◆LARC-V水陸両用5tトラック
LARC-V、Lighter, Amphibious Resupply, Cargo, 5 ton、水陸両用5tトラックというべき装備が米海兵隊等に配備されています。
防衛用水陸両用車両技術に関する調査研究、として2011年に防衛省が競争入札を実施した際、防衛省としてはAAV-7両用強襲車のような装甲車両を想定し、その研究調査を求めたのですが、既存の水陸両用車両を元とした案でユニバーサル造船が10万5000円で入札、装甲戦闘車に水陸両用性能を付与した案で三菱重工が380万円で入札、結果ユニバーサル造船が落札しました。
しかし、既存の水陸両用車両を原型とし、装甲防御力を付与すると共にRWS遠隔操作式銃塔等を搭載する装備が考えられていたらしい、と伝わるユニバーサル造船製防衛用水陸両用車両は、防衛省が求める装備とは異なり、結局同案をもとに実車両を開発したとしても使いようが無い、と判断され、結局防衛省はすでに実績のあるAAV-7をアメリカより取得することとなったかたちです。
防衛省も単純に競争入札の金額だけで決定したのではなく、技術要素を含んだ総合評価方式が採られていたのですが、ユニバーサル造船は水陸両用車両技術に高い蓄積と実績を持ち、三菱重工は戦闘車両に高い蓄積と実績を持っていた、この点で防衛省が求めた、水陸両用の戦闘車両、という要求に対して、双方とも片方の技術のみ、高い蓄積を持っていたため、総合評価方式では、それならば低い金額を提示したユニバーサル造船を、ということとなったのでしょう。
94式水際地雷敷設車を基本とし、装甲防御力を付与すると共にRWS遠隔操作式銃塔等を搭載する装備、真偽の程は何とも言えない情報ですが、流石にそうした車両で海岸線に展開することは考えられません。水陸両用作戦では海浜に防護用障害が配置され、それを乗り越えたうえで海岸堡を確保するための内陸部への連絡線までを確保しなければならず、防衛用水陸両用車両にとり、海岸線への海上からの展開は任務の端緒でしかないのですから。
防衛用水陸両用車両は、兵員輸送車として、もちろん既存の輸送車両と比較すればかなり大型ですが、単純に海岸と揚陸艦を往復するだけの交通手段ではありません、そうした程度の運用ならば、兵員は装甲化された揚陸艇や上陸用舟艇で運べばよく、必ずしも上陸する必要はありません、AAV-7の運用と同じように防衛用水陸両用車両は、運用想定として海岸線に我が方が揚陸を展開した際に妨害へ展開する敵機械化部隊を初動で撃破するべく、連絡線を維持する戦闘車両で、地上戦闘が出来なければ意味がない、ということ。
ユニバーサル造船製防衛用水陸両用車両案ですが、それでは用途が全くなかったのか、と問われるならば実のところAAV-7用途には使いにくいものがあるものの、LARC-V水陸両用5tトラック、のような汎用輸送車両としてならば用途はあったのではないか、と考える次第です。AAV-7は水陸両用の装甲車両として優秀ですが、基本的に兵員の輸送が基本です。車内の仕切りを全て取り払えばM-151ジープ等は搭載できるのですが、それは本来用途ではありません。すると、やはり水陸両用輸送車両というものが必要となる。
LARC-V水陸両用5tトラック、水陸両用の輸送車両です。かつて、米海兵隊は三種類のLARCを運用していました。全て四輪駆動で各種車両や装備品に補給品、場合によっては人員を搭載、揚陸艦や輸送船より一定距離を海上を航行し陸上に展開することが可能で、最大のものは戦車など重車両を搭載可能なLARC-LX水陸両用60tトラック、装甲車やトラックなどを輸送可能なLARC-XV水陸両用15tトラック、人員と軽貨物等を輸送可能な小型のLARC-V水陸両用5tトラック、以上が開発され、運用されてきました。
LCACエアクッション揚陸艇の開発により、このうちLARC-LX水陸両用60tトラックとLARC-XV水陸両用15tトラックは用途廃止となり、一部が保管状態で維持されているようですが第一線での運用は終了しました。他方で、LARC-V水陸両用5tトラックについては、汎用性が高く、そして揚陸艦に搭載した場合で嵩張らないという利点から延命改修が行われ、オーストラリアや海外の供与国も含め現在でも汎用輸送車両として運用中です。
ユニバーサル造船製防衛用水陸両用車両案は、94式水際地雷敷設車を基本としており、形状は若干異なるものの後部は水際地雷敷設装置を搭載する区画となっており、LARC-V水陸両用5tトラックと共通点があります。LARC-V水陸両用5tトラックは重量8.6t、全長10.67m、全幅3.05m、全高3.10m、水上速度15.3km/h、94式水際地雷敷設車は全長11.8m、全幅2.8m/4.0m、全高3.5m、速力11km/h、LARC-V水陸両用5tトラックを参考にしたのではないか、と言えるほど近い。
AAV-7は優れた水陸両用強襲車両ですが、それだけで戦闘は展開できません。普通科中隊の装備に限れば普通科隊員を輸送する装甲車という範疇で、普通科中隊の対戦車小隊や連隊の重迫撃砲中隊か西部方面普通科連隊であれば中隊本部の重迫撃砲班、中距離多目的誘導弾や重迫撃砲などの輸送支援が必要となります。LARC-V水陸両用5tトラックであれば、高機動車の重量が2.64tですので、搭載されている装備が過度に大きく無ければLARC-V水陸両用5tトラックにより輸送可能でしょう。
LCACを用いれば、と思われるでしょうが、おおすみ型輸送艦にはLCACは二隻しか搭載できません。また、昨年発生しました伊豆大島火山泥流災害派遣統合任務部隊編成時には、LCACの片方が故障し、揚陸に非常な長時間を要し、結局呉基地よりもう一隻の輸送艦を展開させ、LCACを交換しなければなりませんでした。LCACは戦車など最大級の装備を輸送可能ですので、LCACを補完する車両として、LARC-V水陸両用5tトラック規模の車両があってもいい、と考えます。更にLCACは生産が終了していますし、取得費用は一隻90億円と高い。
ユニバーサル造船製防衛用水陸両用車両案はLARC-V水陸両用5tトラックに比較的近く、それならば、既に生産が終了しているLARC-V水陸両用5tトラックではなく、ユニバーサル造船製防衛用水陸両用車両案を実現させ、AAV-7や三菱重工が研究中とされる三菱重工製防衛用水陸両用車両案を戦闘輸送の装甲車両と位置付け、ユニバーサル造船製防衛用水陸両用車両案を輸送車両として配備できないか、こう考える次第です。
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