給食費滞納/物質的豊かさの中の飢渇

2008-05-04 12:55:40 | Weblog

 小学校の給食費滞納問題が依然として続いている。依然としてと言うのは、文科省が自ら調査して2005年度だけで全国の小中学生の1%にあたる約9万9千人に学校給食費の未納があり、その総額は約22億3800円に上ると07年1月24日に発表して1年以上も経過していながら、未納者が年々増えているというからだ。

 先月4月28日(08年)のasahi.com記事は、給食がある小中学校3万1921校のうち未納者がいる小中学校は半数近い43.6%に当たる1万3907校あり、未納者は9万8993人に上ると伝えている。平均で言うと、未納小中学校1校当たり10人近い人数に上ることになる。家が貧しくて払えない家庭だけではなく、その多くは支払う能力がありながら支払わないケースが多いという。確信犯的未納といったところなのだろう。

 文科省学校健康教育課はそういった有支払い能力者の未納原因を「保護者のモラル低下」としているということだが、親にしても小中学校時代はあったのだから、文科省が学校教育で意図してきた「健康教育」政策に反する、その名にふさわしくないこの手の「モラル低下」はどこから来ているのだろうか。単に文科省の「健康教育」が過去の生徒に対して無視できない数で効果を見なかったということだろうか。まさか文科省は身体の健康の育成のみを目的とし、精神の健康の育成は考えに入れていなかったわけではあるまい。

 「モラル低下」は精神の不健康に起因する。だとすると、学校教育が一部教育対象者に効果を見なかったこととなり文科省に最終的な責任があることになる。

 このことに対して文部省側が教育はすべての人間に効果を見い出せるわけではない、学校教育に満足に応えてくれない人間も存在するのであって、文科省側に責任はないと主張するなら、今年の2月に沖縄で起きた米海兵隊員による14歳女子中学生に対する暴行事件に関して在日米軍のエドワード・ライス司令官(空軍中将)が「1~2人、米軍の基準を満たせない者がいるが、きちんと責任を取らせている」とする主張も、「沖縄だけで人口数万の都市に匹敵する2万4千人近い米兵がいるのだから犯罪ゼロというわけにはいかない」といった米軍側にある主張を受け入れなければ公平性を欠くことになる。

 いわば学校教育を受けた者すべてが社会の一員として資格あるモラルを身に着けるわけではないのだから、中には支払う能力がありながら給食費滞納する親がいても仕方がないことだという論理を成り立たさなければならなくなって、未納を社会的な人間存在の矛盾として認めなければならないだろう。

 実際には各学校は未納家庭に対して連帯保証人を立てた必ず支払いますと書いた誓約書を提出させたり、支払い請求に応じない家庭を対象に裁判所に債権差押えを申し立てて給与から差し押さえる強制執行で回収を図ったりしている。いわば責任の所在を家庭に置いている。

 と言うことはそういったモラルを持たない親を育てた文科省の学校教育にやはり最終的には責任があるとしなければならない。米海兵隊員が少女暴行をした事件の責任は沖縄米軍にあるとしたようにである。

 私自身はこの責任構図を信じているわけではない。人それぞれの心の持ちようがモラル決定の要因だと思っている。では、支払う能力がありながら支払わないモラルはどのような心の持ちようが原因した荒涼風景なのだろうか。

 1978年の第二次オイルショック時代、ガソリンの高騰に耐えかねた一般家庭が生活防衛のために普通車から軽自動車に乗り換える経済化現象が起きたが、そのような現象に反して当時の若者の憧れは日産のスカイラインやトヨタのマークⅡといったスポーツタイプの車だった。颯爽と走らせる姿に憧れたのだろう。だが、当時のスカイラインやマークⅡは150万円前後した。大学卒の公務員初任給が9万円前後の時代である。金持ちのドラ息子でなければ、二十歳前半の若者にはとても手が出ない価格であった。

 諦め切れない若者がピカピカに再塗装した中古車に走った。2年3年のローン買いなのだが、月々の支払いが少なくも、一般労働者の若者にとって高い買い物であることに代わりはなく、月々の支払いが精一杯で、任意保険まで手が回らない若者が多くいた。

 しかも当時のスポーツタイプは重量が重く、ガソリンを食わせて走らせる構造となっていたから、5年以上落ちともなると、リットル5キロ前後しか走らない。新車ほどではないにしてもカネ食い虫であることに変わりはなかった。

 スポーツタイプの車に見合ったいい格好を見せるための安全運転とは程遠いドライブが事故と隣り合わせとなる確率の高さは自然な摂理だろう。事故を起こして馬鹿にならない修理費まで任意保険なしだからローンを組んで支払いを凌いだり、人身事故を起こした場合はローン会社から借金をしたりして凌がなければならない。収入に身の丈の物質欲で我慢すべきを背伸びして収入を超えた物質欲で精神の充足を図り、結果的に度の過ぎた物質欲の復讐に合い、金銭的な悲劇に見舞われる。

 給食費の滞納にしても、支払い能力がありながら支払わない場合は収入の身の丈を超えた他への支払いを優先させることから発生している収支の皺寄せが原因しているのではないだろうか。国内旅行や海外旅行を優先させる。あるいは外食してテレビ番組で紹介しているようなグルメな食事を満喫する。ブランド品か、ブランド品でなくても高価なファッションやアクセサリーで身を固め、豊かな気分となる。そういったふうに物質欲を満たすことで自らの精神を満たす生き方が経済的な余裕をなくし、その不足を埋め合わせるために給食費の未払いに進む。

 なぜ給食費かというと、子供を塾に通わせていたなら、今月の家計は赤字だからと塾代金を未納としたなら、「支払えるようになるまで塾を休んでください。支払えるようになったなら、また塾に来てください」と言われるのがオチだろう。また自治会費といったたちまち近所に知れて評判を落とすような会費を滞納対象とするわけにはいかない。給食費なら、公立学校の場合は義務教育だから、支払わなくても学校にくるなとは言わないだろうし、学校はプライバシーに関係する問題ということで秘密を守るだろからと近所に知れることもない。そういった高を括る気持の上に、いや義務教育なのだから、給食費も国が支払うべきだとこじつけて格好の滞納対象としているといったこともあるに違いない。

 いずれにしても支払い能力の所持に反した滞納である以上、支払い優先度の問題であろう。確かテレビで報道していたことだと思うが、高級外車を乗り回す身分でありながら、給食費を滞納している家庭があると言っていたが、車のローンは月々口座から自動的に引き落とされて手をつけることができない。こういった優先させる支払い、優先させなければならない支払いがあって、後回しにしている支払いが給食費ということなのだろう。

 学校が例え滞納を子供に知らせなくても子供を犠牲にしていることに変わりはないのだから、このことだけで精神の貧困を示してもいるが、物質的豊かさを充足させることで精神を充足させている一方でモラルに関わる精神の豊かさを削っているのである。豊かな物質社会、豊かな物質時代に浸るあまりの、そのことが引き起こしている精神の飢渇と言えないだろうか。


≪給食費滞納10万人…事前申込書・給料差し押さえも≫(asahi.com/2008年04月28日03時01分)

 千葉や長崎の公立高校で入学金の未納が問題になったが、公立の小中学校では給食費の滞納に頭を悩ませている。払おうとしない保護者が少しずつ増えているからだ。申込書の提出を求めたり、法的手段に訴えたりと「断固たる態度」で臨む教育委員会が相次いでいる。
(子どもたちが大好きな給食の時間。給食費の滞納が増えると、食材の質を落とすことになりかねない=千葉県市川市内の小学校、小沢写す)
 
 ■未提出なら「弁当持参を」
 江戸川を挟んで東京都に隣接する千葉県市川市。市教委は今年度、市立小中、特別支援学校の計56校で、保護者に「学校給食申込書」の提出を求める仕組みを導入した。

 未収額は06年度、必要額の0.22%にあたる250万円。千葉県全体だと0.7%(県教委の05年度調査)なので決して多くはないが、年々増え続けている。それに歯止めをかけるのが目的だ。

 ある小学校の場合、市教委からの手紙と、1年間の給食を署名押印して申し込む書式を2月に配った。手紙には「未払い額が大きくなると正常な運営に支障をきたすことにもなりかねません」、提出しなかったり払わなかったりした時は「弁当の持参をお願いする」とも書かれていた。

 校長は「食の安全を守るという意味もあります」と話す。市川市の給食は、カレールーもギョーザも手作りなのが自慢だ。だが、学校単位で集金して校内で作る方式のため、未収分が食材の質に直結しやすい。

 この学校では申込書は順調に集まったが、市教委には市民から反発の声があった。「子どもに罪はないのだから、不足分を補填(ほてん)できないのか」「きちんと払ってきたのに、『申し込み』させるとは失礼だ」……。「申込書は出さないが給食費は支払う」という保護者もいた。

 市PTA連絡協議会の佐藤博彰会長は「ついにここまで来たか、というのが正直な気持ち。ただ、レストランでお金を払わなければ犯罪になるのだから、仕方がないと受け止めています」と話す。

 市教委には、全国30以上の自治体から問い合わせが来ている。

■全国10万人、22億円余

 滞納は全国に広がる。文部科学省が07年1月に発表した全国調査では、給食がある小中学校の4割を超える1万3907校で滞納があった。児童生徒の約1%にあたる10万人近くで、総額22億円余にのぼる。

 各地の市町村教委が最近打ち出した対策は、(1)あらかじめ警告し(2)滞納が続いたら法的措置に踏み切る――の2段階に分類できる。

 宇都宮市は07年度から保護者に支払いの「確約書」を求めており、保証人を書く欄もある。実際に請求した例はないが、1月現在の滞納は約244万円と前年に比べ6割減った。

 水戸市も今年から申込書の提出を求めている。払わない状態が続いた場合、「給食の提供を中止することについて異議ありません」との文言も入れた。

 栃木県足利市も1月にまとめた対策に、事前申込制を盛り込んだ。いわば前払いで、応じなければ提供をやめられる。担当者は「督促し、誓約書を書いてもらい、裁判でも払ってもらえない場合の方法として考えた」と説明する。

 広島県呉市は06年度、「払えるのに払わない」世帯に対しては簡易裁判所に支払い督促を申し立てることにした。06、07年度に各5~6件。それでも支払う意思が見られない場合、保護者の勤務先から給料の一部を差し押さえるケースも出ている。

 各校は督促の家庭訪問を繰り返し、校長のポケットマネーなど学校で立て替えてきた。しかし、「どうにもならない」という校長からの声に押される形で、法的措置に踏み切ったという。

 06年度までの3年間で計約440万円の滞納があった島根県出雲市。市教委の調査では13.9%の世帯が「親の規範意識が欠け、支払う意思がない」で、中には高額な車を持っていた家庭もあった。督促申し立てなどを視野に入れた対策を打ち出すと、07年度は約330万円まで減った。(小沢香、水沢健一、星賀亨弘)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする