孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「アマゾン・エフェクト」 生活を変える怪物企業アマゾン その支配力・影響力への批判・警戒感も

2019-03-10 23:13:07 | アメリカ

(【2月27日 Newsweek“アマゾン時代の「墓場」を歩く” 】 アマゾンとの競争に敗れて閉店したショッピング・モール アマゾンは、閉鎖したショッピングモールの跡地を続々と買い取り、自社の倉庫(フルフィルメントセンター)に様変わりさせているそうです。)

【GAFAを拒否しても普通に生活できる・・・・か?】
昔は「世界的大企業」というと、自動車メーカーだったり石油関連会社だったりが連想されましたが、最近では生活の隅々まで入り込んでいるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンといったIT企業が思い浮かびます。

それだけに、こうした巨大IT企業への反発も存在します。

****『グーグル』『アップル』『フェイスブック』『アマゾン』全部やめる人が急増中!?****
昨年の『新語・流行語大賞』の候補にもなった「GAFA」は、グーグル(G)、アップル(A)、フェイスブック(F)、アマゾン(A)という米国の巨大IT企業4社の頭文字を取ったものだ。いまや、世界中の人がGAFAのサービスや製品を日常的に利用しており、世界の影の支配者のように言われることもある。

これら4社の時価総額合計は、昨年11月2日の終値で2兆9700億ドル(約320兆円)にも上る。これは、英国のGDPをも上回り、4社の2017年度の売上高合計は5587億ドル(約62兆円)で、こちらは台湾やスウェーデンのGDPを上回っている。

史上類を見ないペースで急成長を遂げ続け、革新的な企業として常に称賛を浴びてきた「GAFA」だが、徐々に包囲網が築かれつつある。独占禁止法や競争法の適用、税制、そしてデータ・プライバシー規制だ。

使わなくても生活できることへの気付き
「しかし、もっと怖い包囲網が発祥の地、米国で築かれつつあります。『GAFAやめました』という若者の出現です。GAFAの光と影を描き、日本でも話題となった12万部のベストセラー『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者、スコット・ギャロウェイ、ニューヨーク大学教授によると、米国経済はGAFAのせいでベンチャー企業がめっきり減っていると言います」(経済記者)

スコット教授いわく
《米国における年間の新規事業の数は、40年間で半分に減っている。カーター大統領のころは、今より新規事業が生まれていた。なぜ、新規事業が生まれにくくなったのか。その理由の1つが、多くの起業家がGAFAと競い合うのではなく、彼らに買収してもらえるような事業をしたいという認識を持っているからだ》

今や、彼らが提供するサービスや製品、機能がないと暮らしていけないのはもちろんだが、それを拒否したところで普通に生活できる。問題はそれに気付くかどうかだという。(後略)【1月15日 まいじつ】
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“全部やめる人が急増中”というのは、いささか「?」な表現です。現代文明に“アンチ”な思いを抱く人は常に存在します。まあ、“アンチ”GAFAをひとつのライフスタイルとして生むほどに、GAFAの影響力が大きくなっているということでしょう。

【アマゾン 生活を支配する怪物企業は世界の破壊者か変革者か】
今日取り上げるのは、巨大IT企業GAFAの中では“物流・通販”イメージも強いアマゾン。

個人的には、書籍関係はここ十数年、アマゾン以外の選択肢はありえません。(なんでも見つかることと、古本も網羅していることが魅力です。以前は送料も安かったし。配送も“早すぎるぐらい”早い。注文した翌日に鹿児島に届いてびっくりすることもあります。)

書籍以外にも、日用品関係は(比較的安いイメージがあって)アマゾンを繁用しますが、食品、ファッション関係、電化製品になると別サイトを利用しています。(実店舗での買い物はスーパーとドラッグストア、それに100均だけ)

AIスピーカーも、日本ではまだ“これから”の段階のようにも。
日本の市民生活におけるアマゾンの存在感は、(関係業界への影響力は別として)まだ“怪物”というほどのものにはなっていないように見えます。

“今のところ、アマゾン・エフェクトは主として北米市場に限定されている。同社の収入の約69%を占めるアメリカでの売り上げは1600億ドルだが、他の国々では格段に少ない。ドイツでは200億ドル、イギリスでは145億ドル、日本では138億ドルだ。”【下記「Newsweek」】

しかし、アメリカにおける存在感は圧倒的なようです。

****誰もアマゾンから逃れられない****
今も広がり続けるアマゾン・エフェクトの脅威 生活を支配する怪物企業は世界の破壊者か変革者か

(中略)25年前に書籍のネット販売を始めた頃から、アマゾンの望みは大きかった。南米大陸の密林地帯を流れる全長6500kmの大河アマゾンの名に負けない壮大さ。急成長を続ける同社の時価総額は今や8000億ドル近い。
 
アマゾンが扱う品目は2000万点を超える。しかも物流(専用の貨物機と倉庫網を運用する)や食品販売(自然食品チェーンのホールフーズ・マーケットを買収した)、映像コンテンツ(動画配信のプライム・ビデオ、クラ
ウドホスティング(アマゾンウェブサービス、略称AWS)、そしてゲームの世界(動画共有サービスのツイッ
チ)でも巨大な存在だ。
 
さらには四半期決算ごとに新たな展開を見せる。AIスピーカーのアレクサをデビューさせたかと思えば、オンライン薬局ピルパックの買収を発表したりもする。
 
その急成長を物語る数字には唖然とする。見たことがないような急速かつ多角的な事業拡大だ。18年度の総売り上げは2329億ドルで、前年度の1780億ドルから30%増。100億ドルという前代未聞の営業利益も記録した。

従業員数は米バーモント州の人口に匹敵する64万7500人以上。
事業の多角化が奏功し、今や売りヒげの半分近くはネット通販以外で稼いでいる。
 
この四半世紀にわたる躍進で、今では誰もがアマゾン・エフェクト(アマゾン効果)-アマゾンの急成長と多角化がもたらす影響、市場の混乱や変革を指す-を感じている。
 
アマゾンは消費者を囲い込み、注目と忠誠と出費を促す。そのために提供するのは利便性、価値、そして商品とサービスの拡充だ。

人々はアマゾンを身内のように信頼し、自宅に招き入れる。使い勝手の良さで関係が深まれば、もう他社は割り込めない。

蹴散らされた大手有名企業
アマゾンーエフェクトの原点はネット通販の規模と、規模の効果で築かれ角化がもたらす影響、市場の混乱や変た強い競争力にある。
 
もちろん、その「効果」(というか被害)が及んでいない企業もある。ホームセンター大手のホーム・デポや会員制小売り大手のコストコ・ホールセールなどだ。

しかし米国内を見渡せば、荒廃したショッピングモールから破産裁判所に至るまで、いわゆるリテール・アポカリプス(小売店の終末)の残骸が散らばっている。
 
創業時の取扱商品である書籍の業界では、書店チェーン大手のボーダーズが11年に経営破綻。最大手のバーンズ&ノーブルも実店舗の数を減らしている。玩具店チェーンのトイザラスも家電販売大手のラジオシャックも靴安売り店のペイレスーシューソースも、みんなアマゾンの参入によって打ちのめされている。
 
その実績と実行力ゆえに、アマゾン・エフェクトはまだ競争関係にない企業にも及ぶ。アマゾンが業界参入のそぶりを見せただけで、将来の競争相手と見なされた企業の株価は下がってしまう。(中略)

アマゾンに戦々恐々とする企業はどの業界にも存在する。アマゾンが自分の会社(またはライバル会社)を買収す奏のでは? いや、強力なライバルとなり得る会社を1から立ちあげるかもしれない。

アマゾンのスピード感と実行力、テクノロジーや新手法に積極投資する姿勢は誰にとっても脅威だ。(中略)

アマゾン・エフェクトは自治体にも及んでいる。事業の規模がシアトル本社に収まらなくなった同社が最大5万人の雇用を生む第2本社の建設を発表すると、200以上の都市が誘致合戦を展開した。(後略)【3月5日号 Newsweek日本語版】
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【巨大な支配力・影響力への批判・懸念】
その巨大な支配力・影響力への批判があることも事実です。

****民主党のウォーレン氏「アマゾン解体」公約=20年米大統領選****
2020年米大統領選に出馬表明した民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員(69)は8日、インターネット通販最大手アマゾンやIT大手グーグル、フェイスブックの「解体」を公約に掲げた。同党の候補者指名争いに十数人がひしめき合う中、「反大企業」の姿勢を鮮明にする狙いがある。
 
ウォーレン氏は公約で、フェイスブックが写真投稿サイト運営のインスタグラムを買収したことを例に、巨大企業が「競争を排除し、個人情報で利益を生み、その過程で小企業を苦しめ、革新を阻んできた」と非難。テクノロジー分野の競争を促す構造改革が必要だと指摘した。【3月9日 時事】
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上記は、民主党内で急進的主張が強まっていることの事例でもありますが、そのあたりの話は今日はパス。

日本でも、公取委が調査を始めています。

****公取委、ポイント還元巡りアマゾンを調査へ=メディア報道****
日本経済新聞電子版や読売新聞など国内メディアは26日、アマゾンジャパン(東京・目黒)がインターネット通販サイトの全商品でポイント還元する新サービスを巡り、公正取引委員会が取引の実態調査に乗り出す方針を固めたと報じた。

公取委は、ポイントの原資を出品者に負担させる方式が独占禁止法に違反している可能性があるとみて調べるという。

アマゾンは2月末、5月下旬からのポイント制度変更を出品事業者などに通知。ポイントの原資は出品者負担としており、公取委の関係者の話を日経が伝えたところによると、出品者側に直接的な利益があることを明示しないままの規約変更は、独禁法上の「優越的地位の乱用」に当たる可能性があるという。【2月26日 ロイター】
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アマゾンに対する独禁法関連の公取委の動きは2017年頃からあり、2018年3月にも、同社の通販サイトに出品する事業者に値引き販売した額の一部を補填させていた疑いがあるとして、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)容疑でアマゾンを立ち入り検査しています。

また、“調べた後の公取委の対応の多くは、法的拘束力のない「注意」や「警告」にとどまり、課徴金の納付命令を出したのはここ5年で1件。アマゾン側はポイント還元は出品者の販売拡大につながると説明する。政府内からは「『注意』程度なら聞き流せば済むとアマゾンは思っているのでは」(経済産業省幹部)との見方もくすぶる。”【2月27日 朝日】とも。

ポイント還元制度で顧客の囲い込みを行っているのはアマゾンだけでなく、楽天もYAHOOも同様です。(各サイトのポイントに惹かれて、私は最近、各社のカードをつくっています。)

アマゾンなどGAFAへの警戒は、先進国だけでなく、インドでも。ただ、その趣旨は、国家のコントロールが及ばない存在への警戒感といった、欧米・日本とはまたことなる視点も。

****インドで強まるテック大手への規制強化は、どこまで実効性があるのか?****
インド政府が、アマゾンなどのECサイトやテック大手への締め付けを強化している。コンテンツの検閲やバックドアの作成などが義務づけられ、インターネット上の表現の自由が失われる懸念も生じている。(中略)

一方、インドでは、アマゾンやウォルマートなどネット通販大手の影響力を制限する目的でつくられた新たな規制が、2月1日から施行された。この新しい規制により、アマゾンがアメリカやヨーロッパで優位に立つ一因となった戦略の多くが、インドでは禁止される。

例えばネット通販大手は、自社製品(あるいはコントロール下にある企業の製品)の宣伝・販売や、自社ネット通販サイトだけで製品を販売するよう業者に強要すること、特定のセラーを優遇すること、さらに市場支配力を悪用してほかに負けない割引率を設定し、ライヴァルを妨害することなどができなくなる。

この規制が施行された直後、アマゾンはサイトから何千もの商品を削除することを余儀なくされた。それらは、Amazonブランド、あるいはアマゾンが多額を出資している販売業者の商品だったからだ。(後略)【3月8日 WIRED】
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上記インドのアマゾン規制は、いろいろ抜け道もあるようです。

【第2本社のニューヨーク建設断念 “『声なき多数派』が、雄弁な少数派や利己的な政治家たちに負けた”とも】
最近、話題になったのが前出【Newsweek】にもある、第2本社のニューヨーク建設計画断念の件。
これも、GAFAへの風当たりの強さを反映したものでしょう。

****アマゾン、ニューヨークの第2本社建設計画を断念****
Amazonは米国時間2月14日、ニューヨーク市に第2本社を建設する計画を撤回すると述べた。
 
第2本社「HQ2」の建設地は2018年11月、約1年に及ぶ公募と選定を経て、ニューヨーク市クイーンズ区のロングアイランドシティとバージニア州アーリントンの2カ所に決定したと発表された。Amazonはそれぞれ従業員2万5000人を収容するキャンパスを建設する計画を明らかにしていた。

建設地は、名乗りを上げた200を超える都市の中から選定された。Amazonは2カ所の本社にそれぞれ25億ドル(約2800億円)を投入するとしていた。また、5000人規模の新しいセンターオブエクセレンス(COE)をナッシュビルに開設することも明らかにしていた。

しかしニューヨーク市の建設予定地に対し、地元の擁護団体やニューヨーク市議会、クイーンズ区選出のニューヨーク州上院議員Michael Gianaris氏や下院議員Alexandria Ocasio-Cortez氏ら議員が直ちに反対し、根強く批判を続けた。

Amazonは、プロジェクト撤回の理由として州や地元政治家らの反対を挙げ、長期に及ぶ大規模なプロジェクトの遂行には「前向きで協調的な関係」が必要だと述べた。(中略)
 
HQ2建設に対し、複数の抗議活動が展開され、Amazonの幹部らは2回の市議会ミーティングで厳しい批判を浴びた。議員らは、従業員の多くが労働組合に加入していないことや、米移民関税執行局との関係をやり玉にあげた。Amazonに提供されるおよそ30億ドル(約3300億円)の優遇措置も大いに懸念されていた。

特にAmazonが莫大な規模を誇り、最高経営責任者(CEO)のJeff Bezos氏が世界最大の資産家であることが指摘されていた。【2月15日 CNET Japan】
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こうした“巨大企業批判”的なアマゾンへの反発によって計画断念に至ったことについて、アマゾン本社誘致を進めていたニューヨーク州当局は“怒り心頭”の様子です。

****痛恨のアマゾン第2本社撤回、「もう企業きてくれない」とNY州が反対議員を猛批判****
<多くの雇用と税収を失うことになった責任は、アマゾンの計画に賛成だった多くのニューヨーカーにもある。「声なき多数派」が「雄弁な少数派」に負けたのだ>

ニューヨーク州のロバート・ムヒカ予算担当官は2月22日に公開書簡を発表し、ニューヨーク市に第2本社の一部を建設しようとしたアマゾンの計画に公然と反対した連邦議員や州議会議員、一部の組合を激しく非難した。

ムヒカはアマゾンの計画について、ニューヨークにとって過去25年で「唯一最大の経済開発のチャンス」だったと指摘。アマゾンが進出を諦めたことで、いつかニューヨーク州で事業を展開したいと考えていた企業も二の足を踏むだろう。ツイッターで巻き起こった反対を理由に計画に反対した人々は、経済のことが分かっていないと主張した。

公開書簡は州知事のウェブサイトに掲載された。アマゾンの件から教訓を得てもらうためだと彼は言う。

「我々は最終的に270億ドルの収入と2万5000〜4万人分の雇用を失い、『企業の受け入れに前向き』だという評判にも大きな傷がついた」とムヒカは書いている。「計画に反対した組合が得たものは何もなく、彼らはほかの組合の組合員から1万1000人分の高賃金の仕事を奪った」

「数学と経済学の基礎も分かっていない」
ムヒカは、アマゾン側に提供されることになっていた助成金や税優遇措置は別のところに投資すべきだと主張した政治家たちは、数学や経済学の基礎も「わかっていない」と批判した。(中略)

ムヒカによれば、アマゾンが市と州にもたらす税収は(同社が得る30億ドルの9倍の)270億ドルにのぼる見込みだった。最大30億ドルの税制優遇措置も、2万5000〜4万の雇用が生まれれば、という条件だった。「州の予算担当官でなくとも、9倍のリターンが得られる投資が成功だということは分かるはずだ」

彼は、アマゾンの第2本社をめぐって北米200超の都市が誘致を競っていた時には提案に合意しておきながら、後になって反対の声を上げた一部の議員を強く非難した。(中略)

ムヒカは、反対した政治家たちを何も考えずに車を追いかける犬にたとえた。
「アマゾンが撤退を表明してから彼らが学んだとおり、計画への反対は優れた政治でさえなかった。彼らは車を追いかけて、追いついてしまった犬と同じだ。今なんとかして自分たちの行動を説明しようとしているが、説明ができずにいる」と彼は指摘した。

ムヒカは州議会で働いて23年になるが、その間に同州がまとめたアマゾンの次に大規模な経済開発プロジェクトが創出した雇用はわずか1000人分だったと語る。アマゾンが創出する見通しだった雇用に比べるとケタ違いに少ない。

「雄弁な少数派」に負けた
(中略)「アマゾンの計画を支持し、今は怒りに燃えている70%のニューヨーカーたちにも責任はある。彼らは『声なき多数派』は『声を上げなければならない』ことを学ぶべきだ。そうしなければ雄弁な少数派や利己的な政治家たちに負けてしまうのだから」とムヒカは述べている。

さらに彼は、市と州がとてつもなく大きな損をすることになった原因は、一部の議員が「責任ある統治」を行わずに政治ゲームに走ったからだと指摘した。

「アマゾンの建設計画を失ったことは、(ロングアイランドシティを含む)クイーンズ区にとって大きな打撃であるだけでなく、ニューヨーク州全域にとって打撃となり、地元選出の全ての議員の汚点になる」(後略)【2月26日 Newsweek】
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『声なき多数派』が、雄弁な少数派や利己的な政治家たちに負けてしまう・・・というのは、民主主義にあっては、ときに見られる現象です。

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国際女性デーに「女子力」「(高校野球部)女子マネージャー」を考える

2019-03-09 22:58:46 | 女性問題

(トルコ・イスタンブールのイスティクラル通りで行われた国際女性デーのデモの参加者ら(2019年3月8日撮影)【3月9日 AFP】)

【世界各地で「国際女性デー」に合わせた女性らの取組が】
日本ではあまり大きく取り上げられることはありませんが、今日「3月8日」は「国際女性デー」です。

その由来は“1904年3月8日にアメリカ合衆国のニューヨークで、女性労働者が婦人参政権を要求してデモを起こした。これを受けドイツの社会主義者クララ・ツェトキンが、1910年にコペンハーゲンで行なわれた国際社会主義者会議で「女性の政治的自由と平等のためにたたかう」記念の日とするよう提唱したことから始まった。”【ウィキペディア】とのことです。

****女性の権利向上求め各地でデモ、国際女性デー****
トルコ最大都市イスタンブールの中心部で8日、「国際女性デー」に合わせて女性ら数千人が当局が禁止した抗議デモを行い、女性の権利向上を求め、女性への暴力を非難した。警察はデモ参加者に催涙ガスを使用した。

歩行者専用の目抜き通り、イスティクラル通りの入り口付近では、暴動鎮圧用の装備をした治安部隊が女性らの集団を押し返した。警察がデモ参加者に向かって催涙ガスを発射し、警察犬を使って威嚇すると、多くのデモ参加者が脇道に逃れた。

昨年の国際女性デーの行事は平穏に行われたが、当局は今年、デモが実施される直前にイスティクラル通りでのデモ禁止を発表した。

警察はデモ開始前から市の中心部に多数出動し、タクシム広場の周囲に非常線を張った。多くの商店はこの日の営業を見合わせた。数千人のデモ参加者は、最終的にイスティクラル通りのごく一部での抗議行動を認められた。

トルコの女性活動家らは、女性に対する暴力根絶のための措置が不十分だとして以前からイスラム色の強いレジェプ・タイップ・エルドアン政権を批判している。

一方、スペインでも同日、来月の総選挙の争点になっている女性平等を求めてストライキと大規模なデモ行進が行われた。

国内二大労組の労働者総同盟と労働者委員会は2時間の時限ストライキを実施。UGTによると全国で600万人以上が参加した。他にも、複数の小規模な労組が24時間ストを呼び掛けた。

2時間の時限ストは昨年の国際女性デーに初めて行われ、これを再び実現させようと、マドリードのマヌエラ・カルメナ市長や複数の著名ジャーナリスト、修道女らがデモ参加を表明していた。

北部バスク自治州では、女性議員の大半が議会に出席せず、議会の延期を余儀なくされた。

スペインでは4月28日に解散総選挙が予定されている。左右両派が女性の権利を争点とし、男女の不平等是正を公約に掲げている。 【3月9日 AFP】
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トルコ・イスタンブールのデモについては、“「黙らない」「怖がらない」と連呼する大勢の女性たちのデモに治安部隊が介入、催涙ガスも発射した。”【3月9日 共同】とも。

「黙らない」女性はエルドアン大統領のイスラム主義的価値観に合わないということでしょうか。

一方、強権的なアサド政権支配が強まるシリアでは、女性の要求も切実です。

****国際女性デー シリアで不当拘束の女性解放訴え****
内戦が続くシリアで多くの女性たちがアサド政権に不当に拘束され拷問を受けているとして抗議する集会が、8日、隣国のトルコで開かれ、シリア難民の女性も参加して国際社会に女性たちの解放に向けて行動するよう訴えました。

この集会は、国連が定める3月8日の「国際女性デー」に合わせてトルコの最大都市イスタンブールで開かれ、シリアから逃れてきた難民の女性などおよそ1000人が参加しました。

参加者たちは、シリアではアサド政権によって反政府勢力に協力したなどの疑いをかけられ多くの女性や子どもが不当に拘束されていると訴えていて、スカーフで両手を縛るパフォーマンスをして、女性たちの速やかな解放を求めました。

集会を呼びかけた団体によりますと、アサド政権によって現在も拘束されているとみられる女性は、およそ7000人にのぼるということです。

また国連も、政権側の収容所では、反政府勢力のメンバーの居場所を聞き出すために組織的に女性に性暴力を加えるなどの拷問を行っていると報告していて、内戦が続く中で女性に対する著しい人権侵害への懸念が高まっています。

集会に参加したシリア難民の女性は、「何人もの友人が性暴力の被害にあってきた。シリアで拘束されているすべての女性たちを救い出すために国際社会は行動を起こしてほしい」と話していました。【3月9日 NHK】
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女性に対する性暴力と言う直截的な人権侵害は別にシリアだけでなく、残念ながら世界各地で見られることです。

3月7日、国連人権理事会は、サウジアラビアに10人の活動家の解放と、イスタンブールでサウジアラビア人記者のカショギ氏が殺害された事件に対する国連主導の捜査への協力を求める共同声明を発表しましたが、サウジアラビアでの女性拘束者への暴行・拷問も問題視されています。

“活動家らは、拘束されている人々のうち、女性は電気ショックや鞭打ち、性的攻撃、その他の拷問にさらされていると訴えている。

サウジの検察当局者は先週、国内紙に対し、報道内容を調査したが、女性への拷問を示す根拠はなく、報道は「誤り」と述べた。”【3月8日 ロイター】

欧米・日本では、さすがにそこまでの人権侵害はありませんが、経済的・社会的な女性差別・格差は多方面で見られます。

****「女性差別だ」米連盟を提訴 サッカー女子W杯Vメンバー****
サッカー女子のワールドカップで、前回優勝したアメリカ代表の選手たちが、男子代表よりも報酬が低いのは差別にあたるとして、国際女性デーにあたる8日、アメリカサッカー連盟に対して訴えを起こした。
訴えを起こしたのは、サッカー女子のアメリカ代表選手28人。

訴状によると、女子代表選手の報酬は男子代表の4割程度で、是正を求めたものの、なんの措置も取られなかったという。

このため、「報酬に格差があるのは、性差別によるもので違法」だとして、アメリカサッカー連盟に対して、男子と同等の報酬の支払いを求めている。

アメリカ女子代表は現在、FIFA(国際サッカー連盟)ランキング1位で、過去3回のワールドカップで優勝している一方、男子代表は25位となっている。【3月9日 FNN PRIME】
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【世界で進む女性管理職・幹部の登用 日本ではほとんど変化なし】
各国・各機関の経済的・社会的差別・格差是正の取り組み・目標設定も報じられています。

****10年で国連職員半数女性に 事務総長「進歩に不可欠」*****
国連のグテレス事務総長は7日、国連の全職員に占める女性の割合を10年以内に50%まで高める方針を表明した上で、女性の地位向上と男女平等の実現は「世界の進歩に欠かせない」と強調した。8日の「国際女性デー」に合わせたビデオメッセージで明らかにした。
 
2018年12月時点で国連職員のうち女性は39%。17年に就任したグテレス氏は女性の幹部登用を積極的に進めており、昨年には幹部職員の女性の割合が50%に達した。

軍縮担当上級代表の中満泉事務次長や防災担当の水鳥真美事務総長特別代表ら日本人女性の幹部就任も続いている。【3月8日 共同】
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****仏軍、女性将官増加目指す 22年までに10%****
フランスのパルリ国防相は7日、記者会見し、軍で女性の役割強化を図る「男女共同参加計画」を発表した。士官学校の受験要件緩和や昇進機会の拡大などを通じ、2022年までに女性将官の割合を現在の約7%から10%へ増加させることなどを目指す。
 
男女平等はマクロン政権の重点政策の一つ。女性のパルリ氏は軍人の資質について「性別は関係ない。フランス史を振り返れば分かる」として、15世紀に英国と戦うフランスを救ったジャンヌ・ダルクに触れる一方「(女性を)優遇はしない。地位は全て能力と功績で与えられる」と強調した。【3月8日 共同】
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あまり切実に意識されることはありませんが、組織内の幹部・管理職割合が少ないことでは、日本はその後進性では世界的に定評があるところです。

****女性管理職、日本はG7で最下位 18年、世界では3割近くに****
国際労働機関(ILO)は7日、女性の労働に関する報告書を8日の国際女性デーに合わせて発表、2018年に世界で管理職に占める女性の割合は27.1%と3割近くに達した。安倍政権が女性活躍推進を掲げる日本は12%にとどまり、先進7カ国(G7)で最下位。11.1%のアラブ諸国と同水準だった。
 
ILOの統計によると、日本の女性管理職の割合は1991年の8.4%から27年間で3.6ポイントしか上昇していない。
 
世界で管理職に占める女性の割合は91年に24.8%だったが少しずつ上昇。地域別では、アジア・太平洋で約5ポイント上昇し22.5%になった。【3月7日 共同】
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****女性の管理職 世界全体27% 日本は12%****
(中略)2018年の時点で管理職に占める女性の割合は世界全体では27.1%と推計され、およそ30年にわたって緩やかな増加傾向が続いていますが、依然として低い水準にとどまっています。

国別に見ますと、G7=先進7か国ではアメリカが39.7%と最も高く、イギリスが35.9%、カナダが35.3%と続き、日本は大きく離され12%で最下位でした。

また上場企業の役員に占める女性の割合は2016年の時点で、G7ではフランスが37%、イタリアが30%、イギリスとドイツが27%と続き、日本は最下位の3.4%となっていて、日本の水準が先進国の中でもひときわ低くなっている実態が改めて浮き彫りとなりました。

ILOの担当者は「女性の機会や扱いを平等にすることにとどまらず、結果の平等を実現するための積極的な法律や政策が必要だ」と話しています。【3月8日 NHK】
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【女性自身の意識の問題も】
女性の社会進出が日本で遅れている理由は、社会や企業・組織における制度的問題、男性の無理解など要因は多々ありますが、世界で緩やかな変化が続く中で、日本では“27年間で3.6ポイントしか上昇していない”“アラブ諸国と同水準”というのは、女性の地位・役割に関する日本独自の価値観が背景にあってのことでしょう。

そうした女性の地位・役割に関する日本独自の価値観に関しては、社会や男性から“押し付けられている”面も多々ありますが、それだけでは日本の“無変化”は説明できないように思えます。

日本で女性の地位・役割について変化が起きない大きな理由は、そうした現状を女性自身が肯定的、あるいは無自覚に受け入れているという現実があるのではないでしょうか?

例えば、「女子力」といった言葉が女性を含めてごく一般的に使用されている現状も不思議な感があります。
もちろん「フェミニンな魅力」は私も大好きですが、そうした価値尺度で女性を測るような「女子力」といった表現には違和感も感じます。「女性とはかくあるべき」という固定観念みたいなものをベースにしているようにも思えます。

(そもそも「女子」という言葉を「私たち女子は・・・」など女性が抵抗なく使用していることにも違和感があります。学校で男子生徒との対比で使う場合は別として、一般的には「女子」は「男」に対比される“おんなこども”であり、“おとこ”に比べてのネガティブなイメージがあります。)

****サヨナラしたい8つの呪縛:6)お茶の用意は「女性の役割」****
 ■Dear Girls
1月末、プロ野球DeNAの筒香嘉智選手が、子どもの野球環境の改革を提言する記者会見を開き、こう言った。「(中学時代に所属した)堺ビッグボーイズでは、お茶当番の強制などは今は全くしていません」
 
少年野球では監督やコーチを務める父親のため、お茶や弁当を母親が交代で用意し、練習を見守るチームが少なくない。筒香選手は母親が負担を強いられていることも問題視したのだ。
 
小学6年生の息子が東京都内のチームに所属する女性(38)も、違和感を感じている。キャッチボールを教えられないからといって、「ママたちは雑務を」と男性側から言われると「それは違う」と思う。
 
この一年、「お茶どうぞ」はしなかった。「コーチは自分で持って来たらいいじゃないの」。ただ、周囲の母親たちの中には、お茶を用意することに抵抗がないように見える人も少なくない。

 ■固定された意識
マルチタレントの「はましゃか」さん(24)は一昨年末、「サラダ取り分け禁止委員会」の設立を宣言した。飲み会で、女性が大皿のサラダを取り分けたとき、「女子力あるね~」と声がかかるのを何度も聞いたのがきっかけだった。
 
サラダの取り分けは「女子力」なのか――。そんな思いから女性向けネットメディアに記事を書いた。
 
「男女問わず『やりたい人』がやればいい」「気遣いや思いやりに性別なんかない」。ツイッターにはそんな声が多数投稿された。
 
「委員会の本当の目的は、固定的な役割分担意識への問題提起なのです」。はましゃかさんは言う。

 ■「非対称」に疑問
昨年、「『女子』という呪い」という著書を出版した作家の雨宮処凛(かりん)さんは、「男と女を入れ替えて考えてみよう」と呼びかけている。「女性活躍」と言うが、「男性活躍」とは言わない。「女だてらに」と言うが、「男だてらに」とは言わない。
 
いとこの20代の女性が病気で亡くなった時のことだ。娘を亡くした母親や妹を亡くした姉に「ビールもう1本!」などと言っていた親戚の男性に対し、「殺意が芽生えた」と書く。
 
男性にとって都合がいい女性がよしとされる。男が頑張れば評価につながるのに、女性には時に冷ややかな視線が注がれる。

こんな「非対称」な社会に疑問を感じて思いついたのが、この「男女入れ替え」術だ。「必殺! フェミ返し」と命名した。
 
「この社会の変なところを一瞬で男性に気づいてもらういい方法なんです」

 ■価値観、カラフルに
小学1年生の私に親が与えたランドセルの色はピンクだった。交通安全を考えたようだが、案の定クラス中から「男のくせに、なんやこの色」総攻撃。泣きついて黒に買い直してもらった。

あれから半世紀。ランドセルこそずいぶんカラフルになったが、「男は(女は)こうしたもんだ」という決めつけは、どれだけ変わっただろう。ジェンダーを取り巻く価値観も、もっとカラフルであっていい。【3月7日 朝日】
*******************

毎年、夏の甲子園中継などで取り上げられる“女子マネージャー”の裏方的美談にも違和感があります。(一生懸命やられている方には、非常に失礼な言い様ですが・・・)

本来“マネージャー”というのは、組織の内外を調整する管理職的業務ですが、実際に“女子マネージャー”がやっているのは、選手のユニフォームの洗濯であったり、極めて補助的な仕事です。

もちろん、どんな仕事にも“裏方”は必要であり、その仕事は尊重されるべきですが、その“裏方”と“女子”がくっつくと、女性の役割に対する固定観念みたいなもの感じてしまいます。

夫を陰で支える“良妻賢母”的なイメージでしょうか。

そうした“女子マネージャー”の存在を男性選手が当然のように受け入れ、女性自身がそういう立場を嬉々として受け入れているということに対する違和感です。

そんなに野球が好きなら、マネージャーでなく、自分たちでやったら?・・・とも思うのですが。
もちろん、中学で女子野球をやっていたけど、高校ではそういう場がないので・・・といった話もあるのでしょうが・・・。

女性週刊誌の見出しに「女子力アップ」という言葉が躍り、夏の甲子園中継で“女子マネージャー”の裏方美談が語られる限り、日本の“アラブ諸国と同水準”という現状はあまり変わらないのでは・・・とも思えます。

こうした“女性自身の意識”に対する思いは、個人的な体験に根差すのかも。

昔、男女雇用機会均等法が改正されたときに、組織内の女性の位置づけの変更作業に関係しましたが、その際に一番の抵抗となったのは、組織でも、管理職でも、男性でもなく、「男性と待遇で格差があったとしても、これまで以上に働きたくない。今のままでいい。」という女性の存在でした。

もちろん、それは女性が直面している家事・育児の負担という現実的制約によるものではありますが・・・・。

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イラン  トランプ政権の対決姿勢のおかげで台頭する反米・保守強硬派 抑圧される市民の自由

2019-03-08 23:00:09 | イラン

(イラン・テヘランで女性のヒジャブ取り締まりで群衆ともめる宗教警察(多分、黒ずくめの女性)【2月20日 CNN】)

【自由を求める市民 アメリカ文化への憧れも】
いつも書いているように、イランは宗教・政治世界で力を有する保守強硬派と、自由な生活を求める一般市民の思いがせめぎあう関係にあり、そうした微妙なバランスの上に穏健派のロウハニ政権は成り立っています。

そんなイランで興味深い記事が。一般市民が宗教警察の取り締まりを実力で阻止したというものです。

****ベール着用違反の女性ら、連行を群衆が阻止 イラン****
イランの首都テヘラン市内で先週、イスラム教のベール「ヒジャブ」を正しく着用していないとして女性2人を連行しようとした宗教警察の車両が、通行人らに襲撃される騒ぎがあった。

騒ぎは15日、保守強硬派のアフマディネジャド前大統領の自宅があるテヘラン東部ナルマク地区で起きた。国営イラン通信(IRNA)によると、群衆は警察車両のドア1枚を破壊し、警察側が空中に威嚇射撃する場面もあった。女性らが車両から解放されると、群衆は解散したという。

現場の映像には、クラクションを鳴らして抗議する市民らの姿や、車両を取り囲む集団の様子などが映っている。

イランでは1979年の革命以来、女性のヒジャブ着用が義務付けられてきたが、最近はソーシャルメディアなどを通し、これに抵抗する運動も広がっている。

頭全体を覆うヒジャブの代わりに短いスカーフだけで外出したり、スキー場で帽子姿になったりする女性も多く、着用の規則に違反した場合も逮捕ではなく15ドル(約1700円)程度の罰金で済むなど、戒律の適用は緩み始めていることがうかがえる。【2月20日 CNN】
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アメリカ・トラン政権は、核合意から離脱し、イスラエルやサウジアラビアなどとともにイラン包囲網を形成して、イランを徹底的に叩く姿勢を続けていますが、上記のように自由な生活を望む多くの市民は、むしろアメリカ文化には憧れ的なものを抱いており、「アメリカに死を!」といったスローガンとは異なる側面も見られます。

****憧れつつ「米国に死を」叫ぶ イランの複雑な対米感情****
かつて米国のブッシュ(子)大統領から、金正日政権の北朝鮮、フセイン政権のイラクとともに「悪の枢軸」と非難されたイラン。

最近でも、トランプ米大統領がイランを「世界随一のテロ支援国家」と罵倒すれば、イランも最高指導者ハメネイ師が「悪と暴力の権化」とやり返す。

ペルシャ湾に面した産油国イランと米国の関係はどうして、ここまでもつれたのか。また、イランの人々は米国にどんな感情を抱いているのか。
 
イラン政府にとって米国は、体制転換を狙う「敵国」との位置づけだ。それには幾つかの理由があり、敵視の根は長く、深い。
 
イランは1953年、当時のモサデク政権が、米中央情報局(CIA)の関与した軍事クーデターで転覆させられた過去を持つ。また現在のイスラム体制は、79年に親米のパーレビ王朝を打倒した革命で成立している。革命翌年の80年に始まったイラン・イラク戦争では、米国にイラク支援に回られた経験もある。
 
さらに、自国の核開発疑惑をめぐり、2011年以降、国連安全保障理事会だけでなく、米国独自の厳しい制裁を科せられ、経済への打撃が続いている。オバマ政権時代の16年には、核合意に基づいて制裁が一部解除されたが、昨年8月以降は、トランプ政権によって再び制裁が復活した。
 
一方、米国にとって、イランに対する敵視政策が決定的になったのが、79年11月に起きた在テヘラン米国大使館占拠人質事件だ。解決までに444日かかり、米政権と米国民に強くイランへの嫌悪感を刻み込んだ。
 
これに加え、米国内ではイランと対立するイスラエルロビーや、親イスラエルが多いキリスト教福音派の存在が大きく、米国の対イラン政策に影響を及ぼしている。

政治家にとって、イランへの敵視が、選挙の票や資金集めに役立つ構図ができている。特にトランプ氏は福音派を最大の支持母体にしており、長女イバンカ氏の夫で敬虔(けいけん)なユダヤ教徒のクシュナー氏が大統領上級顧問を務めるなど、政権内に親イスラエルの考えをもつ幹部が多い。
 
トランプ政権の誕生後、イランの首都テヘランなどで行われる反米デモは激しさを増している。ただ、参加者は国民の一部で、イラン人の米国観は複雑だ。
 
テヘランではiPhoneなどの米国製品が人気を集めるほか、米国の有名なハンバーガーショップをまねたとみられる店舗などもあふれかえる。

市内で売られる海賊版やネットのダウンロードで、米国の音楽やハリウッド映画を楽しむイラン人も珍しくない。米政府やトランプ氏は嫌いでも、米文化への憧れを持つ人が多いのが実情だ。
 
あるイラン人の30代女性は「リーバイスのジーンズにナイキの靴をはき、左手にiPhoneを持ちながら、右の拳を突き出して『米国に死を』と叫ぶ。これがイラン人だ」と話す。
 
最近でも、オバマ前大統領の妻ミシェル氏が書いた回想録「Becoming」のペルシャ語版が、イランでベストセラーになっている。イランメディアによると、1月15日にペルシャ語の翻訳版が発売された後、すでに16回増刷され、「記録破りのペース」(イランのメヘル通信)という。(中略)
 
イラン人ジャーナリストも「オバマ氏は大統領だった時期に、(穏健派とされる現在の)ロハニ大統領と電話会談した。イランでは当時、米国との無意味な争いに終止符が打たれるのではないかとの希望が広がった。多くのイラン人の心にその記憶が今も残っている」と言う。
 
ただ、トランプ政権のイラン敵視政策が続くなか、ロハニ師も、イスラム体制の堅持を掲げる最高指導者ハメネイ師ら、国内の保守強硬派に配慮せざるを得ない状況だ。

イランの国是である「反米」を唱える政府の主張と、米国文化を受け入れている国民の意識は、どこまで重なるのか。私たちは、目をこらしていく必要がある。【2月13日 朝日】
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【制裁で困窮する一般市民】
一方、経済的にはアメリカの制裁はイラン経済・市民生活を確実に締め上げています。

****イラン観光地、悲鳴=制裁や通貨暴落で「収入激減」****
トランプ米政権が「前例のない経済的圧力」として制裁を復活させ締め付けを強めているイランでは、主要産業の観光が大打撃を受けている。通貨リアル暴落やインフレ激化でイラン人の購買力が低下し、業者の収入も激減。観光で生計を立てる人々は悲鳴を上げている。
 
サファビー朝の都として繁栄を極め、かつては「世界の半分がここにある」と称されたイラン中部の観光地イスファハン。2月上旬、中心部にある世界遺産のイマーム広場は観光客でにぎわっていた。ただ、広場を囲むように土産物店が並ぶバザールの店主らの表情はさえない。
 
「2年前に比べて客が激減した。生活費は4倍に上がったのに、収入は3分の1だ」。バザールにある宝石店のファルハドさん(35)は肩を落とした。ペルシャ特有の繊細な柄の雑貨を売るアリさん(30)も「雑貨は必需品ではないので、家計が苦しければ買ってもらえない。通貨の価値が下がって商品の価格を倍にしたが、客には申し訳ない気持ちでいっぱいだ」と嘆く。
 
国際社会との融和を志向したロウハニ政権の下、一時は制裁も解除されて経済が上向き、イスファハンでも欧米の観光客が増えた。

ただ、イランを敵視するトランプ政権発足で事態は一変。政治的緊張も高まったせいか、今ではその姿はまばらだ。

衣料品店で働くモハンマドさん(20)は「来るのはイランより貧しい国の人ばかりだ」と、欧米に代わって近年増えているイラクやシリア、アフガニスタンなどからの訪問者をやゆする。
 
国内に23の世界遺産を有するイランは、経済活性化の一つとして2025年までに年間2000万人の外国人旅行者誘致を目指すが、その前途は多難だ。(後略)【2月16日 時事】
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イランの観光資源は素晴らしいものがあり、本来はもっと多くの観光客に楽しんでもらえるものなのですが。

イランの経済が制裁で締めあげられているといっても、保守強硬派の革命防衛隊などが手広く独占的に行っている事業は、制裁で自由な経済活動が抑制されるほど、逆にうま味が増すところがあり、アメリカの経済制裁は反米・保守派と利害が一致している面があります。

【トランプ政権の対決姿勢で、勢いを増すイラン保守強硬派 揺らぐ穏健派ロウハニ政権】
アメリカの制裁で市民生活が困窮すれば、当然に核合意を主導し、制裁解除・経済の回復を語っていた穏健派ロウハニ政権への視線は厳しいものに変わります。

政界にあっては、核合意が進められていたころはやや身を潜めた感もあった保守強硬派が政権批判を強め、穏健派ロウハニ政権の求心力は揺らいでいます。

核合意を主導したザリフ外相の辞任騒動は、そうしたロウハニ政権の苦境を象徴する出来事でした。

****イラン保守強硬派、圧力強める 穏健派の外相、辞意表明 核合意の立役者、大統領は慰留示唆****
イランのザリフ外相は25日、自身のインスタグラムに「職務を続けるには不適任で、在任中の全ての不足点を謝罪する」と記した画像を投稿し、辞意を表明した。

ロハニ大統領は慰留する考えを示唆した。ザリフ氏はイラン核合意の立役者で、米国の合意離脱と制裁再開によるイラン経済の停滞を受け、保守強硬派からの批判が強まっていた。
 
ザリフ氏の辞意表明に対し、ロハニ師は26日、テヘランでの演説で「厳しい状況でのザリフ氏の仕事ぶりに感謝する」とし、慰留する考えを示した。対外融和路線をとる保守穏健派のロハニ政権にとってザリフ氏は象徴的な存在で、辞任すれば大きな痛手になる。
 
イランでは米国の制裁再開で、国民生活が圧迫されている。国内の保守強硬派は「核合意で米国に妥協した上に経済もよくなっていない」と政権を批判しており、ザリフ氏は主要な標的になっていた。
 
イランのネットメディアは26日、ザリフ氏が「辞意は外務省の地位を守るためで、(撤回させるための)懐柔は必要ない」と取材に語ったなどと報じた。

国営メディアなどによると、外相にもかかわらず、25日にシリアのアサド大統領のイラン訪問を事前に知らされず、ロハニ師との会談にも同席出来なかったという。

イラン政府関係者は、「たとえザリフ氏が翻意しても、イランの外交政策に亀裂が生じたのは事実で、今後の政権運営に悪影響だ」とみる。【2月27日 朝日】
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ロウハニ大統領は「辞任を受け入れることは国益に反する」として辞任を認めない考えを示し、結局、ザリフ外相も辞意を撤回してロウハニ政権にとどまることになりました。

保守強硬派からの厳しい批判の矢面に立つザリフ外相が、ロウハニ大統領に対し「自分をとるのか、保守派に屈するのか、明確にしてくれ」との踏み絵を迫った・・・という一件でしょうか。

ただ、下記の記事なども併せると、保守強硬派主導の流れがイラン政治で進んでいるようにも思えます。

****イラン、司法府代表に保守派重鎮 最高指導者ハメネイ師が任命****
イランの最高指導者ハメネイ師(79)は7日、サデク・ラリジャニ司法府代表の後任として保守強硬派の重鎮、ライシ前検事総長(58)を任命した。

ハメネイ師のウェブサイトで明らかにした。ライシ師は高齢のハメネイ師の信頼が厚いとされ、有力な後継者候補の一人との見方もある。任期は5年。
 
ライシ師はイラン北東部マシャド出身でイスラム教シーア派の聖地コムで学んだ聖職者。1979年のイラン革命後は革命体制の秩序を強権で維持する司法当局の要職を歴任し、2014年に検事総長に就いた。
 
16年にはハメネイ師に国内最大聖地のイマーム・レザー廟の最高位に任命された。【3月8日 共同】
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ライシ師は2017年の前回大統領選挙でロウハニ師に敗れた、反米・保守強硬派を代表する人物です。

司法面でも懸念されるニュースが。

****イランの人権派女性弁護士、有罪判決か 人権団体が発表****
イランの人権派弁護士で、欧州議会が人権や民主主義を守る活動で功績があった人に贈るサハロフ賞の受賞者ナスリン・ソトウデさんがイランの裁判所で有罪判決を受けたと国際人権団体などが、7日までに明らかにした。

ソトウデさんは昨年6月に当局に拘束されたとみられ、数十年にわたる禁錮刑に処される可能性があるという。イラン当局は、判決などについて公表していない。
 
「イラン人権センター」(米国)によると、ソトウデさんは、公共の場で髪の毛を隠す布(ヘジャブ)の着用義務に抗議して拘束された女性の弁護をしたことなどで、国家安全保障を侵害した罪などに問われているとみられるという。【3月7日 朝日】
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アメリカ・トランプ政権がイランを締め上げるほどに、イランでは反米・保守強硬派が力を増し、市民生活の自由は奪われるという残念な結果になります。イラン保守強硬派にとって最大の協力者はトランプ大統領という関係です。

トランプ大統領の対決姿勢がもたらす成果は、宗教支配の体制転換ではなく、せいぜいが穏健派政権の崩壊・反米保守強硬派政権の誕生でしょう。そして核開発の再開、中東情勢の緊張、市民の自由抑圧、宗教支配の強化・・・。

それでもトランプ大統領は「偉大な勝利」とツイートするのでしょう。何が“勝利”なのかは知りませんが。

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印パのカシミール衝突  旧装備のインド軍の実態明らかに 「戦果」誇張がインド国内で論議に

2019-03-07 23:36:24 | 南アジア(インド)

(パキスタン軍に撃墜されたインド軍機の残骸=カシミール地方で2019年2月28日【3月4日 毎日】 ミグ21は優秀な戦闘機だったようですが、F16やFC1が相手では難しいものがあります)

【「聖戦」を掲げるイスラム過激派の拡散 背後にパキスタン軍部の思惑】
カシミールをめぐるインド・パキスタンの衝突は、3月3日ブログ“インド・パキスタンのカシミールでの衝突 インド側世論、総選挙を控えた政治事情の影響も”で取り上げましたが、なんとか沈静化したようにも見えたのですが、インド側で再びバスが爆破される攻撃があり、今後が懸念されます。

詳細はまだわからないものの、やはり、どうしてもこの地域の緊張を高めたい勢力があるようです。

****印パ国境、カシミールでバスが爆発 1人死亡30人けが****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド側ジャム・カシミール州のジャムのバス停で7日、州政府が運営するバスが爆発した。インドメディアによると、市民1人が死亡、30人が負傷したという。地元警察は手投げ弾による爆発とみている。
 
2月14日に同州プルワマであったイスラム武装組織によるとみられる爆破事件をきっかけに、印パ両軍がカシミールの停戦ライン(実効支配線)を挟んで空爆や空中戦を繰り広げ、軍事的緊張が高まったが、関連は不明だ。

両軍による停戦ラインを挟んだ砲撃戦も続いていたが、この数日間は沈静化していた。(ベンガルール〈インド南部〉=奈良部健)【3月7日 朝日】
*********************

カシミール地方におけるイスラム系住民に多する苛酷なインド治安部隊の支配については、前回ブログで紹介した、日本・パキスタン・インドを往来されているスズケーさんの「カシミール問題 インドとパキスタン、終わらない紛争」が参考になります

一方、カシミール問題には、スズケーさんも指摘しているように、従来の独立運動から次第にイスラム過激派の「聖戦」に変貌しつつあること、また、そうした勢力をパキスタン軍部が裏で支援していると思われる・・・そうした側面もあります。

****「聖戦」に揺れるカシミール****
パキスタン軍、過激派と連携か
核保有国同士のインドとパキスタンが、両国の係争地カシミール地方で突如衝突した。

2月26日、インド軍は第3次印パ戦争(1971年)以来、48年ぶりにパキスタン領内まで越境し、過激派組織「ジャイシェ・ムハンマド」の拠点とみられる場所を空爆した。極めて異例の行動である。

さらに翌日、カシミールのインド側とパキスタン側の支配地域を分断する停戦ライン(実効支配線)を挟んで両軍機が空中戦を展開し、インド軍機が撃墜された。
 
核戦争に発展するのではないかと危惧する向きもあったが、そこまで衝突がエスカレートすることはまずあり得ないだろう。そもそも新興大国のインドとパキスタンでは、もはや国力、軍事力が違いすぎる。
 
それに、今回の事態はパキスタン軍の諜報(ちょうほう)機関「軍統合情報局(ISI)」による支援を受けてきたとされる「ジャイシェ・ムハンマド」のテロが引き金だった。パキスタンのカーン首相は早々と「対話で解決したい」と表明し、撃墜したインド軍機のパイロットもすぐに引き渡したが、その融和的な対応の裏には、ISIが過激派と長年連携してきたとされることへの後ろめたさもあるのではないか。

引き金は自爆テロ
問題のテロは2月14日、カシミールのインド側支配地域にある町プルワマで発生した。インド治安部隊の車列に爆弾を積んだ車が突っ込み、隊員ら約40人が死亡した自爆テロと伝えられ、「ジャイシェ・ムハンマド」が犯行声明を出した。インド側が空爆に踏み切ったのは、これに対する報復措置だった。

「われわれの戦いはテロに対するものだ。テロへの支援をパキスタンが続ける以上、われわれはテロ組織の拠点と訓練施設を標的にする覚悟がある」─。AFP通信によると、インド陸軍のスレンドラ・シン・マハル少将は、2月末の記者会見でこう宣言した。
 
その後、3月1日のパイロット引き渡しによって緊張緩和への期待が一時高まったが、それでもインドの怒りは収まらず、銃砲撃の応酬で一般住民にも死傷者が続出している。
 
このように、カシミールをめぐるインドとパキスタンの対立は、今や単なる領土問題をめぐる国家間の争いというよりも、「ジハード(聖戦)」を掲げてテロを起こす過激派とその後ろ盾とされるパキスタン対インドという構図に変質している。(中略)

アフガンの対ソ戦が転機に

このような状況の変化を生んだ大きな心理的要因は、カシミールの西方に位置するアフガニスタンを79年末に侵略したソ連軍に対し、アフガン・ゲリラ「ムジャヒディン(聖戦士)」が10年近くも抵抗を続け、ついに追い払った「聖戦の勝利」だった。

89年2月のソ連軍の撤退完了後、アフガン・ゲリラに義勇兵として加わっていたパキスタン人らは、今度は「カシミール解放」だと意気込んだ。
 
今回テロを引き起こした「ジャイシェ・ムハンマド」の最高指導者でイスラム法学者のマスード・アズハル(50)も、実はカシミール出身ではなく、パキスタンのパンジャブ州バハワルプール生まれなのだが、アフガンで義勇兵に志願後、カシミール行きを目指した。これは「解放闘争」が地元カシミールだけでなく、この地域のイスラム教徒全体の連帯感を呼び起こしていたことを意味する。(中略)

「戦略的縦深性」の強化図る
こうした過激派を背後で操っていたと批判されているのがパキスタンの軍部だ。

ソ連軍のアフガン侵攻よりも2年前の77年、クーデターでパキスタンの実権を握った軍トップのジアウル・ハク陸軍参謀長(後の大統領)は、米中央情報局(CIA)と組んで戦闘力のあるムジャヒディンを積極的に支援し、アフガンでの「米ソ代理戦争」を支えた。
 
これによってパキスタンは米国から巨額の援助を得たが、実は、軍部の狙いは援助獲得だけでなく、西方のアフガンの武装勢力に対する影響力を強めることによって、アフガンをいわば後背地とし、南北に細長いパキスタンの国土がインドからの攻撃を受けた場合の「戦略的縦深性」を強めようという意図があった。
 
外交筋によると、96年にアフガンで政権を奪ったイスラム組織「タリバン」も、ひそかにパキスタン軍部から支援を得ていたとされる。これも、パキスタン軍部が絡んだ対インドの「縦深性戦略」の一環だったと考えることができる。
 
さらにパキスタンは、この戦略をカシミールにも拡大していったとの見方が強い。
 
カシミールでは、アフガン紛争以前から「ジャム・カシミール解放戦線」(JKLF)という宗教色の薄い過激派が活動し、76年のインド航空機ハイジャック事件、84年の駐英インド外交官誘拐殺害事件などを起こした。だがJKLFは、あくまで地元主体の民族主義的な組織で、「カシミールの独立」を標榜していた。
 
これに対し「ジャイシェ・ムハンマド」など新興の宗教的な過激派は、最初から「カシミールのパキスタンとの統合」を唱え、JKLFから主導権を奪った。こうした点からも、新興の過激派とパキスタンとの結びつきの強さがうかがわれる。

「テロの温床」を容認?
インドとまともに軍事衝突しても勝ち目のないパキスタンは、軍以外の武装勢力も動員してインドを包囲する形で圧力を加えることに、戦略的な利益を見いだしたのだろう。

(中略)こうした過激派は、今回のテロに至るまで、カシミールでもテロを繰り返してきた。
 
パキスタン軍部は、インドとの戦力バランス確保を最大の戦略目標としているが、ジャイシェ・ムハンマドやラシュカレ・トイバなどの過激派との連携により、パキスタンとその周辺地域が「テロの温床」になることを容認してきたのではないかとの批判を米国からも浴びている。
 
パキスタン内務省は3月5日、ジャイシェ・ムハンマドの幹部ら44人を拘束したと発表したが、いずれほとぼりが冷めれば、釈放されるとの見方も根強い。
 
核兵器も持つパキスタンのような軍事強国が、過激派と手を組むという危険な「火遊び」が事実だとすれば、それはカシミール問題にとどまらず、国際社会にとって重大な懸念材料である。【3月7日 時事ドットコム】
*****************

上記記事では“新興大国のインドとパキスタンでは、もはや国力、軍事力が違いすぎる”ことがパキスタン側への抑止力として働くとされています。

【今回衝突で露呈した“張子の虎”インド軍の実態
実際そうなんでしょうが、ただ、インドの軍事力への疑問も今回衝突で表面化しています。

****インド軍の弾薬はたった10日分、パキスタン軍と戦えば勝ち目なし?****
<インドはパキスタンよりずっと大国だが、パキスタン軍の戦闘機とのドッグファイトでは旧ソ連時代のミグ戦闘機で撃墜される旧時代の軍隊だ>

インドでは、軍の装備品が時代遅れであることや軍事費が乏しいことがにわかに危機感をもって語られはじめた。万が一戦争が起きたときに国が無防備な状態になりかねない。

インド政府の概算によると、軍事用に備蓄している弾薬はわずか10日分しかもたないと、ニューヨーク・タイムズ紙が報じた。さらに装備の3分の2以上は旧式で、軍も年代物と認めている。(中略)

2月27日、インド空軍機はカシミール地方上空でパキスタン軍機と空中戦を演じた挙句、撃墜された。操縦士は助かったが、旧ソ連時代の老朽化したミグ21戦闘機は失われた。規模はインド軍の半分で、軍事費も4分の1のパキスタン軍が、装備の質では上回っていることからもこの一件からよくわかる。

いずれも保有国である両国は互いに報復し合って緊張を高めており、軍事衝突する可能性も出てきている。

戦争は待ってくれない
(中略)ちなみに、インド軍機を撃墜したパキスタン軍機はアメリカ製の戦闘機F16ではないか、という疑惑が持ち上がっている。アメリカはF16売却時に使用目的を対テロに限定しており、もし使われたとすれば、合意違反になる。パキスタン政府は否定しているが、米政府は調査を開始する。(中略)

豪シンクタンクのローウィー研究所が発表した2018年版アジア国力指数によると、インドの2018年の軍事費は450億ドルで、対立するパキスタンの97億ドルよりはるかに多い。この指数の軍事力部門では、インドは世界で4位にランクしている。

しかし、軍事費の大半は現役兵士120万人の給与として使い果たされ、新たな軍備に投じられるのは140億ドルにすぎない。

ゴゴイは、「現代的な軍隊は諜報力と技術力の向上に多大な資金を投じている。インドも同取り組む必要がある」と述べた。【3月5日 Newsweek】
*******************

一方で、意気軒高なのが、パキスタンと軍事的関係が深い中国です。

****パキスタン空軍強し、中国と密接に交流しているからだ―中国メディア****
インドとパキスタンの間で軍事衝突が発生し、空中戦でインド空軍の戦闘機が撃墜される事態も発生したことで、中国ではインドとパキスタンの戦闘能力についての関心が高まっている。

中国メディアの新浪網は2019年3月5日付で、「パキスタン空軍は強い」として、その背景には中国との密接な交流があると主張する記事を掲載した。

(中略)中国とパキスタンはインドに対する「敵の敵は友」とも形容できる極めて親密な関係を構築した。中国人の対パキスタン感情は極めて良好で、パキスタンの対中感情も中国周辺国の中で際立って良好だ。

新浪網記事は、2月に始まった軍事衝突で、パキスタン空軍が撃墜したのはインド空軍のMiG―21戦闘機だったと紹介。「パキスタン空軍の訓練のレベルは非常に高く、パイロットのはつらつとした雰囲気や戦術面の素養は、中国で行われた珠海航空ショーを通じて、多くの人が知っている」と論じた。(中略)【3月6日 レコードチャイナ】
*****************

インド軍機を撃墜したパキスタン軍機がアメリカ供与のF16なら、パキスタンとアメリカの間のもめ事となります。
一方で、中国側には、撃墜したパキスタン軍機は中国との共同開発によるFC1ではないないかとの“期待をこめた”憶測も出ているようです。そうであれば、FC1にとっては初めて実戦で敵機を撃墜したことになります。

戦闘機を中国と共同開発する一方で、アメリカからも供与されるという“奇妙な”実態が、パキスタンの国際的立ち位置を示しているとも言えます。インド軍がロシア製ミグを使っているのも、非同盟主義でアメリカと一線を画してきたインド外交の歴史を示しています。

なお、撃墜されたのち、パキスタンからインド側に引き渡されたパイロットに関しては、“バルタマン中佐を国民的英雄とたたえる声が出ており、称賛の印として特徴的な口ひげをまねる男性が続出している。”【3月5日 CNN】とも。解放を歓迎するのはわかりますが、撃墜されて“英雄”というのは?

【総選挙利用を目論むモディ政権 「戦果」をねつ造か?】
27日に起きた両国空軍の空中戦は、前日26日に行われたインド側の攻撃にたいするパキスタン側の報復でもありましたが、その26日のインドによる攻撃の「戦果」は、かなり“大本営発表”的なものだった疑いがあり、インド国内でも論議を呼んでいます。

モディ首相は、今回のパキスタンとの衝突に“強気の対応”を示すことで、5月の総選挙対策として最大限利用するつもりです。

****印モディ首相、下院選へ国威発揚 パキスタン攻撃から1週間****
インド空軍によるパキスタン攻撃から5日で1週間。パキスタン政府の対話の呼び掛けに、インドのモディ首相が応じる気配はなく、逆にテロ対策への注力を打ち出すなど強力な指導者像をアピール。

5月までに予定される下院選の日程が近く公表されるとみられ、退潮が予想される与党の勢力維持に向けて国威発揚を狙っているもようだ。
 
モディ氏は1日、南部タミルナド州で「テロリストに報いを受けさせる、これが新しいインドだ」と演説した。【3月5日 共同】
******************

一方、野党側は、架空の戦果で政治利用していると政府を批判しています。

****空爆“成果”独り歩き? インド政府「多数殺害」裏付けなく****
インド軍による先月26日のパキスタン領内への空爆の「成果」を巡り、謎が深まっている。

インド政府が「テロリストの訓練キャンプを攻撃」し、「非常に多く」を殺害したと主張する一方、パキスタン側はキャンプの存在自体を否定し、死者もいなかったとしているためだ。
 
インドの最大野党の国民会議派は、モディ政権が「証拠が示されていない『成果』を政治宣伝に利用している」と批判するなど、5月までに総選挙が予定されていることもあって、「成果」を巡りインド国内で与野党が対立する事態にもなっている。
 
インド軍は先月26日、パキスタン北東部を越境攻撃。与党・インド人民党トップは「250人を殺害した」と主張するが、インド空軍のダノア参謀長は4日、殺害した人数について「数えられないし、空軍は数える立場にない」と言及を避けた。
 
これについて野党は証拠を示すよう要求。さらに米紙ニューヨーク・タイムズなど欧米メディアも専門家や地元住民などの証言に基づき、キャンプの存在自体や殺害された人数について懐疑的な見方を示した。(中略)【3月4日 毎日】
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この26日のインド側攻撃について【朝日】は現地取材を行い、インド兵ら約40人が死亡し、インドとパキスタンの対立の引き金となった2月14日の爆破事件でも犯行声明を出しているイスラム武装組織「ジャイシェ・ムハマド(JeM)」の機関紙が「聖戦士を養成する施設」と紹介している宗教学校を狙ったものが的を外れて、丘の下に着弾した可能性が高いとの見解を示しています。【3月7日 朝日より】

なお、“パキスタンのマリク・アミン・アスラム気候変動相は1日、先月26日にインド軍がパキスタン領内を空爆して多数の木々が被害を受けたのは「環境テロ」だとして、インドを相手取り、国際機関に訴えを起こす考えを示唆した。”【3月2日 AFP】というのは、インドの「成果」ねつ造への揶揄でしょう。

いずれにしても、前回ブログでも書いたように、今月末(3/24出国)にパキスタン・フンザ旅行を予定していますので、今後の動向が個人的にも気になります。

現在はインド側上空が飛行禁止とかで、パキスタン行きのタイ航空などは欠航していますが、私の利用する中国国際航空は中国側から入るので「飛んでいる」とのことです。



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プラごみ海洋汚染対策の国際的ルールづくり インドの深刻な大気汚染 韓国は中国との協議を提起

2019-03-06 21:42:46 | 環境

(ジャカルタで昨年11月撮影【3月6日 ロイター】 世界各地の海は悲惨な状況が進行しています)

【プラごみ海洋汚染対策で進む国際的ルールづくり 日本も支援】
プラスチックごみによる海洋汚染等の問題については、2月23日ブログ“地球温暖化対策を呼び掛ける16歳少女の訴え、欧州各地に拡大 世界で広がるプラごみ対策”でも取り上げましたが、プラごみ対策強化の流れは国際的なルール作りの形で加速しつつあります。

****汚れた廃プラ、輸出入規制案 飲み残しペットボトルなど、バーゼル条約で****
有害廃棄物の国境を越えた移動を規制するバーゼル条約の対象に、汚れた廃プラスチックを加えようとする提案が、4月末からスイスで開かれる同条約締約国会議で議論される。日本もノルウェーとともに共同提案国になる。
 
リサイクル資源として輸出入されてきた廃プラスチックは、条約の規制対象外だ。だが、飲み残しの飲料が入ったペットボトルや食べもので汚れたプラスチック皿など、他の廃棄物が混じったリサイクルに適さない廃プラスチックが、途上国を中心とした輸出先でリサイクルされずに放置され、環境汚染を招いていることが問題視されている。
 
プラスチックによる海洋汚染が地球規模の課題となるなか、ノルウェーが「リサイクルに適さないほど汚れている廃プラスチック」を規制対象物に加える条約付属書の改正案を、4月末からの締約国会議に提案。

具体例として、飲み残しの飲料や食品で汚れた紙、おむつなどが混じった廃プラスチックを挙げている。同条約は187カ国・機関が締結している。提案は締約国会議で反対する国が1カ国もなければ採択される。
 
日本は、廃プラスチックのリサイクルの一部を、途上国を中心とした海外に頼っている。昨年は約101万トン、一昨年は約143万トンが輸出され、その中には汚れたプラスチックも多く含まれている。

同条約の規制対象物になれば輸出は難しくなるが、国内でリサイクル処理能力を増やすなどして対応する方針だ。【2月26日 朝日】
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日本は、すでに中国の受け入れ中止により、プラごみ受け入れ先を東南アジアなどに変更する対応もみせてきましたが、上記のようなルールが実現すれば(“締約国会議で反対する国が1カ国もなければ”というのも随分厳しい条件ですが)、そうした“抜け道探し”も難しくなり、国内での処理システム確立に向けて一層の努力を求められます。

ただ、共同提案国として問題提起しているということは、それなりの覚悟・目算があってのことでしょう。

最もプラごみ対策が急務となっている地域でもある東南アジアでも、問題意識が共有される状況にもなっており、日本は資金拠出などでこの流れを支援しています。

****アジアの高水準海洋プラごみに懸念 ASEAN首脳会議で「バンコク宣言」へ****
東南アジア諸国連合(ASEAN、加盟10カ国)の海洋ごみに関する特別閣僚会合が5日、バンコクで開かれ、「域内における(深刻度が)高水準の海洋プラスチックごみに大きな懸念」を示す共同報道声明を発表した。

6月にタイで予定される首脳会議で、対策指針を取りまとめた「バンコク宣言」の採択を目指す。

インドネシアは海洋プラスチックごみの排出量が中国に次いで世界で2番目に多いと指摘されるなど、ASEAN域内から海に流出するごみの量は世界でも目立っている。加盟国間でも「被害を受けるのも自分たち」との認識が共有されるようになり、削減に向けた取り組みが少しずつ広がりつつある。

域外国も含めた拡大会合には日本も参加し、秋元司副環境相が出席。東南アジアの大河メコン川流域などでのごみの排出源や経路の特定に向けて、国連環境計画の活動に資金を拠出することや、ジャカルタに情報収集拠点を創設することなど、日本政府の支援策を説明した。

会合後、秋元氏は「日本も通ってきた道だ。海洋ごみを含めた廃棄物管理などの経験をASEAN各国に伝えたい」と話した。【3月5日 毎日】
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更に、日本を含むG20の場での世界的ルールづくりの動きも進んでいます。

****プラゴミなど海洋汚染の対策提言、G20に向け=科学アカデミー****
G20(20カ国・地域)各国の科学アカデミーで構成するサイエンス20(S20)は6日、主催の日本学術会議がまとめた海洋汚染対策を共同声明として採択した。

海洋プラスチックなど海の生態系を破壊・汚染する要因を低減・除去するため、各国の科学者によるデータ管理システムの構築など6つの提言から成る。6月に大阪市で開催されるG20首脳会議をにらみ、具体的な対策の立案に向けて日本政府内でも議論が加速する見通し。

S20は、各国科学アカデミーがG20首脳会議での政策提言を行うために2017年に発足。今回が3回目の開催となる。

提言内容は、
1)海洋資源開発に対し、好ましくない影響を防ぐための科学的根拠に基づく助言の必要性
2)水産資源の乱獲や汚染など、海洋生態系へのストレスとなる要因の軽減を目的とした行動
3)科学的根拠に基づく目標設定
4)研究船、観測・監視技術等の調査・研究基盤の強化や人材育成
5)世界中の科学者がアクセス可能なデータ保管装置と管理システムの確立
6)国際協力の下で推進される調査・研究活動と情報の共有化──など。

例えば、抗生物質や殺虫剤などによる河川汚染の海への影響、海洋プラスチックゴミが海洋生物に取り込まれる可能性など、様々な要因で進む海洋汚染を定量的に把握するため多くの研究が必要と主張し、地球環境の悪化に対応する必要性を強調している。【3月6日 ロイター】
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問題がこれ以上深刻化する前に世界的規模で一定の歯止めをかける必要があり、公害問題以来、環境問題への取り組みには実績もある日本の積極的関与が期待されます。

【南アジア、特にインドで深刻な大気汚染】
一方、海洋汚染以上に“一目瞭然”というか、日々の暮らしに密着しているのが大気汚染。
こちらも、連日のように世界各地での劣悪な状況が報じられていますが、その中心地はインド・パキスタン・バングラデシュなどの南アジア、特にインドは最悪です。

****インドのニューデリー、2018年に大気汚染が世界で最も深刻=調査****

(スモッグに覆われたニューデリー市内。昨年12月に撮影)
インドの首都ニューデリーは、2018年に世界で最も大気汚染が深刻な都市だった。各都市の大気汚染状況を監視するエアビジュアルと環境保護団体グリーンピースが5日に調査結果を公表した。

調査は世界の61都市の大気中の微小粒子状物質「PM2.5」の濃度を測定。それによると、ニューデリーの2018年の「PM2.5」濃度は平均1立方メートル当たり113.5マイクログラムで、中国の首都、北京の平均(50.9マイクログラム)の倍以上だった。

ニューデリーに続いて大気汚染が深刻なのは、バングラデシュの首都ダッカ、アフガニスタンの首都カブールだった。北京は8位だった。

ニューデリーでは、車や工場などの排気ガス、建設現場のほこり、ごみの焼却による煙などが大気汚染につながっている。

世界保健機関(WHO)が定める大気中の「PM2.5」の濃度基準値は、1立方メートル当たり25マイクログラム。

エアビジュアルとグリーンピースによると、中国本土では「PM2.5」の水準が前年から大きく改善したと指摘。

一方、インドには、世界で最も大気汚染が深刻な20都市中15都市があると説明した。【3月6日 ロイター】
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インドは、“世界で最も大気汚染が深刻な20都市中15都市”と、ぶっちぎり状態です。

上記記事は「PM2.5」に着目したものですが、多分同じ調査だと思われますが、下記はPM2.5など、汚染物質の濃度を基に算出される「空気質指数(AQI)」に着目しています。

いずれにしても、南アジア、特にインドの独走状態は同じです。

****世界の大気汚染指数、インド7都市がワースト10入り****
世界の都市の大気汚染を比べた新たな調査で、インドがワースト10のうち7都市を占めることが分かった。

国際環境保護団体「グリーンピース」と大気汚染の実態を監視する民間機関「エアビジュアル」が世界3000都市について、米環境保護局(EPA)が定めた汚染の程度を示す指標「空気質指数(AQI)」などのデータを発表した。

それによると、AQIが最も高い数値を示したのはインドの首都ニューデリー郊外のグルグラム。昨年のAQIの平均は135.8と、EPAが「良好」と定める値の3倍近くに上った。EPAが「全ての人に非常に有害」とする境界の200を超えた月も2カ月あった。

AQIは大気中の微小粒子状物質(PM2.5)など、汚染物質の濃度を基に算出される。

報告書によると、世界では大気汚染が原因で死亡する人が、今後1年間で約700万人に達する見通し。グリーンピース東南アジア支部のサニョ事務局長は、世界全体で労働力の損失が2250億ドル(約25兆円)、医療コストも数兆ドルに及ぶと指摘した。

中でも南アジアの状況は深刻で、ワースト20の中ではインドとパキスタン、バングラデシュが18都市を占めた。

報告書に挙げられた3000都市のうち、PM2.5濃度が世界保健機関(WHO)の年間基準値を超えていたのは全体の64%。中東とアフリカの全都市、南アジアで99%、東南アジアで95%、東アジアで89%の都市に及んだ。

中国では平均濃度が前年より12%下がり、北京がワースト100から姿を消すなど改善がみられたものの、インドネシアや韓国、ベトナム、タイの大気汚染は悪化していることが分かった。【3月5日 CNN】
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【韓国 大気汚染対策で中国に共同対策を提起】
日本では大気汚染に関しては中国・北京の状況がひと頃よく報道されましたが、さすがに中国政府も危機感を感じたようで、(北京では)一定に対応が進んだようです。(中国のような国は、“やる”となると容赦ないところがありますので、進出日本企業も対策に苦慮しているところがあるのと話も聞きます)

【3月6日 ロイター】のPM2.5では北京は8位とのことですが、【3月5日 CNN】のAQIではワースト100から姿を消したとのこと。

隣国の韓国・ソウルの大気汚染もしばしば話題になります。

****史上最悪PM2.5 韓国で大気汚染が深刻****
2019/03/06 12:15
韓国のソウルでPM2.5の濃度が観測史上最悪を記録した。韓国では自動車の排ガスや中国から大気汚染物質が飛来していることなどを受け、大気汚染が深刻化している。

ソウルでは5日、PM2.5の平均濃度が1立方メートルあたり135マイクログラムとなり観測史上最悪を記録。日本の基準では1日の平均が70マイクログラムを超えるとみこまれる場合、外出を控えるなどの注意が呼びかけられるが、ソウルではその倍近くの濃度となった。

韓国の大気汚染はしばらく続く恐れもあり、抜本的な対策を求める声が高まっている。【3月6日 日テレNEWS24】
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韓国は、中国から汚染が自国に飛来してきている・・・との不満が強く、中国は韓国自身に由来する汚染だと反論して、しばしばもめていましたが、韓国・文在寅大統領は中国との共同作業で人工降雨などを使った対策を提起しています。

****大気汚染対処へ中国と協議を 「必要なら補正予算編成も」=文大統領****
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は6日、大気汚染が深刻化していることに関し、「中国から飛来する粒子状物質(PM)の影響を最小限に抑えるため、中国政府と協議して緊急対策を講じてほしい」と指示した。青瓦台(大統領府)の金宜謙(キム・ウィギョム)報道官が発言を伝えた。

文大統領は、大気汚染物質の濃度が高い場合に韓中がこれを減らすための措置を同時に取る案を協議し、汚染物質を洗い流すための人工降雨の韓中共同実施を推進するよう指示した。

韓中がすでに人工降雨の技術協力で合意していることを挙げながら、「中国側は韓国の粒子状物質が上海に飛来すると主張しているが、黄海上空で人工降雨を実施すれば中国にも有益だ」と指摘した。また、中国と共同での大気汚染予報システム構築も推進するよう求めた。

文大統領は「必要なら補正予算を組んででも、粒子状物質の低減に尽力してほしい」と強調。金氏は、この補正予算は空気清浄器の設置を増やすなどの支援事業や中国との共同事業に使われると説明している。

文大統領はあわせて、稼働30年以上の老朽化した石炭火力発電所の早期閉鎖を積極的に検討するよう指示した。

金氏によると、青瓦台は独自の大気汚染対策を実施する。粒子状物質の非常低減措置が発令されている間は青瓦台の業務用車両51台のうち電気自動車(EV)6台と燃料電池車(FCV)1台のみを使用し、職員にも原則として自家用車での通勤を禁じる。【3月6日 聯合ニュース】
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もっとも、文在寅大統領の提起の根底には、中国からの汚染飛来で韓国が犠牲を被っているという考えがありますので、中国側がこの提案に乗るのかどうかはわかりません。

もし、こうした対策が有効なら、毎年大陸からの黄砂および付着する汚染物質に悩まされる日本としても、協力するのにやぶさかではないでしょう。

政治的には問題が多い三か国ですが、協力できるところで共同作業ができれば、それはまた有意義なことです。

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地球温暖化の進行を止められる新技術となるか? 大気中のCO2除去技術

2019-03-05 16:07:04 | 環境

(二酸化炭素を吸収する未来の設備の想像図【2018年06月8日 BBC】)

【経済活動を抑制する排出削減 まとまらない具体策】
アメリカのトランプ大統領など一部の人々を除けば、地球温暖化阻止の取り組みが今後の人類社会にとって非常に重要であるということが、ほぼ共通の認識になってきています。

そのために、「パリ協定」が合意され、国連気候変動枠組み条約締約国会議で議論が続けられていますが、その進捗は問題の切実さに比べて非常に遅いように思われます。

その原因は、具体策に関しての国際的合意が非常に困難なためですが、その困難さは、CO2排出を制限することは、現在の技術環境下では経済活動に抑制的に作用するという現実によるものです。

より効果的な具体策を求める欧州などは、途上国にも先進国と同等、あるいはそれに近い厳しい制限の実施を求めていますが、途上国側からすれば、「現在の問題は経済活動を主導してきた先進国が好き放題にCO2をまき散らした結果であり、これから経済活動水準を上げていかねばならい我々途上国に、その“つけ”を回すのはおかしい。先進国が大きな責任を負うべきであり、途上国を同列に扱うのは間違っている。」という主張にもなります。

途上国側の主張も“もっとも”です。ただ、大量排出国の中国やインドまでも“途上国”ということで厳しい制約を逃れては、有効な対応はできません。

毎年繰り返される議論で、明快な答えはみつかっていません。
アメリカ・トランプ政権が「パリ合意」から離脱する理由も、そもそもの「温暖化」への疑念や石炭産業保護に加え、温暖化効果ガス排出制限がもたらす経済活動への悪影響があります。

【C02除去技術で地球環境を改善できる日も近い?】
経済活動を抑制することなくCO2を抑制・削減できたら、この種の議論による「停滞」を打ち破ることも可能になります。

例えば、大気中のCO2を吸収・回収することはできないのか?
そんな都合のいい技術は・・・ないことはないようです。

****ベンチャーが挑む「フェーズ2」の新技術****
CO2の排出量を抑えるだけでは、予測を超える気候変動のスピ-ドに追いつけない。大気中のC02を科学の力で取り除けないか。従来の気候変動対策を「フェーズ1」とすれば、「フェーズ2」に相当する新たな試みが始まっている。
 
最先端を走るのがスイスのスタートアップ「クライムワークス」だ。チューリヒ近郊では、同社が世界で初めて開発・製造に成功した商業用C02回収プラントが、すでに稼働を始めている。
 
田園地帯にあるゴミ焼却施設の屋上に、エアコンの室外機のような装置が据えつけられていた。

18機のファンが吸い込んだ空気を約100度に加熱し、特殊なフィルターでC02を吸着させる。1年で回収できるC02は約900トンで、1機が数千本の樹木に相当。回収したC02は約400メートル先にある畑の温室にパイプで送り、作物の光合成を活発化させる「肥料」になる。

広報部長のルイーズ・チャールズは「2025年には地球全体で排出されるC02総量の1%を回収したい」と意気込む。

1トンの回収に600ドルかかる高コストが課題だが、コカ・コーラの発売する炭酸水「VALSER」に回収したC02が使われるなど、付加価値を高める試みも始まっている。
 
大規模プラントを試験運用するカナダの「カーボンエンジニアリング」、安全性の高い技術で注目を集めるオランダの「アンテシー」など、世界のスタートアップも次々とC02除去に名乗りを上げる。

きっかけは2016年に温暖化防止の国際ルール「パリ協定」が発効したことだ。「産業革命以降の気温上昇を2度未満に抑える」などの厳しい目標を前に、見込みのある技術は何でも試す機運が広がった。EUの長期戦略では、除去技術を使うことがすでに前提となっている。
 
C02除去技術の発展を支援する米国のNGO「カーボン180]代表、ノア・ダイヒは言う。「30年前は太陽光発電も非常に高コストだったが、技術の進歩でコストが下がり、それが投資を呼び込み、さらなる技術の発展を促すというサイクルで、100分の1にまで下がった。この好循環が起これば、C02除去技術で地球環境を改善できる日も近い」(後略)【3月3日 CLOBE+】  
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【大気中のC02から液体燃料をつくることでカーボンニュートラルを実現】
“1トンの回収に600ドルかかる高コスト”では、まだまだ実用化は先のように思われますが、上記記事にも名前がでてくるカナダの「カーボンエンジニアリング」などは100ドルを切る水準にコストを下げられるとしています。

カナダ「カーボンエンジニアリング」の特徴は低コスト実現のほか、画期的新技術ではなく既存の技術・施設を利用する仕組みとなっていること、回収したCO2を液体燃料に変えることで、プラスでもマイナスでもない「カーボンニュートラル」な状況を実現しているという点です。

****二酸化炭素を大気から吸収する新技術 加企業、低コストで****
空気中の二酸化炭素を低コストで吸収する新技術を、カナダの企業がこのほど公表した。二酸化炭素1トンを取り出す費用は100ドル(約1万1000円)以下と、従来の技術の6分の1になるという。

米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が後押しするカーボン・エンジニアリング社は、二酸化炭素と再生可能エネルギーから合成液体燃料を生産することが目下の目標だとしている。

新技術に関する専門家によるピアレビュー(査読)を経た論文は、科学誌「ジュール」に掲載された。

科学者たちの疑念
気候変動の原因になる二酸化炭素ガス問題を解決する技術的な「解決法」には常に、科学者たちから一定の疑いの目が向けられてきた。

宇宙に太陽光の遮光板を建設したり、二酸化炭素を吸収する物質を海中に投入したりといったアイデアは、温暖化ガスの排出削減を人々に訴えるという、平凡ながらも困難な取り組みから関心をそらしてしまい、危険でもあると指摘されてきた。

しかし、二酸化炭素を空気から直接吸収する計画は実質的に森林保護と同じで、幾分かはより現実的な方策だと考えられてきた。

このアイデアは、1990年代半ばに科学者のクラウス・ラックナー氏が最初に提唱したもので、その後、いくつかのハイテク企業が二酸化炭素を取り除く設備の高価なプロトタイプを建造してきた。

スイス企業のクライムワークス社は昨年、炭素を空気から直接取り出す設備を発表し、取り出された炭素を、近隣の温室設備で栽培されているトマトやキュウリの肥料として供給した。

カーボン・エンジニアリング社は今回、空気から直接取り出す技術の大幅な低コスト化に成功したと話している。
同社は2009年に、マイクロソフトのゲイツ氏やカナダのオイルサンド産業に投資するノーマン・マリー・エドワーズ氏から出資を受け設立された。同社は2015年から試験場を操業しており、一日当たり1トンの二酸化炭素を空気から取り出しているという。

同社の技術では、工夫が施された冷却塔に送風機によって空気が運ばれ、二酸化炭素と反応する液体に接触する。
その後いくつかの工程を経て、より純度の高い二酸化炭素が抽出され、二酸化炭素と反応する液体は空気接触器に戻される。

2011年に米国物理学会が行った研究では、空気から二酸化炭素を直接取り出す費用は1トン当たり600ドルだと示唆されていたが、カーボン・エンジニアリング社は、既存の技術を応用することで大幅なコスト削減が可能になったと説明する。

カーボン・エンジニアリング社を創業した米ハーバード大学のデイビッド・キース教授はBBCに対し、「大きな前進だと言っているのは我が社だけではない」とし、「本当はそうでないのに、我々を救ってくれる魔法の解決策だとか、あまりに高額でばかげていているとか、人々に言われてしまうものから、実現でき有用な形で開発可能な産業技術だと、この技術が考えられるようになるきっかけになると期待している」と語った。

カーボン・エンジニアリング社は二酸化炭素とクリーンエネルギーを組み合わせた液体燃料によって排出ガス削減に貢献したい考えだ

キース教授は、「有用な形」が意味するのは、ただ二酸化炭素を空気から取り出すのではなく、合成液体燃料の主要原料にできることだと話す。

カーボン・エンジニアリング社は現在、純粋な二酸化炭素と再生可能エネルギーを使って水から取り出した水素を組み合わせた液体燃料を一日約1バレル生産している。

キース教授は、「カーボン・エンジニアリング社が市場に提案しているのはまず、二酸化炭素の量がプラスマイナスゼロになるカーボンニュートラルな燃料で、その意味では排出ガスを削減する技術の一つに過ぎない。最終的には大気中の二酸化炭素を取り除いてはいない」と語った。

「我々の燃料工場の1日当たりの生産量は、長期的にはざっと2000バレルになると想定しているが、次に建設する工場は、初の本格的な商業目的ながら大きさは10分の1になる。我々は今それを開発していて、太陽光発電あるいは風力発電による非常に安価なエネルギー供給や、投資家を探している」

バイオ燃料よりも良い?
カーボン・エンジニアリング社は、バイオ燃料に対する同社の液体燃料アプローチの優位性は、必要となる土地や水がずっと少ないことだと考えている。

キース教授は、もし同社の技術がほかのカーボンニュートラルな技術と同等の補助金を得られるなら、資金調達が可能になり、かなり早期に工場を建設できると話した。

同業者からは、カーボン・エンジニアリング社が低コスト化を実現したことを歓迎する声が出ているが、二酸化炭素を大気から取り出して、活用し貯蔵することの潜在性を生かすためには、政府からさらなる後押しが必要だと考えている。

レイキャビク・エネジー社のエッダ・シフ・アラドティール氏はBBCに対し、「空気から直接取り出す手法が1トン当たり100ドルというのは、同様の技術の奨励策が全くない我々の現状からすると多少、大幅(な低下)だが、コストを引き下げるには、個別の技術や代替可能な工程について、さらに開発し効率化するしかない」と語った。
アラドティール氏はアイスランドで、大気中の二酸化炭素を吸収し、地中奥深くに固体として保存する計画にかかわっている。

同氏は、「我々が直面している最も大きな課題は、パリ協定で合意された文言の後には行動がなくてはならないということだ。気候変動の技術的解決策はすでにあるが、技術が幅広く実用化されるための奨励策あるいは義務化については、各国議会の取り組みは十分でない。パリ協定を守るためには、この状況が早急に変わらなくてはならない」と指摘した。

カーボン・エンジニアリング社の関係者は課題の大きさを痛感している。キース教授は、「我々が失敗する可能性はあらゆるところに転がっている」と語る。

しかし、キース教授は航空機や大型輸送の排出ガス問題は、電気自動車技術だけでは解決できないと考えている。
「液体燃料面でより良い革新が必要だ。二酸化炭素と再生可能エネルギーによって取り出された水素を組み合わせるという、このアプローチは突破口になる」【2018年06月8日 BBC】
******************

既存の技術の利用ということに関しては、以下のように説明されています。

“水酸化物の水溶液を擁する改造済の産業冷却塔がCO2を吸収して、炭酸塩に変換する。
変換された炭酸塩は、元々は浄水場において鉱物の抽出のために作成された装置で、ペレットになる。
そしてペレットは、金を焼くために本来設計された窯で熱せられ、純粋なCO2ガスに変換されてから、最終的に合成燃料となるのだ。”【2018年6月16日 IDEAS FOR GOOD】

大気中から吸収したCO2を原料に液体燃料をつくるという、“カーボンニュートラル”“排出ガスを削減する技術の一つに過ぎない”という点には、やや物足りない感も素人的にはありますが、“現実性”という面では大きな意味があるかも。

どんなに優れた技術でも、要した費用を回収できる道がなければ現実のものとはなりません。

せいぜい、公的な補助金で・・・というところでしょうが、昨今はどこの政府も財政難で、目の前の課題を抱えた状況で、遠い将来のための費用を負担する余裕はなく、やろうとすると “黄色いベスト運動”に直面しているフランス・マクロン政権(燃料税引き上げで気候変動対策など脱炭素社会を目指す)のように“政治問題”にもなります。

「地球環境は心配だけれど、今はそれどころではない」(黄色いベスト運動参加者)【3月3日 GLOBE+】

一方、CO2を原料に液体燃料をつくるというコスト回収方法があれば、政府が一定に誘導・補助さえすれば、あとは民間資金が市場ベースで世界各地で活動を始める・・・という話にもなります。

コストの問題は、これも素人の勝手な推測ですが、必要とされている技術であれば日進月歩の技術革新によって、そう時間を要することなく飛躍的に引き下げることも可能ではないでしょうか?きわめて楽観的ですが。

もちろん、CO2回収のルートができたとしても、長年増え続けてきたCO2を海中に蓄積するなど、すでに変容している地球環境の変化を押しとどめるためには、化石燃料などの使用削減は並行して進める必要があります。

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中国人権問題の闇  「憲法上の権利侵害」を訴えるファーウェイCFOはどのように考えるのか?

2019-03-04 22:01:17 | 中国

(中国・天津の裁判所前で撮影を阻止する私服警官(2018年12月26日撮影)【1月29日 AFP】
中国では外国人記者らの取材環境が従来にも増して悪化しており、 尾行や盗聴をされることもあるとか)

【ファーウェイの孟晩舟氏 「憲法上の権利を著しく侵害」されたとカナダ政府を訴える】
周知のように、中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟CFOは昨年12月1日、飛行機の乗り継ぎのため訪れたカナダ・バンクーバーで、アメリカ当局の要請に基づき、対イラン制裁に違反した容疑で逮捕されていますが、カナダ司法省は今月1日、アメリカへの身柄引き渡し手続きを正式に開始したと発表しています。

こうした状況を受けて、孟晩舟CFO側も“反撃”というか、対抗措置に出ています。

****ファーウェイが反撃、逮捕の副会長がカナダ政府を提訴―カナダ紙****
2019年3月4日、環球網は、カナダ紙グローブ・アンド・メールの報道として、中国・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟(モン・ワンジョウ)副会長兼最高財務責任者(CFO)がカナダ政府およびカナダ国境サービス庁、王立カナダ騎馬警察(国家警察)を提訴したと報じた。

記事によると、孟氏の弁護団は3日、「ブリティッシュコロンビア州の高等裁判所に1日付で民事訴訟を提起した」との声明を発表。「孟氏の憲法上の権利に重大な侵害があった」とし、「カナダ政府職員が法治に従わないことによって引き起こされた不法監禁」などについて賠償を求めたことを明らかにした。

孟氏サイドは「昨年12月1日、バンクーバーの空港で不当な拘禁に遭い、捜査、尋問を受けた。関係当局は逮捕を告げる前に孟氏を拘留し、捜査や取り調べを行った」としているという。また、弁護士は訴状の中で、「カナダ当局は孟氏を即逮捕するのではなく、税関の通常検査と見せかけて尋問を行い、この機会を使って証拠や情報を提供するよう迫った」と指摘しているとのことだ。【3月4日 レコードチャイナ】
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華為技術創業者の娘でもある孟氏の事件は、5Gなどの最先端技術、知的財産権などをめぐって将来的な世界覇権を米中が争っている状況を象徴するものともなっています。

****ますます先鋭化、5Gをめぐる米中の争い****
昨年2018年8月にトランプ大統領が署名した米国国防権限法第889節は、中国の通信機器メーカーのファーウェイ・テクノロジー(華為技術)やZTEの製品を米国政府が調達したり使用したりすることを禁止した。

2018年12月には、カナダで、ファーウェイのCFO(最高財務責任者)孟晩舟容疑者が、逮捕された。中国政府は、これに報復するかのように、中国国内でカナダ人を複数、逮捕した。

今年2019年1月には、米国司法省が、正式に、法人としてのファーウェイとその子会社及びCFO個人を起訴した。
 
次世代移動通信規格5Gをめぐる米中の争いは、ますます先鋭化している。
 
米中貿易戦争は、米中間の技術をめぐる争いにも発展し、それは、軍事競争にも発展し得る。そして、その技術戦争の中心は、現在5Gになっている。

5Gは、単なる通信施設ではなく、工場の自動化、自動運転、遠隔医療など、IoT(モノのインターネット)時代の社会基盤になる可能性があると言われる。いわば、次世代の産業の主導権を握るものなのである。新たな技術革命とも言え、5Gを制するものが世界を制すると言っても過言ではないかもしれない。
その5Gで、米国は、中国に比して劣勢に立たされていると言う人もいる。ある民間調査会社によれば、2017年時点で1 万人当たりの5G基地局(電波を中継する)は、中国が約14万基であるのに対して、米国は4万7000基であったとのことである。

その中で目立つのはファーウェイで、2017年の売り上げは世界全体の28%と、長年トップのエリクソンの27%を抜いて世界第1位となった。
 
米国が危機感を持っているのは、5Gで中国に後れを取っているのみならず、5Gのネットワークが情報の搾取に利用される恐れが高いからである。

中国の「2017年国家情報法」は、中国の企業が中国の国家情報局を支援し、これと協力しなければならない、と規定している。5Gは広大な通信ネットワークで、米国はファーウェイが深圳の本部から世界に張り巡らされたネットワークにアクセスし、これを管理することを懸念している。
 
ファーウェイは、ネットワークを管理するソフトウェアに挿入したコードは悪意のあるものでも秘密でもなく、遠く離れたネットワークを常に最新のものに保ち、トラブルを分析するものだと説明しているが、場合によっては、企業がネットワークを監視するデータセンターにアクセスできるとのことであり、そのこと自体が懸念の対象なのである。

トランプ政権が、5Gをめぐる中国との争いが、国家の安全保障を守る争いであると言っているのは、このリスクがあるためである。(後略)【2月26日 WEDGE】
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中国側は情報搾取に関するアメリカの疑念を否定したうえで、アメリカ側のファーウェイを狙い撃ちしたような対応を非難しています。

****米のファーウェイ排除 中国高官「国際市場の秩序乱す」と非難****
アメリカが、中国の通信機器大手ファーウェイの製品の排除を各国に求めていることについて、中国高官は記者会見で、「WTO=世界貿易機関のルールに違反し、国際的な市場秩序を乱すものだ」と述べ、強く非難しました。

中国では通信企業に対し、政府へのデータ提供が義務づけられていることから、アメリカは、安全保障上の脅威だと主張して、ファーウェイの製品を排除するよう各国に求めています。

これについて、中国で、重要政策を決める全人代=全国人民代表大会が5日に始まるのを前に、北京で記者会見した張業遂報道官は4日、「政治的な手段で経済活動に干渉するものだ。WTOのルールに違反し、公平な競争を前提とする国際的な市場秩序を乱すものだ」と述べ、アメリカの対応を強く非難しました。(後略)【3月4日 NHK】
***************

こうした状況については、2月24日ブログ“アメリカ主導のファーウェイ包囲網、イギリスは不参加か 将来的最大市場インドも”等でも取り上げてきましたが、中国だけが情報搾取を狙う“悪者”で、アメリカが“正義の味方”という話でもなく、両国とも似たり寄ったりの情報監視国家であると個人的には考えています。

【中国国内で「憲法上の権利が著しく侵害」されている人権派弁護士】
それはそれとして、冒頭の孟晩舟氏の“反撃”には“引っかかるもの”があります。

法律的な問題はわかりませんが、孟晩舟氏のことだけに関して言えば、孟氏側にもそれなりの言い分はあるのでしょう。

ただ、“空港で拘束された際に「憲法上の権利を著しく侵害」されたといい、カナダ当局による職権乱用と不法監禁に対する損害賠償を求めている”【3月4日 AFP】という主張を聞くと、どうしても「では、中国国内で行われているウイグル・チベットでの人権侵害はどうなのか?人権派弁護士の逮捕はどうなのか?」と尋ねたくなります。

ウイグル・チベットに関しては最近も取り上げたことがありますので、人権派弁護士に関する最近の記事をいくつか。

****人権弁護士に懲役4年6月、中国 国家政権転覆罪で****
中国の天津市第2中級人民法院(地裁)は28日、国家政権転覆罪に問われた人権派弁護士、王全璋氏の公判を開き、懲役4年6月の実刑判決を言い渡した。
 
習近平指導部は2015年7月に王氏を含む人権派弁護士や民主活動家ら約300人を一斉連行。王氏の拘束は、家族や家族が依頼した弁護人との接見を許されず、審理の内容も明らかにされないまま約3年半に及んでいる。判決に国際社会から懸念が強まりそうだ。
 
関係者によると、起訴状では、王氏が海外の組織から資金提供を受けながらインターネットを通じて政府を敵視する世論をあおったことなどが国家政権転覆罪に当たるとされた。【1月28日 共同】
*********************

中国のこうした「人権侵害行為」は、中国と争うアメリカにとっては“攻めどころ”ともなっています。

****米国務省が警笛を鳴らす中国の人権問題****
2019年1月29日付で、米国務省は、中国の人権派弁護士、王全璋(Wang Quanzhang)氏に対する判決に関して、以下のようなプレス・リリースを発表した。
 
「1月28日に中国天津で、人権派弁護士の王全璋氏に対して「国家転覆罪」で4年半の禁固刑が言い渡されたことに、米国は深く憂慮している。

王氏は、2015年7月9日(「709」)の中国政府による法の支配提唱者や人権擁護者に対する取り締まりによって最初に拘留された者の一人であり、判決を下された最後の者の一人である。
 
中国が王氏を判決前に3年半も拘留、監禁し、彼が選定した弁護士は認められず、その弁護士は報復にあったことを、我々は問題視する。
 
我々は、王氏が即時に釈放され、彼が家族のもとに戻れることを、中国に要求する。中国において、法の支配、人権及び基本的自由の状況が悪化していることを、我々は憂慮している。そして、中国が国際的人権ルールを守り、法の支配を尊重することを、引き続き要請する。」(中略)

2015年7月9日に開始された「709」キャンペーンでは、2−3週間の間に、300名もの人権擁護や民主主義、法の支配を訴えていた弁護士や法律顧問等が逮捕、抑留され、弁護士資格を剥奪されたり、仕事を失ったりした。
 
この中で、上記に掲げた王氏のほか、少なくとも 4 名が収監された。2016年 8月、周世鋒(Zhou Shifeng)氏と胡石根(Hu Shigen)氏は、それぞれ7年と7 年半の禁固刑を言い渡された。

2017年11月には、江天勇(Jiang Tianyong)弁護士が2年の刑に処せられた。その翌月2017年12月には、人権活動家の呉淦(Wu Gan)氏が8 年の刑を言い渡された。
 
また、上記のプレス・リリースで指摘されている、王氏の弁護士に関しては、そのうちの一人、余文世(Yu Wensheng)弁護士とは連絡が付かず、 彼は1年以上拘束されているとも言われている。
 
なお、この問題に関しては、1月31日付の米ワシントン・ポスト紙が社説で取り上げている。
 
中国については、共産党が大きな役割を果たし、はたして市場経済であるのか否かとか、世界標準を外れた行いを中国の特色として正当化する傾向があるとか、いろいろな問題があるが、人権無視の問題はその中でも中国を尊敬できない、恐ろしい国にしている主要な問題である。このことについては、不断に注意喚起をしていく必要がある。
 
中国で人権のために勇敢に戦っている人々は、民主主義世界の支持に値する。
 
旧ソ連でも、1975年まで人権はひどく無視されていたが、ヘルシンキでの全欧安保会議でヘルシンキ宣言が採択された後、状況は徐々に変わっていった。

中国に関しては、もちろんヘルシンキ宣言のようなものはないが、人権規約のうち社会権規約は締結済みであり、自由権規約についても署名済みである。自由権規約の批准、締結を求めていくことが適切である。
 
また、中国の人権問題を、ウイグル、チベットの問題を含め問題にしていくことは大切である。それが中国を異形の大国である度合いを低めることになる。国内での法の支配の強化につながるし、国際的な場での法や規則の尊重にもつながると思われる。
 
日本の人権活動家も、もっと中国の人権状況に関心を払うべきであろう。【2月20日 WEDGE】
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たとえ刑期を終えて解放されても、当局の厳しい監視下におかれます。
上記記事でも名前がでてくる江天勇氏については・・・。

****出所後に行方不明の人権派弁護士、所在判明も「まだ自由の身ではない」 中国****
中国の著名な人権派弁護士で、先月28日に刑期を終えて出所してから行方不明になっていた江天勇(Jiang Tianyong) 氏の所在が判明したものの、引き続き監視下に置かれていることが分かった。米国在住の妻、金変玲氏が3日、明らかにした。
 
江氏は、非合法化された気功集団「法輪功」のメンバーや、抗議活動に従事したチベット人など、注目された裁判で弁護を引き受けていた。また、共産党政権に批判的な司法関係者に対する2015年の一斉取り締まりの際に拘束された200人余りの弁護士や活動家の一人であり、17年に国家転覆を扇動した罪で有罪判決を受けた。
 
江氏は2月28日に2年に及ぶ刑期を終えたものの、その後所在が分からなくなっていた。妻の金氏によると、最終的に故郷の河南省信陽にいることが明らかになったという。
 
金氏はAFPに対し、「6年間互いに会えなかったが、ようやくビデオチャットで話すことができた」と明かした一方、江氏が出所後も「まだ自由の身ではない」と指摘。「現在夫は実家に身を寄せているが、外に警官が配置されている。夫がどこに行こうとも、警官は後をついてくる」と述べた。
 
その上で「夫がいつ失踪してもおかしくない不安もある。夫が極力早く米国に来て、わたしたちと再会できることを願っている」と話した。
 
中国では人権活動家や反体制派が刑期を終えて出所した後、引き続き監視下に置かれたり制約を受けたりすることが珍しくない。 【3月3日 AFP】
*******************

こうした状況こそが、“憲法上の権利の著しい侵害”“職権乱用と不法監禁”というべきものです。
中国でも極めて大きな影響力を有する立場にある孟晩舟氏はこのことについてどのように考えるのか、是非聞きたいものです。

【最近の中国政治の鬱陶しい空気】
中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が3月5日から北京で始っています。
中国の最近の政治情勢・雰囲気を示す話題をいくつか。

****「習氏に学ぶ」アプリ、党員悲鳴 ポイント少ないと指導****
中国で共産党の習近平(シーチンピン)総書記(国家主席)の思想や政策を学ぶスマホのアプリやPCソフト「学習強国」が、攻略法の紹介がネットで出回るなど異様なブームを見せている。

党の方針に従って大半の党員が使い始めたためとみられるが、学習するほどたまるポイントが少ないと指導を受けることもあり、党員からは悲鳴も上がっている。
 
アプリは党の思想や政策の普及を担当する党中央宣伝部が開発し、1月に配信が始まった。

「学習」は中国語で「習氏に学ぶ」という意味にもなる。習氏が唱える「新時代の中国の特色ある社会主義思想」を学ぶ場と位置づけ、約9千万人いる党員を中心に「学習」を呼びかけた。(中略)

SNS上には「各自のスコアは把握できる。他の人に負けないように」との通知や、「毎日ノルマを課されている」との書き込みがあり、党員はスコアを上げるのに必死のようだ。「ニュースは10秒読めばポイントがつく」など、短時間で高スコアを出す攻略法まで出回っている。(後略)【2月19日 朝日】
*********************

噴飯ものですが、実際にこういうことが行われるというのが中国政治の怖いところでもあります。

習近平氏への個人崇拝には中国国内でも対立勢力・党長老などから大きな異論・批判があったところで、多少は自制するようになったという話もありましたが、上記のような話を聞くと、いまだにその流れは変わっていないようにも見えます。

“締め付け”の対象は党員だけではないようです。

****チャン・イーモウ監督作品、取り下げ 規制強化? 中国当局の意向か****
ベルリン国際映画祭の最高賞「金熊賞」を競うコンペティション部門にノミネートされ、15日に上映予定だった中国映画「ワン・セカンド」(チャン・イーモウ監督)の出品が取り下げられた。

製作側は「技術的問題」を理由にしているが、中国では映画だけでなく人気ドラマの再放送が中止されており、中国当局による規制強化との見方が出ている。
 
(中略)文化大革命期(1966〜76年)の中国を舞台にしたため、当局から問題視された可能性がある。
 
青少年向け部門でも中国・香港合作の青春映画「ベター・デイズ」(デレク・ツァン監督)が「製作上の理由で間に合わない」(製作側)として出品が取り下げられた。
 
中国映画の審査権限については昨年3月に発表された機構改革で、政府部門から共産党宣伝部門に移管された。ドラマや出版でも党の審査権限が強化された。
 
中国紙、北京日報は1月25日の論評で、清朝の後宮を舞台にした人気ドラマ「延禧攻略(えんきこうりゃく)」と「如懿伝(じょいでん)」の2作品について「皇帝の重臣たちを美化することで、新中国の英雄・模範の輝きを失わせている」「ぜいたくを賛美し倹約や勤労を攻撃している」と批判。複数の放送局で2作品の再放送が中止されたり、途中で打ち切られたりした。
 
「延禧攻略」はネット上で181億回以上再生。18日から日本の衛星放送で放送される。「如懿伝」もネット上で146億回以上再生されているヒット作。突然の打ち切りにネット上では「文化大革命のようだ」と不満が出ている。【2月14日 毎日】
**********************

どうもトランプ大統領のアメリカしても、習近平主席の中国にしても、政治・社会の空気がよくないようです。


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インド・パキスタンのカシミールでの衝突 インド側世論、総選挙を控えた政治事情の影響も

2019-03-03 22:48:09 | 南アジア(インド)

(パキスタンとの実効支配線に近いインドの村で、爆発した迫撃弾の破片を持つ住民。住民らはパキスタン軍が発射したものだと話している(2019年3月1日撮影)【3月3日 AFP】)

【印パ両国とも、引くに引けないカシミール問題】
宿敵同士のインドとパキスタンのカシミール地方での衝突については、連日報道されていますので、その経緯・詳細は省略します。全体的な流れについては下記のとおり。

****印パ緊張 各国仲裁、予断許さず 核保有に憂慮****
軍事的緊張が続くインドとパキスタンに対し、国際社会が仲裁に乗り出している。核保有国である両国の自発的な緊張緩和が期待できず、一層の関係悪化を懸念するためだ。だが、対立は根深く、国際社会の仲裁が早急な緊張緩和に結びつくかは予断を許さない。
 
「彼らを止めようとしてきた。収束すると期待している」。トランプ米大統領は2月28日、ベトナムの首都ハノイで米朝首脳会談後に開かれた記者会見で、印パを仲裁していることを明らかにした。
 
パキスタン軍は27日にインド軍機を撃墜し、パイロット1人を拘束したが、パキスタンのカーン首相は翌日、3月1日に解放することを明らかにした。インドメディアによると、米国やサウジアラビア、アラブ首長国連邦がパキスタンに対してパイロットを解放するよう求めたという。
 
関係悪化のきっかけは、2月14日に両国が領有権を争うカシミール地方のインド側で起きた武装組織による自爆テロだ。

インドはこの武装組織を「パキスタンが支援している」と批判。インド空軍は26日に「武装組織のキャンプがある」として領有権を争っていないパキスタン北東部バラコットへの攻撃にまで踏み切った。インド軍機がパキスタン領空に侵入したのは1971年以来だった。
 
パキスタンはこの攻撃に脅威を感じた。バラコットは首都イスラマバードから100キロ程度で、パキスタンのジャーナリストは「インドは首都も容易に攻撃できることを示した。この攻撃は『本土』への攻撃であり、カシミール地方での攻撃と意味が異なる。パキスタンは後戻りできなくなった」と語る。
 
また、双方とも相手国に対する国民の感情は厳しく、安易な妥協は難しい。インド軍のパイロット解放で双方が緊張緩和に向け歩み寄るかは見通せない。
 
インドでは5月までに総選挙が実施される見込み。党勢の衰えを指摘されるモディ首相の与党・インド人民党(BJP)はヒンズー至上主義団体を支持基盤としており、パキスタンに対する強硬姿勢で国威を発揚し、支持拡大につなげたい思惑があるようだ。
 
モディ氏は1日に演説。2011年、西部ムンバイでパキスタンのテロ組織が起こした同時多発テロを引き合いに出し、当時の与党で現最大野党の国民会議派が「テロ後に(パキスタンに対して)行動を起こさなかった」と批判した。インド政府筋は「パキスタンがテロ対策に取り組むまで対話しない」としている。【3月1日 毎日】
******************

印パ両国は、これまで3回の戦争を行っており、そのうち2回はカシミール領有をめぐって戦われました。
3回目はバングラデシュ独立時のものですが、このときもカシミールは戦場となっています。

以来、両国は実効支配線をはさんで小競り合いを繰り返してきています。

両国がカシミール(インド支配地域では、住民の多くがイスラム教徒)で妥協ができないのは、両国の“建国の理念”にかかわってくるためでもあります。

インドは多民族・多宗教の人々がともに暮らす国家として建国していますので(現在のモディ政権下のヒンズー至上主義台頭で、そのあたりは怪しい部分もありますが)、カシミール地方でイスラム教徒が多いからという理由で、これを手放す訳にはいきません。

一方、パキスタンは“イスラム教徒の国家”として建国していますので、イスラム教徒が多いインド支配のカシミール地方をあきらめる訳にはいきません。

ただ、インドが多民族・多宗教国家とは言いつつも、カシミールにおける住民を力で抑え込む徹底した支配体制のありようは、その理念に疑問を抱かせるものでもあります。

もっとも、パキスタンが領有したとしても、北部の実情を見ると、カシミールのようなへき地がどのように扱われるかにも疑問があります。

そのあたりのカシミールにおけるインド支配の実態等については、パキスタン・フンザ出身の男性と結婚して、日本・パキスタン・インドを往来されているスズケーさんの「カシミール問題 インドとパキスタン、終わらない紛争」が参考になります。

スズケーさんも指摘しているように、カシミールのインドからの分離を目指す運動は、いわゆるジハードを唱えるイスラム過激主義がこれを利用する形で浸透し、変容してきている面もあります。

更に言えば、冒頭記事でインドが主張しているように、イスラム過激組織のテロ行為を、パキスタン側(政府と言うより、軍部、特にその中枢たる三軍統合情報局(ISI)が陰で支援しているのでは・・・という疑惑が消えません。

両国政府が関係改善に乗り出すと、それを阻止するようにテロが起きて関係が再び悪化することが繰り返されています。印パの関係改善を嫌う勢力が存在しているように見えます。

パキスタンは、同様のイスラム過激組織支援をアフガニスタンでも行っていますが、そうした対応の一掃が強く求められます。

【早期打開に動くパキスタン・カーン首相】
本来であれば、核保有国であり印パ両国が、首都近郊を爆撃したり、軍用機を撃墜するような激しい衝突をするという事態は由々しき事態ですが、上述のようなこれまでの経緯もあって「またか・・・」という感もあります。

ただ、紛争は、特に国内世論の強硬論に刺激された場合、思わぬ方向にエスカレートすることもあり得ますので、核保有国印パの衝突は軽視すべきものではありません。

今回の衝突にあっては、パキスタンのカーン首相は、撃墜したインド軍機パイロットを早期に開放することで、事態収拾へ動いています。

****捕虜解放で幕引きなるか=和平演出、過激派対策課題―インド・パキスタン****
ともに核保有国のインドとパキスタンが、係争地カシミール地方のインド側で発生したテロをきっかけに双方の空軍機を撃墜し合った問題で、パキスタンは1日、幕引きを図るべく撃墜機パイロットのインド人捕虜を解放した。

一方、インドは越境テロを行う過激派の徹底的な対策を求めており、解放で事態が収束に向かうかは不透明だ。
 
インドのスワラジ外相は1日、中東のアブダビで開かれたイスラム協力機構(OIC)外相会議で「テロとの戦いはどんな宗教との戦いでもない」と強調。過激派組織「イスラム国」(IS)などのテロに悩まされている各国に対し、イスラム過激派の根拠地とされるパキスタンへの越境攻撃に理解を求めた。
 
インドは5月までに総選挙を実施予定で、党勢にやや陰りの見える与党インド人民党(BJP)は、パキスタンへの強硬姿勢を示すことで挽回を図りたい考え。捕虜解放を「和平への意思表示」(カーン首相)の演出としたいパキスタンへの妥協には慎重だ。【3月2日 時事】 
*****************

カーン首相の“平和的対応”を称賛する動きもあるとか。

****インド操縦士解放のパキスタン首相にノーベル平和賞を ネットで署名30万人超****
インドとの緊張緩和のため拘束していたインド人操縦士を解放したパキスタンのイムラン・カーン首相をノーベル平和賞に推す声が高まり、インターネット上ですでに30万人を超える署名が集まっている。
 
インド空軍のミグ戦闘機の操縦士、アビナンダン・バルタマン中佐は先月27日、係争地であるカシミール上空で撃墜され、パキスタン側に拘束された。核兵器を保有する両国間の緊張が高まり国際社会は懸念を強めていたが、バルタマン中佐は今月1日夜にインド側に引き渡された。
 
カーン首相が「平和への意思表示」としてバルタマン中佐を解放すると表明したことを受けて、ツイッターでは先月28日から「#NobelPeaceForImranKhan(イムラン・カーンにノーベル賞を)」というハッシュタグが見られるようになった。
 
署名サイト「チェンジ・ドット・オーグ」では、英国とパキスタンのユーザーが始めた2つの似たキャンペーンが展開されており、カーン首相が「アジア地域のさまざまな紛争解決のため、平和と対話の努力を行っている」として、同首相をノーベル平和賞に推している。2つのキャンペーンは、インターネット上でそれぞれ24万人と6万人を超える署名を集めた。 【3月3日 AFP】
******************

最近はなんでもかんでも「ノーベル平和賞」ですが、まあ、某国某大統領をノーベル平和賞に推薦する某国某首相もいるぐらいですから、カーン首相をノーベル平和賞に・・・という動きにも驚きはしません。

【強硬論のインド国内世論 総選挙を控えて強硬姿勢のモディ首相】
ノーベル平和賞云々はともかく、カーン首相による早期のパイロット解放で事態が改善すれば非常に喜ばしいことですが、パキスタン側の“余計な”行為がインド側の怒りを買っているとも。

****パキスタンへの称賛強要?解放されたインド軍操縦士の動画で非難噴出****
パキスタン軍戦闘機との空中戦で撃墜され、その後拘束されたインド軍のパイロットが解放前にパキスタン軍を称賛する内容の動画が公開されたことを受け、インド国内では2日、激しい非難の声が上がった。(中略)

インド空軍のミグ戦闘機のパイロット、アブヒナンダン・バルタマン中佐は先月27日、係争地のカシミール上空でパキスタン軍の戦闘機を追跡していた際に撃墜された。

戦闘機からは緊急脱出して無事だったものの、停戦ラインのパキスタン側で群衆に襲われた。あざが目立つ中佐は、直ちに診察およびパキスタン軍と情報機関からの聴取を受けるために連行された。
 
中佐は3月1日夜、パキスタン北部パンジャブ州アムリツァルに近いワガを通ってインドに帰還したが、予定されていた式典より数時間遅れとなったことについて、インドの国内メディアは中佐がパキスタン側で動画撮影を強要されていたことが原因だと報じている。
 
中佐が解放される直前にパキスタン軍が公開した動画は著しく手が加えられており、中佐は「パキスタン軍は群衆から私を守ってくれた」「非常にプロフェッショナルで感銘を受けた」と称賛する一方で、インドの国内メディアについては戦時ヒステリーを生じさせていると非難している。
 
パキスタン政府はツイッターに投稿したこの動画を後に削除したものの、インドメディアは嫌悪すべき動画だとして戦争捕虜の処遇に関する国際的な規定を侵害していると批判を展開。
 
雑誌「インディア・トゥデイ」の編集主幹は、「尊厳のない平和はなく、パキスタンはジュネーブ条約の侵害という点において基本的な知識を忘れたようだ」と執筆し、ソーシャルメディアにも非難の声があふれた。【3月2日 AFP】
*****************

実際にどのようなことがあったのか・・・わかりません。

わかりませんが、もともと“パキスタンによって繰り返される(と、信じられている)”テロ行為に苛立っているインド国内世論は、パキスタンへの強い姿勢を求めていますので、そうした世論を刺激するものでしょう。

カシミール地方インド支配地域のプルワマ(Pulwama)で2月14日に起きた治安部隊への自爆攻撃後に「行われたインド国内世論調査では、インド政府に望む対応として、「パキスタンとの戦争」が36%でもっとも多くなっています。【2月22日 India Todayより】

(同調査では、テロ組織キャンプへの限定攻撃が23%、テロ組織首謀者の暗殺が18%、外交・経済的にパキスタンの孤立化を図るは15%でした)

これまでも何回かとりあげたように、モディ政権は総選挙前哨戦の州議会選挙で大きな敗北を喫し、態勢立て直しを迫られています。

そうしたモディ首相にとっては、今回衝突は“追い風”にもなる要素をはらんでいます。
上記世論調査では、テロ対策に取り組めるリーダーとして強硬論のモディ首相が49%の支持を集めているのに対し、国民会議派のリーダーのラウル・ガンジーは15%にとどまっています。

上記のようなパキスタンへの強い対応を求める世論、総選挙を控えた政治事情、さらにはバルタマン中佐の動画問題等もあって、インド側はパキスタン首都近郊の空爆などを実施してきましたが、“今のところ”は未だ強硬姿勢を崩していないようです。

****インドとパキスタンが砲撃戦、7人死亡 係争地カシミール地方****
インドとパキスタンが領有権をめぐって激しく争うカシミール地方で2日、両国軍が砲撃を交わし、少なくとも7人が死亡した。両国間の対立が急激に高まっている。
 
24時間のうちに、パキスタン側では兵士2人、民間人2人が死亡。インド側では、迫撃砲弾が民家を直撃し、女性1人とその子ども2人が死亡したという。
 
AFP記者によると、カシミール地方では、村人たちが簡易的な掩蔽壕(えんぺいごう)で身を寄せ合っているほか、警察は不要不急の外出を控えるよう命じている。2日までの1週間に両国の境界付近で死亡した民間人は少なくとも12人になった。
 
パキスタンは先月27日に撃墜したインド軍戦闘機のパイロット、アビナンダン・バルタマン中佐を「友好の意思表示」として解放し、1日夜にインド側に引き渡した。
 
緊張緩和への期待が高まったが、解放前のバルタマン中佐がパキスタン軍を称賛し、インドのメディアを批判する内容の動画が公開され、インドでは激しい非難の声が上がっていた。 【3月3日 AFP】
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お互いに民間人犠牲者を出し、まずい展開です。
ただ、恐らくは、近々には何らかの“手打ち”がなされるのでしょう。
そうでなくては“世界平和”のためにも困りますが、私個人の事情でも困ります。

私は、今月末にパキスタン北部のフンザへの観光旅行を予定しています。北京経由でイスラマバードに入る予定です。

今回の衝突で、3月1日までパキスタン領空の民間航空機飛行が停止されることにもなりましたが(今現在、どうなっているのか知りません)、紛争が激化して民間航空機が飛ばない事態が再発・・・なんてことになったら、とても困ります。お手上げです。

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アルジェリア  健康問題を抱える現職大統領の5戦出馬で抗議行動拡大 混乱へのフランスの懸念

2019-03-02 21:46:37 | 北アフリカ

(1日、アルジェで、デモ隊に阻まれるアルジェリアの警察車両【3月2日 時事】)

【長期政権を維持し、最近は健康問題で公の場には姿を見せない現職大統領、次期大統領選に出馬】
北アフリカのアルジェリア、あまり日本にはなじみがない国です。
思い出されるのは、2013年1月にイスラム系武装勢力が天然ガス精製プラントを襲撃したテロ事件で、日本人が10人犠牲なったことでしょうか。

現在、アルジェリアの大統領は81歳のブーテフリカ氏。
“治安が回復し、豊富な石油や天然ガスの輸出により経済発展を成し遂げたが、依然として失業率は高く、貧富の差は拡大している。また、資源による富も一部の政治家や軍、官僚にしか還元されていないと、野党などからは批判されている。”【ウィキペディア】といった評価です。

アフリカの多くの国同様に、長期独裁政権を維持しているとの批判も多々あります。(ブーテフリカ氏の大統領就任は1999年ですが,2008年には憲法改正で長期政権を可能にしています)

最近では健康を害し、公の場に姿を現すことはほとんどなくなっており、今年4月に行われる大統領選挙に出馬するかどうかが注目されていました。

****車いすの81歳アルジェリア大統領、5期目へ出馬表明****
2013年に脳梗塞で倒れ、車いす生活が続くアルジェリアのアブデルアジズ・ブーテフリカ大統領が10日、5期目を目指して4月の大統領選に出馬すると国営メディアを通じて発表した。所属政党と連立与党が出馬を承認したという。
 
病気療養中のブーテフリカ大統領は、公の場に姿を現すことはほとんどなくなっていた。だが、国営アルジェリア通信によると、4月18日の選挙に向けて沈黙を破り、自身の意向を表明したもようだ。
 
ブーテフリカ大統領は「もちろん、身体的には以前ほどの力はない。私はそれを一度たりとも国民に隠してこなかった」と説明。

「(大統領として)務めを果たしたいという断固たる願望は消えることなく、そのおかげで私は健康問題による制約を乗り越えられるようになった。これらの健康問題は、誰もがいつか直面する可能性のあるものだ」と述べたという。
 
猛暑の中でも三つぞろいのスーツを着用することで知られるブーテフリカ大統領は、長く続いたアルジェリアの内戦を終結に導き、尊敬を集めた。政府統計によると、内戦で命を落とした国民は20万人近くに上る。
 
一方、原油や天然ガスなどの炭化水素分野の輸出に依存するアルジェリア経済は、ブーテフリカ政権4期目に原油価格が下落したため大打撃を受け、今や25歳未満の国民の3分の1近くが失業中だ。

また、ブーテフリカ大統領は独裁的だとして人権団体や反対派から非難されている。 【2月11日 AFP】
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これはまったくの想像ですが、大統領選出馬は十分に公務を遂行できる状態にない本人の希望というよりは、彼を頂点として形成されている軍部を含む既得権益層の「現状維持」を求める意向に沿ったものではないでしょうか。

“辞めるに辞められない”という意味では、ジンバブエのムガベ前大統領とも似たものが感じられます。

【出馬への抗議デモで混乱 支配層のエリート全体への抗議にも】
一方、長期独裁政権、貧富の格差、若者の失業・・・ということで、ブーテフリカ氏出馬に対し、厳しい治安維持体制にもかかわらず激しい反対運動も起きており、混乱が生じています。

****アルジェリア大統領選、現職の5選出馬めぐり数万人が抗議デモ****
アルジェリアの首都アルジェで1日、4月に予定される大統領選挙への現職アブデルアジズ・ブーテフリカ氏の5選出馬に抗議して数万人がデモを行い、参加者と警察の衝突により警官数十人が負傷した。

ブーテフリカ氏は1999年から大統領職にあるが、2013年に脳梗塞で倒れて以降は車いす生活が続き、公の場にほとんど姿を現していない。

警察は、アルジェでのデモで警官56人、デモ参加者7人が負傷したほか、45人を逮捕したと発表した。

デモにはあらゆる年代の男女が参加し、禁止を無視して市の大通りを行進。国旗を振りながら、4月18日の大統領選に出馬するとのブーテフリカ氏の判断に抗議した。

治安筋によると、アルジェのほかにも、同国第2の都市オランや第3の都市コンスタンティーヌなど多数の市町でデモが行われた。

デモの規模は多方面に驚きを持って受け止められ、政権が近年最大の難局にあることの象徴となっている。

参加者はソーシャルメディアでの呼び掛けに応じて集まった人々で、今回のデモの目的について、4期20年の在任期間をさらに延ばそうとするブーテフリカ氏の動きだけでなく、支配層のエリート全体に抗議することだと述べている。

ブーテフリカ氏は2月24日、空路スイスに向かい、現在も帰国していない。大統領府は、スイス行きは「定期健診」のためだとしている。

ブーテフリカ陣営の選対本部長は一連のデモにもかかわらず、同氏は期限の3日までに立候補の届け出をすると述べている。 【3月2日 AFP】AFPBB News
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軍部や権力周辺取り巻き層にとっては、ブーテフリカ氏が仕事ができようができまいが関係ない話で、むしろ“名前だけの存在”でいてくれた方が何かと都合がいいのでしょう。たとえ“死体”でも選挙に担ぎ出すのでは。

【アルジェリアの混乱はフランス・マクロン大統領の悪夢】
こうしたアルジェリアの混乱を非常に懸念しているのが、旧宗主国で、地中海をはさんで対岸に位置するフランスだということです。

****仏大統領の最大の悪夢(アルジェリア情勢)****
先ほどは仏紙がアルジェリア情勢に大きな懸念を有しているとの報道を紹介しましたが、al qods al arabi net の別の記事は、仏大統領マクロンにとっての最大の悪夢は、アルジェリアが不安定化することであるとの仏nouvelle
observateure 誌を紹介しているところ、アルジェリアの地理的近さ、歴史的関係、経済関係(特に石油ガス)からすれば、おそらくこの見方は正しいのでしょう。
記事の要点のみ

仏誌はアルジェリアでの、ブーテフリカの死、革命、反乱の成功等の可能性が仏大統領府及び情報機関を悩ませる最大の要因だとしている。

同誌は、2月初めに仏有力者が、何がマクロン大統領の悪夢かと自問し、金融危機でもなく、ロシアのサイバー介入でもなく、米のイラン攻撃でもなく、アルジェリアの不安定化で、大統領はブーテフリカ死後の混乱を危惧していると指摘したと報じている。

この発言はブーテフリカの立候補に対する反対運動が生じる前まであった由

この旧植民地の不安定化が仏政府の最大の懸念であることには十分理由のあるところである。

仏外務省分析予測局は、2014年(前の大統領選挙の年)に書かれた報告書を再発行したが、その報告書は当時の外相に対したもので、最高権力者の死が一般的に不安定化を招くものではないとしつつ、権力者が老齢で、彼に権力が集中していて、その後継についての制度がない場合には、政治危機を招くとして、5つの国を挙げている。

それらの国は、このアルジェリアの他には、カメルーン、チャド、カザフスタン、エリトリア、カンボディアであった。

仏がアルジェリア情勢に懸念を抱く要因は多数あるが中で持つ意義の4つが最大の要因であろう

第1はアルジェリアが仏の最大のエネルギー供給源であること(天然ガスの10%を依存)

第2は、その場合数十万の青年(20歳未満の者が4200万国民の半数になる)があらゆる手段で、地中海を渡り、仏等を目指すからである

第3は、アルジェリア難民やアルジェリア系住民は、アフリカの出来事に重大な関心を抱いているからである

第4は、80年代の政治危機が過激派の台頭とその拡散をもたらしたことにある

としていて、アルジェリアの政治危機の再来は、仏の安全保障を脅かすであろうとしている。【2月7日 「中東の窓」】
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フランスにとって、植民地支配したアルジェリアは大きな“歴史問題”でもあり続けてきました。

****マクロン仏大統領、アルジェリア戦争時の拷問を認め、謝罪****
(2018年)9月13日、マクロン仏大統領は、1957年にアルジェでフランス軍に拘束され行方不明となったモーリス・オダン(Maurice Audin)の死について、軍の責任を認め、未亡人に謝罪した。

数学者でアルジェ大学教授であったオダンは、共産主義者でアルジェリアの独立を支持し、FLN(アルジェリア民族解放戦線)とも繋がりがあった。

マクロンは、Audinがフランス軍に拘束されたうえで拷問を受け、それによって死亡した、もしくはその後処刑されたとして、共和国の名において責任を認め、87歳の未亡人に面会し謝罪した。
 
今回の謝罪が実現するには長い時間がかかっている。2007年に未亡人がサルコジ大統領に手紙を書いたとき、返答はいっさいなかった。

一方、フランソワ・オランド前大統領は、2014年6月18日、オダンは公に言われているように失踪したのではなく、拘禁中に死亡したと発言した。

今回の謝罪の手紙と面会は、その延長線上にある。マクロンは、共和国議会の投票によって導入された「特別権力」のため、「逮捕・拘禁」システムが出来上がり、それがこの悲劇を招いたと説明した。軍の責任を認めつつも、軍だけでなく議会の決定で導入されたシステムの問題だと述べたわけである。
 
今回の措置により、フランスがアルジェリアの独立を阻止するため、拷問を含めた非人道的な措置を広範に用いていたことがはっきりした。

14日のルモンド紙の社説では、マクロンが決定的な一歩を踏み出したとして、アルジェリア戦争の過去を明らかにすることは、フランス・アルジェリア両国の和解にとって不可欠だし、アルジェリアにも同様の行動を促すことになるとして評価した。

アルジェリア側は公式には目立った反応をしていないものの、総じてマクロンの行為を評価する声が目立つ。一方、極右政党の国民戦線は、国民を分断させる行為だとして大統領を強く批判した。
 
自国の暗い過去を明らかにすることは、簡単ではない。それは指導者の決断がなければできないことである。しかし、ルモンド紙が指摘するように、これはフランス・アルジェリア間の真の和解を達成するには不可欠の行為と言えるだろう。

マクロンは就任前から、植民地主義を人道に反する罪だと述べるなど、植民地統治の関わる問題について積極的に発言してきた。この勇気ある行動が、フランスとアルジェリアの相互理解と過去の克服に繋がることを願う。【2018年9月18日 現代アフリカ地域研究センター】
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多くの国が、勇気をもって直面すべき歴史的課題を抱えています。

それはそれとして、フランスにとって一番厄介なのは、政治・社会の混乱の結果、大量の難民がフランスに流入することでしょう。

すでに大きなアルジェリア人社会を国内に抱え、多くの問題を有しているだけに、マクロン大統領もアルジェリアの動向は気が気ではないのでは。

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「史上最悪」・・・だけでもない日韓関係 罵りあいに終始せず、新たな協力関係を構築するには?

2019-03-01 22:23:52 | 東アジア

(【2月28日 AERAdot.】 韓国側の顕著な変化は、日韓の将来を考えるうえで非常に重要に思われます。一方、日本の傾向には、韓国が嫌い・中国も嫌い・・・といった閉鎖性・内向きも懸念されます)

【韓国の「反日感情」の実態は?】
領土問題、慰安婦問題、徴用工問題、レーダー照射問題、天皇に言及した韓国国会議長の発言等々、昨今の日韓の関係悪化を示す問題は山積しています。

当然の結果として、日本側には韓国に対する不満・批判が溢れています。

韓国側の反日感情も相変わらずのようで、“日本名の樹木、韓国で植え替え 「日帝時代の残滓」指摘”【2月20日 朝日】といった、罪もない植物までも標的になっています。

ただ、植物について言えば、“朝鮮半島の特産植物527種のうち327種の学名に「ナカイ」という日本の植物学者の名前が入っているという。記事は「韓国の特産植物の名前の多くが日本植民地時代に中井猛之進によって付けられた」と説明し、「そのため世界中で朝鮮半島だけにある植物ですら、今も日本人学者の名前や日本式の名前で呼ばれている」と指摘している。”【2月28日 レコードチャイナ】ということですが、学名は国際的に承認されているため、いかな韓国でもどうにもならないとか。

この話題を別の角度から眺めれば、「日帝時代の残滓」がいかに現在の韓国に根深く残存しているか、日本がどれだけ韓国社会を変容させたという、ひとつの事例でもあるでしょう。

国家間で締結した条約ひとつで清算するにはあまりにも重いものが社会全体、人々の心に深く食い込んでいるとも言えます。

関係悪化を報じる報道、双方の批判の応酬・罵りあいは、はいて捨てるほどありますが、そうした状況にあっても必ずしも“最悪の関係”とばかりはいえない側面をうかがわせる記事もあります。

今日は、最近の報道のなかから、そうしたものをいくつか拾い上げてみます。

****韓国の日本旅行人気は本物!関係悪化も影響なし=韓国ネットは複雑?****
2019年2月21日、韓国・聯合ニュースは、先月の訪日外国人観光客のうち韓国人が最も多かったとの集計結果を報じた。

観光庁によると、1月に日本を訪れた外国人観光客は昨年同期比7.5%増の268万9400人で過去最高を記録した。

国籍別では韓国が77万9400人で最も多かった。昨年同期比は3.0%減少したものの、記事は「哨戒機レーダー問題や慰安婦問題などで日韓関係が冷え切っている中でも、韓国人の日本旅行人気が相変わらず高いことを証明している」と説明している。

韓国の次に多かったのは、昨年同期比19.3%増の75万4400人を記録した中国。後には台湾(38万7500人)、香港(15万4300人)が続いた。

記事によると、日韓両国の対立は訪韓日本人観光客にも大した影響を与えていないとみられる。先月1〜20日のロッテ免税店明洞店の日本人対象の売り上げは昨年同期比31%増加、新世界免税店の明洞店も53%増加したという。

これに、韓国のネットユーザーからは「こんな時期に…。情けない」「プライドはないの?」「嫌韓デモをする国になぜ行くのか」「日本政府に笑われているよ」と嘆く声が多数上がっている。

一方で「日本はきれいだから何度も行きたくなる。気持ちは分かるよ」「日本は嫌いでも日本のものは好き」「何時代の話?日本に旅行に行くことが罪になるの?」「両国の対立は政治家がつくったもの。嫌っているのは少数の人たちだけ」など理解を示す声も上がっている。【2月21日 レコードチャイナ】
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本当に「反日」一辺倒であれば、これだけ多くの訪日韓国人観光客がいるとも思えません。
韓国の「反日」には微妙な感情も潜んでいるようです。

メディアはこぞって韓国内の反日的行動、反日感情を取り上げますので、韓国全体がそうした空気一色に覆われているようにも感じてしまいますが、世代間で見ると、若い世代には、日本側がやっきになって反応するほどには「反日」を意識していない面もあるようです。

****国民の半数「日本嫌い」の韓国 一方で若い世代は特別視せず?****
(中略)韓国の人々の対日感情は、世代によって大きく異なっているようだ。特に若い世代は、日本を特別視はしていないという。

日本への感じ方は、世代による差も大きい。

日本と韓国の両国でアーティスト活動をしている韓国人女性(36)は、小学生の頃から「ドラゴンボール」や「Dr.スランプ」などの漫画、「風の谷のナウシカ」などジブリに代表されるアニメを見て育った。そして、高校生になって憧れたのが東京・原宿を震源地とする「KAWAII」文化だった。

女性によると、若い世代ほど日本に親しみを持っている一方、日本を特別な国だとは思っていないと語る。

「若い世代にとって日本はLCCもあるので手頃な旅行先なんです。食べ物はおいしいし店員も親切。日本製の化粧品は安くて品質がいいので人気が高い。格差と競争が厳しい韓国社会に比べると、日本は物価も安く暮らしやすい。韓国では若者が夢を追いながらアルバイトで稼いで生活することは不可能。その意味ではバイトの職種も時給もいい日本がうらやましく思います。ただ特別な国では決してないんです。私より下の子は生まれた時から、韓国も日本と同じ先進国でしたから」

周囲に「日本嫌い」の友人はいないのだろうか。

「サッカーと政治については日本に敵対心を燃やす人もいる。けれども、それは30代以上の世代に多い。10代、20代の情報源は全てネット。中学生になるとユーチューブなどの動画メディアでタイやインドネシアなどアジア各国のアーティストの音楽を聴いている。もはや日韓という二国間関係だけに収まりきらない。そんなグローバルな世界観で育った若者にとって、両国の難しい政治問題はどうでもいいんです」

日本のシンクタンク「言論NPO」と韓国の「東アジア研究院」の共同調査によると、日本では13年からの5年間で韓国への印象が「良くない」または「どちらかと言えば良くない」と答えた人の割合が37.3%から46.3%に増えたのに対し、韓国では日本への印象が「良くない」または「どちらかと言えば良くない」と答えた人が、76.6%から50.6%に急減したという。

若年層の多くが日本に抱く好印象を背景に、韓国の対日感情は改善傾向にある。とはいえ、全体では半数が「日本嫌い」なのも事実だ。

対日感情の厳しい一面が表れた調査もある。
韓国の世論調査専門機関「リアルメーター」が1月14日に行った最新の調査によると、文在寅政権の日本政府への対応について「より強く対応を」と答えた人が45.6%、「現在の対応が適切」が37.6%、「対応自制を」が12.5%だった。

ほとんどの地域、年齢層で「より強く対応を」と答えた人が最も多かった。一方、文在寅政権を支持する層では「現在の対応が適切」との認識が多かったという。(編集部・中原一歩)※AERA 2019年3月4日号より抜粋【2月28日 AERAdot.】
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【文化面では「史上稀に見る蜜月」】
文化的な面で言えば、日本側にも韓国文化を受容・評価している面があります。文化面では「史上稀に見る蜜月」とも。

****日本と韓国、実は文化面では「史上稀に見る蜜月」****
(中略)だが、私が今回、このコラムであえて強調したいのは、日韓関係には、政治的対立とは別の「友好的側面」も存在するということである。特に、文化交流の面では現在、あの15年前の「ヨン様ブーム」以来の韓流ブームが到来している。言ってみれば、いまの日韓関係は「政冷文熱」なのである。

「そんなバカな」と思われる方に、いくつか実例を示したい。
 
観光庁の発表によれば、昨年日本を訪れた韓国人観光客は、前年比5.6%増の752万6000人と、過去最高を記録した。消費額も5842億円と、「爆買い」の中国人に次ぐ額を、多くの消費を日本でしてくれている。
 
同様に、韓国観光公社の発表によれば、昨年韓国を訪れた日本人観光客も、295万人に達した。これは前年比28%増である。こうした日韓交流の増加は、政治問題と関係なく、文化的関係が熱を帯びていることを意味している。
 
また、この原稿を執筆している2月17日現在、日本のアマゾンの和書で「文芸作品」単行本の第1位は、日本の有名作家の作品ではなくて、韓国人女流作家のチョ・ナムジュが書いた小説『82年生まれ、キム・ジヨン』である。(中略)

原爆Tシャツ騒動のBTSもドーム公演で38万人動員
(中略)K-pop部門でも、「防弾少年団」(BTS)をご存じだろうか?(中略)彼らは2014年6月に日本デビューを果たし、「日本中の女性を虜にした」という意味では、あのヨン様以来の存在感を見せている。

これまでオリコン週刊ランキングで1位になったシングル曲が4曲もあり、2017年6月には雑誌『an・an』の表紙を飾った。日本語バージョンのオフィシャル・ミュージックビデオのユーチューブでの再生回数は、3331万850回にも上っている(2月17日現在)。

「防弾少年団」は、昨年11月9日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に生出演する予定だったが、メンバーの一人(ジミン)が過去に着ていたTシャツに、原爆投下後のキノコ雲の写真と韓国人の万歳写真が印刷されていたことが発覚し、急遽出演を取りやめた(後に事務所が謝罪)。

それでも同月から本日(2月17日)にかけて、東京ドーム、大阪京セラドーム、ナゴヤドーム、福岡ヤフオク! ドームと、4都市9公演を行い、計38万人を動員したのである。
 
韓流ドラマも、日本ではすっかり人気が定着した感がある。これだけ日韓関係が悪化している現在も、例えばNHK総合チャンネルでは、夜11時から1時間、『オクニョ 運命の女』(全51回)を放映している。

「嫌韓」ムードの影響は皆無、絶好調の韓流ドラマ市場
多くの韓国ドラマの買い付けを行っている日本企業のバイヤーが証言する。
「この業界には『嫌韓』なんてありませんよ。逆に、ますます韓流ドラマの『爆買い』に拍車がかかっています。2015年には、1話あたり3万ドルが相場だったのですが、昨年から1話あたり20万ドルのドラマが続出するようになったのです。(中略)

韓国側も、一時期は中国が最大の輸出市場でしたが、(2016年にTHAAD=終末高高度防衛ミサイルの配備を巡って)中国との関係が悪化してからは、日本が最大の輸出市場になっています。韓国側も、誰をキャスティングし、どんなストーリーに仕立てれば日本で人気が出るかを吟味して、ドラマ作りを行っているのです。その意味では、韓国のエンタメ業界にも、『反日』なんてありません」
 
このように現在の日韓関係は、あくまでも「政冷文熱」なのである。
 
日本から見ると、文在寅政権は看過できない面が多いのは確かだ。だがそうだからと言って、それが日韓関係のすべてではないことも知っておくべきである。【2月19日 右田早希 JB Press】
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【冷戦終結で劇的に変化した政治的・経済的日韓関係】
一方、今後の日韓関係を考えるうえでは、両国の政治・経済関係が大きく変わってきていることを認識しておく必要があります。

****「日本は韓国にとって”特別な国“」は冷戦終結で終わった****
(中略)この30年の間に、韓国における日本の存在感は驚くほど低下した。韓国側からあまりにも「軽い」発言が出てくる背景には、この日本の存在感低下がある。

こうした韓国側による認識の「軽さ」は極めて問題だが、一方で冷戦終結という世界史的な出来事の影響を考えると日本の存在感低下という現象は必然のものだった。

東アジア情勢を激変させた冷戦終結
(中略)冷戦下の韓国は、朝鮮戦争で戦火を交えた北朝鮮とともに東西両陣営がにらみあう最前線だった。(中略)

冷戦終結後の世界情勢は日本を取り巻く安全保障環境に大きな影響を与えたと語られるが、それは他国にとっても同じことである。特に冷戦下で「最前線国家」という窮屈な位置に押し込められていた韓国は、日本とは比べ物にならないほど大きな変化に見舞われた。それを忘れてはならない。

韓国の立場から見たポスト冷戦の世界
韓国に駐在していた日本の外交官と20年近く前、酒を飲みながら交わした会話が忘れられない。打ち解けた雰囲気で話していた時、彼は「冷戦時代の韓国にとって世界というのは日本と米国だった」と言ったのだ。韓国の人たちには怒られるかもしれないが、それは真実を言い当てていた。(中略)

植民地支配の記憶が新しかった時代に反日世論が高まったとしても、政権としては野放図な反日を放置する余裕などなかった。象徴的なのが、植民地支配への謝罪なしでの日本との関係正常化に「屈辱外交」だと反発する世論を戒厳令で押しつぶした朴正煕政権の選択だろう。(中略)

だが、前述したように1980年代の世界情勢を受けて「韓国にとっての世界」は大きく変容する。(中略)「韓国にとっての世界」は日米だけではなくなった。(中略)日米との関係が国家としての生命線という時代はとっくの昔に終わった。

経済でも日本への依存度は大きく低下
(中略)韓国が日本に頼ったのは資金と技術だけではない。貿易相手としても、日本は米国と並んで重要な相手国だった。日韓国交正常化から5年たった

70年を見ると、韓国の貿易相手国としてのシェアは日本が37%、米国が34.8%で合計すると7割に達した。日米の比率は徐々に落ちていくが、(中略)(日米合計の比率は)96年には30%台となり、04年には20%台、11年にはついに10%台となった。昨年(18年)は日本7.5%、米国11.5%で計19%である。
 
80年代から細々とした交易が始まった中国のシェアは90年に2.1%だったが、(中略)昨年は23.6%に達している。
 
注目すべきは、日米中3カ国のシェア変動だけではない。3カ国を足しても昨年のシェアは4割強だ。かなり大きな数字ではあるものの、日米の2カ国で7割だったほどの寡占状態ではない。韓国は既にGDP規模で世界10位前後の経済力を誇るようになっており、それに伴って貿易相手も多角化が進んでいるのだ。
 
結局、政治と経済の両面で韓国にとって特別な国だった日本の位置づけは、冷戦終結を前後して大きく変わらざるをえなかった。どちらも不可逆的な変化だから、かつてのような状況に戻ることはありえない。

これからの日韓関係はそれを前提にしたうえで考えていかねばならないのに、こうした変化に対する認識が両国ともに不十分というのが現状だ。この点にもっと注目すべきだろう。【2月16日 WEDGE】
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【限界を迎えた「65年体制」を清算して、将来の協力関係を目指す「日韓平和友好条約」を】
上記のような微妙な、世代間でも差がある反日感情、文化的蜜月関係、政治・経済関係の劇的変化といったものを前提に、今後の日韓関係をどのように再構築していくべきか。

****「史上最悪」日韓関係への処方箋****
<一方的な主張をぶつけ合い建設的な議論ができない――根本的な原因は限界を迎えた「65年体制」にある>

(中略)最近の日韓は、相手を否定し、売り言葉に買い言葉で本筋からずれた言い争いがエスカレートした状態だ。葛藤の背景には北朝鮮問題がある。

例えば日本政府は、南北融和で従来の日米韓の枠組みが崩れ中国の影響力が増大し、日本の存在感が相対的に下がることを懸念している。拉致問題と日本の安全保障上の懸案がないがしろにされることにも反対だ。

だが韓国からすれば、分断体制を何としても克服したい。かつての独裁政権も現在の左右の政治対立も周辺大国からの「軽視」も、根源には分断体制があるとされる。そして、分断の淵源には植民地支配があり、ドイツと違って日本の代わりに分断されたという強い意識がある。よって、南北融和に非協力的な今の日本に失望している。

問題の根源には、これまでの日韓関係を支えてきた「65年体制」が限界に達したことがある。1965年の日韓国交正常化は、ベトナム戦争の最中、米国の冷戦戦略の下に日韓両政府の妥協の産物として、両国民のコンセンサスを得ないまま実現した。

それは日韓の圧倒的な力の差、冷戦という接着剤と米国という仲介者、歴史問題の棚上げ、ポストコロニアルな人脈、そして日本の一定の贖罪意識によって成り立っていた。

それから時代は大きく変わった。韓国は民主化され国力は増大し、南北・米朝が対話を始めた。日本では植民地期の記憶は風化し、韓国に一片の贖罪意識も持たない人が発言力を増した。

炎上覚悟で本音の議論を
家も50年たてばリフォームが必要となるように、日韓関係もリビルディング――時代に合った関係の再定義が必要だ。(中略)

65年体制の最たる限界は、棚上げにした歴史問題がほこりをかぶり、棚下ろしの必要が生じた点にある。日韓基本条約および請求権協定には、日中共同声明にはある反省の表現もなく、署名したのも外相で和解には程遠い内容だ。これを今後も日韓関係の「基本」にすべきかは大いに議論の余地があるだろう。

最大の争点は韓国併合の法的性格だ。65年体制では、両国は国内向けに別の解釈をすることを暗黙の了解とした。韓国では当然不法とされ、植民地期は「日帝強占期」と呼ばれた。一方、日本では合法で「解決済み」に傍点が置かれた。

日本では韓国がゴールポストを動かしているとの議論があるが、そもそも2つのゴールポストの存在を認めることが65年体制の精神だった。

こうした経緯は忘れられがちだ。韓国を「甘やかしてきた」という自民党議員がいる一方、韓国では日本は謝罪・反省していないとの意見が根強い。

自分たちの論理を原理主義的にぶつけていても、打開への道は見込めない。この際、本音をぶつけて議論をすべきだ。さらなる葛藤が広がるかもしれないが、同じ問題でケンカを繰り返す陳腐な関係を脱却するには、避けて通れないだろう。その結論としては、現時点でおおむね次の3つが考えられる。

第1は、韓国併合は国際法上、合法だったと両国が認めることだ。その上で、日本統治と戦争の過程での人道的な罪については率直に認め反省し、必要あれば追加措置を講じる。(中略)

第2は韓国併合を不法として、日本政府は正式の謝罪を表明する。だが、賠償・補償については65年の請求権協定、その後の経済協力や日本側の措置などにより、清算は終わったとする。(中略)

第3は、合法性についてコンセンサスを得られなかったことを再確認する。つまり棚上げあるいは両論併記にすることを国民的に合意する。その上でどうするかを議論する。(中略)

新たな文化的つながり

とはいえ、合法・不法という法律論が本当に重要なことだろうか? 日韓関係は法解釈で白黒つけていいものだろうか? 植民地支配は戦争と違い、複雑な様相を呈している。ジョン・ダワーは歴史を一言で言えば「複雑」だといったが、まさに日韓の歴史は複雑さそのものだ。

いずれにせよ、隣国を相手の国民の意に反して植民地化したことは無理があった。過去の悲劇を二度と繰り返さないことを誓い、将来の協力関係を標榜する(第二次大戦後に独仏が和解のため結んだ)エリゼ条約に匹敵する「日韓平和友好条約」を結ぶことを提言したい。

韓国側にも日本側の立場や論理にも耳を傾ける寛容さが欲しい。具体的には、天皇や原爆などについて史実と実態に基づく理解を持つ。できれば、天皇を「日王」でなく天皇と呼ぶ。80年代までと、金大中、盧武鉉政権はそう呼んでいた。また、戦前と戦後の日本を区別し、「旭日旗」も認める雅量が欲しい。

「史上最悪」といわれる日韓関係だが、必ずしもそうとも言えない。政府関係とメディア・ネットの雰囲気は最悪だが、昨年の日韓往来者数は史上初めて1000万人を突破した。村上春樹や東野圭吾を読み、BTSやTWICEに熱狂する、スピードスケートの小平奈緒と李相花(イ・サンファ)の抱擁に感動する日韓の新たな「文化人」に期待を寄せたい。

それでも納得がいかずケンカしたければ仕方ない。だが、日韓葛藤を喜ぶ習近平(シー・チンピン)の慇懃なほほ笑みと、日韓が慕うアメリカの碩学ジャレド・ダイアモンドの忠言を想起してからでも遅くはない。

「韓国人と日本人は同じ血を分けているのに長年互いに敵意を抱いてきた......彼らは成長期を共に過ごした双子兄弟に似ている。東アジアの政治的未来は、両国が古代に築いた紐帯を成功的に再発見できるかどうかに懸かっている」【2月26日号 Newsweek日本語版】
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