Society 5.0の社会が到来した今、これまでの延長線上で成長を考えるのではなく、これまでの思想、研究、技術などあらゆるものを融合し、それを再構成することの重要性が指摘されている。そのことの実験・実証・実装の場を、北大と日立製作所がタッグを組んで岩見沢市において取り組んでいることをうかがった。
昨日は西に、今日は東にと、札幌市内で開催される講演やフォーラムを追いかけて雑学を積み重ねている私である。何の系統性もなく、何の脈絡もなく…、ただ聞きおき、聞きかじるだけの行為を繰り返している。しかし、今の私はそれに満足している。外へ出て、聴いてみようという意欲があるだけ心身が健康である(?)ということだから…。
2月14日(金)午後、札幌市共済ホールにて北海道大学/日立北大ラボ/北海道大学COIが主催する「2020北海道大学 × 日立北大ラボ フォーラム Society 5.0 北海道の地方創生と未来」というフォーラムに参加した。
まず「Society 5.0」ということであるが、近年この言葉を耳にする機会が多くなった。この言葉は日本が提唱している未来社会をイメージするコンセプトである。時代は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)と人類は進歩を続けてきたが、さらなる新しい道として第5の新たな社会を、デジタル革新、イノベーションを最大限活用して実現するという意味で「Society 5.0」と名付けたということである。言葉を変えると、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、新たな未来社会の実現を提唱しているということだ。
フォーラムではテーマに関係する多くの方が講演され、パネルディスカッションで議論を展開された。その全てを再現する力は私にはない。フォーラムのラインナップを紹介しながら、私なりに感じたことを記すことにしたいと思う。フォーラムのラインナップは…、
◇基調講演 「岩見沢市における地方創生」
「『健康経営都市』を目指す産学官連携の取組み」
岩見沢市長 松野 哲 氏
◇講演① 「北海道の問題提起」
「地域をつなぐネットワーク」
NTT東日本 北海道事業部ビジネスイノベーション部長 澤出 剛治 氏
「エネルギーの地域共生にむけた取り組み」
北海道電力 執行役員 総合研究所長 皆川 和志 氏
◇講演② 「課題解決に向けた取組み」
「母子の健康、腸内の環境」
北海道大学 医学研究院 教授 玉腰 暁子 氏
北海道大学 先端生命科学研究院 教授 綾部 時芳 氏
「スマート農業」
北海道大学 農学研究院 教授 野口 伸 氏
「健康データの活用、分散型エネルギー構築に向けて」
日立製作所 日立北大ラボ ラボ長代行 竹本 亨史 氏
◇パネルディスカッション 「北海道の未来」
〈モデレーター〉
日立製作所 基礎研究センター シニアプロジェクトマネージャー 吉野 正則 氏
〈パネリスト〉
・北海道立総合研究機構 理事(北大名誉教授) 丸谷 知己 氏
・北海道大学 公共政策大学院 教授 中山 元太郎 氏
・NTTドコモ 北海道支社 法人営業部 部長 尾作 勝弥 氏
・森永乳業 研究本部 研究栄養科学研究所 所長 武田 安弘 氏
・日立製作所 基礎研究センター長 日立北大ラボ長 西村 信治 氏
とまあ、多彩なラインナップで、オールスター総出演といった趣だった。これらを聴く側としては大変な思いで、各氏の言葉に耳を傾けたが門外漢の私にはそれらについて吸収できるだけの素養を持ち合わせていない。そのため全体を拝聴した印象のみを記すことにしたい。
まず、この研究は北海道大学と日立製作所がコラボした「日立北大ラボ」が中心となって進めている研究・実証・実装プロジェクトであるらしいということだ。講演の中で多くの方が「実装」という言葉を多用していたのが私には耳新しかった。「実装」とは、何らかの機能や仕様を実現するための装備、またはその方法であり、コンピューターの分野では、ソフトウェアやハードウェアに、機能や装置をセットすることやその作業を意味することだそうである。平たく言えば、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させ、実社会で応用するということではなかろうか?
その「日立北大ラボ」は、岩見沢市を実証・実装の場として活用するということのようだ。具体的には、一つは健康分野に着目し、「母子の健康」を図ることによって人間の健康体を創り出す(健康を維持する)に着手したということだ。
さらには、野口教授が進める無人トラクターの実証・実装の場としても岩見沢市と提携して研究を進めているという。
そして、エネルギーの問題では、大規模停電(ブラックアウト)の危機を再び招かないために地域マイクログリットの構築の研究も進めているらしい。
ただ、北海道において「Society 5.0」の社会を目指そうとするとき、少子高齢化、人口減少、広域分散型社会、等々課題が山積しているためにその実現により困難が伴うという。つまり北海道は「課題先進地域」だという発言があった。それは北海道は日本が近い将来当面するであろう課題の数々を先取りしている地域だとする説である。しかし、そうした課題を克服するのが「Society 5.0」の社会であると発言する方もあった。
そうした課題を一つ一つ乗り越え解決できた時、北海道は「課題解決先進地域」にもなり得るという前向きの発言もあり、岩見沢地域における「日立北大ラボ」の実証・実装プロジェクトが大いに注目されるところである。
主催者(日立北大ラボ)によると、来年度も同様のフォーラムを開催する予定であると告知された。ぜひ来年度のフォーラムも参加させていただき、その進展具合を知りたいと思っている。