普段は必要なリアル感さえあれば良く、実写に見えるように、というつもりはまったくないので粘土感丸出しで作っている。最初に人形とともに写真を展示した個展で、それは実在したジャズやブルースミュージシャンを作って撮影した作品が主であった。被写体とともに写真を展示しているのに、ある雑誌の編集者が、写真を実写だと思い込んだ。どこを見ている、という話だが、私は一挙に醒めてしまった。私が作ったのに。 例えば十字路で悪魔と契約したという伝説のミュージシャンが十字路で悪魔を待っている場面こそ創作の余地があったが、ジャズマンの実写など腐るほど存在している。それをわざわざ粘土で作り、“模倣”してどうする。そもそも楽器を作ること等にウンザリしていた七年ぶりの個展であったが。この個展が、このシリーズの最後となってしまった。撮影期間はたったの二ヶ月であった。 大分後に、『中央公論アダージョ』の表紙を4年担当した間に、一度だけ遊びで、どれだけリアルにできるかやってみたのが古今亭志ん生である。案の定、人形制作者だと紹介されて、それを手渡された人は、私がいったい何を担当したのか解らず黙ってしまうのであった。 ただいま制作中のエドガー・アラン・ポーの頭部は、粘土のがさがさした感じを消して作ってみた。これは後にオイルプリント化してみようと思っており、考えるところもありそうしてみた。だいたいポーを実写だと思うようなら、それはもはや見る側の問題であろう。 先日ポーの頭部を見せた知人は、どうも話がかみ合わないと思ったら、それを江戸川乱歩だと思い込んでいた。私の一冊目の江戸川乱歩を主役にした『乱歩 夜の夢こそまこと』を持っていてくれているはずなのだが。なかなか思いを伝えるというのは難しいものである。いやこれは、興味がないのに知り合いということで買ってくれる知人は有難い。という話であろう。
世田谷文学館展示中
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