「生ユッケ食中毒事件」とかいたが「ユッケは生に決まっているだろう」といういらぬツッコミは勘弁願いたい。こういうのは「昔の武士のサムライが、真っ赤な緋もうせんに目がくらみ、どさりと馬から落馬して、顔を真っ赤に赤面した」というのと同じであろう。さて地方都市のよいところはやはり地価が安い、土地が豊富にある、クリニックをつくったら大きな駐車場が作れるという利点がある。まあ逆に地方都市では他にアクセス手段がないため駐車場がないと患者さんは来院できないということもあろう。しかし小さな地方都市の利点というか欠点でもあるが、街が小さいので何をしてもすぐに面が割れるということだ。「先生、昨日〇〇でお買い物していたでしょう?」なんていうのはすぐにばれる。別段悪いことをするわけではないがたまには隠密行動もしたいのでは? 揚げたてのコロッケを店頭で立ち食いするのはうまいものねー。私は都内のデパ地下に出没している。誰も私を知らない。ムフフフ・・。
それにしても最後に彼とあったのは2001-2002ごろだっただろうか? ちょうど自分が厚労省の研究班でメディカルコントロールの調査に米国にいった年であった。その半年後くらいに金沢の学会に呼ばれてMCについての講演をした時だったと思う。いろいろ市内を案内してくれて最後は空港まで送ってくれた。当時、10年後自分は開業しているなんて夢想だにしなかった。開業したら己の「臨床力」のみが頼りである。行政の調査研究もいいが、開業するなら同時平行でコツコツ毎日臨床もしていないと後悔する。ところで彼の町は例の「生ユッケ食中毒事件」で有名になった。彼は現在、開業しているとはいえ元critical care physicianである。きっと彼も本件に関与しているのでは?と推測していたがやっぱり診療の一翼を担っていたようだ。裏話も少し聞いたがここでは書けない。どうやらキーワードはサイトカイン・ストームのようである。
彼とあった翌々日、医師会で小児科診療の講演会がたまたまあった。そこで聴いた話であるが、先日彼から聞いた話とほとんど同じような内容であった。特に抗菌薬の使い方だとかは選択のタイミングなども同様であった。まさに生きた情報を仕入れた感じである。それにしてもおそるべし田舎の小児科医である。まあもっともネットが発達した現代では東京にいなくてもほとんど同様の情報が日本全国どこででも得ることができるので便利な世の中になったものである。昔は東京のほうが情報量は多く、しかも早く伝わるので医業をやるには東京がよいといわれていた。今は開業するなら地方都市のほうがいろいろと利点が多いだろう。さて、自分が開業したときは小児科を標榜しなかった。しかしそれでも小児の患者は予防接種だとか風邪だとかケガだとかで結構くるのである。知らないと自分が困るので毎日が勉強である。それにしても開業前にもっといろいろ勉強しておくんだった・・。
富山県より元同僚が上京するというので久しぶりに会って飲んだ。実は彼は小児科開業医なのだが、時々メールで小児症例の相談に乗ってもらっている。こちらとしてはいろいろ小児科診療のノウハウが聞けるのでとてもためになっている。その時教わったが「小児の長引く咳はpost nasal dropやallergic reactionも考慮すべき」などという感覚は自分にはまったくなかったものである。「長引く咳」で考えていたのは気道の「慢性炎症」しか頭になかったので抗菌薬で乗り切るかそれでだめならステロイド吸入の選択肢しかなかった。まさに「目からうろこ」状態であった。それにしても、やはりホンちゃんの小児科医は違うなぁ~と感心することしきり。それにしても地元では診療後に高級スポーツカーに乗って山道でブイブイ言わしているようだ。毎日数十人以上の子供が診療所に押し寄せてドタバタの状態と思われる。落ち着いて診療もできずストレスも多いので「夜の暴走族」も頷ける。でも自分のような都内のしがない開業医には貯金もなく高級スポーツカーは夢のまた夢・・。開業してからは青息吐息・・・。
当直の先生が「こんな軽症は送ってよこさずに自分で診たらいいだろう」という気持ちになるのは分からないでもない。昔、救命センター勤務時代の話である。土曜の午後になると決まって自分の病院の入院患者を救命センターに転送してくる病院院長がいた。いざ転送を受けてみると決して救命治療が必要ではなく、まあしいて言えば十分綿密な経過観察が必要であるような患者さんであったのである。みんなで「なんでこの程度の患者さん送ってくるんだろう?」という話になった。たいてい土曜の午後なのである。結論は「院長先生は毎週日曜日にゴルフで遠出するため、状態の落ち着かない患者さんを日曜に診れないためであろう」ということになった。万が一日曜日に自分の患者が急変しても、とりあえず救命センターに「預けておけば」安心して日曜に遠出ができるというわけである。とんだ安全弁である。この病院から土曜日に患者さんの転送依頼があると、「ああ、院長先生はまた明日ゴルフのようですね」と皆が皮肉をこめていうのである。そして救命センターのスタッフは「ああ、これで自分の明日のゴルフはキャンセルしなくてはならなくなりました」と不満げに言うのである。そりゃ確かに不満だろう。
さて治療の選択であるが正解はすべてアリであるといえば言えるかもしれません。十分水分を取ればこのまま帰宅させてもたぶん問題はないと思いますが、このまま返すとなると自分が心配で枕を高くして寝られません。自分の安心のために?目の前で患者さんの呼吸状態が少しでも改善傾向をしめすのを確認したいところです。したがって1.と4.は効果確認ができないので×となります。エピネフリン筋注はアレルギーでも気管支喘息でも適応にはなりますが、今は喘息発作の第一選択にあまりエピネフリンは用いません。しかも0.3mgの筋注は重篤アナフィラキシーショックの用量ですので、この軽症状態でこの患者さんに投与したら、心臓バクバク、血圧は上昇し、「気持ち悪い、頭いたい」といって嘔吐するでしょう。たぶん患者さんには嫌われてもう二度と通院されなくなります。とうことで3.のメプチン吸入をさせたらwheezingは消失しました。ああよかった。そして念のため抗アレルギー剤の内服も処方しましたが。あっ、他院へ転送入院という選択肢ですが、それもいいと思います。ただ全身状態からするとover triageかもしれません。転送先の病院で対応した先生が病院管理者であれば喜んで入院を受けてくれるでしょうが、当直がアルバイトの先生なら「この忙しいのに、こんな軽症、送ってくるな」と怒り出すこと必定です。ここのところまで見極めないと転送判断も難しいです。ああ開業医は辛い。
さてアナフィラキシーの場合におこる呼吸困難では上気道病変(喉頭浮腫)が有名である。しかし実際は末梢気道(気管支平滑筋)の攣縮も頻度は高い。この場合は気管支喘息の聴診所見とまったく同様の呼吸音を聴取するので、この症例ではアナフィラキシーによるものなのか風邪薬による小児喘息の再燃なのかの判断は難しい。さて治療はどうするか? 1.軽症なのでこのまま帰宅させる 2.エピネフリン0.3mgの大腿部筋注 3.気管支拡張薬の吸入 4.吸入不要で抗アレルギー薬の処方のみ。 えーと、あっ、ウチは無床診療所なので「入院」という選択肢はありません。そうですか、それでは 5.入院設備のある他院へ転送 という選択肢もいれておきましょう。自分が病院勤務の時はちょっとでも心配な症状があればすぐに入院させていた。そのほうが安全なのである。しかし今は無床診療所なので厳密に入院か帰宅かの判断を求められた場合、結構勤務医時代よりも開業医での判断はしんどいのである。
まず18歳という活きのいい年代なので肺炎や気管支炎のひどいのに罹れば発熱やひどい咳・痰がでるはず。しかし今回の患者さんにはそれがなかったので3.のcoarse crackleは考えにくい。また患者さんは吸気性呼吸困難があるので教科書的には喉頭などの上気道病変を疑う。ということは1.の吸気性stridorというのが国家試験でも正解になる。ところが実際stridorが聴取されるほどの喉頭病変があれば窒息の可能性のある重度の呼吸困難であるため、この患者さんのような「通常通りの会話」などできるわけがない。実際この症例での聴診結果は2.の呼気性のwheezing(呼気性の呼吸困難)であった。典型的な気管支狭窄音である。患者さんの「息を吸うのが苦しい」という言葉とはうらはらの結果であった。どうやら「呼吸困難」のことを「息を吸うのが苦しい」と表現してしまったようである。危うくその言葉にとらわれるところであった。やはり患者さんや家族の訴えは100%妄信しないほうがよい。信じられるのは自分が診察した患者の身体所見なのであると思いを新たにした。(だから私は患者さんからの「電話相談」というのは嫌いなのである)
さて来院して顔をみたが重篤感はない。一安心した。顔見るまでは不安であった。発熱もなく普通に歩行してきて「息を吸うのが苦しいんです」と会話も普通に可能であった。診察というものは患者がドアを開けて自分のところへ歩いてくるところから始まっているとは先人はよく言ったものだ。計測するまでもなかったが、とりあえず動脈血酸素飽和度は98%と正常である(「何だ俺よりいい値じゃないか」という言葉は飲み込んだ)。まあ高炭酸ガス血症の存在は不明であるが、低酸素状態ではないためまず呼吸停止、心停止の可能性はほとんどなくなった。ただし確かに頻呼吸ぎみで頻脈であった。また軽い冷汗はあるが体温は平熱で顔面紅潮や皮疹もなかった。また血圧も正常であった。次に胸部、頸部の聴診を行ったが考えられる所見は? 1.吸気時のstridor 2.呼気時のwheezing 3.肺野全体のcoarse crackle さてどれが考えられるか?