北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

日本の国力に見合った国際貢献とは何か

2005-11-25 11:14:26 | 国際・政治
 先日のパキスタン大地震では航空自衛隊の輸送機に陸上自衛隊の多用途ヘリを搭載しての初の海外派遣が行われたが、昨年のスマトラ島沖津波災害など、近年自衛隊による人道支援や国際貢献任務が増加しており、特にスマトラ島津波災害への緊急人道支援では陸海空自衛隊の派遣隊員は支援要員を含め2500名という規模に至っている。
 IMG_3643 陸上自衛隊の連隊戦闘団が2000名、海上自衛隊の護衛隊群で1600名程度、航空自衛隊の航空団で1600名であるから、これは如何に大きな規模かが想像できよう。
 これは2004年8月30日のアメリカ共和党新政策綱領に記された十項目の内の第四項:日米同盟はアジアの平和や繁栄の基礎である、第五項:日本が地域や世界において指導的役割を創出する事に期待する、というアメリカからの強い期待への反映であるといっても過言ではない。
FH040035 しかしながら、最新のジェーン年鑑における日本に関する記述では、スマトラ島沖大地震への日本の人道派遣についての記述では『小部隊を派遣した』という記述に留まっているという事だ。
 海上自衛隊としては地震発生当日にインド洋対テロ派遣任務から日本本土へ帰投中の護衛艦二隻を即日投入し、日を置いて陸上自衛隊の派遣に満載排水量14000㌧の『おおすみ』型輸送艦『しもきた』を展開させている。だが、確かに、『おおすみ』型において輸送可能な人員は330名(完全武装の場合。なお、邦人救出任務のような短期間であれば1000名が輸送可能であるし、詰め込めばもっと可能であろう)であるから、これに加えて輸送機にて展開した人員を挙げたとしてもC-130Hは人員であれば搭載量はボーイング737型にも及ばない。
IMG_2858 しかしながら、専守防衛を国是とする日本の展開能力に関しては限界がある。また、航続距離が少しでも長ければ社会党によって侵略用だと短縮を強いられ、搭載量が多ければ同じく社会党に反対され、空中給油の受油装置すらも国税によって完成品から取り外す事を余儀なくされている。
 これによって、現在国際貢献に転用可能な輸送機は小牧のC-130Hが15機、これだけである。他にC-1輸送機が27機あるが、高い飛行性能とSTOL(短距離離着陸性能)を有しながらも残念ながら航続距離と搭載量に致命的な問題があり、6.6tまで搭載量を減らして辛うじて2200kmが飛行できるに過ぎない為、例えば行き先の空港上空が悪天候であった場合行き先を変更することが航続距離の関係から出来ない、格納庫の大きさに限度があるため医療設備や車輌(73式中型トラックまでならば搭載可能)の搭載に限度があるという事があって、海外派遣には適さない。
IMG_4408 現在開発中の新型輸送機(C-X)に関しては、26㌧を搭載し6500kmを飛行する事が可能であるが、初飛行が来年度であり、実用化にはいま少しの時間が掛かるという事が挙げられる。
 また、海上自衛隊の『おおすみ』型輸送艦3隻を除けば他の輸送艦は満載排水量710㌧の『ゆら』型2隻だけであり、ローテーションを考えれば一隻を即応、一隻を待機、一隻がドック入という体制が限度である。民間の貨客船を大型輸送艦に改装し運用する事を模索中と伝えられるが、舟艇を格納するドックは当然有していない訳で、またカーフェリーであればLOLO船としての機能が期待されるが港湾設備が未整備な地域にはこの場合車輌揚陸が必然的に不可能となる。飛行甲板と格納庫が充実していれば航空機による輸送により補完する事が期待できるが、これは改装ではなく新造の域に入ってしまい、逆に非効率となってしまうであろう。
IMG_1167 これに関して、前述したとおり専守防衛を国是として戦闘機・戦車・火砲・護衛艦に装備体系を集中させてきた為、こうした編成の転換は非常に困難であるし、また米軍再編においても東アジアにおける米軍は増強される事が2004年8月16日のブッシュ大統領による軍再編に関する演説において述べられている。従って、この地域の緊張度合を考える限り著しい削減は現実的ではないということになってしまう為、日本に可能な国際貢献の方策を模索する事が必要となる。
FH020029 ここで考えるべきは自衛隊の能力において比較的優れている分野とは何か、ということになる。
 海上自衛隊は、新防衛大綱により護衛艦数を47隻に上限を定められたが、近年就役している『たかなみ』型の満載排水量は6300㌧にものぼり、隻数を制限された一方で航続距離を増進させ航洋性を向上させている。これは近年日本が積極的に参画しているPSI(大量破壊兵器拡散防止イニシアティヴ)への艦艇参加をより広域的に実現させるものである。
 しかし、補給艦に関しては、満載排水量25000㌧の『ましゅう』型2隻、そして満載排水量12100㌧の『とわだ』型3隻でしかなく、後者に関しては各国の補給艦と比して小型の部類の上、若しくは中型の下の部類に位置する為、可能であれば更なる増勢が望まれる。例えば補給揚陸艦のような汎用性のある艦艇を整備しなければ、護衛艦の支援にも支障を来たす事となる可能性も否定できない。
 一方で、艦艇勢力としては一定以上のものがあるし、なによりも護衛艦派遣というのは政治的ポテンシャルが大きい事が言える。
IMG_3293 また、PSIや近年増加する海賊によるシーレーンへの被害拡大に関しては海上自衛隊の哨戒機の役割も大きい。航続距離が実に6800kmに達する同機は対潜哨戒を目的として開発されたものであるが、価格は一機100億円と高く、日本以外の運用国で二ケタ台の使用国はない。また、海上自衛隊はモスボール保管されているP-3Cをあわせれば101機を保有しており、これはアメリカが全世界にて運用する哨戒機が212機であることを踏まえればその大きさがわかろうし、また欧州NATO軍が運用する全哨戒機の総数よりも大きい。
 これは冷戦時代においてソ連海軍からシーレーンを防衛する事を目的として整備されたもので、今日にあっても質は別とすれば数だけは膨大な中国海軍に対して必要な装備と考えられているが、このP-3Cによる海洋哨戒や海賊取締などが日本にとって最も見合った国際貢献であるといえよう。
IMG_3297 また、13機が運用されているE-2C早期警戒機も、停戦監視任務などには対応できるものといえる。現在はE-767早期警戒管制機の導入により、特に平時にあっては運用頻度は若干低下した事が挙げられる。ホークアイ2000へ近代化改修された同機はデータリンク機能を用いれば停戦監視に大きな威力を発揮できよう。また、早期警戒機を二桁の規模で運用するのはアメリカ海軍以外では日本だけである事を特筆したい。
 国際貢献というのは、今日の経済がグローバル化し多国間国際分業体制により製造業を成立させる今日において地域的安定は欠くべからざるものであり、また文明の衝突に代表される多様化の概念は逆に地域的な不安定要素を増大させている事から、増加する事はあっても減少する事は今しばらく無いであろう。
 また、人的被害が生じにくい国際貢献という観点から艦艇や航空機による国際貢献という任務を更に一歩前進させることは検討に値すると考えるわけだ。

 HARUNA

コメント (2)
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