「韓国社会の現在」春木育美
韓国社会での問題点は、日本と共通するものが多い。
人口減少、高齢化、貧困・格差社会、少子化問題。
このところ、韓国ドラマをよく観ているので、「どうなってるの?」と、その社会背景が気になって読んでみた。
P7
20代の未婚率は91.3%に上る。同じく晩婚化が進む日本で20代の未婚率が79.7%であることと比べても、韓国の晩婚化は際立っている。(2018年データ)
大手新聞の社説
P16
「もはや誰も子どもを産まなくなる。遠からず大韓民国は消滅する」
2017年文在寅大統領就任直後の演説
P16
「この10年で少子化対策に130兆ウォンも費やしたのに、まったく効果がなく解決する兆しもない。このままでは早晩、国家的な危機を迎える」
P20
韓国では結婚をすること自体の費用負担が、日本と比較してもかなり重い。結婚はいまだに家同士の格やつながり、対面が重視される傾向が強く、籍だけ入れて済むものではない。
(中略)
最大の問題は、結婚後に住む家の確保である。韓国独自の住宅賃貸制度として、賃貸でも高額な保証金を貸し手に払うことが必要となる。準備できる金額により居住できる物件が高層マンションになるか、「半地下」の家になるか決まる。
正社員でなければ銀行の融資額も限られる。親に資産がなければ、安定した収入や貯蓄ができるまで、結婚は先延ばしにされがちである。家が借りられなければ結婚生活が始められないからだ。(「黄金の私の人生」でジテとスアがなかなか結婚に踏み切れない。「自分の子に貧しい暮らしをさせるくらいなら結婚しない」、と言い切っている。やっと結婚に踏み切るが、その際に「婚前契約書」を作成して「子どもを持たない」と第1条に記載している)
P24
1997年末のアジア通貨危機を契機として専業主婦志向は一変した。それまで家計の大黒柱として家族を養ってきた父親世代が、大量にリストラや失業の憂き目にあった。1997年11月から1998年7月にかけて雇用者数は1割減少し、失業率は2%から一気に7.9%に跳ね上がった。離婚は急増し、家族解体や家庭崩壊が相次いだ。
(中略)
家父長的韓国の家族形態はここで大きな打撃を受けた。
(中略)
この頃から、「お前の人生の目標は結婚だ」と叫ぶ父親がいた家庭でも、まずは就職して安定した職と収入を得ることが優先事項となる。
(中略)
かくして娘たちは受験戦争での勝利を目指すようになり、大学進学率は男子を追い抜いた。(「いとしのソヨン」「黄金の私の人生」でも、父親の事業が破綻し、その子どもたちは苦学する、って設定だ・・・これでドラマの背景に納得、また、「SKYキャッスル」では、受験戦争と母親の情報戦が描かれている・・・SKYとはソウル大学校、高麗大学校、延世大学校の頭文字)
『結婚移民者の韓国語テキスト』
P44
韓国語テキストの内容や教育プログラムの内容には、家父長的な家族規範を押しつけるような内容が散見される。また、多くの韓国女性が忌避したがる祭祀(チェサ)の行い方や料理の作り方、舅や姑の還暦や喜寿の祝膳の整え方といった講習に力を入れている。(この辺りも韓国女性の結婚ハードルの一つ、と思われる)
P57
親の面倒をみない親が子どもを訴える「親不孝訴訟」も珍しくない。実際に最高裁は、親孝行契約書に違反した息子に、親から譲り受けた財産を返納するよう命じる判決を2015年に下している。
P95
現在17歳になると役所に赴き、指10本すべての指紋登録を行い、住民登録証の交付を受ける。(このカードは日本の免許証のように写真入りだ。「童顔美女」でヒロインが就職する際、「身分証」の提示を求められるシーンがある・・・映像を一時停止してよく見ると、この「住民登録証」を提示しているのが分かる)
P128
韓国の大学には、日本にみられない特色がある。演劇映画学科の存在である。
(中略)
韓国の俳優の演技力や演劇のレベルの高さは、大学で演技の専門教育を受けた人材の層の厚さ背景にある。(役者もスタッフも高学歴な方が多い、と)
P139
進歩派のエリートたちは、社会正義を叫びながら、その一方で自らの文化資本をフル活用し、わが子が上位中間層から滑り落ちることがないよう血眼になってきた。(「後継者たち」では、舞台となる高校の中にも歴然と階級差が持ち込まれている)
P140
韓国人男性と結婚した日本女性のなかには、わが子を韓国の過酷な教育環境で育てたくないと、中学や高校の段階で日本に子どもを連れて帰国する人もいる。
P182
儒教の影響から技術職を下に見る価値観も根強い。
教育・しつけと体罰(教育問題について・・・P227-235を読んでみて)
P228
ドラマ最終回では、ヒロインのチャングムが愛娘を叱りつけながら棒で打つシーンがでてくる。(このドラマ視聴率は63.5%)
【ネット上の紹介】
若者の就業率、私教育費、男女の賃金格差など先進国の中で、”最悪”の数値を示す韓国。「圧縮した近代」の結果、特に1を切った出生率、60%が無年金者という高齢者の貧困率・自殺率は世界で最も深刻である。他方で問題解決のため大胆な政策が即座に行われ、デジタル化などは最先端を行く。本書は、少子高齢化、貧困・孤立化、デジタル化、教育、ジェンダーをテーマに、深刻化した現状と打開への試行錯誤を描く。韓国の苦悩は日本の近未来でもある。
第1章 世界で突出する少子化―0.92ショックはなぜ
第2章 貧困化、孤立化、ひとりの時代の到来
第3章 デジタル先進国の明暗―最先端の試行錯誤
第4章 国民総高学歴社会の憂鬱―「ヘル朝鮮」の実情
第5章 韓国女性のいま―男尊女卑は変わるか
終章 絶望的な格差と社会―若者の活路は