tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

橋本屋(宇陀市 室生寺門前)

2011年12月05日 | グルメガイド
室生寺門前の橋本屋(宇陀市室生800)は、明治4年創業の老舗である。昨日(12/4)、市内にある親戚の法事のあと、会食にお邪魔した。講談社刊『五木寛之の百寺巡礼ガイド版』(第1巻 奈良)の「橋本屋旅館 山菜と女将さんが名物の門前宿」によると《明治4年(1871)年、伊勢街道の旅籠(はたご)として営業をはじめ、現在の主人で五代目になる。創業当時は茅葺(かやぶ)き屋根に縁側という造りで、参拝者のオアシスとしてにぎわっていた。戦後に改築されて料理旅館として生まれ変わったが、家庭的な雰囲気を今も残している》とある。
※トップ写真は、土門拳がよく利用した部屋(本館2階)。室生寺の山門が見渡せる





「三ッ星グルメ」(奈良県ビジターズビューロー発行)には《室生寺の向かい、四季折々の山菜や名産の大和芋を主役に据えた精進料理が評判の宿。ここでは、広間で気軽に食事を楽しむことができる。人気は、生姜醤油でいただく、餅のような粘りが印象的なとろろ芋の天ぷら500円。山菜の小鉢など7品がついた2,100円~のコースも用意されており、4、200円以上(要予約)のコースなら部屋での食事もできる》。




たっぷり野菜の小鍋


大和芋のとろろにウズラの卵。粘っこくてとても美味しい

山の幸をふんだんに取り入れた食事が、とても美味しい。とりわけ、とろろ芋を使った料理の美味しさが印象に残った。コース料理のほか、お向かいの「御食事処 橋本屋」では手軽なランチもできる。人気ブログ「奈良に住んでみました」によると《リーズナブルな食事がいただきたい場合は、真向かいにある『御食事処 橋本屋』さんへどうぞ。店内はどこにでもある食堂風ですが、場所がいいだけにいつも繁盛しています。また、観光地の食事とは思えないほどお料理も美味しいですよ》。


アマゴの甘露煮。頭も骨も柔らかい


しめじやキュウリの酢の物



《メニューの一部を挙げておくと、「山菜うどん・そば(@700円)」「天ぷらうどん・そば(@580円)」などの麺類や、とろろ汁が付いた「親子丼」「しめじ丼」が@950円でいただけます》《相方が注文した「山かけそば(@700円)」。お蕎麦も美味しいのですが、山芋の粘りがすごい!さすが、山菜料理と同時に、山芋料理のメニューも有名な橋本屋さんですね》。


こんにゃくの刺身


絶品!とろろの天ぷら

《やや甘めに煮つけてある煮物も美味しかったです。私は「しめじ丼(@950円)」をいただきました。しめじ丼なんてメニューがあること自体、山寺の門前らしいですね。存在感のあるしめじも美味しいのですが、ここについてくる「とろろ汁」が絶品!とっても優しい味わいです》。




アツアツのとろろ汁で締めた



橋本屋旅館は、写真家の故土門拳の定宿としても知られる。『五木寛之の百寺巡礼ガイド版』によると《室生寺の撮影をライフワークにした写真家、故・土門拳(どもん・けん)も、戦前からたびたびこの旅館を訪れていた。特に雪景色の撮影には執念を燃やし、晩年は車椅子生活にもかかわらず、冬になるとこここで雪を待ちつづけた。昭和53(1978)年3月12日のことだ。総長、女将の奥本初代さんが寝間着のまま階段を駆け上がり、土門を叩き起こした》。

土門拳 古寺巡礼
土門拳
小学館




土門拳が泊まった部屋(トップ写真とも)

《「先生! 雪です!」 弟子にカーテンを開けさせた土門は、雪景色を見て涙で顔をぐしゃぐしゃにし、初代さんの両手を握ったという。土門の執念が実った瞬間だった。「先生は体が不自由で、支度に1時間ほどかかったんです。その間に雪が溶けはじめて、もうどれだけ焦ったことか」と初代さん。館内には土門のほか、ここに逗留したさまざまな文人墨客(ぶんじんぼっかく)の書画が飾られている。多くの人々に愛された室生寺と同じく、この宿も参拝者たちに愛されてきたのだ》。これは感動的なエピソードである。なお私のFacebook友達のTさんによると、土門に「室生に行くなら橋本屋に寄れ」と薦めたのは、美学者の故寺尾勇氏(元奈良教育大学名誉教授)だそうだ。





産経新聞(10.2.28付)「雪の室生寺と土門拳 執念で撮った雪景色」にも、土門のことが出ている。《奈良時代末期創建という室生寺は山紫水明の地、室生山麓(さんろく)に建つ。女人禁制の高野山に対し、女性の参詣を許したことから女人高野と呼ばれた。表門に向かう朱い太鼓橋、桜やシャクナゲに彩られた四季折々の境内、そして丹塗(にぬ)りの小さな(約16メートル)五重塔と、あでやかで女性的な雰囲気はいかにもその名がしっくりとする》。





《土門は戦後間もなく焼け野原の東京からこの地に降り立ち、「国破れて山河在り」と記した(「古寺巡礼」より)。緑の中で千年以上の時を刻む堂塔は、日本人としての矜持(きょうじ)を呼び覚ますに十分だったろう。雪待ちをしたという門前の橋本屋旅館を訪ねた。廊下にはずらりと土門の作品や揮毫(きごう)が並び、部屋も当時のままだそうだ。「室生寺を有名にしてくれはった恩人です」と社長の奥本裕さんは懐かしむ》。





私たちは会食のあと、室生寺にお参りした。12月とはいえ麗(うら)らかな行楽日和とあって、散りゆく紅葉を楽しむ参拝者で境内は賑わっていた。これから冬場は冷え込むが、静まりかえった境内で、国宝仏や五重塔を心ゆくまで拝観するのも良い。冷えた体には、熱あつのとろろ汁が身にしみ込むことだろう。

橋本屋はコース料理も手軽な食事も、とてもおいしく味わえるお店である。ぜひお訪ねいただきたい。
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