父の病院に行くと、座ったまま今日はほとんど寝ていた。
たまに目を開けるので「sakeだよ」と言い、「sakeか」と言うが、また寝る。
その繰り返しであった。
看護婦さんも「お嬢さんが見えましたよ、右に居ますよ。」と言うが、探すわけでもない。
やがて昼食が運ばれた。
今日はアジのムニエルと、野菜のつけあわせ、ハムとホーレンソウのあえもの、ご飯と味噌汁である。
他の人の食事を見ると、ある人はペースト風だったり、野菜もくずし煮だったり、とそれぞれ軟らかさが違うのである。
(前に尋ねてみたところ、飲み込み力に応じて変えているそうだ。)
食堂で何人の人が働いているか知らないが、こうして一人一人軟らかさまで気遣うなんて大変なことだと思う。
看護婦さんはどんぶりご飯の上にアジと野菜を少し乗せて、ハイと茶碗と箸を手渡し、父は箸でご飯をかけこんだ。
(箸でつまむことはできないのだが、どんぶりを口元に持って行ってかけこむことはできるのである。)
父のどんぶりの中身を見ながら、おかずがなくなると、またアジと野菜を同じように乗せる。
父はただ機械的にそれらを口にかけこむという作業をしている。
ほとんど、懸命に。
そしてほとんどカラになった所で、どんぶりを置きたいという仕草をするので、ハイと受け取り、スプーンで周りに残ったご飯を「まだあるよ」と口元に持っていくとパクと食べた。
こうすると、シアワセばあさんを思い出す。
あのバアさんは父に恋焦がれていて、こうして残ったご飯を「先生、ハイ口開けて」と言いながら食べさせていたのである。
「そうだよ~そうだよ~もったいないからね」とか何とか言いながら、小さな弟に与えるみたいに「これで最後の一口だよ」とか言いながら、アーンとあげていたのである。
私はあのバアさんが居ないだけで、やっぱり淋しいのだが、父はバアさんの事も忘れ、もっと前に亡くなった自分の妻(私の母)の事も忘れ、淡々と今日も寝たりたまに目を開けたりしながら、こうして命をつなぐべく、ご飯をむしゃむしゃ食べているのである。
ご飯を食べ終わった後、車椅子を押してテーブルから離れて、父と裕次郎の歌を聴こうと用意したけれど、やはり寝てしまった。
♪君の~横顔~すてきだぜ~・・・
起きていたらきっと一緒に歌っていたと思うんだけどなぁ。
そう言えば賽銭箱、まだ借りてなかったっけ。
婦長さんの話では、この所夜もだいたいよく眠れて、ご飯もよく食べていて落ち着いているそうである。
車椅子を押す間も、婦長さんは父に話しかけている。
こんなに明るく誰にでも年中話しかけるなんて、口が回らない私にはできる仕事じゃないなと思う。
たまに目を開けるので「sakeだよ」と言い、「sakeか」と言うが、また寝る。
その繰り返しであった。
看護婦さんも「お嬢さんが見えましたよ、右に居ますよ。」と言うが、探すわけでもない。
やがて昼食が運ばれた。
今日はアジのムニエルと、野菜のつけあわせ、ハムとホーレンソウのあえもの、ご飯と味噌汁である。
他の人の食事を見ると、ある人はペースト風だったり、野菜もくずし煮だったり、とそれぞれ軟らかさが違うのである。
(前に尋ねてみたところ、飲み込み力に応じて変えているそうだ。)
食堂で何人の人が働いているか知らないが、こうして一人一人軟らかさまで気遣うなんて大変なことだと思う。
看護婦さんはどんぶりご飯の上にアジと野菜を少し乗せて、ハイと茶碗と箸を手渡し、父は箸でご飯をかけこんだ。
(箸でつまむことはできないのだが、どんぶりを口元に持って行ってかけこむことはできるのである。)
父のどんぶりの中身を見ながら、おかずがなくなると、またアジと野菜を同じように乗せる。
父はただ機械的にそれらを口にかけこむという作業をしている。
ほとんど、懸命に。
そしてほとんどカラになった所で、どんぶりを置きたいという仕草をするので、ハイと受け取り、スプーンで周りに残ったご飯を「まだあるよ」と口元に持っていくとパクと食べた。
こうすると、シアワセばあさんを思い出す。
あのバアさんは父に恋焦がれていて、こうして残ったご飯を「先生、ハイ口開けて」と言いながら食べさせていたのである。
「そうだよ~そうだよ~もったいないからね」とか何とか言いながら、小さな弟に与えるみたいに「これで最後の一口だよ」とか言いながら、アーンとあげていたのである。
私はあのバアさんが居ないだけで、やっぱり淋しいのだが、父はバアさんの事も忘れ、もっと前に亡くなった自分の妻(私の母)の事も忘れ、淡々と今日も寝たりたまに目を開けたりしながら、こうして命をつなぐべく、ご飯をむしゃむしゃ食べているのである。
ご飯を食べ終わった後、車椅子を押してテーブルから離れて、父と裕次郎の歌を聴こうと用意したけれど、やはり寝てしまった。
♪君の~横顔~すてきだぜ~・・・
起きていたらきっと一緒に歌っていたと思うんだけどなぁ。
そう言えば賽銭箱、まだ借りてなかったっけ。
婦長さんの話では、この所夜もだいたいよく眠れて、ご飯もよく食べていて落ち着いているそうである。
車椅子を押す間も、婦長さんは父に話しかけている。
こんなに明るく誰にでも年中話しかけるなんて、口が回らない私にはできる仕事じゃないなと思う。