《きみは祖国を知っているか。あなたは祖国を知っていますか。ぼくは知らなかった。なぜか。日本の学校では、教えないからだ。日本の大人も、語らないからだ》。こんな文章で青山繁晴著『ぼくらの祖国』(扶桑社新書)は始まる。私が『ぼくらの祖国』を手に取ったのは、田中利典師(元金峯山寺総長)が推薦されていたからだ。引用を続ける。
《ぼくが祖国を知ったのは、大学を卒業して社会人になり、仕事で世界の現場を歩くようになってからだ。世界のどの学校でも「祖国」を真っ先に教えることを知った》《なのになぜ、日本の学校では教わらないのか。なぜ、日本の大人たちは祖国を語らないのか。それは戦争に負けたからだという》。
《政府は祖国じゃない。政府は祖国とは違う。政府はどんどん変わる。ぼくたちは、政府を支持したり支持しなかったりできる。つまり、政府は変わるのじゃなくて、ぼくらが変えられる。しかし祖国は変わらない。母なる存在だからだ。それもぼくたちが、たとえば意見の違いでどれほど議論し、対立し、揉(も)みあっても、だれにとっても同じ母がいる。それが祖国だ》《ところが、戦争に負けたあとの日本では、この政府と祖国の違いが分からなくなった。語られなくなった》。
![]() | ぼくらの祖国 (扶桑社新書) |
青山繁晴 | |
扶桑社 |
「祖国」は英語で「motherland」または「fatherland」。いくら国民同士が兄弟げんかしても、根っこは同じなのだ。本書は序章のあと5つの章があり、そこで北朝鮮の拉致問題、東日本大震災、硫黄島(いおうとう)、日本の資源問題(メタン・ハイドレードなど)が論じられている。
青山繁晴氏のことはかつての「たかじんNOマネー」(テレビ大阪)や「FNNスーパーニュースアンカー」(関西テレビ)で見て知っていた。とりわけ「ニュースアンカー」は、2013年、年上の友人から「tetsudaさんも一旦定年になって平日に家に居ることも多くなるから、この番組の水曜版は見た方がいいよ。青山繁晴がすごく良いことを言うから」と教えてもらい、以来、青山氏が降板する今年(2015年)の3月まで、録画して毎週見ていた。そこでは、本書に書かれている様々な問題に青山氏が文字通り体当たりで取材し、熱く語っていた。
利典師はどんな言葉で本書を推薦されていたか。師のブログ「山人のあるがままに」から抜粋すると、
北海道からの帰りの飛行機で、青山繁晴さんの『ぼくらの祖国』(扶桑社新書)を読破した。読みながら、涙が出て仕方なかった。周囲の席に座った人に、気持ち悪がられるのではないかと心配するほど、泣きながら、読んだのである。
被災直後の東北、福島第一原発事故現場、東電の社員、吉田所長、南三陸の遠藤未希さん・三浦毅さん、沖縄本島白梅の塔のお話などなど…。とりわけ硫黄島の英霊たちの遺骨の件では涙があふれて仕方がなかった。青山さんも文中で書いているが、私も同様に、戦後70年を経て、硫黄島のことなどほとんど知らないまま、忘れ去って、生きて来た。いや、そのことをとても恥じる思いで一杯になった。
昨日から、朝の勤行のあと、南に向かって、冷たいお水をお供えし、硫黄島をはじめ、南方戦線で祖国のために命を亡くした英霊達に、感謝の念を捧げ、慰霊のお祈りを始めている。
『ぼくらの祖国』(扶桑社新書)は日本人なら絶対に読むべきである。いや、中学生の必読書に指定して、読ますべきとさえ思う。「祖国」という概念を教えてこなかった戦後日本の教育だからこそ、この本を通じて、目を覚ましてほしいと思う。
実は私が「祖国」に目が覚めたのは、チベットのラサの地に立ったときだった。ポタラ宮を訪れ、「祖国」を亡くした民族の悲哀をいやと言うほど味わった。自分の国を亡くした民族は、かくも悲惨な道を歩むのだと、漢族に土足で蹂躙されているダライラマ法王宮の現状に立ち尽くしたのであった。
遺骨収集の活動に、過去、それほど心が動かなかったが、それを本当に恥じている。戦後教育の災禍を身を以て、実感した『ぼくらの祖国』であった。是非、まだ読んでない方は、手にして欲しい。
楽天の「みんなのレビュー」にはこんな書評が出ていて、胸を打たれた。
64歳の主婦です。これまで太平洋戦争は、無駄な戦いであって、戦死なさった方は犬死であり、気の毒な犠牲者で可哀そうという気持ちしか持っていませんでした。私の亡父は、南方で負傷して九死に一生を得て帰還して、その後結婚し、私が生まれたのです。私はお父さん子でした。
その父は60歳で逝去しましたが、父が生きている間に、私は父が戦地で闘ったことに敬意を払うことを、一度もしないままであったことに気がつきました。兵士のすべてが様々な葛藤を超えて、祖国のために闘ったというのに、それを尊敬することを、学校教育が阻んでいたのです。今、私は父に伝えたい。お父さん、私はね、闘ったお父さんを、心から尊敬していますと。そしてあなたがたのお陰で、今の日本があるのですと。
とにかく一度、虚心坦懐に本書をお読みいただきたい。お求めやすい新書である。私は続編の『ぼくらの真実』も、すでにネットで注文した。
年末に、本当に良い本に出会えた。利典師、有難うございました!