明日できること今日はせず
人形作家・写真家 石塚公昭の身辺雑記
 



柳田國男は異界の翁にしては、鼻の下のヒゲが少々俗っぽい。ヒゲの形の話である。どちらかというと町のご隠居風である。たとえばもう少し横に伸ばしてアゴヒゲを足せば、大分変わってくるであろう。実際そうするかは判らないが。もちろん眼鏡は異界の翁には似合わない。 昨日お会いした弦書房の石原さんに、河童と柳田國男の共演について聞かれ「思い付いた時、すぐ飲みに行ってしまいました」とお話した。河童の三郎に対し、我が息子のように優しく接する対面シーンは、できるだけ美しく描いてみたい。腕を折った河童に対し『この老ぼれには何も叶わぬ。いずれ、姫神への願いじゃろ。お取次を申そうじゃが、忰、趣は――お薬かの。』娘の尻を触ろうとして結果的に怪我をした三郎に『ああ、約束は免れぬ。和郎たちは、一族一門、代々それがために皆怪我をするのじゃよ。』そして終盤大団円をむかえ、三郎が空を飛んで棲み家に帰る際には『漁師町は行水時よの。さらでもの、あの手負が、白い脛で落ちると愍然(ふびん)じゃ。見送ってやれの――鴉、鴉。』  鏡花の本作における河童の描き方に対し、柳田は“河童を馬鹿にしてござる”と手厳しく批判している。それをあえて登場させる私としては、柳田演ずる翁の三郎に対する眼差しには、こだわらない訳にはいかないのである。

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