tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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観光地奈良の勝ち残り戦略(53)地旅スワップ、地旅デリバティブ

2011年12月06日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
昨日(12/5)、奈良で最古の老舗・魚佐(うおさ)旅館の金田さんから、こんなメールをいただいた。「本日の朝日新聞6面に、以前、私がご紹介した地旅(じたび)の実例のモデルと問題点などが載っています。中小旅行会社の政策なのですが、問題も多く、ひとっ飛びでは難しいようです。しかし……」。最後の「しかし……」が意味深である。とりあえず、急いで読んでみた。「地域発 企業発 けいざい最前線」のコーナーで、見出しは《「地旅」で生き残り わが街じっくり案内 旅行業者が連携》だ。興味深い記事だったので、内容をかいつまんで紹介する。
※写真は平城宮跡で実施した「極私的 宮跡探訪ツアー」(10.11.7)の様子。募集・撮影はN先輩

わが街の歴史や自然をじっくりとご案内します――。地方に点在する中小の旅行業者が生き残りをかけ、そんな企画に取り組み始めた。名付けて「地旅(じたび)」》。地旅とは「着地型旅行」のことである。記事ではまず《きめ細かくうんちく披露》として、愛知県の旅行会社「ツアー・ステーション」の加藤広明社長が紹介される。《同社が不定期で開催する「犬山を学ぶ旅」。木曽川べりや瓦屋根の古い商家が並ぶ城下町を散策する現地集合のツアーだ。地元で集めた、明治から昭和初期にかけての城や街並みの写真を見せながら、加藤社長がうんちくを披露して歩く》。

《同社がこの企画を始めたのは昨年。もともと地元に詳しかったわけではない。観光資源を調べるうち成瀬家やまちづくり団体と交流ができた。城下町文化の情報提供を地元紙で呼びかけて旧家とも親しくなった。参加費は1人5千~6千円。交通や宿泊の手配を伴う関東や関西などへの団体旅行と比べれば利益の桁は一つか二つ少ない。加藤社長は「まだ未熟なビジネスモデルだが、将来に向けて育てていきたい」と話す》。

これでわかる!着地型観光―地域が主役のツーリズム
尾家建生、金井万造
学芸出版社

次に《地元の客 紹介し合う 「我々が半世紀近くやってきた商売は、もはや通用しなくなっている」 4月、約5500の中小業者が加盟する全国旅行業協会(ANTA)が富山市で開いた国内観光活性化フォーラム。「全旅」の池田孝昭社長が1500人の関係者に訴えた。全旅は、ANTAの加盟社が出資する業界支援の会社だ。これまで中小も大手と同じ「地元から観光地への送客ビジネス」で商売してきた。しかし、宿や交通機関の手配もネットで済む時代となり、国内旅行業はじり貧に。大手との価格競争も激しく、財団法人日本交通公社によると、昨年の中小旅行業者の取扱額は10年前の4割減だった》。

《「大手と同じ手法では生き残れない。地域で暮らす中小業者ならではの付加価値をつけた商品を売るしかない」と池田社長。2007年に「地旅」を商標登録し、いまは普及運動の先頭に立つ。命名は地酒や地ビールからヒントを得た。ただ、現状では手がける会員は1割程度。PRできる範囲が限られ、「手間がかかる割には、もうからない」(業界筋)ためだ。この壁を乗り越えようと、全旅が考えたビジネスモデルが「仲間うちでの顧客の交換」。業者間でお互いの地旅に送客しあえば、宿泊や交通機関の手配を伴うケースが増え、商売にしやすくなるとの狙いだ》。

「『地旅』で生き残り 旅行業者が連携」(朝日新聞12/5付)より

《先進的に取り組むのが千葉県香取市のエアポートトラベル。霞ケ浦から利根川の河口まで約80キロを船で下り、古寺の住職の話や地元の小唄を楽しむツアーを企画。昨年、全旅主催の「地旅大賞」に選ばれた。昨年9月、この旅に岩手県の旅行会社が約20人のツアーを組んだ。来年には千葉県銚子市、茨城県笠間市の旅行会社が約500人の顧客をお互いの地元に送り合う。石橋一男社長は「成功のカギを握るのは販路を多く持つこと」と話す》。

このツアーの内容が全旅のHPに出ていた。《こころの故郷水辺、海辺の原風景を船とローカル電車で旅をする … 江戸時代、舟運(しゅううん)で栄えた霞ヶ浦、利根川流域の潮来、小江戸佐原、太平洋に望む河口の街銚子へと80kmに及ぶ船の旅》《商品のセールスポイント 江戸~昭和初期にかけて、舟運(しゅううん)で栄えた街々を土浦港から霞ヶ浦、利根川流域を銚子桟橋まで80kmに渡り船で下り、ローカル電車に乗る。商都の文化、歴史に浸りながら水辺、海辺の原風景の中を旅する》というものである。旅程も出ているが、これは相当手間がかかっている。

なお一昨年の大賞は、有限責任中間法人飯山市観光協会の「『うさぎ追いし飯山…』ふるさとの原風景とブナの森に心癒される旅」だった。全旅のHPには《唱歌「ふるさと」「おぼろ月夜」の作詞で知られる高野辰之博士ゆかりの地である北信州・飯山。心安らぐ自然と景観が広がる「ふるさと原風景」の中で、通常の観光名所巡りとは違い、村の風景をじっくり味わい、地域への理解を深めることで、誰の心の中にもある『ふるさと』の旅をご提案します。案内人の同行がなければ見落としてしまうような地域の魅力に焦点を当てて、なつかしい原風景の楽しみをご案内します》。

《飯山市は国の認定する森林セラピー基地でもあります。荘厳な小菅の杉並木、豊かな里山のブナ林などをゆったりと歩けば、じんわりと心と体の元気が湧き出てくることでしょう。ご宿泊の農家民宿では、女将さん自慢の地産地消を旨とした郷土料理をお楽しみいただきます》。これらの例から、「地旅」のイメージをつかんでいただけたのではないだろうか。

朝日新聞に戻る。《遠くより近く コペルニクス的転換(記者の視点) 「地域の旅行業者は、地元のことをほとんど知らない」。池田社長から話を聞いて、驚いた。遠い観光地にお客さんを連れ出すことを生業としてきた業界にとって、地旅はコペルニクス的な発想転換なのだ。伝統行事など地域の観光資源の掘り起こしはNPOや観光協会も熱心だ。しかし、旅行業者には、予定の組み方やトラブル処理法など、長年の経験で培った専門知識がある。観光客にとってのメリットは大きい。それぞれの地域で協力の輪を広げ、ぜひ地方の活性化にも貢献してほしい(清井聡)》。

観光振興と魅力あるまちづくり―地域ツーリズムの展望
佐々木一成
学芸出版社

奈良県下では、各市町村の観光協会がこの分野に意欲を示しているし、地元の奈良交通は、早くから「奈良大和路 再発見バスツアー」という意欲的な「地バス旅」に取り組んでいる。しかし「参加費は1人5千~6千円」で、交通や宿泊の手配を伴う「団体旅行と比べれば利益の桁は一つか二つ少ない」「手間がかかる割には、もうからない」ということなら、「まだ未熟なビジネスモデル」ということになる。

しかし全旅の池田孝昭社長が提案する「仲間うちでの顧客の交換」(相互送客)は、面白い発想である。いわば「地旅スワップ」だ。これはビジネスになりそうだ。「業者間でお互いの地旅に送客しあえば、宿泊や交通機関の手配を伴うケースが増え、商売にしやすくなる」のである。

例えば、来年は「古事記完成1300年」である。古事記に登場する土地は、大和と出雲(島根県)だけではない。日向(ひむか)の高千穂の峰(九州各地)、吉備(山陽地方)、伊勢(三重県)。ヤマトタケルだけでも、熊襲征伐(南九州)、相模(神奈川県)、走水(浦賀水道)、陸奥、伊吹山(滋賀県、岐阜県)、古市(大阪府)…。おそらくそれぞれの地に、ゆかりの神社や石碑、逸話などが残っているに違いない。各地域が創意工夫を凝らし、同時多発的に古事記にまつわる「地旅」を開発し、それらを交換し合うというアイデアは、いかがだろう。

私も大和ばかりではなく、たまには出雲や九州も訪ねてみたい。逆に、他府県から大和を訪れたい人も数多いことだろう。各地が競って企画したディープな古事記「地旅」を交換(地旅スワップ)し合うことで、旅のバリエーションは豊かになり、またそこから派生するグルメツアーなどのオプショナルツアーや、新たな小旅行(いわば「地旅デリバティブ」)も産まれてくることだろう。

何だかゴロ合わせのようになってしまった。確かに「ひとっ飛びでは難しい」だろうが、地元の旅行会社がそれぞれに知恵を出せば、面白いことができそうだ。そういう意味で、私も「それぞれの地域で協力の輪を広げ、ぜひ地方の活性化にも貢献してほしい」と思う。
コメント (5)
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