「カラシニコフ自伝 世界一有名な銃を創った男」カラシニコフ/〔述〕 エレナ・ジョリー/聞き書き
最初に次のように書かれている。
世界でもっとも頻繁に口にされるロシア人の名前は、レーニンでもスターリンでもゴルバチョフでもない。
カラシニコフだ。
その言葉の背後にあるもの―それは、正確な数こそ誰にもわからないが、六千万とも八千万ともいわれるカラシニコフ自動小銃が世界中に出回っているという事実である。
ここには、ほとんど知られることのなかった、カラシニコフの生きざまが描かれている。
ミハイル・カラシニコフは、1919年革命直後の内線のさなか、農民の子として生まれた。彼の母親は実に18人もの子供を産んだが、生き延びることができたのは、わずか8人だった。やがて、ロシア農民階級に暗黒の年が訪れる。1930年、「富農撲滅運動」が始まったからだ。カラシニコフ一家も、このスターリンの圧政の標的となった。ソ連が歴史上経験したもっとも過酷な出来事の数々を、カラシニコフは教科書で学んだのでなく、実際に体験したのである。
ミハイルは、11歳のとき、両親と4人の兄弟とともにシベリアに送られた。(中略)追放されたシベリアの地から2回も脱走を企て、故郷の町まで、1千キロもの道のりを徒歩で戻った。(中略)
ある日、ミハイルは、錆びついて動かなくなったドイツ製の拳銃に出会う。その銃を元の状態に戻そうと何日もかけて修理しながら、彼は悟った。これが自分の天職だと。
もう出だしからして、波瀾万丈の人生。
ただ、普通に人生を終わらなかったのは、彼が『銃オタク』だったことだ!
さて、この本は、カラシニコフの自伝というだけでなく、ロシア史をも描いていて興味深い。
歴代権力者がすべて登場する。
ただ、不思議なことに、スターリンを非難していない。むしろ褒めている。(P174-177)
逆にフルシチョフを非難している。(P178)
でもこれって、フルシチョフは銃よりミサイル、核兵器を重視したから、と勘繰ってしまう。
銃オタクのカラシニコフには、許せなかったんじゃないか?
その後の、ブレジネフ、ゴルバチョフ、エリツィンに対しても批判的。特にエリツィンには、ぼろかす。(P184)
さて、カラシニコフ小銃は、世界へ出回り、ベトナム戦争では大いに貢献した。
1968年まで、「革命」「反植民地主義」「反帝国主義」の理想が、第三世界の人々や西洋の若者たちの心を熱くした。世界各地でデモが行われ、参加者たちがチェ・ゲバラやホーチミンの写真をふりかざしていた時代だ。写真のなかの英雄の手には必ずAKが握られていた。AKは解放闘争の象徴だったのだ。当時、アラファト議長はこう宣言している。「カラシニコフ銃はどこであっても、我々闘士の誇りだ!」
その後、インドシナ半島、エジプト、キューバ、パレスチナ、イラン・イラク戦争、レバノン、アンゴラ、エチオピア、カンボジア、アフガニスタンでも使われた。
本人は次のようなコメントをしている。(怒りと自負心が併存する複雑なコメント)
私がつくり、私の名前を冠した銃は、私の人生や意思とは無関係にひとり歩きしてしまった・・・・・。もちろん、カラシニコフ銃を手にしたビンラディンの姿をテレビで目にするたびに憤りを覚える。だが、私に何ができる?テロリストも正しい選択をしているのだ。1番信頼できる銃を選んだという点においては!
以上、簡単に紹介した。
すごく読みやすい文章なので、よかったら読んでみて。
【参考作品】
ロシアと現代史を描いたと言う点では、2008年4/20付で、「ベルカ、吠えないのか?」を紹介したことがある。
(このブログの前身となるHPに書いた・・・昔から読んでいる方、覚えてる?)
次のように書いた。(こちらも興味深いので、再録しておく)
1943年、アリューシャン列島から物語は始まる。
アッツ島の玉砕をうけた日本軍はキスカ島から全面撤退。
無人の島には4頭の犬が取り残される。
ここから怒濤の展開となる。(驚くぞ)
第二次大戦を経て、朝鮮戦争、
ケネディ暗殺・・・1963
ベトナム戦争・・・1965-1975(アメリカ、泥沼)
アフガン戦争・・・1979-1989(ソ連、泥沼)
スターリン粛正時代
フルシチョフ(反スターリン・・・スターリンの独裁を暴露)
ブレジネフ(1964-1982、反フルシチョフ)
アンドロポフ(1982-1984、反ブレジネフ)
チェルネンコ(1984-1985)(ブレジネフ派、かつての右腕)
ゴルバチョフ―1989年米ソ和解冷戦終結
ざっと書くだけでも、すごい展開だ。
「犬」をキーワードにしながら描いていく。
ほんと、びっくり仰天、驚異の作品だ
PS
関係ないけど、中野翠さんがロシアを「フサ」と「ツル」が交互に政権をとっている、と(昔どこかで)書かれたのを思い出した。
スターリン(フサフサ)
フルシチョフ(ツルツル)
ブレジネフ(フサフサ)
アンドロポフ(ツルツル)
チェルネンコ(フサフサ)
ゴルバチョフ(ツルツル)
エリツィン(フサフサ)
う~ん、「フサ」と「ツル」はイデオロギーと感情の対立を生むのだろうか?
【関連作品】
こちらも、関連作品。
いずれ読んでみたい、と思っている。
【ネット上の紹介】
旧共産圏の軍隊からテロリストまで、世界一有名な自動小銃「カラシニコフ」。その銃「AK-47」を開発したカラシニコフ本人の語りおろし自伝。スターリン時代、シベリアに強制移住させられた幼少期から、一兵卒から銃設計者として見いだされ、旧ソビエト最高会議代議員に上りつめるまでの波乱の人生を描く。