
この石は、今は亡き伯父が、嫁ぐ日を前にした私に庭から一つ選んで差し出してくれたものだ。腹が立ったらこれを撫でたらよいと言っていた。どんな時にもお姑さんは「おかあさん・おかあさん」と呼んでいるようにとも。
釣り好きの伯父がどこかの河原で拾ってきた。楕円で本当にきれいな形をしている。どれだけの年月をかけてこれほどの丸味がついたものか。手のひらにすっぽりと収まって、持ってみれば心地よい重さだ。量ってみたら365グラムあった。
30数年、まあ、ほとんど撫でたことはない。では、腹は寝ていたのかと言えばさに非ず、蹴っ飛ばしたらゴロンゴロンと…? 石の下に30数年、…ではどこかが違う、やはり「石の上にも」か。書棚の隅で存在を忘れられながらもいつも静かにまあるく座していたことになる。捨てることもなければ紛失するでもない物持ちのよさだが、時間の長さが石への愛着度を高めている。
ふとこんな思い出に浸るだけで、ただの石ころではなくなるようだ。