昨年のグループ展当日、インクが乾いていないせいで額装中にだめにしてしまった江戸川乱歩の『盲獣』は、無事リベンジを果たしたつもりでいた。しかし制作も佳境に入ってくると、普通で無難。オイルにする甲斐が不足している気がしてきた。今回はできるだけオイルプリントならではという調子にしたいと思っていたはずである。そもそも巨大な女体の間に挟まった江戸川乱歩に無難もなにもないだろう。 本来この作品は、盲目の殺人鬼に扮した乱歩が、女体に挟まった奇妙な状況で、他人事のような顔をしている可笑し味を狙った作品である。 江戸川乱歩という作家は、たとえば『盲獣』のグロテスクさに自分で辟易し、後悔し書き直し。といたってノーマルな人物、ということになっている。作者を作品内に登場させる私としては、そのあたりも反映させてみたのだが、実際の乱歩は一人盛り上がって書いたに違いなく、しかし社会的には常識人と見られたい。そんなところではないのか?私にもそういう部分があるので判るような気がするのである。切断された女の脚を風船に結んで浅草寺の上空を飛ばしても、それは乱歩がそう書いているので、私は仕方なく作ったような顔をしている。 それはともかく。今度の乱歩は細部のディテールこそオイルの闇に沈み込んでしまっているが、乱歩先生の部屋を急に開けてしまったら、蝋燭一本立てて、先生、実は本気だった。という私がイメージした乱歩の子供っぽさが消えていた。
没後50年『谷崎潤一郎展』谷崎像出品
神奈川近代文学館 4月4日~5月24日
石塚公昭個展『ピクトリアリズムⅡ』
2015年4月25日(土)〜5月9日(土)
オイルプリント制作法
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