Sightsong

自縄自縛日記

「失望」の『Vier Halbe』

2015-05-12 22:08:45 | アヴァンギャルド・ジャズ

グループ「失望」(Die Enttauschung)の最近の作品を見つけた。ドイツ語で『Vier Halbe』(Intakt Records、2012年)であり、英語でいえば「Four Halves」、つまり半分がよっつ。相変わらず謎めいているが、まあ確かに4人である。ただしみんな半人前ではない。

Rudi Mahall (bcl, bs)
Axel Dorner (tp)
Jan Roder (b)
Uli Jennessen (ds)

このグループのことを知ったのは、90年代後半のルディ・マハール来日時のこと。シュリッペンバッハ・トリオのエヴァン・パーカーの都合が悪くなって、マハールが代役に抜擢されたのだった。そのとき、マハールは「失望」によるセロニアス・モンク集(アナログ2枚組)を新宿ピットインに持ち込んでいた。シニカルでかつ愉快、わたしはすっかり魅せられてしまった。

どうやら結成は90年代前半のようだ。気が付くと、ベルリンにおいて20年くらい続く長寿グループになっている。

佇まいも奇怪だが、音も奇怪。マハールもドゥナーも、他のふたりも、アンサンブルだとか気持ちのいいユニゾンだとかいったものは最初から棄てさっている。それぞれが出したい音を出し、浮かれ果て、同時に自らの姿を冷ややかに視ているような感覚だ。もちろんハチャメチャに破綻しているわけではない。どの結節点でつながっているのか曖昧で、開かれているのである。それにしても、マハールのバスクラは相変わらず絶品だ。

なぜだろう、聴いているとブリューゲルの絵をイメージしてしまう。

●参照
『失望』の新作
リー・コニッツ+ルディ・マハール『俳句』
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(マハール、ドゥナー参加)
アクセル・ドゥナー + 今井和雄 + 井野信義 + 田中徳崇 『rostbestandige Zeit』


齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン

2015-05-12 08:00:10 | アヴァンギャルド・ジャズ

関内の横濱エアジンに足を運び、齋藤徹+喜多直毅+黒田京子のトリオ(2015/5/9)を観る。

齋藤徹 (b)
喜多直毅 (vln)
黒田京子 (p)

曲は、徹さんの「オペリータ うたをさがして」、アントニオ・カルロス・ジョビン、テオ・アンゲロプロス『永遠と一日』(エレニ・カラインドルーではなく徹さんの作曲だとのこと)からそれぞれ数曲ずつ。いずれもメロディアス、さらにジョビンにはジョビンの色、アンゲロプロスには東欧の哀しい色があった。

今回もっとも印象的だったことは、喜多さんのヴァイオリンの音色だ。以前の「ユーラシアンエコーズ」で聴いたときには、大人数だったこともあってか、さまざまな変わった音を出す個性なのかととらえていた。ここでも、演奏のはじまりにおいては、蜘蛛の糸を思わせる細く繋がった音の繋がり。しかし、やがて、単音でも和音でも、その都度、予想のリミッターを上回る美しい周波数の山々が繰り出される。

やはり音色に少なからぬこだわりを持っているであろう徹さんのベース。重い楽器は慣性も大きく、音楽全体の軌道を定めていく。そして、ヴァイオリンとベースという軽重の弦ふたりの間で、黒田さんのピアノは、槌のように、コキンコキンと、その軌道に摂動を与える。

ユーモアも調和も緊張もあって、素晴らしい演奏だった。

●参照
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
バール・フィリップス+Bass Ensemble GEN311『Live at Space Who』(2012年)
ミッシェル・ドネダ+レ・クアン・ニン+齋藤徹@ポレポレ坐(2011年)
齋藤徹による「bass ensemble "弦" gamma/ut」(2011年)
齋藤徹+今井和雄『ORBIT ZERO』(2009年)
齋藤徹、2009年5月、東中野(2009年)
ミッシェル・ドネダと齋藤徹、ペンタックス43mm(2007年)
往来トリオの2作品、『往来』と『雲は行く』(1999、2000年)
齋藤徹+ミシェル・ドネダ『交感』(1999年)
久高島で記録された嘉手苅林昌『沖縄の魂の行方』、池澤夏樹『眠る女』、齋藤徹『パナリ』(1996年)
ミシェル・ドネダ+アラン・ジュール+齋藤徹『M'UOAZ』(1995年)
ユーラシアン・エコーズ、金石出(1993、1994年)