Sightsong

自縄自縛日記

アルフレート・クビーン『裏面 ある幻想的な物語』

2015-05-02 09:35:23 | ヨーロッパ

アルフレート・クビーン『裏面 ある幻想的な物語』(白水社、原著1909年)を読む。

クビーンは1877年・チェコ生まれの画家であり、その後、ドイツでカンディンスキーらの<青騎士>に参加したり、多くの挿絵を描いたりしている。ロベルト・ヴィーネ『カリガリ博士』(1920年)のセットにも参加の話があったが、本人が断ったとか、あるいは、制作側が「クビーン」を「キュビズム」と間違えたからたち消えたのだとかいう話がある。本書は唯一の小説。

ドイツに住む男は、インドとエジプトに旅に出ようと計画していた。その矢先に、かつての同級生の使者を名乗る者がやってきて、中央アジアに作られ外部には知られていない「夢の国」に招待する。その国は、古いものばかりが集められ、奇怪な人々が暮らす地であった。同級生は、魔物のような権力者として、国に陰のように貼り付いていた。数年後、国は獣や虫に侵略され、人工物はその形をとどめることができなくなり、人々は欲に溺れ、国が加速的に崩壊していく。

昔からクビーンは気になる画家だった。偏執狂的に、迫りくる死やなにものかへの不安を描き続けた人である。そのクビーンが、このような奇妙な小説まで手掛けていたとは知らなかった。ヨーロッパにおいて世紀末の記憶がまだ生々しかった時期であることを汲み取ることができる作品であり、また、アメリカという巨大な異物への警戒心のようなものも感じられる。

かれの作品は、ミルチャ・エリアーデローラン・トポールといった人々に影響を及ぼしている。さらには、この系譜はボルヘスら中南米文学や、スティーヴ・エリクソンらの現代アメリカ文学にも認められるものに違いない。作品としての完成度はクビーンの子たちによってむしろ高められるのだと思うが、しかし、そのオリジンに触れることができて嬉しい。

●参照
ローラン・トポール
ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで』(表紙にクビーンの絵が使われている)
ミルチャ・エリアーデ『ホーニヒベルガー博士の秘密』


ブランドン・シーブルック『Sylphid Vitalizers』

2015-05-02 08:58:25 | アヴァンギャルド・ジャズ

ブランドン・シーブルック『Sylphid Vitalizers』(New Atlantis、2013年)を、ひたすら繰り返し聴く。

Brandon Seabrook (tenor banjo, g)
Dr. Vitalizer (drum programming)

ドラムスの打ち込みはあるが、基本的にはシーブルックのソロである。この4月、ライヴの後に「昨日も観た、Needle Point」「?」「いや、Don Pedroで」「Needle Driverだって!」というわけで、グループ名を間違えるという非礼なことをしてしまったにもかかわらず、このCDをご本人からいただいた。

執拗に繰り返し聴くのにはわけがあって、シーブルックの執拗な繰り返しのソロに耳を傾けていると、脳がまたリフレインを求めてしまうのだ。ギターは不安を煽るのに向いている楽器だと思うが、それがいつの間にか哄笑に転じていたりする変態ぶり。

●参照
アンドリュー・ドルーリー+ラブロック+クラウス+シーブルック@Arts for Art
アンドリュー・ドルーリー『Content Provider』(シーブルック参加)
クリス・ピッツィオコス@Shapeshifter Lab、Don Pedro(対バンでシーブルックのNeedle Driver)
トマ・フジワラ『Variable Bets』(シーブルック参加)


デイナ・スティーブンス『That Nepenthetic Place』

2015-05-02 07:10:11 | アヴァンギャルド・ジャズ

デイナ・スティーブンス『That Nepenthetic Place』(Sunnyside、2010年)を聴く。

Dayna Stephens (ts, EWI)
Taylor Eigsti (p)
Joe Sanders (b)
Justin Brown (ds)
Ambrose Akinmusire (tp)
Jeleel Shaw (as)
Gretchen Parlato (vo)

スティーブンスのテナーは「江川の剛速球」、余裕すぎてあまりにもスムース。もう少し周辺世界との摩擦や軋轢を生じてくれたほうが好みではあるけれど、凄いものは凄い。ジャリール・ショウのアルトの影がまったく薄くなってしまっている。

実は本盤を入手したのは、アンブローズ・アキンムシーレのトランペットと、かれのリーダー作に参加しているジャスティン・ブラウンのドラムスを聴きたいからでもあった。アキンムシーレの理知的なソロはもちろん良いが、全曲で叩いているブラウンの異次元ぶり。重力をまったく感じさせず同時に無数の方向から音が飛んでくるという点で、『はじめの一歩』の板垣である。ぜひ一度はナマのプレイを観てみたい。

●参照
デイナ・スティーブンス『I'll Take My Chances』
デイナ・スティーブンス『Peace』
ジョン・エイベア@The Cornelia Street Cafe(デイナ・スティーブンス参加)
テオ・ヒル『Live at Smalls』(デイナ・スティーブンス参加)
トム・ハレル@Village Vanguard(アキンムシーレ参加)
アンブローズ・アキンムシーレ『The Imagined Savior is Far Easier to Paint』
アンブローズ・アキンムシーレ『Prelude』
ヴィジェイ・アイヤー『In What Language?』(アキンムシーレ参加)