安倍晋三のIWC脱退決定:一国の首相である自らが国際社会と日本国民に説明責任を果たさないことの卑怯な振る舞い

2019-02-01 12:10:46 | 政治

 2018年12月25日、国際捕鯨取締条約及び1946年12月2日にワシントンで署名された国際捕鯨取締条約の議定書からの脱退について閣議決定した。勿論、閣議議長は首相の安倍晋三である。

 「時事ドットコム」の「首相動静(12月25日)」によると、閣議は「午前10時1分から同14分まで」となっていて、13分間行なわれた。

 この13分間について首相官邸サイトの「平成30年12月25日(火)定例閣議案件」を見ると、内閣府本府提案の〈平成30年の地方からの提案等に関する対応方針について〉、法務省提案の〈特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針について〉、法務省・警察庁・外務・厚生労働・農林水産・経済産業・国土交通省提案の〈特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針について〉、外務省提案の、〈オーストラリア国駐箚特命全権大使高橋礼一郎に交付すべき信任状及び前任特命全権大使草賀純男の解任状につき認証を仰ぐことについて〉の4提案それぞれを閣議決定している。

 1提案約3分。官邸から指示を受けたか、官邸に諮ったかして、両者間で既に決定した案件を所管省庁の大臣なりが提案名と提案趣旨を少し述べるだけで、所管外の大臣が疑問を挟むことなく無条件に、あるいは従属的に承認していくだけの状況しか見えてこない。

 つまり提案事項に関係しない省庁の大臣は口出ししない状況にあるということなのだろう。

 いずれにしても2018年12月25日の閣議で国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を決定した。ところが、その日にその決定を発表せずに、翌日の12月25日の発表となった。その理由を2018年12月26日付「時事ドットコム」記事が「安倍・二階氏の意向大きく=IWC脱退、外交に冷や水」と題して伝えている。

 〈政府は25日に脱退を閣議決定したが公表せず、発表を26日にずらして、その間に関係国に説明、衝撃を緩和しようとした。〉

 しかしこれは安倍晋三自身が各国首脳に電話して、直接説明したわけではなく、内閣府本府の主たる役人が関係国の所管組織に電話するなりして、説明したということであろう。

 記事は誰の意向が強く働いた決定なのかを解説している。

 〈政府が国際捕鯨委員会(IWC)脱退を決定した。決断に至る過程では、古くから捕鯨が盛んだった地域が地元の安倍晋三首相と二階俊博自民党幹事長の意向が大きく働いたとみられる。一方、脱退は、オーストラリアなど反捕鯨国との国際協調に冷や水を浴びせる恐れがある。

 和歌山県太地町の三軒一高町長は26日、自民党本部に二階氏を訪ね、脱退決定に謝意を伝えた。二階氏は「(捕鯨を)徹底的にやれ」と激励。この後、三軒氏は記者団に「幹事長が地方の声を官邸に届けてくれた。神様みたいだ」と語った。〉

 安倍晋三が自身の意向が強く働いた脱退決定であることを否定したとしても、閣議の主宰者・議長は安倍晋三その人である。いわば脱退決定の第一の承認者であり、第一の責任者となる。と同時に、断るまでもなく、日本国家の現在の第一の責任者の立場にある。

 であるなら、条約締約国が89カ国にも上る国際条約からの脱退なのだから、何らかの機会に自らが自らの言葉で国際社会に向かって脱退の説明責任を果たし、翻って日本国民の理解を得る説明責任を果たさなければならなかったはずである。

 だが、2019年1月4日の「年頭記者会見」でも、2019年1月23日午前の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での演説でも、20191月28日の「通常国会施政方針演説」でも、IWC脱退理解要請の言葉は国際社会に対しても、日本国民に対しても、一言も発していない。国際社会から脱退に対する批判が出ているにも関わらず、説明責任を果たそうとする姿勢をサラサラ見せないでいる。

 2018年12月26日付「時事ドットコム」記事が反捕鯨国のオーストラリアとニュージーランドの批判を載せている。

 オーストラリアのペイン外相とプライス環境相連名の声明「豪州はあらゆる形態の商業捕鯨やいわゆる『調査』捕鯨に断固として反対だ」
 
 そしてIWC復帰を求めたと書いている。

 にも関わらず、安倍晋三前面に出て、自らの言葉で理解を求めるどのような説明責任も果たそうとしていない。いわば説明責任の前面に出てこない。背面に隠れている。

 ニュージランドのピーターズ副首相兼外相の声明(IWCでの日本の立場を河野太郎外相と協議したと説明し)「捕鯨は時代遅れで不必要な行為だ。日本が自身の立場を考え直して、海洋生態系保護の前進に向けて全ての捕鯨をやめると引き続き期待している」

 外国の主要閣僚がこのように脱退を批判し、脱退に反対の声明を出していることに対して自らの言葉で理解を求めるどのような説明責任も果たそうとしていない。説明責任の前面に出ずに、背面に隠れ放しとなっている。

 ニュージランドのピーターズ副首相兼外相が河野太郎とIWCでの日本の立場を協議したと言っているが、脱退に対する対応に関しては安倍晋三自身は背面に隠れて、河野太郎一人に任せている。

 一国の首相として卑怯な振る舞いとしか見えない。

 韓国の最高裁判所は太平洋戦争中の徴用工強制労働の損害賠償を日本企業に求めた韓国人4人の訴えに対して2018年10月30日、「個人請求権は消滅していない」として、賠償を命じる判決を言い渡した。
 
 日本側は1965年「日韓請求権協定」によって両国家間、及び両国民間の財産、権利等の請求権は完全かつ最終的に解決されているとして猛反発、韓国政府に問題解決を求めた。対して韓国政府は三権分立に於ける司法(裁判所)の独立を言い、司法尊重、いわば行政府不関与の立場からノータッチを貫いているばかりか、判決を批判する日本側に遺憾の意を表明した。

 このノータッチと逆批判に日本側は腹に据えかねたのだろう、対韓批判のトーンを上げることになった。2018年11月7日午前の官房長官菅義偉記者会見。「産経ニュース」(2018.11.7 12:22 )

 菅義偉「今回の判決は日韓請求権協定に明らかに違反し、遺憾だ。(協定が)司法府も含め当事国全体を拘束するものだ。

 最高裁判決の確定時点で韓国の国際法違反の状態が生じている。韓国政府に国際法違反の状態の是正を含め適切な措置を求めている」

 「日韓請求権協定」が日本と韓国の二国間協定でありながら、「国際法違反」そのものではなく、「国際法違反の状態」だとするのは、如何なる国家間のどのような内容の取り決めに関わる二国間協定であっても、それが守られなければ、国際的な秩序を損なうことになるゆえに守ることを国際的な約束事としなければならないにも関わらず、その約束事を破って守らないのは国際的な秩序を損なうという点で「国際法違反の状態」だということなのだろう。

 しかしあくまでも「状態」であって、「国際法違反」そのものでなければ、韓国側に痛くも痒くもない犬の遠吠えになりかねない。

 ただ、IWC脱退に関しての一国の首相の対国際社会と対日本国民への説明責任の不履行状態のまま、韓国最高裁徴用工判決を「国際法違反の状態」だとばかりは言っていられないということである。

 なぜなら、日本という大国のIWC脱退は、脱退する場合の規定を条約内に設けている以上、「国際法違反」とは言えなくても、IWC条約に加盟している多くの反捕鯨国からしたら、国際的な約束事を破り、国際法を損ねる行為として映ることになるはずだ。いわば"国際法毀損"に映る。

 安倍政権は2019年7月から商業捕鯨を再開すると発表している。捕鯨開始と同時にIWC条約加盟反捕鯨国には日本が国際法を日々毀損する国に映ることになるだろう。

 "国際法毀損"に映らないためにも、安倍晋三は国際社会と日本国民に対してIWC脱退・商業捕鯨再開の説明責任はしっかりと果たさなければならない。だが、説明責任の前面に立つことはしない。卑怯な振る舞いとだけで片付けることはできないかもしれない。

 安倍晋三の2019年1月28日通常国会施政方針演説に対しての自民党幹事長「二階俊博代表質問」(自民党/2019年1月30日)で、安倍晋三を次のようにヨイショしている。

 二階俊博「第二次安倍内閣発足以来、総理は78か国を訪問され、約700回もの首脳会談を重ねておられる中で、各国首脳との確固たる信頼関係を築いてこられました。国際会議で、国同士が鋭く意見対立する中にあって、安倍総理の存在感が増していることは、大いに国益に資するとともに、私たち国民にとって、誇るべきことであります。平成の時代を振り返ってみても、これほどの信頼関係を各国首脳との間に築きあげた総理大臣はおられないのではないかと考えます」

 「これほどの信頼関係を各国首脳との間に築きあげた総理大臣はおられない」

 どのような厚い首脳同士の信頼関係であろうと、各国それぞれの国益に打ち克つことができないことは日ロの北方四島帰属交渉が象徴的な証明となっている。

 安倍晋三がIWC脱退・商業捕鯨再開の説明責任の前面に立たないのは、立った場合の自身が打ち立てたと信じている各国首脳との信頼関係が少しでも傷つくことを恐れているからではないだろうか。

 このことが勘繰りに過ぎなくても、国際条約を脱退する以上、対国際社会と対日本国民に向けたその説明責任の前面に立たないのは一国の首相である手前、卑怯な振る舞いであることに変わりはない。


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