ロシアのオルガルヒ達も政治によって何時その財産が無くなるか分からないことを宮崎さんが良く取り上げてくれています。
今回はChinaのそれの運命を取り上げてくれています。どちらも幾ら儲けても何時やられるか分からないのですから心が休まることはないのじゃないでしょうか。
尤も、そんなことを気にするような肝っ玉の小ささでは金を掴むことも出来ないのかも。いずれにしてもまさに関係の無いせかいです。
「宮崎正弘の国際情勢解題」より 令和四年(2022)7月5日(火曜日)
通巻第7393号
拉致されて、はや五年、明天証券グループの粛建華が法廷へ
消えた14兆円。海外資産のからくり、隠し財産の機密が暴かれるか?
粛建華(肖建華)が香港の豪華ホテル『フォーシーズンズ』から拉致され、中国に連行された『事件』は2017年1月31日 だった。四人(八人説もある)のボディガードがいたと報じられたが、全員が女性だった。さては酒池肉林?
粛建華は香港に陣取って幾つもの金融グループを率いた。かれはカナダ国籍を取得していた。中軸の明天証券グループの預かり 資産は14兆円。粛は中国大富豪32位。個人資産は50億米ドルと言われた。
この粛建華の兄貴分が、かの悪名高き郭文貴である(後述)
明天グループは新時代証券、国盛証券、国盛期貨、天安人寿保険、易安財産保険、新時代信託、新華信託など九社で、いずれも 預かり資産を海外で運用し、タックスヘブンなどへ貴重なドル資産を合法的に移行させ、チャイナという国籍を消して運用すると いう中国の金持ちたちの要求と合致した。新時代の錬金術師だったかも。
当時の香港は江沢民派の牙城だった。資金洗浄、国際取引は巧妙な手段で資金を海外へ移動させ、英国領バージン諸島などで国 籍を変え、ふたたび中国の株式、不動産に投資するというスキームが構築されていた。共産党幹部が中心の投資家だったことは言 うまでもない。
習近平が業を煮やしたのはドルの海外流失である。それは粛建華の連行事件直後から市場を襲ったパニック、なによりも同類起 業家らの動きである。
2017年7月、預かり資産32兆円と言われた「安邦保険」のCEO、呉小輝が逮捕された。トウ小平の孫娘と結婚していた から逮捕はあり得ないとされた。個人資産1800億円は没収され、懲役18年の判決がでた。
呉小暉の拘束は郭、肖のコネクションに連鎖していた。呉小輝は郭台銘に一億ドルを貸していた。絶頂期は2015年のNY ウォルドルフ・アストリア・ホテル買収だ。天下の名門、昭和天皇陛下もお泊りになった老舗で、地下には大統領専用の列車プ ラットフォームもあった。買収額は19億5000万ドル(2145億円)。以後、アメリカ大統領は、このホテルを使わなくな り、日本の首相もNYではキタノホテルを定宿とするようになった。
呉小暉は浙江省温州生まれ、56歳。温州は「中国のユダヤ人」と言われる土地柄で投機大好き。がめつい商人を輩出する地域 として有名だ。呉の初婚の相手は当時の温州市長だった劉錫栄の娘、陳毅(革命の元勲)の息子・陳小廬とも親しく、再婚した相 手がトウ小平の孫娘、トウ卓苒だった。
怪しげな海航集団はバックに王岐山がいるとされたが、当局の捜査が入った。CEOはふらり、フランスの撮影行きで「墜落 死」。当時パリのインターポールに出向いた孟宏偉は突然、北京から呼び出され、消息不明となった。
▲中国のインサイダー取引は破天荒な賭場だったのだ
米国で映画制作に乗りだし、映画館チェーンを買い占め、中国ではあちこちにホテルとテーマパークを建設してきた大連万達集 団は、CEOの王健林が習近平に近いこともあり、一時はハーバード大学で講演するほどの騰勢にあった。明天、安邦、海航など への手入れを目撃し、早めに財産処分に踏み切ったので逮捕を免れた。
全世界に13万人の従業員をかかえ、コロナ禍で冴えなかった映画館にホテル事業が回復軌道に乗ったので、なんとか生き延び た。
さて冒頭の粛建華である。カナダ国籍を有するためカナダ政府が家族を保護する立場にある。
カナダ政府は7月4日、家族からの情報として、粛建華の裁判が中国(の何処か)で開始されると発表した。
「インサイダー取引の闇の帝王」=肖建華の兄貴分が米国へ亡命した郭文貴である。
肖建華は江沢民一族の資産形成を香港市場を通じて実践してきた証券マン出身で、郭文貴とともに中国の株式インサイダー取引に 重奏的に絡んだ。秘密口座などを駆使して、太子党や共産党幹部のカネを運用していた。それゆえ多くの秘密──共産党幹部が他 人に知られたくない機密資金情報を握るのだ。
郭文貴は上海に設立した「海通国際証券」(Haiton Security)を通じて世界のプロジェクトに派手は投資を繰 り返し、とくに2014年には385億ドルを七つのプロジェクトに投下した。資金繰りが苦しくなると2015年にはUBSか ら7億7500万ドルを借りて焦げ付かせ、UBSが訴追した。スイス銀行の大手UBSも、彼の手口に引っかかったほど天才的 な詐欺師である。
身の危険を感じた郭は同年に米国へ渡り、防弾ガラスのマンションを購入し、2017年には正式に米国へ亡命を申請した。ト ランプ政権の顧問だったスティーブ・バノンとの親しく、財団を設立しかけたが、バノンが詐欺容疑で逮捕されたため沙汰止み。
また郭文貴自身が米当局から詐欺の取り調べを受けており、容疑がかたまり次第、逮捕されるという情報もある。
郭文貴が中国語メディアやユーチューブなど西側のメディアを駆使して、中国共産党の腐敗を暴き続けた。
中国にとっては「除去」すべき対象である。ただし郭文貴の暴露した高官らの腐敗などすでに多くのチャイナウォッチャーにとっ ては既知の事実でしかない。
こういう栄耀栄華を一度でも経験するのと金はなくても身の程に合わせてのんびりと生きるのとどちらが幸せなのでしょうか。
そんなことを考えるのも持たざる者の引かれ歌かも。