Sightsong

自縄自縛日記

侯孝賢『黒衣の刺客』

2015-09-20 23:03:11 | 中国・台湾

新宿ピカデリーにて、侯孝賢『黒衣の刺客』(2015年)を観る。

待望の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の新作だが、一抹の不安もあった。なぜ今になって、陳凱歌や張芸謀のような中国の巨匠がそうしたように、侯孝賢までもが武侠物を撮るのだろうか、と。結果的にはその疑念は晴れないまでも、侯孝賢ならではの素晴らしい映画をつくってくれたことがわかった。

8世紀の唐代。道士に預けられ、殺人者として育てられた女(スー・チー)は、両親のもとに戻ってくる。その使命は、かつての許婚の男(チェン・チェン)を暗殺することだった。しかし、情が女にそれを許さない。

敢えて説明を極小化したシナリオであり、観る者は人間関係すら明確に把握できない。しかし、長廻しとほのめかしによって情の髄だけを抽出したような演出が、映画を実に洗練されたものにしている。そして、カメラがまた素晴らしい。ボケを多用するわりにあざとくなく、発色は、かつて富士フイルムが出していたリバーサル・フィルムのフォルティアを思い出すほど鮮やかだ。

過剰さを棄て去ったスー・チーの演技もみごとである。

●参照
侯孝賢『レッド・バルーン』(2007年)
侯孝賢『珈琲時光』(2003年)
侯孝賢『ミレニアム・マンボ』(2001年)(スー・チー主演)
侯孝賢『憂鬱な楽園』(1996年)
侯孝賢『戯夢人生』(1993年)
侯孝賢『非情城市』(1989年)
侯孝賢『冬冬の夏休み』(1984年)
侯孝賢『風櫃の少年』(1983年)
チャウ・シンチー+デレク・クォック『西遊降魔篇』(2013年)(スー・チー主演)
キャロル・ライ『情謎/The Second Woman』(2012年)(スー・チー主演)
アンドリュー・ラウ『Look for a Star』(2009年)(スー・チー主演)
ジョニー・トー製作『スー・チー in ミスター・パーフェクト』(2003年)(スー・チー主演)


松風鉱一カルテット+石田幹雄@新宿ピットイン

2015-09-20 17:42:34 | アヴァンギャルド・ジャズ

新宿ピットイン昼の部(2015/9/20)にて、松風鉱一カルテット+石田幹雄を観る。渋谷毅オーケストラなどで接してはいたが、こうして師匠自身のグループに来るのは2年ぶりである。


Fuji X-E2, Leica Summitar 50mmF2.0開放

松風鉱一(as, ts, fl)
加藤崇之(g)
水谷浩章(b)
外山明(ds)
石田幹雄(p)

いやそれにしても、聴くたびに過激化している。

外山さんをドラムスとして迎え入れた当日、「このグループは解散だ」と松風さんが思ったという逸話があるが、その超イレギュラーなリズムは、もはや外山さんだけではない。加藤さんはエフェクターもギター叩きも奇怪な手拍子(渋オケの川端民生?)も、もうやりたい放題。石田さんは異様に強靱なピアノでその異常なる時空間に切り込んでゆき、つぎつぎに新しい構造を創り出す。水谷さんのグルーヴがなければ空中崩壊しそうなものだが、みんなゲラゲラ笑ったり微笑んだりしながらプレイしている。

松風先生はというと、エアサックス的なプレイにも磨きがかかったりして、やはり過激に渋くなっている。

●参照 松風鉱一
5年ぶりの松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2013年)
松風鉱一カルテット@新宿ピットイン(2012年)
松風鉱一トリオ@Lindenbaum(2008年)
松風鉱一カルテット、ズミクロン50mm/f2(2007年)
松風鉱一『Good Nature』(1981年)
渋谷毅エッセンシャル・エリントン@新宿ピットイン(2015年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
森山威男『SMILE』、『Live at LOVELY』 
反対側の新宿ピットイン
くにおんジャズ、鳥飼否宇『密林』


『MOSQ』

2015-09-20 09:27:21 | アヴァンギャルド・ジャズ

『MOSQ』(Rectangle、2001年)を聴く。

Erikm (turntables, live sampling)
Charlie O (hammond organ)
Akosh Szeleveny (ts, ss, fl, kaual, bombarde)
Quentin Rollet (as)

いまだに何をどうしているのかよくわからない。フランスのRectangleレーベルはしばらく活動休止後、2011年からデジタル配信のみで復活していた。そして今回のCDリリース(他に、フィル・ミントン+ロル・コクスヒル+ノエル・アクショテ『My Chelsea』を入手した)。やはりマテリアルとして出してほしいと思うのだがどうだろう。

この音源も最近のものではなく、2001年の録音。それでも、カンタン・ロレという変態サックス奏者を聴けるだけでもよしとする。

ここでは、Erikmのターンテーブルやサンプル音源とチャーリー・Oのオルガンがドローンを創り出し、くたびれた、手垢と機械油とゴミにまみれた人工空間に連れていかれる。その環境において、アコシュ・セレヴェニとカンタン・ロレとが、さらに生存をアピールするかのようにぐちゃぐちゃのサックスソロを提示する。聴いていて喜んでいいのか絶望に身を任せるべきなのかわからなくなってしまい、脳味噌テリーヌ。

よくわからずアコシュ・セレヴェニについて検索していると、剛田武さんが紹介していた。
>> 21世紀ヨーロピアン・ジャズの潮流と謎のカオス系リードプレイヤー、AKOSH S.(アコシュ・セレヴェニ)

そしてまた、JOEさんも妙なアルバムを紹介している。なんだこのタイトルは。
>> Akosh S. - Omeko (Live)

●参照
カンタン・ロレ、レクタングル