ジョイス・キャロル・オーツ『Solstice』(Dutton、1985年)を読む。4つの章からなる、離婚した女同士の物語である。NYのStrand Booksで、7.5ドルで買った。
「The Scar」。ペンシルベニア州の郊外に越してきたモニカは、ひとまわり上の画家シェイラと仲良くなる。ふたりともアンドリュー・ワイエスの絵を実体化したような原野の一軒家に住んでいた。シェイラは相当な変わり者で、無礼としか思えない態度でモニカの過去に踏み込んでくる。そして閾値を超えると、モニカの過去の悲しみが迸り出るのだった。感情の封印を、モニカの顔に付いた傷跡(scar)によってほのめかしてゆく表現が見事。
「The Mirror-Ghoul」。離婚した夫が私立探偵を雇って自分を探りまわっているらしいと知り怯えるモニカ。そんな時に、シェイラはモニカを誘う。お互いにわかっていながら偽名を名乗り、バーで知らない男たちと積極的に遊ぶヘンな遊びに興じる遊びだった。もはや、モニカが精神的に依存する存在はシェイラだった。しかし、シェイラは姿をくらまし、モニカの懇願に気付きながらも去っていく(実はモロッコに旅立っていたことがわかる)。モニカは復讐を誓う。
「"Holiday"」。シェイラがいない喪失感。唐突に帰ってくるシェイラ。もうモニカの感情は元通りではない。
「The Labyrinth」。シェイラはやはり唐突に、着飾ってのホームパーティーを開く。モニカの精神は高揚と落胆との連続によって痛めつけられ、体調を崩し、げっそりとやせ細ってゆく。
最近の作品にもみられるように、オーツは心の痛いところ、触ってほしくないところを、容赦なく、しかも執拗に突き続ける。文章の塊は次第に短く細切れになってゆき、地獄への加速感がすさまじい。モニカが救急車で運ばれる間、シェイラはこともあろうに、次のようにモニカに囁くのだ。「"--- we'll be friends for a long, long time," she says, "---unless one of us dies."」 相互の管理下という無間地獄に陥ったふたりの女の物語である。
●参照
ジョイス・キャロル・オーツ『Daddy Love』(2013年)
ジョイス・キャロル・オーツ『Evil Eye』(2013年)
林壮一『マイノリティーの拳』、ジョイス・キャロル・オーツ『オン・ボクシング』(1987年)