tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

観音の里の祈りとくらし展Ⅱ-びわ湖・長浜のホトケたち-/東京芸大美術館

2016年07月11日 | 日々是雑感
昨日(7/10)、上京したついでに、上野公園の「東京藝術大学大学美術館」で開催されている「観音の里の祈りとくらし展Ⅱ-びわ湖・長浜のホトケたち-」を拝観してきた。9月にこの方面を訪ねるバスツアーを予定しているので、その参考のために訪ねたのである。大津市ご出身の増田隆さんのFacebookで、この展示を知った。同館の公式HPによると、

長浜市には、130を超える観音をはじめとするたくさんの仏像が伝わり、古くは奈良・平安時代に遡るものも多くあります。また、この地域は、戦国時代には「近江を制する者が、天下を制す」と言われ、幾多の戦乱や災害に見舞われましたが、そのたびに、地域住民の手によって観音像は難を逃れ、今日まで大切に守り継がれてきました。

これらの仏像は、大きな寺社に守られてきたのではありません。地域の暮らしに根付き、そこに住む人々の信仰や生活、地域の風土などと深く結び付きながら、今なお大切にひそやかに守り継がれています。

この展覧会では、このようなホトケたちの優れた造形とともに、こうした精神文化や生活文化を「祈りの文化」として紹介し、長い歴史の中で守り継がれてきた地域に息づく信仰のこころを全国に発信していきたいと考えています。歴史・文化に彩られた北近江の長浜、この地に息づく「祈りの文化」と「観音の里」の魅力を通して、一人でも多くの方に、ホトケたちとそれを守る人びとの姿を感じ取って頂ければと考えています。



黒田観音寺の「伝千手観音立像」(=チラシの仏像)。「ART AgendA」のサイトより

観音の里・長浜のHPには、当地の歴史的背景がもう少し詳しく紹介されている。

この地域はかつて、東にそびえる己高山(標高923m)を中心として繁栄した仏教文化圏に属していました。応永14年(1407)、天台宗の法眼春全によって記された『己高山縁起』(鶏足寺蔵)によると、「この山は近江国の鬼門にあたり、いにしえより修行場であった。そこへ行基(668~749 )が訪れて仏像を刻んで寺を建て、また泰澄(682~767 )が修行場としたといい、のちに最澄(766~822)が訪れ”白山白翁”と名乗る老人の勧めによって再興した。」とあります。

古代より霊山と崇められてきた己高山は、交通の要衡にもあたることから、奈良時代には中央仏教と並んで北陸白山十一面観音信仰の流入があり、さらに平安期に至っては比叡山天台勢力の影響を強く受け、これらの習合文化圏として観音信仰を基調とする独自の仏教文化が構築されたことが窺われます。

平安時代以降、天台傘下として己高山を中心に栄えた湖北の寺々は、室町期頃には弱体化し、代わって浄土宗・曹洞宗・浄土真宗・時宗らのいわゆる新仏教が農民勢力の台頭に併せて勢力を伸ばし、戦国の動乱期にいたって、さらに大きく変容しました。

村々にあった天台寺院の多くは衰退して無住・廃寺化し、そこに残された尊像たちは、宗派・宗旨の枠を超越して、村の守り本尊として民衆に迎えられていきました。 戦乱の焼き討ちにあった際は、村人たちが観音像を川底に沈めたり、地中に埋めたりして難を逃れ守ってきたと伝えられています。

そして今日なお観音信仰はこの土地に息づいています。制作年代の新旧や文化財指定の有無、造形的な巧拙や損傷の有無等を越えて、それぞれの村人たちは自分の村のホトケたちに対して、限りない誇りと親しみを持って手厚く守っています。

「観音の里」と称されるゆえんは、ただ単に観音像が、また指定文化財が多く存在するからではありません。これらを献身的に守り継いできた民衆による信仰の歴史と、そこに息づく独自の精神文化や生活文化(観音文化)こそが、真にこの地を「観音の里」たらしめているのです。



正妙寺の「千手千足観音」。仏像ワンダーランドのHPより

社寺ばかりでなく、集会所や民間の納戸のようなところで大切に守られてきた約40体の仏像。あいつぐ戦乱や廃仏毀釈から仏像を守り継いできた湖北の「祈りの文化」がビンビン伝わってくる、素晴らしい展示だった。ユニークなお像も多く、中でも目引いたのは正妙寺の「千手千足観音」(江戸時代)。同展の図録には、

他に例を見ない像容であるが、仏像は必ず儀軌・経典によって造られることから、江戸期に当地で独自に政策されたものではなく、かつてこの寺に千足観音があり、戦火に遭って後に復興された可能性もある。また、鎌倉時代の天台宗図像週「阿沙縛抄」「白宝抄」に「千足観音」の記載がみられ、この地に千の足を持つ像が伝わる背景には、台密の影響があったことが窺われる。

台密とは、天台宗の密教のことである(真言宗の密教は東密)。主な展示品は「ART AgendA」のサイトに載っているので、ご覧いただきたい。

「川底に沈めたり、地中に埋めたりして難を逃れ守ってきた」という長浜の観音文化が感じられるこの展示に、ぜひ足をお運びいただきたい。なお展示の詳細は以下の通り(同館のHPより)。

会期: 2016年7月5日(火)- 8月7日(日)
午前10時 - 午後5時(金曜日は午後8時まで)入館は閉館の30分前まで
休館日: 月曜日(ただし、7月18日は開館)、7月19日
会場: 東京藝術大学大学美術館 本館 展示室3、4
観覧料: 一般1,200(1,000)円 高校・大学生700(600)円(中学生以下は無料)
* ( )は20名以上の団体料金
* 団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
* 心身に障害のある方および付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)
* 本展をご覧のお客様は当日に限り、同時開催「平櫛田中コレクション展」を無料でご覧いただけます。
主催: 東京藝術大学、滋賀県長浜市

【ギャラリートーク】
※各回午前11時と午後4時から20分程度です。
※参加には、各日当日の観覧券が必要となります。
※参加をご希望の方は、開始時間に3階展示室にお集まりください。

第1回: 7月9日(土)
講 師: 秀平文忠(長浜市役所歴史遺産課 学芸員)
主 題:「湖北の仏たち-平安時代の仏像を中心に-」

第2回: 7月16日(土)
講 師: 佐々木悦也(高月観音の里歴史民俗資料館 学芸員)
主 題:「湖北の観音信仰~ホトケをまもるこころ~」

第3回: 7月23日(土)
講 師: 芹生春菜(東京藝術大学 講師)
主 題:「湖北の仏像 その意味と造形」

第4回: 7月30日(土)
講 師: 太田浩司(長浜城歴史博物館 館長)
主 題:「ホトケたちを守り続けた村々の姿」
問い合わせ: ハローダイヤル03-5777-8600
【観音の里・長浜のホームページ】http://kitabiwako.jp/kannon/
出品リスト(PDF)


コメント (4)
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