

「地のはてから」(上・下)乃南アサ(表紙の絵は、東山魁夷さんの『緑の窓』)
アイヌの言葉で、『地の果て』を『シリェトク』と言う。
シリェトク=知床、である。
本作品は、大正から昭和にかけて、知床を舞台に少女・とわの成長を描く。
成長小説であり、北海道開拓史であり、昭和史でもある。
第六回中央公論文芸賞受賞。
力作だし、とてもおもしろかった。
一部文章を紹介する。
P162(下巻)
結局もう二度と、みんなで身体を寄せ合って寒さから身を守り、互いの温もりだけを頼りに冬を越すなどはない。そういう時代には戻れない――そんな風に考えると、心細さに震えが上がってくるようだ。大人になるということは、こうして一つにまとまっていたはずの家族全員が離ればなれになっていうという、それだけのことなのだろうか。だとしたら本当につまらない。国に言われれば、言われるままに兵隊にいき、親がそう決めたとなれば、見知らぬ男のところへも嫁にいく――大人になんか、なるのではなかった。
PS1
なお、豆知識として、本作品ヒロイン・とわの孫が「ニサッタ、ニサッタ」の主人公・耕平。
【ネット上の紹介】
物心ついたとき、少女はここで暮らしていた。アイヌ語で、「地のはて」を意味するというこの土地で。おがちゃの背中と、あんにゃの手に、必死にしがみつくようにして。北海道知床で生きた女性の生涯を、丹念に描き、深い感動を呼び起こす。構想十年―書き下ろし長編小説。
PS2
読んでいて、船山馨さんの「お登勢」「石狩平野」を思い出した。
