碌でもない日本の首相経験者4人と訪日中の胡錦涛中国国家主席との朝食会が都内ホテルニューオータニで5月8日に開催されたと言う。碌でもない日本の首相経験者とは海部・森・中曽根・安倍の4人。これまた碌でもない同じムジナの一人である小泉純一郎は靖国神社強行参拝で日中冷却関係をつくった手前なのだろう、欠席したという。出席して、「靖国参拝は内政問題だ」vs.「チベット問題は内政問題だ」でお互いの「内政問題」の正当性を賭けて遣り合えば面白い展開が期待できただろうに残念でならない。
チベット問題は民族の自立、人権問題がかかっているのだから「内政問題」で収まるはずはなく、靖国神社参拝にしても、天皇と国に命を捧げて靖国に祀られるという靖国思想を全身全霊に担わせてアジアに踏み出し侵略戦争を仕掛けた兵士のうちの戦死者を祀っているのだから、そこへの参拝が「内政問題」で終わるはずはないのだが、戦争を共通の経験項としたアジアとの関係は一切捨象して「国のために尊い命を捧げた」と日本の国のみの経験項、日本の国のみの問題としているから、「内政問題」へと帰着させることができる。日本人らしい合理的客観性の欠如が可能とさせている一国主義に立った単細胞極まりない「内政問題」に過ぎない。
4人は政権担当に関しては過去の人である。当然親睦的な意味合いと主催者が中曽根だと言うから、忘れられた人とならないためのマスコミへの露出意図もあったのだろう、愛ちゃんこと卓球選手福原愛と胡錦涛との卓球試合と同列の一種のセレモニーだったはずである。そこで必要なのは見せかけのものであっても和気藹々の態度演出ではなかったろうか。
それが意に染まなければ、出席しなければいい。ところが安倍首相は場所柄も弁えずにということになるに違いない、要求される場の雰囲気を無視してチベット問題を取り上げたそうだ。
このことに関しては空気が読めなかったわけではあるまい。かねてから中国に対して強硬姿勢を見せていた。偉大な首相を夢想しながら途中で無責任にも政権を投げ出し嘲笑の対象となった自分に引き比べた中国の世界に向けた突出振りが腹に据えかね、その弱みを突くことで一矢を報いる目立つことをして存在感を示し、自身の汚名を少しでも埋め合わせたかったに違いない。
それというのも個人の権利・自由よりも国家を優先させる国家主義者として本来的に人権を口にする資格はない政治家でありながら、人権を口にしたからだ。安倍晋三が国家主義者なのは 「国を命を投げうってでも守ろうとする人がいない限り、国家は成り立ちません」と言っている安倍自身の言葉が何よりも証明している。国民に国のために生命を投げ打たせるとは個人を国家に従属させ、国家を個人の上に置く思想そのものである。
もし場所柄など弁えていられない程に中国の人権状況に憂えていたなら、首相就任12日後の06年10月に小泉前首相の靖国参拝で関係が悪化した中国を初の外遊先として訪問し、胡錦涛国家主席及び温家宝首相と会談して関係修復を図っているのである。関係修復といった目的に外れようと、その場で自分が憂えていることをぶつけるべきだったろう。中国の人権問題はチベット問題やウイグル問題のみに限らず、国内人権活動家の活動制限や書物の発禁、インターネットの閲覧制限等、当時から多岐に亘って進行形の状態にあったのである。
あるいは07年6月のドイツ・サミットでの胡錦涛国家主席との個別会談、同年9月のシドニー・アジア太平洋経済協力会議(APEC)非公式首脳会合での胡錦涛国家主席との会談でも中国の人権問題に物申す機会はあったはずだが、安倍首相の方から一言あったといった報道はなかったはずだ。
ということは場所柄など弁えていられない程に中国の人権状況に憂えていたわけではない朝食会での発言としないわけにはいかない。
ブッシュ米大統領は05年11月に訪中して胡錦涛主席と会談した際、直接中国の民主化を求めている。また07年9月の安倍首相も出席した上記シドニー・アジア太平洋経済協力会議での演説で出席している胡錦涛主席に向けて中国の民主化を求めているし、その他機会あるごとに中国に対して民主化要求を行っている。
シドニー・アジア太平洋経済協力会議での演説に関する「AFPBB News」記事を参考までに引用。
≪ブッシュ米大統領、中国、ミャンマーなどに民主化要求≫(07年09月07日 14:39)
<【9月7日 AFP】ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領は9月7日、オーストラリアのシドニー(Sydney)で開かれているアジア太平洋経済協力会議(Asia Pacific Economic Cooperation、APEC)ビジネスサミットで演説を行った。
多岐にわたる内容のなかで、ブッシュ大統領は中国政府に対し、来年開催される北京五輪を契機に開放性を一層高めるよう求め、またアジア諸国の首脳には政治犯の釈放に向けてミャンマー政府への圧力を強めるよう呼びかけた。
■中国政府には開放性を求める
ブッシュ大統領は2008年の五輪開催を中国における政治改革の好機と位置づけ、「米中間の協力関係は継続するが、これまで同様、われわれが個人の尊厳や自由への信念に多大な価値を置いていることを表明し続けたい」と述べた。
大統領はまた、五輪に出席することを楽しみにしているともいい、「(北京五輪は)中国の国民にとって最も誇り高く感じられる時となるだろう。同時に中国の指導者にとっても、さらなる開放性と寛容性を表すことで国としての自信を示す機会になり得る」と述べた。
■アジア諸国には民主化を奨励
ブッシュ大統領はまた、ミャンマーや北朝鮮、タイについても言及した。
「北朝鮮の国民が近隣の民主国家と同じ自由を謳歌(おうか)できる日のために働きかけ続けなければならない」と力説。また、ミャンマー政府については「民主主義と人権尊重を求める市民への介入をやめるべきだ」と強調、「民主化運動家に対する逮捕や弾圧を止め、これまで逮捕した活動家の身柄を釈放しなければならない」と述べ、アウン・サン・スーチー(Aung San Suu Kyi)さんを含めた政治犯全員を釈放すべきとの見解を示した。
また、タイで軍によるクーデター後初めて実施される12月の総選挙について「自由で公平な選挙」を期待すると語った。>
日本の首相がこういった場面で民主化要求を演じたことがかつてあっただろうか。
逆説するなら、安倍晋三はそういった場面でこそ民主化要求を演じるべきだったろう。朝食会は首相経験者が列席したとはいえ、公的な催しではなく、あくまでも私的な場面である。場所柄を弁えずに口にすることではなく、低下した存在感を挽回する目的で話題性ある問題を口にし、自身の発言に注目させようとした疑いが限りなく濃い。
その証拠を「MSN産経」インターネット記事≪「無事釈放を…」安倍前首相発言で緊張走る 主席と歴代首相との朝食会≫(2008.5.8 18:28 )の「発言要旨」から探ってみる。
<朝食会での安倍晋三前首相の発言要旨は次の通り。
戦略的互恵関係の構築に向け。相互訪問を途絶えさせない関係をつくっていくことが重要だ。国が違えば利益がぶつかることがあるが、お互いの安定的関係が両国に利益をもたらすのが戦略的互恵関係だ。問題があるからこそ、首脳が会わなければならない。
私が小学生のころに日本で東京五輪があった。そのときの高揚感、世界に認められたという達成感は日本に対する誇りにつながった。中国も今、そういうムードにあるのだろう。その中で、チベットの人権問題について憂慮している。ダライ・ラマ側との対話再開は評価するが、同時に、五輪開催によってチベットの人権状況がよくなったという結果を生み出さなければならない。そうなることを強く望んでいる。
これはチベットではなくウイグルの件だが、日本の東大に留学していたトフティ・テュニヤズさんが、研究のため中国に一時帰国した際に逮捕され、11年が経過している。彼の奥さん、家族は日本にいる。無事釈放され、日本に帰ってくることを希望する。>
「戦略的互恵関係の構築」云々以下は同記事の解説によると、<小泉氏の靖国参拝をめぐり中国側が首脳交流を途絶えさせたことを暗に批判したもの>だそうだ。
記事の解説どおりの「批判」だとすると、安倍首相の国家主義のスタンスからしたら当然の主張となるのだが、靖国参拝を絶対善と把えた日本側の言い分に過ぎず、中国側には中国側の「善」があっての行動だとまで考えを巡らせない、そのことを抜け落とした言い分で終わっていることになる。
それだけではない。中国側にとっては小泉首相の靖国参拝強行とそのことを原因とした日中首脳交流の途絶は日本の安保理常任理事国入りに反対する正当な理由とすることができた政治的には価値ある怪我の功名となっていなかっただろうか。中国は日本の常任理事国入り希望に関して「責任ある大国の役割を果たす国は自国の歴史問題についてはっきり認識すべきだ」と言っているのである。日本をアジアのリーダーから引き摺り下ろし、中国がその地位に取って代わる狙い目ともなったはずである。
今回の胡錦涛・福田会談でも安保理常任入りを望んでいる日本の立場に一定の理解を表明したものの共同声明に「支持」という表現を盛り込むことはできなかったという。このことは決定権を中国が握っていたことを示している。
日本の常任理事入りに対する中国の意向は中国一国の問題にとどまらず、背後に多くのアジアとアフリカの国々が控えている。そのような関係図になければ中国の決定権は有名無実となり、中国にお願いする構図を取る必要はないわけだが、多勢に無勢の関係が否応もなしに中国に決定権を握らしめ、「支持」をお願いする態度を日本に取らせている。
となると、日本の国際的地位を高めないためにも中国にしたら一定の距離を保った仲違いの関係は必要事項となる。友好べったりだったなら、常任理事入り反対の理由を失う。「問題があるからこそ、首脳が会わなければならない」、ハイ、そうですかでは中国としたら国益上の外交カードを自ら捨てる自殺行為となるだろう。正論で迫って済む相手ではないのに正論で、それも口先だけの正論で迫る短絡思考は相変わらずの安倍晋三である。
「五輪開催によってチベットの人権状況がよくなったという結果を生み出さなければならない。そうなることを強く望んでいる。」とは普段口にし慣れない立派なことを言ったものである。
中国に対してチベット人権問題でそれが「よくなったという結果を生み出さなければならない。」と要求した以上、「政治は結果責任である」と安倍晋三自身も言っているのだから、自身の言葉の行き先――「結果」を見守る責任を発動させたことになる。
自身が言ったことの言葉が言ったとおりの成果を見てこそ、責任を果たしたことになるのだから、北京五輪後になってもチベットの人権状況に変化がなければ、成果を見るまで中国に人権改善を求め続ける「責任」を担い続けなければならない。ブッシュ大統領にしても望んでいながら中国の民主化が望みどおりになっていないから何度でも言い続けているのだろうから。
安倍信三は果たしてそこまで責任を果たすだろうか。国民には「国を命を投げうってでも守」る決意を要求しながら、自分は生命を投げ打つところまでいかない単に健康状態が優れないというだけで首相職を簡単に投げ打つ責任放棄の無責任政治家なのである、「責任」と名のつくものは期待しようがないように思えて仕方がない。
胡錦涛主席は安倍晋三の「日本の東大に留学していたトフティ・テュニヤズさんが、研究のため中国に一時帰国した際に逮捕され、11年が経過している。彼の奥さん、家族は日本にいる。無事釈放され、日本に帰ってくることを希望する」という言葉に対して、「私はその件は知らないので、正しい法執行が行われているか調べる」と答えたが、「チベット問題については触れようとしなかった」とその反応を伝えている。
「内政問題」だと切り返すこともせずに何も答えずに無視したとしたら、安倍の言葉は言葉としての力を持っていなかったことになり、その無力の責任を問わなければならない。
にも関わらず「産経」が「安倍前首相発言で緊張走る」と伝えているのは安倍晋三がさもたいしたことをやってのけたように見せかけるもので、持ち上げ記事と言われても仕方があるまい。
トフティ・テュニヤズさんに関して後日駐日中国大使館を通して「調査の末、正しい法執行のもと逮捕・拘束したもので、当局の姿勢に何ら問題はないことが判明した」と報告されたなら、それが事実ではないと窺うことができたとしても、引き下がる以外にどのような手が打てるというのだろうか。
国家の分裂を謀ったとか政府転覆を謀議したとかで反体制言論取締りを目的とした中国に於ける不法逮捕・不法拘束は何も「トフティ・テュニヤズさん」一人だけの問題ではない。個人の問題に限って取り上げたから、「私はその件は知らない」という流れを誘導させることになったに違いない。
「日本の東大に留学していて中国に一時帰国して逮捕され、そのまま11年間も拘束されている私の知っているトフティ・テュニヤズさんもそうだが、中国では当局に批判的な言論を行う多くの人間を言論の自由を認めずに逮捕・拘禁していると伝えられていますが、民主主義の観点から許されることではないと思います。如何なものでしょうか」と問い質したなら、国家主席の立場にある者が「私はその件は知らない」と答えることができただろうか。
一般論として論ずるべきだったろう。人間は絶対的存在ではないのだから、如何なる政治も如何なる政権もすべてに亘って絶対的に正しいということはなく、どこかに間違いや矛盾を抱えていて、それに対する批判が起こる。批判は一般的には矛盾や間違いを知らせる警告であって、その警告が矛盾や間違いを正そうとする力ともなれば、逆に矛盾や間違いに目をつぶろうとする反撥にも変わり得る。
自分たちの政治が批判されたからといって、その批判に耳を傾けずに権力で封じるのは自分たちが絶対的存在でもないのに自らがつくり出している矛盾や間違いを隠す誤魔化しの反撥でしかなく、そういった態度を取るのは政治的に大人のすることとは言えない。政治に対する国民の支持よりも批判が上回った場合、国の政治を担う資格を失ったものとして政権主体を変えるべきであり、変えることのできる国家体制を前以て構築しておくことこそが真の民主主義と言えるのではないのかと訴える。
尤も福田政権は国民の支持を失いながら民意を問うことをせずに政権にしがみついている。そのそもそもの原因をつくったのは小泉であり安倍の両政権なのだから、安倍晋三にはこういったことは口が腐っても言えないだろう。
安倍晋三が個人よりも国家を上に置く自らの国家主義と、そのような国家主義に反する一旦口にした人権問題に向けた関心とどう折り合いをつけるのか、今後が楽しみである。折り合いをつけずに人権問題を発信し続けるとしたら、「政治は結果責任」からの態度ではなく、単に中国憎しを晴らす方便に過ぎないだろう。
≪「無事釈放を…」安倍前首相発言で緊張走る 主席と歴代首相との朝食会≫ (MSN産経/2008.5.8 18:28――安倍発言要旨箇所は除く )
中国の胡錦濤国家主席と中曽根康弘、海部俊樹、森喜朗、安倍晋三の歴代首相4人との朝食会が8日朝、東京都千代田区のホテルニューオータニで開かれた。89歳と最年長の中曽根氏が主宰し、和やかな友好ムードが演出されたが、安倍氏が中国側が神経をとがらせているチベットやウイグルの人権問題を指摘したことで、一時緊迫する場面もあった。出席者らの証言から、その様子を再現する。
朝食会は午前8時からの約1時間で、会場の日本料理屋入り口では中曽根氏らが出迎えた。計6回の靖国神社参拝をめぐり、中国側と対立した小泉純一郎元首相は「おれが行ったら、胡主席は来ないんじゃないか」と周囲に漏らしており、姿を見せなかった。
「みなさんとお会いできるチャンスを得て大変うれしい。このように一堂に会するのは初めてであり、かなり創造的な形だ」
胡主席はにこやかに謝意を表明し、中曽根氏の正面の席に着いた。タケノコ、マグロのづけ、銀ダラ西京焼き、しじみ汁…と旺盛な食欲でたいらげたが、「さすがにおかわりはしなかった」(海部氏)という。
中曽根氏は「今まで日中関係は必ずしも良好ではなかったが、7日の日中共同声明により新しい展開が可能になるだろう」と胡主席来日の成果を高く評価。海部氏は東シナ海ガス田問題について「だんだんよい方向で進んでいるようなので、ぜひその方向で進めてほしい」と要請した。
こうした会場の「緩い空気」(出席者)が一変したのは、続いて安倍氏がこう発言してからだ。
「お互い国が違うので、利益がぶつかることもあるが、戦略的互恵関係の構築に向け、相互訪問を途絶えさせない関係をつくっていくことが重要だ」
これは、小泉氏の靖国参拝をめぐり中国側が首脳交流を途絶えさせたことを暗に批判したものだった。安倍氏はその上で、「チベットの人権状況を憂慮している。五輪開催によって、チベットの人権状況がよくなるのだという結果を生み出さなければならない」と指摘した。
会場には緊張感が走り、出席者はみな一様に黙り込んだが、安倍氏はさらにウイグル問題にも言及した。東大に留学中の平成10年の一時帰国中、国家分裂を扇動したとして中国に逮捕されたトフティ・テュニヤズさんについて「彼の奥さん、家族は日本にいる。無事釈放されることを希望する」と求めたのだ。
「私はその件は知らないので、正しい法執行が行われているか調べる」
胡主席は、こう返答したが、チベット問題については触れようとしなかった。
安倍氏の発言で生じた気まずい雰囲気を修復しようと動いたのが森氏だった。北京五輪について「中国はメダルをたくさん取る作戦でくるのでしょうね」と水を向け、胡主席の笑顔を引き出した。