「命の香り」 詩?それとも エッセイ? BY 翔
それは水の香り、 美しくて、澄み切った香り、 無いはずなのに確かに存在する不思議な香り。
季節の終わりと始まりの一時に存在するそれは、 タンポポを揺り起こし、ネコヤナギを目覚めさせ、梅の花びらを押し開く。
刺すような北の風は、あらゆる物を乾かし、 大地を凍らせる容赦の無いもので、
喉の渇きが極限を迎え、我慢に耐えきれなくなったあらゆる命達は、小さな悲鳴を上げ初める。
北風達がこすれ合い、激しい音はうねるけど、その本当に小さな狭間から漏れ出るそれは太陽に届く。
それを聞いて、すこしずつ主張をし始める太陽は、つい半年前は悪戯が過ぎて皆からそっぽ・・・
その恥ずかしさ故、彼は大地の下に隠れる時を長くしたのだけど、皆の声が重なるほど、元気になって、笑顔を見せ始める。
そんな陽光が北風を押し退けた一時、枯れ葉で覆われ、秘匿されていた芸術が露わになってくる。
風が落ち葉を掃き清めたことで、黒い絨毯のようにも見えるそれは、あちらこちらに凹んだ綻びが有るかのように見えなくはない。
暖かき光の注ぎは季節の変化を聡し、少しずつ壊れつつ気化していくそのミクロの氷柱達は、大地と命達に潤いを与えつつ、揺らぐ白き姿となって大気へ溶け込む。
見えなくなるけど、確実に存在するそれは 美しき香りへと変化し、あらゆる物を無言のまま包み込み。
やがて・・・・
ゆりかごで微睡む愛しい我が子を、揺り起こす母の優しい声となり、
春を目覚めさせる。
命の香りとして。