麻生前政権が来年3月までの時限措置として導入した省エネ家電を購入した場合の購入額の5%を1ポイント1円換算で「エコポイント」として国費で消費者に還元する「エコポイント制」と新車登録から13年以上経過した中古車から環境性能が高い車に買い替える場合1台当たり25万円、軽自動車は12万5000円を補助する「エコカー補助」制度を民主党政権となって来年度も継続するかどうかで閣内不一致を来たしている。
(《エコポイントなど 計上見送り》(NHK/09年10月13日 12時41分) が次のように伝えている。
直嶋経済産業大臣は〈「制度を続けるかどうかは、経済の状況しだいだと考えている。今はまだ判断できる状況にはない」と述べ、15日が提出期限の来年度予算案の概算要求の見直し段階では「エコポイント」事業などに関連する予算を計上しない方針を正式に明らかに〉した。
対して小沢環境大臣は15日再提出の来年度予算案の概算要求に関連予算を盛り込む意思を示している。
「環境省としては他省庁がやらなくても環境的に重要だと思っているのでやりたい。経済産業省の場合は景気対策という観点の方が意味合いが強いのかもしれない」(《エコポイント制度 予算要求へ》(NHK/09年10月13日 14時53分)
但し概算要求とは別枠で検討していく可能性も示唆したという。
「12月の予算編成に向けて、概算要求の枠を超えるようなテーマ別予算というような話も今後起こってくる可能性があり、そういうところにエコポイントもまとめあげられていく可能性も十分あると思っています」(同上記NHK記事)
小沢大臣は「環境的に重要だと思っているのでやりたい」と言っている。直島経済産業相が「エコ」を景気対策と把えているのに対して環境省の環境大臣として〈環境政策の一環として来年度以降〉(同NHK)も継続する意向を示したわけである。
ここのところは15日の「TBS」記事――《環境相、「エコポイント」別枠で予算要求》によると、〈小沢環境大臣は、温室効果ガス25%削減の中期目標を実現するために、概算要求とは別に数千億円ほどの予算を要求することにして、この中にエコポイントを盛り込む考え〉となっている。
省エネ家電購入向けの「エコポイント制」にしても環境対応車買い替え購入向けの「エコカー補助」にしても、環境対策に少なからず貢献したかもしれないが、それ以上に景気対策として貢献したはずである。家電産業にしてもや自動車産業にしても景気対策によりウエイトを置いて継続を希望している。環境対策はより名目的となっていると言える。時代の流れから言って、“環境”という付加価値を必要事項としなければならなかったに過ぎないだろう。
これらのことは“環境”に貢献した購入者が同時に景気に貢献できる生活に余裕のある層に限られていたことからも理解できる。逆説するなら、景気に貢献することによって、“環境”に貢献することができた、景気に貢献できなければ、“環境”に貢献できなかったということであり、景気貢献を優先条件としている。
省エネ家電の場合、1ポイント1円換算の商品券としてエアコンは6,000-9,000ポイント、冷蔵庫3,000-1万ポイント、地上デジタル放送対応テレビは7,000-3万6,000ポイント付くそうで、獲得ポイントが別の商品で戻ってくるために顧客の多くはワンランク上の家電を購入する傾向にあったというから、生活に余裕がなく、ギリギリの生活を強いられている層にしたら購入レースに参加できない“環境”への貢献であった。
環境対応車の購入にしても、いくら普通車の場合25万円を国費で補助を受けたとしても、普通車なら100万円以上もする。自己負担が75万円以上、月々のローンが利子をつけて2万円以上の負担を生活にかけることになるとすると、やはり生活に余裕のない層にはレース参加が不可能な“環境”への貢献であったはずだ。
生活に余裕のある層のそのような“環境”への貢献が結果として家電業界や自動車産業の売り上げに貢献し、少なからずそれらの業界の景気対策となったいうわけである。
言葉を替えて言うと、「エコポイント制」にしても「エコカー補助」にしても、その舞台の登場人物は生活に余裕のある層に限られていた、余裕のない層は環境の点でも景気の点でも脇役にもなれなかった。
「非正規労働者比率(パート・アルバイト・派遣・契約等の比率)の推移(男女年齢別)」によると、2009年の正規社員3千362万人に対して非正規社員が1千677万人。2人に1人が非正規で、その半数以上がワーキングプアと言われる年収200万以下だという。
また21年8月の完全失業者数は361万人。前年同月に比べ89万人の増加。10か月連続の増加。このような仕事がない状況からしても、「エコポイント制」にしても「エコカー補助」にしても生活に余裕のある層に利用が限られた、言ってみれば低所得層から比較した場合、金持優遇の景気政策となっていることを物語っている。
政府が「エコポイント制」や「エコカー補助」を打ち出す前から生活に余裕ある層は電気代を少しでも安く上げるために省エネ家電の購入に向かい、あるいは最初は高い買い物に付くことになっても燃費が安くつくことからハイブリッド車の購入に向かっていたが、そのような状況は生活に余裕のある層が二次的にも生活に余裕をつくる利益行為――彼ら自身のための景気政策、個人的な景気対策でもあったことを物語っている。
一方収入に関係なく、国民の環境意識、地球温暖化防止意識、省エネ意識は「京都議定書」以来意識的な関心を払うようになり、鳩山首相が日本は2020年までに温室効果ガスを25%削減するとする中期目標を掲げて国連で演説したこともあって、ここに来て急速に高まっていたはずである。
だが、以上見てきたように国民一人ひとりの温室効果ガス削減に向けた具体的な貢献は収入によって制約を受けることになっている。生活に余裕がないために、13年以上も経過している車を我慢して乗っている生活者も相当数いるに違いない。新築の屋根は勿論、現在住んでいる家の屋根に太陽光発電装置を取り付けるにしても、いくら政府の補助があっても、生活に余裕がなければできない相談であろう。
こういった経済的な事情が環境対策に向けた貢献への決定権を握っている状況を裏を返して説明すると、収入に制約を受けはするが、収入が増えて生活に余裕が生まれさえすれば、誰もがエコに向かうということであろう。いわば環境対策、省エネ、温室効果ガス防止は国民の意識の点から言っても、既に時代の流れとなっていることを示している。
となると、生活に余裕のある限られた層に国がカネをかけて環境対策に貢献する以上に国の景気の点でも個人的な景気の点でも恩恵を与える「エコポイント制」や「エコカー補助」といった政策よりも、より多くの国民に収入を増やし、生活の余裕を与える機会を提供する政策こそが必要であり、そのことを実現させて景気回復に資すると同時により多くの国民を参加させる形で環境対策、省エネ、温室効果ガス防止を誘導すべきではないだろうか。
ではどのような政策で国民の収入を増やし、生活に余裕を与えるかと言うと、鳩山政府が「子ども手当て」や「高校授業無料化」を内需拡大策の柱と掲げている以上、内需拡大は全般的な国民生活余裕を条件として実現するのだから、その方面の政策にこそ予算を確実に回すことを優先順位としなければならないはずである。 |