻む有形無形の壁の問題があります。

しかし、ヒラリーの挑戦も影響したようで、アメリカでは「大統領を目指す女性の政治塾」が大盛況とか。

****私が大統領になる! 若手女性向け政治塾、米国で大盛況****
米国で政治家をめざす女性が増えている。昨年11月の米中間選挙では、過去最多の女性が連邦議員に当選し、ネバダ州議会は米史上初めて女性議員が男性議員の数を上回った。

米国は日本と同様に女性の政治参加は遅れていたが、今では女性対象の「政治塾」は各地で大にぎわいだ。女性躍進を支える現場を歩いた。

「みんなで気合を入れましょう!」。司会者が呼びかけると、大学講堂を埋めた若い女性たちが「頑張るぞ!」「出馬準備完了!」と元気よく応じた。2月9日、南東部ジョージア州アトランタ郊外で、政治家をめざす若い女性を対象にした研修会が開かれていた。

■2040年の大統領選に照準
連邦下院議員を含む現職の女性議員が、なぜ政治家をめざし、どんな活動をしているかを講演。どうやって地域のニーズをくみ取り、立法や政策に反映させるかを具体的に教える講義もあった。

企業幹部など多彩な女性講師陣は、リーダーの心構えを説いた。
「自分が選挙で勝てるはずはないという先入観は捨てて、自信を持って」「男性から『今晩一杯飲みながら打ち合わせよう』と言われたら、『朝8時にコーヒーを飲みながら話しましょう』と返して」といったアドバイスも相次いだ。
 
参加した約200人の多くは大学生だが、高校生もいた。高校生のクレアさん(16)は「教師をめざしているけれど、政治家になって教育問題に取り組もうかな」と目を輝かせた。
 
主催したNPO「イグナイト」によると、こうした研修会を2012年から開いており、ヒラリー・クリントン氏が大統領選に出た16年ごろから申し込みが5倍以上に増えたという。【3月14日 朝日】
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アメリカは人種の問題、経済格差の問題、銃社会の現状等々、いろんな問題を抱えていますが、上記のような動きを聞くと、健全さを回復しようとする力も感じます。

ちなみに、“昨年11月の米中間選挙で改選された第116回連邦議会が(1月)3日、初招集され、下院(定数435)で8年ぶりに多数党となった民主党からナンシー・ペロシ下院議員(78)が下院議長となった。女性議員が初めて100人を超えたほか、初のイスラム教徒(ムスリム)女性議員や初のアメリカ先住民女性議員が初登院し、過去にないほど多様な顔ぶれの議員構成を印象付けた。”【1月4日 BBC】とのこと。

【日本のお寒い状況 韓国の女性蔑視 似た者同士か】
その点、日本は・・・。昨年のイコール・ペイ・デイが非常に遅い4月6日という賃金格差も問題ですが、それ以上に、上記のような意気込みを示す女性が少ないというところがもっと大きな問題のように感じます。

日本において女性の政治進出が遅れていることは毎度国際的に指摘されるところです。
最近は改善ではなく、後退の様相も。

****女性閣僚、188カ国中171位 日本、2年で65位下げる****
世界の国会議員が参加する列国議会同盟(IPU、本部ジュネーブ)と国連のUNウィメンは12日、各国の女性閣僚比率(年初時点)に関する報告書を発表した。日本は188カ国中171位で、2年前より65位下げた。
 
女性活躍を掲げる安倍政権は閣僚19人のうち、女性は片山さつき地方創生・女性活躍担当相のみで、比率は約5.3%。2年前より2人減り、中国やイラン(いずれも164位)を下回った。女性議員比率に関するIPU報告でも日本は193カ国中165位だった。
 
女性閣僚比率の1位はスペインで17閣僚中11人。韓国は83位、米国は88位だった。【3月13日 共同】
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政治世界だけでなく、企業においても。
ILO報告によれば、“2018年の時点で管理職に占める女性の割合は世界全体では27.1%と推計され、およそ30年にわたって緩やかな増加傾向が続いていますが、依然として低い水準にとどまっています。
国別に見ますと、G7=先進7か国ではアメリカが39.7%と最も高く、イギリスが35.9%、カナダが35.3%と続き、日本は大きく離され12%で最下位でした。”【3月8日 NHK】

制度的な問題のほかに、男女双方の意識の問題もありそうです。

そのあたりは隣国・韓国も問題を抱えています。

****Kポップ界に広がるセックススキャンダル、まん延する女性差別 韓国****
韓国のKポップ界は、究極に清廉潔白なイメージでスターを売り出してきた。スターたちはその健康的なルックスで世界中にファンを増やしてきたが、このところセックススキャンダルが相次いでいる。

活動家らは、これらのスキャンダルは、韓国社会にまん延する女性への差別と虐待を浮き彫りにしていると指摘する。
 
わずか2日のうちに、男性人気アイドルグループ「BIGBANG(ビッグバン)」のメンバーV.I(本名イ・スンヒョン)さんと、男性人気歌手チョン・ジュニョンさんの2人が、相次いで芸能界からの引退を表明した。(後略)【3月14日 AFP】
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日韓両国に共通する要因としては、儒教社会の残滓でしょうか?
いずれにしても、政治問題では犬猿の仲の両国ですが、男女格差における意識の低さでは似た者同士のようです。

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ブラジル  “ブラジルのトランプ”と評されるボルソナロ大統領 正念場は年金改革

2019-03-13 23:21:52 | ラテンアメリカ

(下院議長に年金改革法案を手渡すボルソナロ大統領(左)【2月21日 日経】)

【泡沫候補から一転、大統領に 背景には「今までの通りではだめだ」との国民の不満】
昨年10月のブラジル大統領選挙で、女性・黒人・同性愛者への差別的発言を繰り返し、軍事政権時代を評価する発言もする“ブラジルのトランプ”とも呼ばれるジャイル・ボルソナロ氏が、当初の泡沫候補扱いから一転、勝利に至ったことは周知のところです。

****ジャイール・ボルソナーロ****
2017年、連邦裁判所はボルソナーロにリオデジャネイロでのイベントでのアフリカ系民族に対する人種差別的な発言の咎で50,000レアルの罰金(16,000ドルを超える)の支払いを命じる判決を下した。
しかし、数日後、彼は 「黒人は繁殖する役割ではない」と述べた。

その年の8月、同じように左派労働党(PT)のマリア・ドゥ・ロザリオ下院議員に10,000レアルの支払いを命じる判決が下された。この女性はボルソナーロの様々なメディアのインタビューに飛び入り、若い夫婦を誘拐し、レイプして殺した16歳の少年、 "シャンピニャ"の行動を非難した。

インタビューが中断している間、マリア・ドゥ・ロサリオは、ボルソナーロが強姦擁護派であると非難した。それに対し、ボルソナーロは「彼女(マリア・ドゥ・ロザリオ)はレイプされるに値しない。なぜなら彼女は醜いからだ。私のタイプじゃない。私は強姦魔ではない。強姦魔だったとしても彼女をレイプしない。それに値しないからだ」と述べた。

外交面では、在イスラエル・ブラジル大使館をエルサレムに移転すると発表している。【ウィキペディア】
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まあ、売り言葉に買い言葉的なところがありますから、一言一句をあげつらう気もありませんが、基本的な姿勢・考えはうかがえるかと思います。

****SNS活用 “泡沫”一転、勝利に****
(2018年10月)28日投開票のブラジル大統領選で当選した極右、社会自由党のジャイル・ボルソナロ下院議員(63)は勝利宣言で、トランプ米大統領の決まり文句を意識しながら「ブラジルを偉大で栄える国にする」と誓った。

自分に不都合なニュースを「フェイクニュース」と決めつけ、「ブラジルのトランプ」と呼ばれるボルソナロ氏は、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を有効に活用し、泡沫(ほうまつ)候補とみなされていた序盤から一転、勝利につなげた。
 
党の資金や組織力が乏しく、知名度が低かったボルソナロ氏の選挙戦は、有力政治家の応援もなく、政党議席数に応じて配分されるテレビの政見放送時間も短かった。

だがSNSで汚職非難のメッセージや動画を繰り返し投稿し、直接有権者に訴えると、熱心な支持者が勝手連的に増え、メッセージが拡散していった。

フォロワー数は9月時点で約1000万人に上り1月から4割増加。陣営は否定するが、企業を使った違法な大量メッセージ送信やフォロワー数の水増しなどの疑惑が浮上した。
 
またボルソナロ氏は9月、遊説中に自身に反発する元左派政党党員にナイフで刺され重傷を負い、「同情票」でも支持を集めた。

医師から討論会参加の許可が出た後も体調不良を理由に公開の討論会には出席せず、最後までSNS中心の選挙戦を続けた。勝利宣言もフェイスブックの動画中継で済ませ、街頭に出ることはなかった。
 
代わりに28日夜、南東部リオデジャネイロの自宅前でテレビのインタビューに応じ、「政府の財政赤字を減らして経済成長を促し、雇用を増やす」と語った。自宅周辺には数万人の支持者が集まり、花火を打ち上げて当選を祝った。
 
サンパウロ市内でボルソナロ氏に投票した技師のファビオ・マッシャードさん(24)は「彼が掲げる汚職一掃と治安対策を進めてほしい」と望み、「軍事独裁に戻る不安はない」と話す。

一方、対立候補のフェルナンド・アダジ元教育相(55)=労働党=に投票した学校職員のジュリアナさん(36)は「黒人や性的少数者、女性へのひどい発言は人間として信用できない。政権に軍人ばかりが増え、民主主義がどうなるのか不安だ」と危機感を吐露した。【2018年10月29日】
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上記のような「ボルソナロ旋風」が吹き荒れた背景には、汚職にまみれた既成政治への国民の反発、「麻薬戦争」とも呼ばれるメキシコ以上に劣悪な治安に対する秩序回復への期待、総じていえば「今までの通りではだめだ」という国民の思いが、“型破り”な言動のアウトサイダーへの人気に火を着け、また、停滞する経済状況の回復への期待にもつながったと思われます。

【銃規制緩和 相変わらずの奔放な発言も 軍賞賛発言には懸念も】
今年1月に就任したボルソナロ大統領は、“ブラジル北部フォルタレザで犯罪組織の襲撃激化、政府が軍展開へ”【1月6日 AFP】“ブラジル新政権、公営100社を民営化・閉鎖へ 債務削減の一環”【1月9日 AFP】と、治安回復・経済改革への取り組みを始めました。

いかにも“彼らしい”施策としては、銃規制緩和も。

****1人4丁まで所持可能 ブラジル、市民の銃規制を緩和****
南米ブラジルのボルソナーロ大統領は15日、市民の銃所持の規制を緩和する大統領令に署名した。警察による審査が簡素化され、25歳以上なら条件を満たせば銃を所持できる。

ブラジルでは治安悪化が社会問題になっており、ボルソナーロ氏は大統領選で治安回復を公約に掲げ、市民が銃で武装すべきだと訴えていた。
 
ブラジルでは市民の銃所持は法律上認められてきたが、警察による厳しい審査があり、事実上、銃は買えなかった。今回の規制緩和で、犯罪歴や精神疾患がないなどの条件を満たせば、25歳以上なら1人4丁まで銃を所持できる。
 
ボルソナーロ氏は署名後、「これで善良な市民が家庭で平和を手に入れることができる」と演説した。

ただし、銃所持が治安回復につながることを疑問視する市民も多く、直近の世論調査では61%が銃所持に反対だった。【1月16日 朝日】
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どうして4Tも必要なのかは知りませんが、犯罪歴がある者でも容易に“犯罪歴のない者”を介して銃を入手できるようにもなりますので、“火に油を注ぐ”ようなことになるのではと危惧します。

“型破り”は相変わらずで、トランプ大統領と確かに似ています。

****ブラジル大統領、カーニバルの「放尿動画」投稿が炎上 ****
ブラジルのボルソナロ大統領がツイッターに第三者の「放尿動画」を投稿し、波紋を広げている。

カーニバルに乗じ羽目を外す国民に苦言を呈する目的だったが、性的な内容を含んでおり、批判が相次いだ。

奔放な発言や交流サイト(SNS)の活用で泡沫(ほうまつ)候補から一躍大統領に上り詰めたボルソナロ氏だが、就任後も自粛する気配はみられない。(後略)【3月7日 日経】
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まあ、このあたりは“ご愛敬”的な部分もあります。

下記の軍を賞賛する発言は、過去の軍事政権を評価する人物の発言という前提で聞くと、やや不気味なところもあります。

****国軍は自由と民主主義の最後の砦=ブラジル大統領****
ブラジルのボルソナロ大統領は7日、同国の軍は民主主義の最後の砦だと述べた。

自らも軍人出身の大統領は、当地で行われた海軍の行事で演説し、軍を賞賛したうえで、「自由と民主主義は、軍が望まなければ存在し得ない」と述べた。

ブラジルは、1964─85年に軍政の独裁時代を経験、大統領は長年これを擁護する立場を取っている。反ボルソナロ派は、政権内で軍幹部出身者の役割が増していることに懸念を示している。

アミウトン・モウロン副大統領はブラジリアで記者団に、大統領の発言に脅迫の意図はないとして擁護し、「大統領は、もし軍が自由と民主主義にコミットしなければ、その価値観は死滅すると言ったもの。それはベネズエラで起きていることで、同国軍はこの価値観を破壊した」と語った。(後略)【3月8日 ロイター】
*****************

軍は自由と民主主義の擁護者である・・・ということなのでしょうが、軍事政権への評価などを加味すると、自由と民主主義の在り様を決めるのは軍の力だ、軍が望まない自由と民主主義は存在しえない・・・というようにも聞こえます。

【類が友を呼ぶ? 人権派市議殺害容疑者との関係】
更に気になる“疑惑の関係”に関する報道も。

****人権派市議殺害の容疑者ら、大統領との接触は「偶然」 警察見解 ブラジル****
ブラジルの人権派市議マリエル・フランコ氏が昨年殺害された事件で、容疑者の2人がジャイル・ボウソナロ大統領と接触していたとされる指摘について、警察当局は12日、偶然だとする見解を示した。事件への関与の有無をめぐり、ボウソナロ大統領には厳しい目が向けられている。
 
容疑者は2人とも軍警察の元警官。1人は過去に軍警察を解雇されたエルシオ・ビエイラ・デ・ケイロス容疑者で、フェイスブックのアカウントにボウソナロ大統領と一緒に撮影した写真を投稿していた。

問題の写真はすでに削除されているが、ソーシャルメディア上で広く拡散された。ボウソナロ大統領はこの写真について、軍警らと撮ったたくさんの写真の一枚にすぎないとしている。
 
また軍警を退役したロニー・レッサ容疑者には、銃弾13発を撃ってフランコ氏と運転手のアンデルソン・ゴメス氏を殺害した疑いが持たれている。
 
レッサ容疑者はボウソナロ大統領がリオデジャネイロに滞在する際に使用している共同住宅に同じく住んでいたが、警察はこれについて単なる偶然だと述べた。
 
ボウソナロ氏は昨年10月、大統領選に当選した際、この共同住宅の前に集まった大勢の支持者と勝利を祝っている。
 
また警察幹部は、レッサ容疑者の娘とボウソナロ氏の息子が交際関係にあるとの情報について記者から問われると、事実だが現時点で警察は重視していないと答えた。
 
昨年3月14日に銃殺されたフランコ氏はレズビアンの黒人女性で、黒人や同性愛者の権利を推進する活動家だった。警察の残虐行為を真っ向から批判し、貧困層の保護に尽力していた。
 
12日に容疑者2人が逮捕されるまでのほぼ1年間、捜査には進展がみられていなかった。 【3月13日 AFP】*******************

人権派市議殺害容疑者と大統領が“共謀”していたということはないでしょうが、「偶然」の接触であるにしても、類が友を呼ぶと言うか、体質的に共通するものが関係を呼び寄せるのでは・・・とも。

【ブラジルの今後を左右する年金改革 中道政党の協力に期待も】
今後のボウソナロ大統領の正念場は年金改革であるとされています。年金改革の成否がブラジル経済の今後の成長を左右するとも言われています。

****ブラジル政府、年金改革法案を提出 財政負担30兆円抑制 *****
ブラジルのボルソナロ大統領は20日、年金受給開始年齢の引き上げを柱とする年金改革法案を議会に提出した。

ブラジルの年金制度は50代から受給できるなど過度に手厚く、財政赤字の要因となっていた。政府の試算では今後10年間で財政負担を総額1兆レアル(約30兆円)抑えられるという。ただ法案成立には上下両院で5分の3の賛成が必要で、改革の実現は予断を許さない状況だ。

現在、ブラジルでは原則、女性は55歳、男性は60歳で年金の受給資格を得ることができる。現役世代が退職世代を支える賦課方式で、2017年は民間と公務員(軍人除く)を合わせた年金支給額の約4割が国庫負担だった。

今回の改革案では今後12年かけ受給開始年齢を女性を62歳、男性を65歳まで段階的に引き上げ、財政支出を抑制する。

ボルソナロ氏は20日、経済政策を担当するゲジス経済相とともに議会に姿を現し、マイア下院議長に法案を手渡した。今後、議会での議論や採決を経て、年内の成立を目指す。

ブラジルでは16年まで続いた左派政権が年金改革に踏み出さなかったことで財政赤字が深刻化し、治安対策やインフラ投資などに資金が回らない状況が続く。経済再生や治安回復を掲げ1月に発足したボルソナロ政権にとり、年金改革は避けては通れないテーマだ。

今後、焦点となるのは議会の対応だ。17年に就任したテメル前大統領も受給年齢の引き上げに取り組んだが、国民の反発を恐れた議会の抵抗に遭い、頓挫した。

今回の改革案は移行期間をテメル氏の案から短縮しており、国民負担はより大きい。20日には労働組合がサンパウロで反対デモを開催するなど、左派陣営は改革反対の論陣を張る。

ボルソナロ氏は上下院で少数与党のため、中道政党の協力が不可欠だ。テメル政権下で与党だった複数の中道政党は改革そのものには前向きだとされるが、強権的なボルソナロ氏の姿勢には反発も強く、曲折が予想される。

また、ボルソナロ陣営の「お家騒動」も改革機運に影を落とす。ボルソナロ氏が所属する与党社会自由党(PSL)の副党首だったベビアノ大統領府長官は18日、自身の汚職疑惑の責任をとらされる形で解任された。

地元メディアはボルソナロ氏の息子とベビアノ氏の間の確執が要因だと報じており、与党内ですら一枚岩になれていない。今後、他党との協議に水を差すリスクがある。

ブラジルの大手銀イタウ・ウニバンコのチーフエコノミスト、マリオ・メスキタ氏は今回の年金改革法案について「必要な改革ではあるが、十分ではない」と指摘する。また、ボルソナロ氏の支持母体である軍人向けの年金改革案は含まれていない。【2月21日 日経】
*****************

2月25日時点の世論調査では大統領の支持率は57.5%と、大統領選挙決選投票の得票率55.1%を上回っており、高い支持率を維持しています。

この高支持率を背景に年金改革に取り組む訳ですが、国民の大きな痛みを伴う年金改革は、“ブラジルのトランプ”であろうがなかろうが、極右であろうがなかろうが、どの政権・指導者にとっても高いハードルです。

あのプーチン大統領ですら、支持率を急落させています。

大統領の“体質”が、年金改革を支持する中道政党との協力関係にどう影響するか・・・というところです。
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北朝鮮臨時政府を宣言した謎の反体制組織「自由朝鮮」

2019-03-12 22:59:50 | 東アジア

(クアラルンプールにある北朝鮮大使館の写真。外壁には青いスプレーで「金正恩打倒 連帯革命」「自由朝鮮」「我々は立ち上がる」といったハングルが描かれている。【FNN「プライムニュース イブニング」3月12日放送分】)

【突然のアイシャ被告の釈放 インドネシア・ジョコ大統領には追い風】
マレーシアの空港での金正男(ジョンナム)氏殺害の実行犯とされて裁判が進行していたインドネシア国籍のシティ・アイシャ被告が突然に起訴取り下げとなり釈放された件、これまでそうした動きに関する情報を全く目にしていなかったため「そんな、あっさりいくものか?」と驚きました。

****インドネシア人女性の起訴取り下げ、ベトナム人被告の供述行われず 金正男氏殺害事件****
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(ジョンナム)氏が2017年2月にマレーシアの空港で殺害された事件で、実行犯として殺人罪に問われた女2被告の公判が11日、クアラルンプール近郊の高裁で再開された。検察は、2被告のうち、インドネシア国籍のシティ・アイシャ被告(27)の起訴を取り下げた。
 
アイシャ被告の弁護士によると、取り下げ理由は、検察から示されなかった。(中略)
 
一方、ベトナム国籍のドアン・ティ・フオン被告(30)の殺人罪での審理は継続されるという。この日は、弁護側の被告人質問が始まり、ドアン被告が法廷で初めて供述する予定だった。
 
2被告は、いずれも捜査段階から「いたずら番組の撮影だと思っていた。毒物とは知らなかった」と無罪を主張している。マレーシアでは殺人罪で有罪になれば死刑が適用される。
 
検察側は公判で、2被告が殺害に使われた猛毒の神経剤VXの毒性を認識していたとして「訓練された殺人者」と主張。高裁は昨年8月、2被告に「殺意があったと推定される」として、弁護側に被告人質問や証人尋問などを行うよう求めていた。
 
起訴状などによると、2被告は17年2月13日、北朝鮮国籍の男4人と共謀し、クアラルンプール国際空港で金正男氏の顔にVXを塗り、殺害したとされる。男4人は直後に出国、北朝鮮に帰国したとみられる。【3月11日 産経】
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当然にインドネシア政府との交渉を背景にした“政治的判断”です。(北朝鮮が関与しているのかは知りません)

一人だけという訳にもいきませんから、もう一人のベトナム国籍の女性も近日中に同様の扱いになるのでしょう。(インドネシア人女性だけとなったら、それこそベトナムとの国際問題になります)

****元被告の女性帰国 家族と再会 背景には政治的判断か****
2年前、マレーシアで起きた北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件で釈放された元被告の女性が、11日、インドネシアに帰国し、家族と再会した。

金正男氏殺害事件で殺人罪の起訴を取り下げられ、釈放された元被告のシティ・アイシャさん(27)は、11日、マレーシアからインドネシアに帰国し、首都ジャカルタでおよそ2年ぶりに両親と再会した。シティ・アイシャさんは「きょう、2年ぶりに家族と会えて、とても幸せです」と話した。

アイシャさんをめぐっては、インドネシア政府が、マレーシア政府に対して釈放を要請していたことがわかっていて、今回、政治的判断があったとみられている。

一方、裁判が続くベトナム国籍のドアン・ティ・フオン被告(30)についても、ベトナム外務省が動き始めていて、14日に予定されている裁判で同じように起訴が取り下げられる可能性が出ている。【3月12日 FNN PRIME】
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アシシャさん釈放は、大統領選挙を控えたインドネシア・ジョコ大統領にとっては“大きな得点”でしょう。

****インドネシア大統領、「釈放」の成果アピール アイシャ元被告が面会****

(ジョコ大統領(手前左)と面会したシティ・アイシャ氏(中央)=ジャカルタの大統領官邸で12日)

(中略)シティ・アイシャ元被告(27)が12日、ジャカルタの大統領府でジョコ大統領と面会した。面会後の記者会見には、ルトノ外相やラオリ法務・人権相も同席し、釈放がジョコ政権の成果であることをアピールした。
 
突然の釈放、帰国から一夜明け、アイシャ氏は警察官に警護されながら両親と大統領府に入った。3人はジョコ氏の両手を握って支援に感謝したが、面会後は記者団の質問に一切答えないまま車に乗り込んだ。一方、ジョコ氏は「政府が国民を守るというのはこういうことだ」と話した。
 
大統領選を来月に控えるジョコ氏にとって、国内で同情的に見られているアイシャ氏の帰国は追い風になるとみられる。

政府は釈放直後、ジョコ氏が昨年6月のマハティール・マレーシア首相との首脳会談で釈放を要請していたことを明らかにし、司法判断の背景に政権の後押しがあったことを強調した。【3月12日 毎日】
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【在マレーシア北朝鮮大使館の壁に反体制メッセージの落書き】
アイシャさんが釈放されたマレーシアでは、北朝鮮をめぐって“別の事件”が起きています。

****元被告釈放の直後に、北朝鮮大使館の壁に謎の落書き…背後に民間団体「自由朝鮮」関与か?****
(中略)
釈放の裏では衝撃的な事件が
一方、アイシャさん釈放の裏では衝撃的な事件が起きている。

こちら(冒頭写真)は11日朝に撮影された、クアラルンプールにある北朝鮮大使館の写真。
外壁には青いスプレーで「金正恩打倒 連帯革命」「自由朝鮮」「我々は立ち上がる」といったハングルが描かれている。

北朝鮮の金正恩体制打倒を呼びかけるメッセージと、北朝鮮の独裁体制打倒を宣言する民間団体「自由朝鮮」のロゴマークが合わせて落書きされたのだ。

地元メディアによると、この事件の犯行時刻は10日夜から11日未明までの間。
犯行グループは背の高い男4人組で野球帽をかぶり、覆面をしていたといい、地元警察が「器物損壊の疑い」で行方を追っている。

ネットでは映像も公開
この事件を巡っては、落書きされた大使館の映像が、フリージャーナリストによってネットで公開されている。映像では、落書きの一部が毛布などで隠され、大使館の関係者が撮影を止めさせようと注意する様子も映っていた。

現在は壁は全て塗り直され、落書きや青いスプレーで塗られた大使館の看板も元通りになっている。

この事件の衝撃を、北朝鮮に詳しい、龍谷大学社会学部の李相哲教授はこう分析する。

正男氏の息子を保護した団体が関与か
非常に驚きました。今までは北朝鮮の在外公館に対して、このようなある意味“攻撃”ということはなかった。(犯行は)金正男氏の息子を保護した団体に間違いないと思う。

金正男氏の息子、キム・ハンソル氏は正男氏が殺害された後、自由朝鮮の前身団体「千里馬(チョルリマ)民防衛」が保護している。「千里馬民防衛」は3月1日、「自由朝鮮」に名称を変更しており、李教授は今回の落書きも「自由朝鮮によるアピール行為とみられる」としている

2月には、スペインの首都・マドリードにある北朝鮮大使館も暴漢に襲撃されている。
地元紙は北朝鮮大使館員の話として、犯行グループの中に韓国語を話す人たちがいたと伝えている。

李教授はこの事件も自由朝鮮と関係が可能性が高いと指摘しており、「両方とも自由朝鮮がやったとすれば、こういう事件が活発化するのでは...」と話す。【FNN「プライムニュース イブニング」3月12日放送分より】
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これまで北朝鮮に関する反体制運については見聞きしていなかったので、2月のマドリードでの北朝鮮大使館襲撃事件にも驚きました。

****スペインの北朝鮮大使館で襲撃事件 情報機器奪われる****
スペインの首都マドリードにある北朝鮮大使館が先週、襲撃を受け、スペイン警察が捜査を開始したことが分かった。27日、スペイン各紙が報じた。館内のコンピューター機器が奪われた可能性があるという。
 
コンフィデンシャル紙(電子版)によると、事件が起きたのは22日。数人の男が大使館に押し入り、少なくとも4時間にわたって館員を縛り、館内を荒らした。女性の1人が外に逃げ出し、叫び声に気づいた住民が警察に通報した。
 
女性は北朝鮮籍で軽傷を負っており、通訳を介して警察の聴取を受けた。大使館は被害届を出していないという。
 
駐スペイン北朝鮮大使は2017年、北朝鮮によるミサイル発射や核実験の後、スペイン政府に国外退去を命じられている。【2月28日 産経】
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事件は2月22日に起きており、韓国の報道では前出「自由朝鮮」の関与が疑われています。

トランプ大統領との会談に臨んだ金正恩委員長も、こうした表立った反体制派の行動に相当に衝撃を受けていたのではないでしょうか。(一方のトランプ大統領は、アメリカ国内でのマイケル・コーエン氏の米下院監視委員会での証言が気が気ではなかったようですが)

“コンピューター機器が奪われた”ということが興味深いところで、今後、保存されていた非公開情報が暴露される・・・ということもあるのでは。

【謎の反体制組織「自由朝鮮」】
金正男(キム・ジョンナム)氏の息子・ハンソル氏ら家族3人をマカオから安全な場所に移したとして注目された「自由朝鮮」という組織は、多くはわかっていない“謎の組織”のようです。

*****「自由朝鮮」****
自由朝鮮は、北朝鮮の第2代最高指導者金正日の孫である金漢率の身柄を保護していると主張し、また同国からの密出国(脱北)を支援していると推定されている団体。

2019年3月に現最高指導者金正恩体制に抵抗するため臨時政府の樹立を宣言したが、全容は謎に包まれている。
かつては千里馬民防衛と名乗っており、報道機関によっては千里馬民間防衛の表記も見られた。(中略)

臨時政府の樹立
2019年2月25日、公式サイトにて今週中に重大発表があると宣言。三・一運動から100周年にあたる3月1日、公式サイトにて自由朝鮮と題した声明文を朝鮮語と英語で掲載し、『自由朝鮮のための宣言』と題した動画を公開。

団体名称を自由朝鮮と改めたことを明らかとするとともに、北朝鮮人民の唯一にして正当な代表者であるとして金正恩独裁体制の打倒を訴え、臨時政府の樹立を宣言した。

前日に金正恩とアメリカのドナルド・トランプ大統領がベトナムのハノイにて米朝首脳会談を行ったが物別れに終わり、アメリカによる経済制裁が解除されなかったことで金正恩の立場が苦しくなったタイミングを見越しての宣言だったとも推測されている。

組織の正体
脱北支援団体と見られているが公開されている情報が少なく、背後にある人物、組織も不明で、詳細な正体は明らかになっていない。

2019年には「我々は組織の一部分に過ぎない」というメッセージを発信している。

旧名称に使われていた千里馬という言葉は北朝鮮体制を象徴する言葉の一つであるが、団体が"Cheollima"との綴りを使っているのに対し、北朝鮮の朝鮮中央通信では"Chollima"と綴っているため、西側諸国が主導した団体か、別の目的で作られた団体ではないかとも指摘される。

このほか、韓国情報機関とのつながりがあるという憶測や、脱北を誘導する北朝鮮の団体という主張もある。韓国の民間団体と断言するメディアも存在する。欧州で活動する人権活動家は、メンバーは北朝鮮人であると証言している。(後略)【ウィキペディア】
*********************

「臨時政府」の発足をウェブサイトで表明した「自由朝鮮」が発表した「自由朝鮮のための宣言文」は以下のとおりです。

****反金正恩体制の臨時政府を名乗り発表「自由朝鮮のための宣言文」****
(中略)
ここに朝鮮人民は、不道徳で違法な体制を次のように告発する。
食べさせる能力がありながら、数百万人を飢餓で苦しませた罪
政府主導の殺人と拷問、監禁の罪
息の根を締め上げる監視と思想統制の罪
階級による強姦と奴隷化、強制堕胎の罪
全世界で犯した政治的暗殺とテロ行為の罪
わが子供たちの強制労働と可能性抑圧の罪
殺傷破壊の目的による巨大な破壊力の現代兵器開発と流通、残虐行為に使用しようとする者たちと取引した罪
その他、混在した不法行為を犯した罪

半世紀が過ぎても、家族を人質として囚われている間、われわれはただ救いのみを渇望した。力があり裕福な国がわれわれの願いを無視したまま、むしろ苦しめる者どもの私利を満たし、彼らをより大胆にするのを目撃した。

南朝鮮の繁栄と発展の顕著な業績を見て、彼らが富国強盛の歴史を興す間、その裏に取り残された兄弟姉妹を忘れずにいることを願った。

しかし、解放はやって来なかった。

先祖と子孫の両方の要求を掲げよう。われわれの魂は、もはや待ってはならないと断言する。われわれも喜びと人間の尊厳、教育と健康そして安全を享受して当然ではないか?自由を要求する。ここに、われわれが耐え忍ぶべき運命と義務を自らに課す。(中略)

自由朝鮮の建立を宣言する。この臨時政府は、人権と人道主義を尊重する国家を建設するための根幹を立て、すべての女性と男性、児童の尊貴で明確な尊厳を尊重する。

この政府が北朝鮮の人民を代表する唯一の正当な組織であることを宣言する。(中略)

体制の中で、この宣言を聞く者よ、抑圧者に抵抗せよ。公然と挑んだり、静かに抵抗したりせよ。多くの者が加害者であり、被害者でもある。共に身を投じて、われわれを蝕み、われわれの子どもたちまでをも脅かす野蛮な体制を崩壊させなければならない。

この体制内での共謀は、おそらく抗い得ないものであっただろう。今だけが、国と(自分の)名前を取り戻す唯一の機会である。今まで行使した腐敗した権力に対する、愚かな首領神格化集団に対する、独創性と人間性を縛る広範かつ異常な束縛に対する、このすべての忠誠について、免罪されるだろう。われわれはもはや、被害者ではなく勝利者だ。

志を同じくするディアスポラ同志よ、革命に参加せよ。数千年の歴史、先祖の犠牲と数千万同胞の共有された遺産は、元いたところを取り戻せと泣き叫ぶ。偶然によらなければ、自由に生まれた同胞たちも奴隷となっていただろう。(中略)

この体制を正当化し、維持しようとする者どもよ、歴史は、選択が与えられたときにあなたがどの側に立っていたか記憶するだろう。

過去の独裁と抑圧の傷を持った国々よ、われわれと連帯することを要請する。われわれとあなたの自由のために。

理想を共にする全世界の仲間たちよ、過去にわれわれの痛みを知らなかったとしても、今日にでも知れば良いのだ。いかに助けるかを知らずに来たとしても、今日そのすべを知れば良いのだ。共に戦うことを求められたことがなかったのならば、今、人類のためにともに戦うことを求める。

愛する子どもたちが、さらに一世代も暗黒の中で生まれることを許さないだろう。朝鮮は自由でなければならず、自由になるだろう。立ち上がれ!立ち上がれ、奴隷になることを望まぬ人々よ!

恨(ハン)に満ちた歴史の輪を断ち切り、そこから新しい時代を宣言し、新らたな朝鮮のための道を準備する。だからこそ、わが民族の真の情で交わる、より公正で平等な社会を建設する目的と革命の誕生を宣言する。

自由朝鮮のために!【3月1日 デイリーNKジャパン】
********************

こういう檄文は人の心を高揚させますが、もちろん北朝鮮国内で保持が見つかれば即刻処刑でしょう。
ただ、現代情報化社会にあっては、完全に封じ込めるのも難しいかも。

米朝交渉が始まる前は、「斬首作戦」「半島有事」といった言葉が飛び交い、中朝関係も冷え込み、北朝鮮をめぐる情勢は極度に緊張していました。

金正恩委員長を排除したあとの新たな体制のリーダーとして、中国が実質的に保護しているとされたマレーシアで殺害された金正男氏の名前も挙がっていました。

米朝交渉がとん挫し、北朝鮮の核施設やミサイル発射に新たな動きも報じられるなかで、「斬首作戦」といった言葉も一部では復活しているようです。

そうした緊張が高まる方向に進んだ場合、上記「自由朝鮮」という反体制組織及び保護しているハンソル氏は改めてその存在が注目されることになるかも。

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チベット  ダライ・ラマ14世の後継者問題、亡命チベット社会の縮小・変質 厳しい将来

2019-03-11 22:37:41 | 中国

(チベット人の学校でチベット語であいさつをする子どもたち=2019年3月6日、バイラクッペ【3月11日 朝日】)

【1959年のチベット動乱から60年】
****チベット亡命政府とダライ・ラマ****
1959年3月10日の「チベット動乱」でインドに亡命したチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世を中心に北部ダラムサラに樹立された政府。現在の最高政治指導者はロブサン・センゲ首相。
 
動乱では中国軍が進駐していたチベット・ラサで、中国によるダライ・ラマの拉致を疑った市民数万人が中国軍と衝突した。

88年にはダライ・ラマが独立ではなく外交・国防以外の「高度な自治」を求める「中道のアプローチ」を表明。中国側はこれを「憲法違反」として拒否している。

中国のチベット自治区では中国の抑圧的な政策に反発する僧侶らの焼身が相次いでいる。
 
ダライ・ラマは伝統的に死後に生まれ変わり(輪廻(りんね)転生)の子供を探して後継者を選んできたが、14世は生前の後継者指名なども選択肢に挙げている。【3月11日 毎日】
********************

3月10日でチベット動乱から60年ということで、ここ数日、各紙でチベットの記事を目にします。

****亡命政府首相、圧政終結訴え=チベット動乱60周年で式典****
チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世(83)ら多数のチベット人が、インドなどに亡命するきっかけとなった1959年のチベット動乱から10日で60周年を迎えた

。亡命政府のあるインド北部ダラムサラでは式典が行われ、ロブサン・センゲ首相が「世界の自由を愛する人々は、(中国の)圧政を終結させることを約束してほしい」と訴えた。
 
センゲ氏は「59年の蜂起とその後の活動は、チベット人が一貫して権利、自由、正義のために戦ってきたことを示している」と述べ、抵抗運動への参加者を称賛。一方、中国政府が60年以上にわたり、チベットの言語や文化を抑圧してきたとして、「チベット文明を地上から消し去ろうとしてきた」と強く批判した。
 
式典には台湾など10カ国・地域の代表団が参加。抵抗運動の犠牲者に黙とうをささげた。【3月10日 時事】
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****「チベット動乱」60年 インドで中国抗議のデモ行進**** 
1959年にチベット住民が中国の弾圧に抗議して武力衝突した「チベット動乱」から60年となる10日、チベット亡命政府があるインド北部ダラムサラで中国に対する抗議のデモ行進が行われた。

主催団体によると、3000人以上が参加し、「自由が必要だ」などと叫んで中国側に「高度な自治」の実現を求めた。(後略)【3月10日 毎日】
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【現実の問題となるダライ・ラマ14世亡き後の空白】
チベットについては、2月16日ブログ“チベット 強まる中国政府の管理・統制 開けぬ展望”でも取り上げましたが、「開けぬ展望」という点で各紙の見方は一致しています。

チベットの将来展望を暗くしている要因は、大きく分けて三つ。

ひとつは、中国の頑なな姿勢が変化する兆しが全くないこと。

二つ目は、卓越した指導者ダライ・ラマ14世が高齢となり、後継者をどうするのかが現実的な問題となっていることです。

中国側は、チベット仏教の輪廻転生を利用する形で、中国政府の意に沿う人物を後継者に選定しようとしていますが、チベット側は伝統的な輪廻転生を放棄してでも、中国政府の介入を阻止したい構えです。

ただ、どう転んでも、(失礼ながら)ダライ・ラマ14世が亡くなった場合、その大きな空白を埋めることは不可能であり、チベット社会の統一が保てるか疑問があります。

****チベット亡命政府60年 ダライ・ラマ高齢化で岐路に****
チベット住民が中国の弾圧に抗議して武力衝突した「チベット動乱」を受け、インドに脱出したチベット亡命政府(インド北部ダラムサラ)の発足から今年で60年。

亡命チベット人はインドを中心に約15万人いるとされ、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が亡命社会の求心力となってきた。

だが83歳と高齢で、後継者が同様の求心力を保てるかは見通せない。また経済的な豊かさを求めてインドから欧米を目指す若者も増えており、亡命社会は岐路に立たされている。
 
斜面を覆う街並み。背後には雪山がそびえる。インド北部ダラムサラ。世界中の信徒がダライ・ラマに謁見するためこの地を目指す。だが今、14世の後継者が亡命社会を統合できるか不安視する声が出ている。
 
「既に対中国路線を巡って意見の相違がある。絶対的な指導者がいなくなれば対立が先鋭化する」。亡命チベット人のNGO「チベット女性協会」のドルマ・ヤンチェン会長(60)は今後を危惧する。
 
亡命社会では同会を含む五つのNGOが多くのメンバーや支持者を抱えて影響力を持ってきた。四つのNGOはダライ・ラマが将来的に目指すチベットの「高度な自治」を支持。

だが急進的な「チベット青年会議」はダライ・ラマの意見を尊重するとしながらも、「完全独立」を目指す。

ドルマ氏は「亡命社会は一丸となってこそ中国に対して要求を突きつけられる。だが内部でもめれば社会が空中分解する」と話す。(後略)【3月11日 毎日】
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チベット側としては、ダライ・ラマ14世存命のうちに、なんとか道筋をつけたいところですが・・・

****「14世が健康なうちに」亡命政府宗教・文化相、チベット問題の早期解決目指す****
チベット亡命政府宗教・文化相のカルマ・ゲレク師は11日、ダラムサラで毎日新聞の取材に応じた。ダライ・ラマ14世(83)について「彼ほど指導力がある人物は今後現れない」とし、「チベット社会全体をまとめられる14世が健康なうちに中国との問題を解決しなければならない。残された時間は20年もない」と述べ、早期の解決を目指す姿勢を強調した。
 
カルマ師は「14世が亡くなれば、亡命社会がまとまるか分からず問題の解決は難しくなる。14世が求めている『高度な自治』は中国にとっても良い解決策だ」と中国に対話を求めた。
 
また亡命チベット人社会の縮小を指摘し「文化の維持が難しくなっており、挑戦の時期に来ている」と説明。「僧侶になる人材も減っている」と述べた。

一方で「社会の縮小は自然な流れで止められない。パニックに陥っても仕方ないので前向きに考えている」とし、「人数は減っても文化を受け継ぐ質の高い人材を育てることが重要」と語った。【3月11日 毎日】
********************

中国側からすれば、急ぐ理由はありません。時間をかければやがてダライ・ラマ14世という“不倶戴天の敵”が消えていき、チベット社会の混乱という“つけ入る隙”が生まれるということですから、それまでじっくり待てばいいだけです。

【縮小する亡命チベット社会 文化継承も難しく】
チベット側が抱える三つ目の問題は、上記のカルマ・ゲレク師も認めているように、亡命チベット人社会が縮小し、文化の維持が難しくなっていること、言い換えれば、チベット社会が内部から変質しつつあることです。

この縮小・変質は、中国側の厳しい管理・統制によってインド亡命政府側への流入が極めて難しくなっていることと、チベット社会の若者が経済的理由などで外国へ転出していることによってもたらされています。

****チベット亡命政府60年 ダライ・ラマ高齢化で岐路に*****
(中略)また亡命チベット人約10万人が暮らすインドでは欧米を目指す若者が増えている。亡命3世でホテル従業員のテンジン・シェラプさん(25)も欧米への移住を希望する一人だ。

大学を卒業したが、インドではホテル従業員以外の職が見つからなかった。「父までの世代はインドで自由に信仰ができるだけで満足できた。僕たちの世代は自由な信仰だけでなく、経済的な豊かさもほしいんだ」と話す。
 
テンジンさんは欧米で活躍する亡命チベット人の女性ポップ歌手にあこがれる。「彼女はダラムサラで寺や貧しい人に寄付している。若い世代は亡命社会を捨てたいのではなく、むしろ貢献したい」
 
亡命チベット人が文化を維持してこられたのは、インド各地に共同体があったからだ。亡命政府も「言葉や文化の維持」を掲げ教育に注力してきた。

だが欧米に向かう人の増加に加え、中国の監視強化によってチベットからインドに逃れる人が激減し共同体は縮小傾向だ。
 
自身も米国に留学経験がある教員のツェテン・ドルジさん(52)は「欧米に向かう人が増えれば、文化の維持は難しくなるだろう。欧米に移住した本人は『チベット人』という意識は強まるが、世代を経れば、現地社会との同化が進んでいくのは他の移民を見ても明らかだ」と見る。
 
また社会活動家でジャーナリストのロブサン・ワンギャルさんは「欧米での文化や慣習の維持に取り組むことが必要だ」と指摘し、こう付け加えた。「我々は国土を失った民だ。このままでは数十年先に文化までも失いかねない」【3月11日 毎日】
***********************

結果として、インドにおけるチベット社会・文化は衰退の運命にもあります。

****「中国に存在消される」チベット動乱60年、募る危機感****
チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世がチベットからインドに亡命するきっかけとなったチベット動乱の民族蜂起から10日で60年。ダライ・ラマを追って多くのチベット人がインドに渡ったが、中国政府が統制を強めるなか脱出者が減っている。終わりが見えない難民生活も文化や言語の伝承に影を落としている。

ヤシの林を歩くサフラン色と赤の法衣をまとった僧侶に強い日差しが照りつけていた。インド南部バイラクッペ。インド最大のチベット難民居住地で約1万4千人が暮らす。
 
難民によって運営されている寄宿学校を訪ねると、ダライ・ラマの写真が飾られた教室で中学2年の子どもたちがチベット仏教の「思いやり」の考え方について議論していた。
 
ツェリン・パルデン事務長(65)によると、学校には4〜18歳の子どもが通う。9割の子がチベットに暮らす親の元を離れ、ネパール経由でここにやってきて寮生活を送る。親たちは幼い我が子を親類や仲介業者に託して、インドに送るのだという。
 
中国側の学校では中国語による教育が基本。ツェリンさんは「我が子に過酷な越境を強いてでも、チベットの言葉や文化を学ばせたいというのが親の切実な願い」と説明してくれた。
 
しかしこの5年間は、チベットからの入学者はいないという。中国当局による国境警備やチベットの人々への監視強化で、越境が難しくなったことが背景にある。1990年代、2千人近くいた児童生徒は900人弱にまで減った。
 
バイラクッペには祖父母や親の代から暮らす家庭の子が通うチベット人学校もあり、その児童生徒数も減り続けている。英語で学ぶ私立学校に通わせ、欧米の大学を目指す傾向が強くなった。寄宿学校に通うテンジン・チョギャルさん(18)も「両親と一緒に外国に住むのが夢」と言う。
 
「チベット社会のために働くと言っても教師か亡命政府職員くらいしかない。悲しいことだが、よりよい教育や仕事を求めるのはやむを得ない」。そう語るツェリンさんの娘2人も米国とスイスに渡った。
 
こうしたことが、チベットの伝統継承を難しくしている。40年前に亡命政府が設立した手工芸センターでは、がらんとした建物の中で女性2人がじゅうたんを織っていた。

サニモさん(46)は「20年前はここで70人が一斉に織っていた。今の若い子たちはやりたがらない」と話した。1枚を約20日間かけて織り上げる地道な作業。「作り手は年老いたり、海外に移ってしまったり。いつかはいなくなってしまうのだろう」
 
バイラクッペにたくさんあったチベット仏画の掛け軸「タンカ」の店は2店舗に減った。そのうちの一つを営むジグメさん(40)は「伝統の保護は大事だが、それだけでは生きていくのが難しい」と語った。【3月11日 朝日】
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時間は中国に味方しているようです。


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