Sightsong

自縄自縛日記

スティーヴ・レイシー+エヴァン・パーカー『Chirps』

2015-09-21 21:29:04 | アヴァンギャルド・ジャズ

スティーヴ・レイシー+エヴァン・パーカー『Chirps』(FMP、1985年)。ソプラノサックスの即興デュオとあって、いつも聴くわけではないが、たまに棚を探す。

Steve Lacy (ss)
Evan Parker (ss)

ちょうど同じ2000年に、スティーヴ・レイシーはジャン・ジャック・アベヌル、ジョン・ベッチとのトリオで、一方、エヴァン・パーカーはエレクトロ・アコースティック・カルテットを率いて来日した。どちらが先だったか忘れたが、それぞれのライヴに駆けつけ、同じ盤にサインをいただいた。そんなわけで、これはわたしの宝物である。

ふたりの不世出のサックス奏者が、右トラック(レイシー)と左トラック(パーカー)。レイシーの細くうねうねとしたソロは、とくにベンドしたときなどに、レイシーならではの匂いを放散する。一方、パーカーは、レイシーとのデュオであることを強く意識してか、得意の循環呼吸奏法を炸裂させず、微分的で連続的な音ではなく、クラスターとしてよりまとまった音を並べる。

ふたつの耳でふたりの音を聴いていると、脳にさまざまな応力が加えられ、真四角が平行四辺形に、真ん丸が楕円になっていく。ときにふたりのソプラノがハモることがあって、瞬時にびよーんと真四角と真ん丸に戻ったりして。

●参照 スティーヴ・レイシー
レイシーは最後まで前衛だった(『New Jazz Meeting Baden-Baden 2002』)(2002年)
『富樫雅彦 スティーヴ・レイシー 高橋悠治』(2000年)
『Point of Departure』のスティーヴ・レイシー特集(『Sands』)(1998年)
チャールス・タイラー(『One Fell Swoop』)(1986年)
『Interpretations of Monk』(1981年)
富樫雅彦『セッション・イン・パリ VOL. 1 / 2』(1979年)
スティーヴ・レイシーのアヴィニヨン(1972-73年)
ザ・ジャズ・コンポーザーズ・オーケストラ(1968年)
スティーヴ・レイシー『School Days』(1960、63年)
セシル・テイラー初期作品群(1956-62年)
Ideal Bread『Beating the Teens / Songs of Steve Lacy』(2014年)
ハリー・コニック・ジュニア+ブランフォード・マルサリス『Occasion』(『Sands』にインスパイアされた演奏)(2005年)
副島輝人『世界フリージャズ記』
村上春樹 編・訳『セロニアス・モンクのいた風景』(レイシーのモンク論)
中平穂積『JAZZ GIANTS 1961-2002』

●参照 エヴァン・パーカー
エヴァン・パーカー+土取利行+ウィリアム・パーカー(超フリージャズコンサートツアー)@草月ホール(2015年)
ジョン・エスクリート『Sound, Space and Structures』(2013年)
『Rocket Science』(2012年)
ペーター・ブロッツマンの映像『Soldier of the Road』(2011年)
ブッチ・モリス『Possible Universe / Conduction 192』(2010年)
エヴァン・パーカー+オッキュン・リー+ピーター・エヴァンス『The Bleeding Edge』(2010年)
ハン・ベニンク『Hazentijd』(2009年)
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ『ライヴ・イン・ベルリン』(2008年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Gold is Where You Find It』(2008年)
エヴァン・パーカー+ネッド・ローゼンバーグ『Monkey Puzzle』(1997年)
エヴァン・パーカー+吉沢元治『Two Chaps』(1996年)
ペーター・コヴァルトのソロ、デュオ(1981-98年)
シュリッペンバッハ・トリオ『Detto Fra Di Noi / Live in Pisa 1981』(1981年)
シュリッペンバッハ・トリオ『First Recordings』(1972年)


ジョイス・キャロル・オーツ『エデン郡物語』

2015-09-21 20:24:22 | 北米

ジョイス・キャロル・オーツ『エデン郡物語』(文化書房博文社、原著1966-72年)を読む。

本書は、ジョイス・キャロル・オーツの初期短編集3冊から、「エデン郡」という架空の地を舞台にした短編小説8作品を集めたものである。

オーツは「北部のフォークナー」と称されることがあったという。確かに、黒人という存在が白人の心にもたらす裂け目や理不尽な運命といった面においてわからなくもない。しかし、フォークナーよりもオーツのほうが遥かに陰湿で、粘着質で、悪意に満ちている。しかも、もう70代後半になるというのに、いまだに、後味の悪い作品を次々に書き続けている。2013年の『Daddy Love』なんて、偏執狂の聖職者が子供をさらい、箱に閉じ込め、精神的に支配するという話である。何のために読んだのかわからない。

この初期の作品も、とても嫌な感覚にまみれている。悪意しか持たない世界が、弱い人間に対し、取り返しのつかない歪みを与える物語ばかりだ。登場人物が正気を保っているのかどうかわからないことも怖い。読者たる自分も、そして誰もが、その狂気と無縁でないと思えてしまうことはもっと怖い。

万年ノーベル文学賞候補のオーツだが、仮に受賞したら、どのように扱われるのか楽しみでならない。

●参照
ジョイス・キャロル・オーツ『Daddy Love』(2013年)
ジョイス・キャロル・オーツ『Evil Eye』(2013年)
林壮一『マイノリティーの拳』、ジョイス・キャロル・オーツ『オン・ボクシング』(1987年)
ジョイス・キャロル・オーツ『Solstice』(1985年)


マックス・ジョンソン『Something Familier』

2015-09-21 14:22:45 | アヴァンギャルド・ジャズ

マックス・ジョンソン『Something Familier』(Fresh Sound、2014年)を聴く。

Kirk Knuffke (cor)
Max Johnson (b)
Ziv Ravitz (ds)

マックス・ジョンソンは、クリス・ピッツィオコス『Gordian Twine』にも参加しているベーシストであり、クリスと同様にまだ20代半ばと若い。骨太で、アタックが強く、ドライヴ感がある。この堂々としたあり様は、まさに剛田武さんが言うようにハードボイルドだ(>> JazzTokyoのレビュー)。

ジヴ・ラヴィッツのスティックも容赦なく強く、ドラムスをバシバシと重い鞭で叩いている。

●参照
クリス・ピッツィオコス『Gordian Twine』


ジョン・イラバゴン『Behind the Sky』

2015-09-21 09:42:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

ジョン・イラバゴン『Behind the Sky』(Irabbgast Records、2014年)を聴く。

Tom Harrell (tp, flh)
Jon Irabagon (ts, ss)
Luis Perdomo (p)
Yasushi Nakamura (b)
Rudy Royston (ds)

聴きどころは、やはり、3曲でフィーチャーされているトム・ハレルとの共演か。身を潜めていてくぐもったような音で現れるハレルは素晴らしく、レジェンドとみなされるのも納得できようというものだ。微かな囁きから高みへとのぼっていくソロには耳を奪われる。

それはそれとして、ここでのサウンドは「コンテンポラリー系」。ルイス・ペルドモのピアノも目立っていて良いし、イラバゴン自身のサックスソロも快調。しかし、実はこちらがイラバゴンに勝手に求めるものは、諧謔も情熱もひっくるめて新しい世界を切りひらく姿なのだった。それとも、本人の指向性は実はこれなのかな。

●参照
ジョン・イラバゴン@スーパーデラックス(2015年)
バリー・アルトシュル『The 3Dom Factor』(2012年)(イラバゴン参加)
マイク・プライド『Birthing Days』(2012年)(イラバゴン参加)
MOPDtK『Blue』(2014年)(イラバゴン参加)
MOPDtK『The Coimbra Concert』(2010年)(イラバゴン参加)
MOPDtK『Forty Fort』(2008-09年)(イラバゴン参加)
トム・ハレル@Cotton Club(2015年)
トム・ハレル@Village Vanguard(2015年)
トム・ハレル『Trip』(2014年)
トム・ハレル『Colors of a Dream』(2013年)
デイヴィッド・バークマン『Live at Smalls』(2013年)(トム・ハレル参加)