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「蓮花の契り 出世花」高田郁

2015年06月15日 21時49分41秒 | 読書(小説/日本)


「蓮花の契り 出世花」高田郁

デビュー作「出世花」の続編にして完結編。
まさか、続編が出るとは思わなかった。
続きが気になっていたので、とても嬉しい。
内容も良かった。
「みをつくし」シリーズ以外で、もっとも面白くて質の高い作品、と思う。

前作では、次のように紹介した。
(わたし自身の文章を再録する)

身寄りのない天涯孤独の少女・お艶が寺に引き取られるところから始まる。
ここで名前を、お艶からお縁と変える。
さらに、お縁から三昧聖・正縁へ。
出世魚、って魚がいる・・・ツバス → ハマチ → メジロ → ブリ。
お艶も名前を変えながら成長していく。


その後、どうなったのだろう?
ここでは、成長したお縁の姿を見ることができる。
全部で4編収録されている。

ふたり静
青葉
夢の浮橋
蓮花の契り

特に、良かったのは『ふたり静』。

22歳になったお縁は、数珠の修理のため、仏具屋に教えられた数珠師を尋ねる。
P28
「差し支えなければ、どの寺か教えて頂けませぬか」
「下落合の青泉寺です」
青泉寺、と復唱して、与一郎ははっと顔を上げてお縁を見た。
「下落合の青泉寺といえば・・・・・・もしや、あなたは三昧聖か」
 問われて、お縁は黙したまま頷いた。
 そうでしたか、と数珠師は唸った。
「三昧聖の湯灌を受けた者は必ずや極楽浄土へ行く、と巷では大層な評判ですよ。そうですか、あなたがその三昧聖でしたか」

お縁は、その数珠師の妻が、知り合いの『遊女・てまり』そっくりなのに驚く。
妻・香弥はてまりなのか?
記憶を失っているのか?
これだけでも読んで欲しい。
絶品、である。

『青葉』では、ミステリタッチとなる。
同心の新藤松乃輔に請われて、死因を究明する手伝いをする。
お縁は検死の手引き書「無冤録述」を読んでいる。
仕事柄、死体を扱うから・・・とは言え、「無冤録述」を読む三昧聖は稀有、と言える。
しかも、その観察眼は鋭い。
同心が協力を請うのも諾なるかな。

『夢の浮橋』はエンディングへの前振り。
ある事件が切っ掛けとなり、青泉寺が閉鎖される。
『蓮花の契り』で、お縁は大きな選択を迫られる。
これは迷う。

・・・納得のエンディング、と思うが、
何割かの読者は、不服を感じるかもしれない。
しかし、お縁のこれまでの生き方を考えると、これしかない・・・かな。

【蛇足】
『ふたり静』を読んでいて、ウィリアム・アイリッシュの「死者との結婚」を思いだした。
もちろん、シチュエーションは全然異なるけど、なんとなく思いだした。
都会で全てを失った女性・ヘレン。
失意の心を抱き、都会を去ろうと列車に乗る。
たまたま前の座席に乗り合わせたのが幸せそうな新婚夫婦。
なんの接点もないはずの両者。
それが列車事故により、運命が激変していく。
別人として生きることになる女性を描く。
こうして、『ふたり静』を読んでいて、ウィリアム・アイリッシュを連想した。

【参考リンク】
「出世花」高田郁