たとえば孫やひ孫の顔を見ると、自分の子供と間違えてしまうようなことはよくあることである。その時の自分は、自分の子供が小さい頃にタイムスリップしているのである。その孫やひ孫を抱き上げて、自分の子供の名前を連呼されると、横にいるいい歳になった本当の子供たちはガッカリするという話を外来で聞く。このように昔の記憶はしっかりしている。つまりこの警察の「名前が言えなければ身元照会する」というマニュアルは間違っている。かなり重症の認知症の方でも、一番古くからの記憶である「自分の名前」はかなりの確率で言えるのである。ここを身元照会のキーワードにしたのは、どう考えてもこのマニュアルは医学監修がなされていないと感じた。同じ職務質問でも疾患特異性を考慮しなければ何の役にも立たない。認知症とただのものわすれとは訳がちがうのである。