雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

鬼の住む倉 ・ 今昔物語 ( 27 - 7 )

2018-10-25 14:43:09 | 今昔物語拾い読み ・ その7
          鬼の住む倉 ・ 今昔物語 ( 27 - 7 )

今は昔、
右近中将在原業平(アリハラノナリヒラ・好色な人物として知られているが、父は平城天皇の第一皇子であり、母は桓武天皇の皇女という大変な血統の人物である。)という人がいた。世に評判の好色(イロゴノミ・本来は、色恋の道に長けた洗練された風流人、といった意味であるが、ここでは、いわゆる好色、あるいは多情者といった意味と考えられる。)で、「世間で美人だという噂を聞けば、宮仕えの人でも、人の娘でも見逃すことなく、一人残らず契りを結ぼう」と思っていたが、ある人の娘に、「姿形この世にまたとないほどすばらしい」と聞いたので、心を尽くして言い寄ったが、その親たちは、「高貴な方を婿に取るつもりだ」と言って、娘を極めて大切に育てていて相手にしないので、成平の中将は手も足も出せなかったが、どういう手段をとったのか、その女を密かに盗み出したのである。

ところが、とりあえず隠すべき所がなく、思い迷ったすえ、北山科の辺りに荒れ果てて人も住んでいない古い山荘があり、その屋敷内に大きな校倉(アゼクラ・角材などで造った高床の倉。)があったが、片戸は倒れていた。
人が住んでいた家には板敷の板もなく、入れそうもないので、この校倉のうちに畳(板間に敷くござ)一枚を持って行き、その女を連れて行って寝たところ、にわかに稲光がして雷鳴が激しく鳴り出したので、中将は太刀を抜いて、女を後ろに押しやり、立ち上がって太刀を光らせているうちに、雷もようやく鳴りやみ、夜も明けた。

ところが、女の声が全くしないので、中将は不思議に思い振り返って見ると、女は頭だけとなり、着ていた着物だけが残っていた。中将は堪えられないほど怖ろしくなり、自分の着物も取るや取らずで逃げ出したのである。
後になって、この倉は人取りする倉だと知った。つまり、あれは稲光や雷鳴ではなく、倉に住んでいる鬼の仕業であったのだろうか。

されば、事情も分からない所には努々(ユメユメ・決して。断じて。)立ち寄ってはならないのである。いわんや、泊まったりすることはとんでもないことだ、
となむ語り伝へたるとや。

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