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「お家さん」玉岡かおる

2017年05月02日 19時31分41秒 | 読書(小説/日本)


「お家さん」玉岡かおる

上下2巻、読みごたえがあった。
明治女性の一代記。
かつて、鈴木商店は日本一の年商を上げた巨大商社だった。
そのトップが「お家さん」と呼ばれた鈴木よね。
鈴木商店の興亡とともに、よねと周辺の人々が描かれる。
台湾の実情、神戸の米騒動、関東大震災など、当時の世相を交えた近代史としても興味深い。
読んでおいて損はない作品だ。
途中で、血の繋がりはないが、よねの娘のような存在となる珠喜が登場する。
作品を引っ張る重要な人物で作品の魅力のひとつ。
著者は、歴史と資料を丹念に調べて書かれているが、
本作品の面白いところは、事実を膨らませて、色づけした箇所だ。
登場人物の感情表現は秀逸。
遠いはずの「明治」の人々が生き生きと描写される。

上巻P177
「今日よりは、こない呼ばしてもろてよろしおますか?」
訊きかえす間もなかった、彼はそのまま膝で三歩下がって、頭を下げた。
「おかみさん、ではのうて、“お家さん”と」
 それは古く、大阪商人の家に根づいた呼称であった。間口の小さいミセや振興の商売人など、小商いの女房ふぜいに用いることはできないが、土台も来歴も世間にそれと認められ、働く者たちのよりどころたる「家」を構えて、どこに逃げ隠れもできない商家の女主人にのみ許される呼び名である。

下巻P281
「欧米の言う近代文明いうんは、しょせん、こんなもんかもしれまへんな」
 実際、欧米人の近代文明いうんは、何億年もの間地底で眠り続けた化石たちを掘り出し、それを燃やして蒸気を起こし、そしてとほうもない熱と煙を放出させて大きなものを動かすというのんだす。それは日本の、大地や空気や空といった、神々の領域には影響せえへんやりかたとは、そもそも出発点を異にしとりますわな。

【おまけ…鈴木商店の流れをくむ会社】
鈴木商店は滅びたが、その関連企業、後継者たちは生き延びて日本経済を支え続けた。
帝人、神戸製鋼所、サッポロビール、昭和シェル、ダイセル…。
日商は岩井産業と合併、更にニチメンと合併、双日となる。

【参考リンク】
「鈴木商店記念館」

【ネット上の紹介】
大正から昭和の初め、鈴木商店は日本一の年商を上げ、ヨーロッパで一番名の知れた巨大商社だった。扱う品は砂糖や樟脳、繊維から鉄鋼、船舶にいたるまで、何もかも。その巨船の頂点に座したのは、ひとりの女子だった。妻でない、店員たちの将でもない。働く者たちの拠り所たる「家」を構えた商家の女主人のみに許される「お家さん」と呼ばれた鈴木よね。彼女がたびたび口にした「商売人がやらねばならない、ほんまの意味の文明開化」とは、まぼろしの商社・鈴木商店のトップとして生きた女が、その手で守ったものは…。激動の時代を描く感動の大河小説。