1973年に起きた殺人事件。
被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂。
(亮司がやたら暗い少年、雪穂がとてつもない美少女、って設定)
この2人を中心に、約20年の歳月をかけた時代背景、精緻な物語が展開する。
P16
「女というのは恐ろしいな。現場が家から目と鼻の先やっちゅうのに、一応化粧してきよったもんなあ。そのくせ亭主の死体を見た時の泣きっぷりは、かなりのもんやった」
P358
「あんた、馬鹿だねえ。家に金があるから、ああいう紳士が出来上がるんだよ。顔立ちにだって、気品ってもんが出てくる。あの人だって、貧乏人に生まれてたら、もっと下品で卑しくなってたに決まってるよ」
P436
「俺の人生は、白夜の中を歩いているようなものやからな」
「白夜?」
「いや、何でもない」
P767
だが雪穂と一緒にいると、美佳は次第に自分の身体が強張ってくるのを感じる。決して隙を見せてはならないと、心の中の何かが警告を発し続けるのだ。あの女のオーラには、これまで美佳たちが生きていた世界には存在しない、異質な光が含まれているような気がする。そしてその異質な光は決して美佳たちに幸福をもたらさないように思えるのだった。
【感想】
15年くらい前に買って、そのまま積んでおいた。
なぜか、急に読みたくなった。(コロナのせい?)
どちらかというと、私の趣味じゃない(と思っていた、だから積んでおいた)。
中心となる人物2人の心理描写がない・・・状況と行動ばかりが語られる。
読み手は推察するしかない。
物語もやたら暗い。(状況そのものが「白夜」)
それにもかかわらず、圧倒される。一気読みだ。
今は、「読むべし」と思う。
【おまけ】1
読む前は、「風紋」や「晩鐘」のような作品を想定していた。
しかし違った。
読んでいて、なんとなく「模倣犯」「黒い家」を思い出した。
【おまけ】2
大阪が重要舞台となるので、大阪弁も含めて親しめる。
大阪の地図を見ながら読んだ。
布施の手前が今里。(さらに西が鶴橋)
「じゃりン子チエ」の新世界、西成区に匹敵するディープな(大阪らしい)地域、と思う。地理として「血と骨」と重なる部分がある。
【参考リンク】
「風紋」乃南アサ
「晩鐘」乃南アサ
「血と骨」梁石日
【ネット上の紹介】
1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして十九年…。息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長篇。