雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

銅器の精霊 ・ 今昔物語 ( 27 - 6 )

2018-10-25 14:43:48 | 今昔物語拾い読み ・ その7
          銅器の精霊 ・ 今昔物語 ( 27 - 6 )

今は昔、
東三条殿に式部卿の宮(醍醐天皇の第四皇子重明親王を指す。)と申される方がお住まいになっていた時のこと、南の山に身の丈三尺(約90cm)ほどの五位(官位のこと。霊鬼などが化身する時は、五位{緋色}六位{浅葱色}の装束で現れることが多い。)の太った男が時々歩いているのを親王がご覧になって、怪しく思っておられたが、五位が歩くのがたび重なったので、権威ある陰陽師を召して、その祟(タタ)りについてお尋ねになると、陰陽師は、「これは物の怪でございます。但し、人に害を与える物ではありません」と占い申し上げた。

「その霊はどこにいるのか。また、何の精なのか」と親王がさらにお尋ねになると、陰陽師は、「これは銅器の精でございます。御殿の辰巳(東南)の角の土の中に居ります」と占い申し上げると、陰陽師の言葉に従って、その辰巳の方角の地を区切って、もう一度占わせて、占いで示された所の地を二、三尺掘ったが何も見つからない。
陰陽師が、「もっと掘るべきです。決してここ以外ではありません」と占い申したので、五、六寸ほど掘り進めると、五斗(約90ℓ)入りほどの銅(アカガネ)の提(ヒサゲ・酒や水を注ぐのに用いられる金属製の容器。)を掘り出した。
それから後、この五位が歩くことはなくなった。
されば、その銅の提が人の姿になって歩いていたのであろう。かわいそうな事である。

これを思うに、これによって、物の精はこのように人の姿になって現れるのであると皆が知った、
となむ語り伝へたるとや。

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