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ユーロサトリ2024.PULSロケット砲兵システムはMLRS用GMLRS精密誘導ロケット弾に非対応!

2024-07-06 20:19:19 | 先端軍事テクノロジー
■MLRSとGMLRS
 ラインメタル社としてはGMLRSを引き続き運用するならばHIMARSか開発中のGMARSを調達するか手持ちのM-270MLRSをM-270A2に改修すべき、ということなのでしょう。

 PULS,オランダやデンマークが既に採用した背景にはMLRSを平和な2000年代に廃棄してしまい急な緊張増大を背景に後継装備が必要となり、MLRSと同じ弾薬を投射可能であるHIMARSの生産が追い付かず、しかし喫緊の課題として砲兵戦力を必要とした最中に、即納可、そしてGMLRS弾薬を使える、としてPULSが採用された背景がある。

 GMLRSをPULSは運用できないという話は本当か、この疑義に対してエルビットシステムズ社は明確な発言を避けています、少なくともMLRSでさえM-270のままでは射程の長い新型のPrSMミサイルは発射できず、M-270A2へアップデートしなければなりません。エルビットシステムズ社は、搭載できるようシステムを組めば載せられる、と。

 KNDS社はエルビットシステムズ社との間でPULSの欧州仕様であるEuro-PULSの共同生産協定を既に締結しています、そして無誘導のロケット弾であれば冷戦時代から西側は130mmロケットを、東側は122mmロケット弾を製造し、備蓄しています。PULSは、発射用コンテナを適合させれば122mmでも130mmでも撃てることは事実でしょう。

 しかしGMLRSとなれば別です。変なたとえですが昔、中古のPCショップにWindows7対応、と書かれてOS無のネットブックPCを格安で販売していたような。または、一眼レフを買う際にCANONレンズと互換性があります、と言われて即日入手できたカメラが、CANONマウントではマニュアルフォーカスのみ、と言われるようなものか。

 VLSを例に出すと判りやすいのでしょうか、日本は03式中距離地対空誘導弾システム発射装置を筆頭にこの種の垂直発射装置技術を有していますが、艦艇用VLSはアメリカ製Mk41を今でも輸入しています。これはスタンダードミサイルやESSMがMk41にしか対応していないため。韓国などは国産ミサイル用とMk41と二種類のVLSを積んでいる。

 240mmロケット弾が基本形であるGMLRSですが、ほかのロケット弾と差別化されるのが、GPS誘導により70㎞先へ誤差1m前後で正確に命中するという点、そしてGMLRSの強みは射程も精度も高いのですが、何より、アメリカ軍が陸軍と海兵隊が採用し、ウクライナに供与した余剰分だけでも最初の三ヶ月で6500発に達したほど備蓄がある。

 122mmロケット弾でも命中精度はそれほどではないが射程も初期の15kmというものは過去のもので現代では32km程度届くものがあります、生産も簡単で数を撃って面制圧を行うには十分です、が、自国での戦いを想定する場合に面制圧を行った場合、敵対勢力が進行している地域の住民を退避させ住宅財産はあきらめなければならない。

 GMLRSは、日本の場合はMLRSを1993年から運用し続けていますので、その特色は理解できるのですがMLRS、特にGMLRSを実際に運用し特性を体験として理解していない場合は、特にHIMARSとそのほかのトラックロケとシステム、ドイツが冷戦時代に多数を配備していたRM-70との違いが分り難いものなのかもしれませんが。

 ロケット弾というよりもGMLRSは精密誘導兵器であり、一種のミサイルとしての特性を有しています。もっとも、PULS採用とともにドイツ軍などはGMLRSには見切りをつけてイスラエルがPULS用に供給している巡航ミサイルへ精密誘導装備体系を転換するつもりであるならば、GMLRSが運用出来ずともそれ程問題にはならないのでしょうが。

 自前の備蓄だけで有事を戦い抜く、という事が理想ではあるのですが、陸軍兵力48万と海兵隊12万の兵力を抱え、膨大な軍需産業と共に世界規模の安全保障戦略を俯瞰し装備を十年単位で規格化し備蓄しているアメリカが制式化するということは、数万発単位の備蓄と毎年数千発の消費を想定した量産体制を維持していることと同義なのです。

 有事の際に、砲弾、ミサイル、銃弾、航空部品、エンジン、レーダー、は当然ですがあらゆるものが消耗します、これを一国単位で備蓄する事は可能であっても、平時にこの備蓄を永続的に交換し続ける事への国民や財務当局の理解は簡単ではなく、アメリカの備蓄と、アメリカの規格に影響されるという事はアメリカからの補給も期待できる。

 独自規格でも例えば欧州NATO各国が欧州全体で独自規格の長射程型誘導ロケット弾を15万発程度を備蓄する事が可能ならば、GMLRSが無くとも、ロシアウクライナ戦争規模の戦闘を自前で戦い抜くことは可能でしょう、しかし、一発数十万から百数十万ユーロの弾薬という事も現実、その覚悟があるのか、と言い換えることも出来るのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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