稲垣清『中南海 知られざる中国の中枢』(岩波新書、2015年)を読む。
中南海とは、北京・紫禁城の西隣にある地域である。その中に中海と南海のふたつの池があるためにそう称する。わたしも何度も北京を歩いたが、天安門と西単の間にあるくらいの認識であり、意識したことはまるでない。しかし、実際のところ、その中はほとんど隠されていて一般人が知ることはできない。意識しないのではなく、視えないのだ。
かつては清国の皇帝が住む場所であり、そのため、毛沢東はここに居を構えるのをひどくいやがったという。それでも中国建国以来、中南海は、政府と共産党の中枢であり続けた。本当に、ごく一部の限られた者のみが入ることを許される空間なのである。
本書は、中南海の内外にあるさまざまなスポットを覗き見つつ(つまり、覗くことしかできないから)、中国現代史上のエピソードを追いかけていく。これがなかなか興味深く、つぎに北京に行く際には、可能な場所だけにでも近づきたくなってくる。
語りは現在の中南海にまで及ぶ。現在の中国共産党の権力ピラミッドは、次のように構成されている。総書記(もちろん習近平)、政治局常務委員(習、李克強を含む7名)、政治委員(25名)、中央委員(205名)、中央委員候補(171名)、党大会全国代表(2,270名)、党員(8,512万人)。ここに座する権力者は、1890年代生まれの第一世代(毛沢東、周恩来ら)、1900年代生まれの第二世代(小平ら)、1930-40年代生まれの第三世代(江沢民、李鵬、朱鎔基、胡錦涛、温家宝ら)、そして1950年代生まれの第四世代(習近平、李克強ら)。この後の1960年代生まれ、1970年代生まれのエリートたちも、このピラミッドの中でキャリアを積み重ねている。
面白いことに、次の執行部に入るであろう面々は、決して「太子党」(高級幹部のボンボン)などではなく、おそらく地方出身の優秀極まる学歴エリートのほうが多い。また、人民解放軍の軍人が中央委員の上位にのぼることはほとんどない。すなわち、おかしな偏見を排して見るならば、優秀で強靭なる組織ができあがるのは当然ともいうことができる。
●参照
L・ヤーコブソン+D・ノックス『中国の新しい対外政策』
国分良成編『中国は、いま』
ダイヤモンドと東洋経済の中国特集
白石隆、ハウ・カロライン『中国は東アジアをどう変えるか』
『世界』の特集「巨大な隣人・中国とともに生きる」
『情況』の、「現代中国論」特集
加々美光行『裸の共和国』
加々美光行『現代中国の黎明』 天安門事件前後の胡耀邦、趙紫陽、小平、劉暁波
加々美光行『中国の民族問題』
堀江則雄『ユーラシア胎動』
天児慧『中華人民共和国史 新版』
天児慧『中国・アジア・日本』
天児慧『巨龍の胎動』
汪暉『世界史のなかの中国』
汪暉『世界史のなかの中国』(2)
加藤千洋『胡同の記憶』
藤井省三『現代中国文化探検―四つの都市の物語―』