大正時代を中心とした芸術写真家の多くは、富裕なアマチュアである。海外の情報をいち早く入手し、最新の技法に挑んでいたのは、そうした人々であった。今思うと恥ずかしいが、私は連中を倒すつもりでやっていた。なにしろ写真はド素人で写真家になりたい訳でなく、ただやってみたいというだけで本業放ったらかしにしている罪悪感で一杯である。そんな了見でないとやっていられなかったろう。 東京オリンピック以降の東京は、薄いガス室に居るようなものだといわれる。それにひきかえ、大正時代といえば、被写体となる人、風景、すべてにおいて趣のあった時代である。先人がやっていない物、やれない物でいくしかない。被写体の人物像を自作して、という作家はいない。加えて当時なかったのがコンピューターである。 田村写真謹製ゼラチン紙残り3枚。最後の一枚ということで無難な作品を選んだが、初志を思い出して変更。背景は以前作った物である。特撮の神様が胸まで隅田川に浸かっていた。蛸も既出で、すでに女性に絡ませたが、一目で合成と判る絵柄ということで選んだ。この状況で女性は悠然と髪を髪留めでまとめようとしている。それが終わって振り向いた時には、航空自衛隊が誇る、かつての名戦闘機セーバーは隅田川に叩き落とされる運命にあろう。そう思うと横顔に殺気を感じたりして。 私がオイルプリントを始めたきっかけである大正期のピグメント写真の巨匠、野島康三に会ったら、見せるのは案外この作品かもしれない。
没後50年『谷崎潤一郎展』谷崎像出品
神奈川近代文学館 4月4日~5月24日
石塚公昭個展『ピクトリアリズムⅡ』
2015年4月25日(土)〜5月9日(土)
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