11月16日(2018年)の当「ブログ」に安倍晋三と官房長官の菅義偉が安倍晋三のあと3年の任期の間にプーチンと北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結するかのように言っていることに対して安倍晋三がASEAN首脳会議に合わせて11月13日(2018年)に行った通算23回目となるプーチンとの首脳会談で提案した1956年の日ソ共同宣言に基づいた歯舞・色丹二島返還交渉が二島返還を全ての決着とする提案であろうと、二島返還を先行させて四島返還に持っていくことを全ての決着とする狙いの提案であろうと、さも交渉が前に進んでいると見せかける単なる時間稼ぎに過ぎないと書いた。
安倍晋三は首脳会談後、シンガポールからAPEC首脳会議が行われるパプアニューギニアに移動の途中、オーストラリアに立ち寄り、内外記者会見を開催、そのときの北方四島に関わる発言を見て、単なる時間稼ぎという思いを強くしたばかりか、質の悪いペテンを交えていることに気づいた。
「安倍晋三内外記者会見」(首相官邸) 【冒頭発言】 安倍晋三「プーチン大統領との首脳会談では、2年前の長門(ながと)会談以降の両国の信頼関係の積み重ねの上に領土問題を解決して、平和条約を締結する。戦後70年以上残されてきた課題を、次の世代に先送りすることなく、私と大統領の手で、必ずや、終止符を打つ、という強い意思を共有することができました。1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる。そのことをプーチン大統領と合意しました。 来年のG20においてプーチン大統領をお迎えしますが、その前に、年明けにも私がロシアを訪問する。今回の合意の上に私とプーチン大統領のリーダーシップの下、戦後残されてきた懸案である、平和条約交渉を仕上げていく決意であります。 【質疑応答】 原NHK記者「総理、日露首脳会談について伺います。先ほど、総理も仰られましたが、日露首脳会談では、日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速することで合意されましたけれども、平和条約を締結した後に、歯舞(はぼまい)・色丹(しこたん)を引き渡すというものと、四島の帰属の問題を解決した後、平和条約を締結するとした日本政府の方針は、必ずしも一致していないようにも見えますが、この点について総理はどのように考えておられますでしょうか。 併せまして、共同宣言を基礎とすることで、二島先行返還で交渉が進むのではないかという見方が出ていますけれども、この点について、今後の総理の交渉方針を教えてください。 そして最後に、プーチン大統領は昨日の記者会見で、歯舞・色丹を返す場合も、主権の問題については協議する必要があるという考えを示しました。日本に島が返された場合でも、主権が返ってこないということがあるのでしょうか。この点について総理の受け止めを教えてください。 安倍晋三「先ず初めに申し上げておきたいことは、領土問題を解決して平和条約を締結するというのが我が国の一貫した立場でありまして、この点に変更はないということであります。 1956年共同宣言第9項は、平和条約交渉が継続されること、及び、平和条約締結後に、歯舞群島、色丹島が日本に引き渡されることを規定しています。 従来から政府が説明してきているとおり、日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります。したがって、今回の1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるとの合意は、領土問題を解決して平和条約を締結するという従来の我が国の方針と何ら矛盾するものではありません。 御指摘のプーチン大統領と記者とのやり取りでございますが、この一つ一つのやり取りについて、コメントすることは差し控えたいと思います。今後もプーチン大統領と緊密に協議し、私とプーチン大統領の間で、双方に受け入れ可能な解決策に至りたいと考えております。そして、平和条約交渉の仕上げを行う決意であります」 |
先ず、「領土問題を解決して、平和条約を締結する」と言っていることの"領土問題を解決"とは11月16日の当ブログにも書いたが、日本政府が北方領土は日本固有の領土であることを基本姿勢としている以上、四島共に日本への帰属を着地点に据えていることになる。
このことは質疑応答で「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」と答えていることと符合する。
そして領土問題解決と平和条約締結を経て、「戦後70年以上残されてきた課題を、次の世代に先送りすることなく、私と大統領の手で、必ずや、終止符を打つ」と言っていることと、「私とプーチン大統領の間で、双方に受け入れ可能な解決策に至りたいと考えております」と言っていることは任期3年で遣り遂げるという意味を取る。
さらに戦後70年以上未解決だった領土問題解決と平和条約締結の課題に「終止符を打つ、という強い意思を(プーチンと)共有することができた」、「1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる。そのことをプーチン大統領と合意した」と言っていることは、安倍晋三提唱の歯舞・色丹二島先行返還交渉と国後・択捉二島継続返還交渉の二段階方式はプーチンと合意した交渉プロセスであり、当然のこと、その交渉プロセスを両者間で共有事項としたことになる。
この交渉プロセスは「従来の我が国の方針と何ら矛盾するものではありません」と発言していることに対してもプーチンは合意していなければならない方針であって、その方針を共有していることになる。単に違う点はこれまでの交渉は四島帰属を一括対象としていたのに対して二島ずつ二段階の帰属へと対象替えしたことのみとなる。
だが、プーチンが首脳会談の結果についてロシアメディアの取材に答えた発言は四島一括から二島ずつ二段階の帰属交渉となったことへのどのような自覚も窺うことはできない。「NHK NEWS WEB」(2018年11月15日 19時55分)
プーチン「日本はかつてこの宣言を議会で批准しながら実行しなかった。しかしきのう、日本の首相がこの問題を日ソ共同宣言に基づいて協議する用意があると言ってきた。
日ソ共同宣言には平和条約の締結のあとに2つの島を引き渡すと書かれているが、引き渡す根拠やどちらの主権のもとに島が残るのかは書かれていない。これは本格的な検討を必要とする」――
安倍晋三が「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」と言っていることとは反して歯舞・色丹の二島のみを交渉対象とすることの自覚のみである。二段階方式に合意して、その合意を共有する立場からの発言であることはどこからも窺うことはできない。
ロシア報道官もプーチンと同じ自覚の発言をしている。「NHK NEWS WEB」(2018年11月15日 4時06分)
ロシア大統領府ペスコフ報道官(プーチン大統領と安倍総理大臣との間で行われた首脳会談の結果について)「1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約に関わる問題をめぐって、交渉を活発化させることで合意した」――
「交渉を活発化させることで合意した」と言っていることは四島一括の帰属交渉は停滞していた、何ら進展がなかっために安倍晋三が今回の首脳会談で1956年の日ソ共同宣言に基づいた歯舞・色丹二島の帰属交渉を提唱、プーチンがその提唱に応じて「交渉を活発化させることで合意した」という趣旨を発言全体としては取ることになる。
やはりこの発言からも一括から二段階方式へ転換したとの自覚は窺うことができないし、取り敢えずは二島でといったニュアンスも一切漂わせてはいない。
もし安倍晋三がプーチンに対して二段階方式を隠して歯舞・色丹の二島に限った帰属交渉を提唱し、それを以って記者会見では「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」との二段階方式の態度を取り、国民への説明としているとしたら、プーチンに対しても、国民に対しても質の悪いペテンを働いていることになる。
なぜこのようなペテンを働かなければならないかは、交渉が前に進むかのように見せかけるためであり、そのための時間稼ぎであろう。任期切れになっても、ここまで進めたのだからと自己正当化し、あとは後継首相に託すといった次のペテンに転ずるに違いない。
質の悪いペテンであることは2018年11月16日付「asahi.com」記事からも見て取ることができる。
記事は首相官邸幹部が明らかにした情報として、〈北方領土をめぐる日ロ交渉で、安倍晋三首相がプーチン大統領に対し、1956年の日ソ共同宣言に沿って歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島が日本に引き渡された後でも、日米安保条約に基づいて米軍基地を島に置くことはないと伝えていたことが分かった。首相はプーチン氏の米軍基地への強い懸念を払拭(ふっしょく)し、2島の先行返還を軸に交渉を進めたい考えだ。米国とも具体的な協議に入る。〉――
伝えた時期は2016年11月19日のペルーAPEC首脳会議の際の日露首脳会談を前に国家安全保障局長谷内正太郎とプーチン側近の安全保障会議書記パトルシェフが会談、パトルシェフが1956年宣言を履行して2島を引き渡したら「米軍基地は置かれるのか」と質問したのに対して谷内正太郎が「可能性はある」と回答したことで交渉が行き詰まったが、このあと安倍晋三がプーチンに対して2島が引き渡されても、島に米軍基地を置くことはないとの考えを直接伝えたと記事は書いているから、多分、2016年11月19日の日ロ首脳会談の場で伝えたということなのだろう。
11月16日の上記ブログで国際条約というものがいつ破ることもできる、あるいは相手国からいつでも破られることもある不確実性から、いくら日本側が約束したとしても、国家安全保障上、ロシア領の近くの島にトロイの木馬(=米軍基地)を招き寄せかねない危険性のある賭けをすることはないだろうといった趣旨のことを書いたが、実際に歯舞・色丹二島返還後、約束どおりに米軍基地を置かなかったとしても、もし安倍晋三が二段階方式を取っていて、日本返還後の国後・択捉に同じく米軍基地を置かない約束をしなければ、ロシアにとっては何の意味もないことになる。
後者の約束があって初めて四島一括から二島ずつの二段階方式への転換にしても、「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場であります」との姿勢にしても整合性ある正当性を獲ち得る。
もし2016年11月の段階で歯舞・色丹二島先行返還と国後・択捉二島継続返還の二段階方式を頭に置いていたなら、置いていなければ、「日本側は、ここにいう平和条約交渉の対象は、四島の帰属の問題であるとの立場」であることの終始一貫性を安倍晋三自身が破ることになるあり得ない事実であって、返還された場合の国後と択捉の二島にも米軍基地を置かない約束をしなければ、二段階方式の帰属の可能性そのものを潰すことになる。
だが、後者の約束はせず、前者の約束のみで済ましている。このことに正当性を与えるとしたら、口で言っていることとは反対に「四島の帰属の問題」は断念して、実際は二島のみの帰属を頭に置き、国民への説明は二段階方式での「四島の帰属」を装うことであとの任期3年を何とかお茶を濁す時間稼ぎをするということでなければならない。
恥の上塗りという言葉があるが、質の悪いペテンの上塗りそのものであろう。
2018年10月30日の衆院本会議代表質問で野田佳彦が次のように追及している。一部抜粋。
野田佳彦「無所属の会を代表して質問いたします。
まずは、七月豪雨、北海道胆振東部地震、台風第二十一号、大阪北部地震などの災害によってとうとい命を失われた皆様に、心からお悔やみを申し上げます。そして、被災をされた皆様に心からお見舞いを申し上げます。
歴代内閣総理大臣は、総理になった暁には後世のために何か一つは仕事をなし遂げようと懸命に頑張ったと思います。(発言する者あり)難しいんです。
そして、振り返ってみると、佐藤政権は沖縄返還、中曽根政権は国鉄民営化、そして小泉政権は郵政民営化でありました。
来年の十一月には桂太郎政権を超えて憲政史上最長記録を更新するかもしれない安倍政権は、これまで、地方創生、女性活躍、一億総活躍など次々とスローガンを打ち立ててきましたが、みんな尻すぼみです。アベノミクスに至っては、永遠に道半ばであります。政治は結果であると口癖のようにおっしゃる総理でありますが、御自身は特筆すべき結果を何か残しているんでしょうか。
長さこそが、継続こそが力であるとおっしゃいました。本人が言うべきことではありません。長さをもってとうとしとせず。この言葉を肝に銘じるべきではないですか。総理の御所見をお伺いいたします。
困難な課題に立ち向かわないのが安倍総理ですが、その最たるものが財政再建の先送りです」(以上)
「安倍政権は、これまで、地方創生、女性活躍、一億総活躍など次々とスローガンを打ち立ててきましたが、みんな尻すぼみです」
北方四島の帰属問題にしても、「新しいアプローチ」だとして日ロ双方の主権に属さない「特別な制度」の創設とそれに基づいた北方四島の日ロ共同経済活動を掲げて領土問題の進展を謀ったが、ロシア側が自らの主権に拘って経済活動は何ら進展せず、今度は質の悪いペテンでしかない二島先行返還・継続二島返還を掲げた。野田佳彦の言う「次々とスローガンを打ち立て」ることで目先を変えて政権を維持する安倍晋三の狡猾な手口を北方四島問題にも当てはめて、内閣支持率を傷つけることなく北方領土に関わる外交問題を残る3年間、引っ張ることで時間稼ぎしようとしているのだろう。