昨年11月15日(火)に新築移転したばかりの日本料理 夢窓庵(むそうあん 奈良市水門町70番地7-1-2)に、年末にお邪魔した(2016年12月30日)。場所は県庁の東、知事公舎のお向かいである。
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宵闇が迫る頃、お店に到着
夢窓庵にお邪魔するのは2度めである。初めて伺ったのは昨年の秋(2016年9月16日)で、まだ旧店だった。すぐに当ブログで紹介しようと思ったが、9月末で一旦閉店されると聞いたので、移転オープンされるまでお待ちしていた。秋の料理も素晴らしかったので、今回あわせて紹介しておく(写真に「秋」と表示)。
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夢窓庵は奈良が初めてミシュランガイドに登場した2011年から、2つ星をとり続けている。初登場の『ミシュランガイド2012 京都 大阪 神戸 奈良』には《寡黙で実直な料理長は、同じ土地の恵みを組み合わせた料理に腕を振るう。例えば、七輪にのせて供される小鍋には淡路島の鱧と玉葱。奈良の白米は、収穫された土地の水を使い、土鍋で炊き上げる。屋号は、学生時代に感銘を受けた禅僧、夢窓国師の手になる庭園から》と紹介されている。
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お店に入ってすぐのテーブル席(土間)
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前回も今回も、女将(&オーナー)の田崎唱子(たざき・しょうこ)さんが付ききりでもてなして下さった。料理の専門サイトFoodionにロング・インタビューが掲載されていたので抜粋すると、
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女将の田崎唱子さん。この写真のみ、Foodionから拝借
実は私、本職は造園師なんです。若い頃、修学旅行で京都の苔寺を見て感動して「こういう庭が作れるようになれたら!」と憧れました。当時、造園の世界も男性中心でしたから、女性には難しい道のりでしたが、建築会社に就職し、憧れの造園師の仕事に就くことができました。ただ、庭師などの下請けの職人さんも皆さん男性で、最初、私が現場で指示しても全然言うことを聞いてもらえませんでした。
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お庭の見えるこの部屋で食事をいただいた
それでも大好きな仕事だから諦めたくない、と努力を重ねるうちに、徐々に職人さんに認めてもらえるようになり、次第に従ってくれるようになりました。そんな経験から、頑固な職人さん達とどうやって渡り合い、良い仕事をしていくのかを学ぶ経験ができて、それが今に活きていると思っています。
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(秋)9月にお邪魔したときは、オリジナルぶどうから造られた無濾過生ワイン「月日星」をいただいた
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(秋)ワインのラベル
そして30代の頃に「造園師として独立し一匹狼でやってみたい!」と考えるようになりました。ただ造園の仕事って数も少ないので、造園師だけでは食べていけないなと。そこで、そごう百貨店近くのビルに「味一膳」という小さな飲食店をオーナーとして始めることにしたのです。それが「造園師」と「飲食店の女将」という、二足のわらじを履く最初のきっかけとなりました。
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今回はもっぱら日本酒。竹筒に入った冷酒がこんなきれいな桶とともに運ばれてきた。赤いのは柿の実
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私の実家は高知で皿鉢料理の店をやっていましたが、手伝ったことも無かったですし…親からの援助もありません(笑)。とても大変でしたが、でも苦労したとは思ってないんです、お客様に喜んでもらえることが本当に好きで楽しかったので、無我夢中でしたね。そして女将の傍ら、造園の仕事も続けていました。昼は造園師として土にまみれて真っ黒になり、夜はお客様をおもてなしする女将になって…と、両極端ですが、その変身がいいんです!(笑)。
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(秋)前回も今回も、こんな太いワサビをすり下ろしていただいた。香りがとても良く辛さは控えめ
私は骨董が好きなので、骨董の売り買いの資格も持っているのですが、骨董のセリ市も男性中心の現場。良い物を瞬時に判断し決断して、セリ落とさなくてはいけません。その荒々しい世界に女性の「しなやかさ」と「したたかさ」で入っていく。色気や可愛さではダメで、人の何倍も勉強して対等な関係になれるように努力し続けるんです。だからセリの現場でも「男以上やな!」って骨董屋さんのおっちゃん達が感心してくれます(笑)。
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(秋)可愛いお皿に載って、刺身が登場
うちの板場を守る板長は、「味一膳」の頃からずっと変わりません。彼はなんと31年間無遅刻・無欠勤。とても頑固で素材にも一切妥協できない人ですが、彼のおかげでミシュランにも取り上げてもらえて、今の「夢窓庵」があると思っています。私はいつも「大丈夫、大丈夫!」ととてもポジティブな性格ですが、彼は「できへん、できへん」と、とても慎重派(笑)。表に出てしゃべることも苦手で、裏方に徹していたいタイプですから、私と彼とでちょうどいいバランスなんじゃないかなと思っています。
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(秋)鮎が焙(あぶ)られて登場!
日本料理に合うワインがずっと欲しくて探していたのですが、イクラやウニなど魚卵系にあうワインがなかなかなくて。そんな時、ある方の紹介で山梨の山ブドウのワインを見つけたのです。すぐに問い合わせたところ「少量生産なので売れない」と言われてしまって…。普通ならそこで諦めてしまうのかもしれませんが、その方が「ワインの苗木ならば譲ってもいいよ」とおっしゃったのです。だから「自分でブドウを育ててワインを作るしかない!」と思いました。
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(秋)実りの秋がイメージされている。写真左上の山ブドウでワインを醸す
そしてお酒を造る許可を得るために税務署へ行きましたが、申請がとても難しくて。許可の取得方法なんてわからないし、説明もちんぷんかんぷん。でも教えてもらわないと進まないので、何度も何度も役所へ通い詰めました。そうしているうちに、最後には役所の方も興味を持ってくださり、色々と教えてくださって…。
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やっぱり本当の情熱は伝わるのだと思います。今は朝5時にブドウ畑に出て、畑仕事をしています。奈良県には残念ながらワイナリーが無いので、育てたブドウを滋賀県のワイナリーでワインにしてもらっているのですが、奈良県にワイナリーを作りたい!…という夢も持っていて、いろいろと働きかけているんですよ(笑)。
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(2016年11月の)移転先は、奈良公園近くの素晴らしい場所で土地は300坪もあります。実は建ぺい率が20%しかないのですが…(笑)造園師の私にとってはそれも嬉しくて、新しい店の庭も自分で監修をして、私の庭づくりの集大成かなぁ…と思っています。
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(秋)ご飯が土鍋ごと運ばれてきた。3杯もいただいてしまった!
奈良の一番美しいのはなんと言っても早朝なんですよ!朝霧にけむる、幻想的な奈良の朝の風景を見て頂きたくて、朝に店を開けて奈良名物の「茶粥」をお出ししたいということも考えています。店を朝早くから開けることは大変ですし、利益を出すのは難しいと思うのですが、この場所に店を出させていただけるのですから、奈良県に何かご恩返しができたら…という思いです。
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これからの時代はしたたかさとしなやかさを備えた女性の力をもっと取り入れたいですし、現役で働いてらっしゃる60歳以上の女性の力も借りたい。新店舗の挑戦や、朝の茶粥、ワイン作り…とやってみたい夢が次々に湧いてくるので(笑)、これからも従業員の方々と共に夢を共有していけたらと思っています。
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お料理はどれこれも、味はもちろんビジュアルも素晴らしい。こういうところに造園のセンスが活かされているのだろう。ワインのご苦労話も、Foodionのサイトで初めて知った。あの上等のワサビのすり下ろしは、熱いご飯に載せてお茶漬けにすれば、どれほど美味しいことだろう。お酒からメイン料理から細部に至るまで、隅々に目配り・気配りの行き届いたコース料理だった。
奈良の超一等地に場所を移され、これからは国内外のVIP客がたくさん訪れることだろう。「朝の茶粥」も、ぜひいただきたい。これからも「奈良に夢窓庵あり」を国内外に発信していただきたいものだ。女将さん、これからも大いに期待しています!
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宵闇が迫る頃、お店に到着
夢窓庵にお邪魔するのは2度めである。初めて伺ったのは昨年の秋(2016年9月16日)で、まだ旧店だった。すぐに当ブログで紹介しようと思ったが、9月末で一旦閉店されると聞いたので、移転オープンされるまでお待ちしていた。秋の料理も素晴らしかったので、今回あわせて紹介しておく(写真に「秋」と表示)。
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夢窓庵は奈良が初めてミシュランガイドに登場した2011年から、2つ星をとり続けている。初登場の『ミシュランガイド2012 京都 大阪 神戸 奈良』には《寡黙で実直な料理長は、同じ土地の恵みを組み合わせた料理に腕を振るう。例えば、七輪にのせて供される小鍋には淡路島の鱧と玉葱。奈良の白米は、収穫された土地の水を使い、土鍋で炊き上げる。屋号は、学生時代に感銘を受けた禅僧、夢窓国師の手になる庭園から》と紹介されている。
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お店に入ってすぐのテーブル席(土間)
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前回も今回も、女将(&オーナー)の田崎唱子(たざき・しょうこ)さんが付ききりでもてなして下さった。料理の専門サイトFoodionにロング・インタビューが掲載されていたので抜粋すると、
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女将の田崎唱子さん。この写真のみ、Foodionから拝借
実は私、本職は造園師なんです。若い頃、修学旅行で京都の苔寺を見て感動して「こういう庭が作れるようになれたら!」と憧れました。当時、造園の世界も男性中心でしたから、女性には難しい道のりでしたが、建築会社に就職し、憧れの造園師の仕事に就くことができました。ただ、庭師などの下請けの職人さんも皆さん男性で、最初、私が現場で指示しても全然言うことを聞いてもらえませんでした。
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お庭の見えるこの部屋で食事をいただいた
それでも大好きな仕事だから諦めたくない、と努力を重ねるうちに、徐々に職人さんに認めてもらえるようになり、次第に従ってくれるようになりました。そんな経験から、頑固な職人さん達とどうやって渡り合い、良い仕事をしていくのかを学ぶ経験ができて、それが今に活きていると思っています。
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(秋)ワインのラベル
そして30代の頃に「造園師として独立し一匹狼でやってみたい!」と考えるようになりました。ただ造園の仕事って数も少ないので、造園師だけでは食べていけないなと。そこで、そごう百貨店近くのビルに「味一膳」という小さな飲食店をオーナーとして始めることにしたのです。それが「造園師」と「飲食店の女将」という、二足のわらじを履く最初のきっかけとなりました。
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私の実家は高知で皿鉢料理の店をやっていましたが、手伝ったことも無かったですし…親からの援助もありません(笑)。とても大変でしたが、でも苦労したとは思ってないんです、お客様に喜んでもらえることが本当に好きで楽しかったので、無我夢中でしたね。そして女将の傍ら、造園の仕事も続けていました。昼は造園師として土にまみれて真っ黒になり、夜はお客様をおもてなしする女将になって…と、両極端ですが、その変身がいいんです!(笑)。
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(秋)前回も今回も、こんな太いワサビをすり下ろしていただいた。香りがとても良く辛さは控えめ
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(秋)鮎が焙(あぶ)られて登場!
日本料理に合うワインがずっと欲しくて探していたのですが、イクラやウニなど魚卵系にあうワインがなかなかなくて。そんな時、ある方の紹介で山梨の山ブドウのワインを見つけたのです。すぐに問い合わせたところ「少量生産なので売れない」と言われてしまって…。普通ならそこで諦めてしまうのかもしれませんが、その方が「ワインの苗木ならば譲ってもいいよ」とおっしゃったのです。だから「自分でブドウを育ててワインを作るしかない!」と思いました。
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そしてお酒を造る許可を得るために税務署へ行きましたが、申請がとても難しくて。許可の取得方法なんてわからないし、説明もちんぷんかんぷん。でも教えてもらわないと進まないので、何度も何度も役所へ通い詰めました。そうしているうちに、最後には役所の方も興味を持ってくださり、色々と教えてくださって…。
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(秋)ご飯が土鍋ごと運ばれてきた。3杯もいただいてしまった!
奈良の一番美しいのはなんと言っても早朝なんですよ!朝霧にけむる、幻想的な奈良の朝の風景を見て頂きたくて、朝に店を開けて奈良名物の「茶粥」をお出ししたいということも考えています。店を朝早くから開けることは大変ですし、利益を出すのは難しいと思うのですが、この場所に店を出させていただけるのですから、奈良県に何かご恩返しができたら…という思いです。
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お料理はどれこれも、味はもちろんビジュアルも素晴らしい。こういうところに造園のセンスが活かされているのだろう。ワインのご苦労話も、Foodionのサイトで初めて知った。あの上等のワサビのすり下ろしは、熱いご飯に載せてお茶漬けにすれば、どれほど美味しいことだろう。お酒からメイン料理から細部に至るまで、隅々に目配り・気配りの行き届いたコース料理だった。
奈良の超一等地に場所を移され、これからは国内外のVIP客がたくさん訪れることだろう。「朝の茶粥」も、ぜひいただきたい。これからも「奈良に夢窓庵あり」を国内外に発信していただきたいものだ。女将さん、これからも大いに期待しています!