地味な映画である。スリリングな展開も、あっと驚く結末が待っていたわけでもない。馬締光也(松田龍平)という一人の辞書編集者の仕事を淡々と描く映画であるがどこか惹かれるものがあった。さらに、「舟を編む」という題名にも惹かれた…。
※ 映画タイトルの後にナンバーリングを付けた。この数字は私が2007年に札幌に転居後に観た映画の通算の映画の数である。「映画は最高のエンターテイメント」と考える私にとって、これからも有料・無料にかかわらずできるだけ映画を観ていこうと思っている。
昨夜で、三夜連続でアメリカ(世界)、日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞の作品を観続けている。その際の私の鑑賞スタイルは次のとおりである。
妻はだいたい午後9時前後に就寝する。それからが私の観賞タイムである。私は部屋の灯を部屋の脇の方だけ点灯して、全体を薄暗くする。そしてテレビの前にヨギボーマックスとヨギボーサポートを置き、その上に身体を横たえる。なかなか心地良い観賞スタイルで気に入っている。それでも映画館での集中力には及ばないのだが…。
さて、本編の「舟を編む」(2013年制作)である。この作品は2014年の日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品である。原作は三浦しおんが2009年11月から2011年7月にかけて雑誌に連載されたものである。
映画は、「玄武書房」という出版社が新しく発行する辞書「大渡海」の編纂メンバーと一人として変人編集部員・馬締光也(まじめみつや)が迎えられ、古参の個性豊かな編纂者たちと辞書作りの世界に没頭していく姿を描いた作品である。主人公の馬締(松田龍平)はその名のとおり超真面目で、大学院で言語学を専攻し、言葉のこと以外に興味を示さない、いわば変人であるが、松田龍平のキャラクターがぴったりとはまるようなキャスティングである。映画では彼の妻となる林香具矢(はやしかぐや 宮崎あおい)が助演となっているが、私からみると確かに香具矢の存在も馬締にとっては大きなものであるが、馬締の先輩編纂者である西岡正志(オダギリジョー)の存在が馬締と対比するキャラクターとして映画にスパイスを与えていて、これも好キャスティングではないかと思えた。
※ なかなか良い味を出し、スパイス的役割を演じたオダギリジョー。
辞書「大渡海」は中型の国語辞典であるが、その編纂には実に15年以上の月日を編纂に没頭するという非常に地味で長い忍耐を必要とする作業である。
その間、馬締と香具矢の恋話が若干挿入されはするものの、大半はその編纂作業を淡々と追い続けるような映画だった。しかし退屈はしない。変人とも思える馬締の言動、それを揶揄するような軽薄な言動を繰り返す西岡とのやりとりが観ていて心地よかった。また、辞書編集部の契約社員の佐々木薫(伊佐山ひろ子)、馬締に後を継がせた編集部のベテラン荒木公平(小林薫)、「大渡海」の監修者である国語学者の松本朋佑(加藤剛)、馬締の下宿屋のおかみさんタケ(渡辺美佐子)といった面々が脇を固め、静かに流れるストーリーをきっちりと締めている。
※ 「玄武書房」辞書編集部の面々です。
スリリングな展開も、あっと驚く結末も待っていないが、それがかえってこの映画のクオリティを高めているとも思った。当時の日本映画界に一陣の涼風を送った一作ではないだろうか?秀作である。
なお、題名の「舟を編む」は「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編んでいく」という意味からこの題名が付けられたとウイキペディアでは紹介されていた。
※ 映画は主演、助演陣だけではなく、脇を固めた芸達者が多数出演しました。
今夜は2015年のアカデミー賞作品賞受賞作の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」を観る予定である。どのような内容か、まったく未知であるが今夜も映画の世界を旅しようと思う。