京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

  みち草わき道

2010年05月04日 | 日々の暮らしの中で
電車内で本を読んでいて、鼻の付け根がジーンとしだして慌ててしまった。

茨木のり子さんの案内で、尹東柱(ユンドンヂュ)という韓国の詩人について小文を読んでいた。日本への留学中、独立運動の嫌疑で逮捕され、福岡刑務所で、1945年、27歳で獄死させられたという人。

父方のいとこの宋夢奎(ソンモンギュ)とは終生親友にしてよきライバルだったが、そのことが結局尹東柱の逮捕につながってしまう。宋夢奎は中学時代から独立運動に身を投じ、要注意人物に挙げられていた。宋夢奎は京大の史学科に入るが尹東柱は不合格。立教大学に入学したが、後に同志社大学に変わっている。いとこと共に京都で暮らしたかったからだろう。美青年であったようだ。獄死の真相も謎を深める…。― などとある。

// 歩みをとめて/ そっと小さな手を握り/「おおきくなったらなんになる」/
「人になるの」/ 弟の哀しい、まことに哀しい答えだ。// 弟の顔は哀しい絵だ。

1938年に書かれた〈弟の印象画〉(伊吹郷訳)という詩の言葉に少し気持ちが入り過ぎてしまったか。

五十歳を過ぎてハングルを学び始めた茨木さん。文化に思いを寄せ、会話はもちろん詩や歴史書物まで読み、翻訳もされるようになった。時間や労力は若い時に比べれば数倍かかるかもしれないが、生涯に使い切るエネルギーが有限なら、若いときに全力投球しないほうがいいのかもしれない、と言われる。

本を読んでいてもめったに乗り越すことはない。このままもうちょっと読んでいようか、そんなおおらかさで時間を忘れてみたら…。戻ればいい。行きつ戻りつ、「みち草わき道」も私の一生のようだ。

コメント (4)
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