なんと映画は2011年制作だというのに、全編モノクロフィルムであり、サイレント映画なのである!カラーフィルムで俳優が発声する(トーキー映画)のが至極当然の時代に、敢えてモノクロ、しかもサイレントにしたところがかえって新鮮に映ったのかも?
映画「アーティスト」(2011年制作)は2012年のアカデミー賞最優秀作品賞を受賞した作品である。映画がモノクロ、サイレントを採用したのは映画のストーリーと大いに関係がある。
映画の主人公ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)はサイレント映画のスターとして君臨していた。そこへ現れたのがまだエキストラにすぎなかったペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)だった。その二人があるところで交錯し、互いに惹かれ合うものを感じながらもそのまま何事もなく別れた。
※ 絶頂期にあったころのジョージとそれに憧れたペピーの様子です。
ところが時代は二人の立場を大きく変えてしまうことになる。映画の世界ではサイレント映画からトーキー映画へと移行し始めていた。しかし、サイレント映画で大スターにのし上がったジョージはサイレントを捨てきれずに時代においてゆかれた。一方、ぺピーは時代の波に乗ってトーキー映画の世界でスターに駆け上っていく。
時代の変化に自分をどう処していくか?その時代において成功体験をした者にとって難しい問題である。ジョージはサイレント時代において自分こそがアーティストだという思いが彼を時代遅れにしてしまったようだ。私は寡聞にして知らないが、日本においても娯楽の主流が映画からテレビへと移行する時代があった。その時、あくまで映画にこだわったことで時代の潮流に乗り遅れてしまった映画俳優がいたように聞いているが、真相はどうだったのだろうか?
※ 落ちぶれた自分の境遇を嘆くジョージの図です。
ジョージは幸いにして、ペピーの助けもあり最後はハッピーエンドを迎えることができたのだが…。
この作品がアカデミー賞を受賞した理由の一つとして、カラー映画(トーキー映画)が当たり前の時代にあってモノクロ、サイレントという新鮮さというか斬新さが目を惹いたことが挙げられるだろう。さらには、映画界の内幕ものとして確かにそうしたことが過去の映画界にあったであろうことを示唆した部分も受賞を後押ししたのではと推測される。
映画「アーティスト」は単にモノクロ、サイレントにしただけではなく、映画のつくり、雰囲気も1920年代を彷彿させるものとなっている点も評価されたのだろう。
そして、主演のジャン・デュジャルダンはスターとして絶頂の時期、そして落ちぶれていく様を巧みに演じ、この年の主演男優賞を併せて受賞している作品である。
楽しめた映画だった。