◆東日本大震災後の苦境の日本と危機突破
本日、政権交代が為され第96代内閣総理大臣に安陪晋三自民党総裁が指名されました。
安倍内閣への期待は、低迷する経済を公共事業、金融緩和などの手法を用いてGDPを成長軌道へ戻すことが第一です。何故ならば、防衛費は経済が回復しなければ増額を政治主導で行ったとしても、長期的には国家財政の負担が大きくなり、長い目で見た場合には、かえって破綻への方向へ進んでしまうためです。
アベノミクス、と呼ばれる一連の経済政策ですが、震災復興と国土強靭化計画を筆頭に我が国は集中した公共事業により成長を取り戻すこととなるでしょう。1929年の世界恐慌に端を発するアメリカのニューディール政策は長期的には景気回復に寄与せず、第二次世界大戦への参戦への財政出動がアメリカ経済を回復させました。
ある種、国家総動員型の戦争は究極の景気回復となるのですが、我が国は南海トラフ地震という未曽有の脅威に国土を脅かされているという前提に立っています。自然災害との闘争は、国家間の武力衝突と異なり悪意はなく、しかし、予兆なく突然仕掛けてくる戦争、この為の国土強靭化計画は投入した金額は直接人を殺すことなく、むしろ有事の際に人命を救います。
東日本大震災は一夜にして、イラク戦争米軍戦死者の四倍に迫る多数の人命を奪いました、米軍戦死者は8年間で4792名でしたが、死者行方不明者18800名、災害関連死者数1407名、災害は下手な戦争よりも恐ろしい被害を生む、これへの対処への集中投資は、単なる公共投資の枠を超えた正当性をもつということ。
一方、国土強靭化と併せ検討願いたいのは国家強靭化、即ち軍事力による直接及び間接的脅威への対応です。我が国は重ねての防衛計画大綱の改定により、欧州の軍縮とそれに合わせた重装備削減の意味を理解せず、地上防衛力の大幅な削減を行いました、欧州は軍備管理の生家もさることながら情報RMAによる選択と集中に合わせ装備の先鋭化を行いコンパクト化を行ったのに対し、我が国は単に数を減らした部分が大きかったわけです。
例えば、新防衛大綱及び前防衛大綱では柔軟性が大きい普通科の重視を掲げつつ、戦車及び火砲を削減した一方、情報RMA化の重要な情報共有手段と優れた監視能力を兼ね備えた戦車に代わる機械化部隊の主役として各国で配備が進む装甲戦闘車の普及は自衛隊においても必須であるにもかかわらず、現状は見ての通りです。
併せて防衛費縮減を理由とした航空機を筆頭に急激な調達数削減が量産効果悪化による価格高騰を招き、更に生産数が縮小するという悪循環を生んだ結果、少なくない防衛産業は撤退を検討もしくは決意し、一部の防衛産業は謂れなき損害に損失を蒙り国家を提訴するに至っています、このままでは防衛力の一角を担った防衛産業が破綻してしまう。
この点で、政権交代後の新政権は防衛力の再構築を期待したいところです。特に普通科重視の防衛大綱は、間違ってはないものの狭隘な我が国道路事情は装甲車両の大型化を拒絶します。他方、装甲車両の電装品が占める取得費用での比率は情報RMA化以降情報共有能力付与と、共同交戦能力付与により高く推移し、現状では大型化できない結果での航行防御力の犠牲下に高度な電装品を搭載し続けざるを得ないという状況に至りました。
それならば、元々陸上装備体系の頂点に位置する防御力と打撃力に監視能力を備え、高い不整地突破能力など機動力を有する戦車を、情報収集など情報優位の先兵として利用し、割り切った性能の装甲車両と協同する、という、島国ならではの戦車重視姿勢など検討されるべきで、野党時代に自民党が幾度か発言した防衛大綱及び中期防衛力整備計画の再構成は切望するところ。
併せて南西諸島防衛における空中機動部隊の重要性は大きく、島嶼部防衛と本土防衛を区分し、機甲戦力を重視すると共に緊急展開部隊としての空中機動部隊の構築を期し、調達中断に近い戦闘ヘリコプターの取得再開や空輸能力の必要水準画定など、メリハリ利く防衛力が整備されなければなりません。
航空防衛力については、次期戦闘機選定の遅れと、次期戦闘機として遅れて選定された新戦闘機F-35の開発の遅れにより、初飛行から半世紀以上を経たF-4EJを改良し、飛行時間や整備効率などを実任務と共に維持を重要な課題として今日に至ります。しかし、在日米軍への配備が五年後、自衛隊の実運用まで、まだまだ時間を要するでしょう。
これは見通し無き政治主導により、自民党政権時代にときの防衛庁長官により生産が中止されたF-2の影響が大きい。仮に必要とされるF-4EJ二個飛行隊分をF-2により暫定代替し、F-35配備開始後、一個飛行隊を解体し既存の三個飛行隊のF-2を18機編成から24機編成とすれば無駄は無く、もう一個飛行隊を偵察航空隊などへ改編することはできたはずです。今や覆水盆に返らずですが、再発防止を含んだ長期展望に依拠する装備計画は考えられねばなりません。
他方、北朝鮮ミサイル事案と共にその都度浮かぶ策源地攻撃能力ですが、航空自衛隊は航空優勢確保を念頭とした装備体系を有し、航空阻止や航空打撃戦を大きく検討してきませんでしたし、全ての飛行隊が対領空侵犯措置任務に対応しています。将来的には、憲法九条とも絡む問題ですが、この視点を航空阻止専門の飛行隊創設など、考えられるべきでしょう。そして九条改憲ありきではなく、その必要から改憲の是非、と物事は進むべき。
海上防衛については、海洋の自由が確保されてこそ、我が国は経済成長の端緒を見出すことが出来ます。一方で、予算不足は旧式護衛艦の代替艦建造を許さず、充足率の低下は艦艇稼働率に相当の無理を敷いています。政治主導により画定された防衛計画の大綱を維持する予算を政治が確保し得ない、とはなんとも変な話ではありますが、責任ある政治、というものは行動で示されるべきでしょう。
当方は繰り返し、八八艦隊として、ヘリコプター搭載護衛艦八隻イージス艦八隻の護衛艦隊の必要性を示していますが、この視点は我が国隣国の中に海洋進出と共に海洋の占有という国際公序への重大な背信行為を企図する国への明確なメッセージとなります。無論、これは一案ではありますが、海洋の自由を維持し、我が国領域の保全に寄与する具体的な施策が見たい。
併せて防衛力と防衛交流ですが、本年は日中国交正常化40周年であると共に日台断交40周年となりました。人口2300万と世界24位のGDPを有する台湾を独立国として扱わない現状は果たしてどうなのか、周辺国との平和共存を実現するには、こうした、これまでの古い自民党が忌避してきた問題についても一考の余地はあるのではないでしょうか。
この点で、我が国は憲法九条に基づく平和主義を教条的に扱いすぎたのではないかという懸念を抱くほどに、実のところ外交から強制力というものを排除しすぎた結果、非常に曖昧な世界政治への関与を行わざるを得なかった部分が少なからずあるように思います。無論、国家の仕組みを明示した、構造がconstitutionであり、憲法がConstitutionなのですから、運用にこそ問題はあるのですが、そもそも立憲の原点に立ち戻った世界政治への関与はあり得ると考えます。
箇条書きに他ならない散文的な表現の羅列とはなりましたが、新内閣は危機突破内閣を自称しています。一方で主導権無き政治主導からの政権交代ではありますが、三年間の主導権無き政治主導は我が国に多くの歪みを残し下野しましたが、残した課題は膨大、文字通り課題は山積していますが、この突破を心から応援したいところです。
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