本を読む人だけが手にするもの | |
藤原和博 | |
日本実業出版社 |
私は若い頃から読書好きだった。今も週1冊(=月5冊、年間60冊)程度は完読する。辞書的に使う本は別途、月に5冊ほど買うので、部屋の中は本だらけである。そんな私にも、藤原和博(ふじはら・かずひろ)著『本を読む人だけが手にするもの』日本実業出版社は、目からウロコの本だった。蛍光ペンを引きながら2度ほど読んだ。
藤原氏は元リクルート社・フェローで教育改革実践家。今は奈良市立一条高校の校長先生だ。詳しくはトップに貼ったAmazonの「著者について」をご覧いただきたい。本の要約サイトflier(フライヤー)に、本書のコンパクトな要約が出ていたので、まずは全文を引用しておく。
「本を読む意味は何か」。この質問に自分なりの言葉で答えられる人はどれだけいるだろうか。ただ効率よく情報収集するための読書術に偏った本とは違って、読書の本質をあぶり出し、本との向き合い方を考えさせてくれるのが本書である。
著者は、リクルートでの経験を活かして、東京都の中学校で初の民間校長を務めた藤原和博氏である。「よのなか科」という、現実社会を教室で学ぶ斬新な授業を生み出し、数々のベストセラーを執筆してきた。彼は「今後は本を読む習慣がある人とそうでない人に二分される階層社会になる」と述べている。
本書には、読書がもたらすメリットや、読書が著者の人生にどのように役立ったのかという経験談が詳しく書かれている。具体的には、次のような興味深い見出しが並んでいる。「『他人の脳のかけら』を自分の脳につなげる」「人生を変える本との出合い方」「読書で人生の鳥瞰図を獲得する」などだ。
また、成熟社会においてますます重要性が高まる「情報編集力」を、読書によってどう磨き上げていけばいいのかが、具体的に述べられているのも本書の読みどころである。さらには、著者の本の選び方、校長時代の図書室再生秘話などから、読書好きな子どもを育てるための教育的観点を通して多くの示唆も得られるだろう。自分の読書体験を振り返り、より豊かな人生を送るための読書論の入門書にうってつけの1冊として、本書をお勧めしたい。 (松尾 美里)
そんな良書なので、もう少し詳しく紹介しよう。以下、Amazonの「内容紹介」からの抜粋を「青色」で、本書の中で私が「これは!」と思った部分(本書からの抜粋)を「茶色」で書き分けてみる。なお私の追加コメントは「黒色」だ。少しややこしいが、ぜひ最後までお読みいただきたい。
累計100万部突破!! 仕事と人生に効く「よのなか科」特別授業 ―― 読書の効能
あなたは「なんで、本を読んだほうがいいのか?」という質問に答えられますか?親や先生は「本を読みなさい」と言いますが、その素朴な疑問にきちんと答えられる人は少ないのではないでしょうか。本書は、「人生における読書の効能」について、リクルート社で初のフェローや東京都の義務教育で初の民間校長を務め、「よのなか科」という現実社会と教育をリンクさせた大人気の授業やベストセラーで知られる藤原和博氏がひも解いていきます。
序章 成熟社会では本を読まない人は生き残れない
現在は、「本を読む習慣がある人」と「そうでない人」に二分される階層社会になりつつあると警告。
「それぞれ1人1人」の幸福をつかむための軸となる教養は、自分で獲得しなければならない。そのためには、読書が欠かせないというところに行き着くのだ。
宗教が機能している社会では、宗教が物語をつくり、幸福とは何かを教える。でも、日本のように宗教が機能不全の国家では、自分で自分の宗教、あるいは、その代替物としての幸福論を持たなければならない。
あらためて思うのは、読書を通じて知識のインプットを蓄積していかないと、自分の意見というものが出てこないという事実だ。
私も、ネットだけの情報では底の浅い思考しかできないという意見に賛成だ。深く論理的な思考をするうえで、本は絶対に欠かせないものだと思う。
第1章 本を読むと、何が得か?
「読書と収入の密接な関係」「読書によって身につく、人生で大切な2つの力」など、ズバリ、読書のメリットを答えていきます。
人間にとって最も強烈なインパクトを与えるのは、「個人的でリアルな体験」。
本は、著者を通して「個人的でリアルな体験」を味わうことができる手段なのである。
現代は映像時代であり、テレビでもデジカメでもスマホでも、解像度の高さが機能の中心となっている。鑑賞に値する写真や動画の画質、あるいは映画を楽しむ際の3Dのクォリティなどは、当然、解像度が高い方がいいに決まっている。しかし、人間の脳の働きの側から見ると、話は変わってくる。解像度が高いものを見れば見るほど人間のイマジネーションのレベルが下がってしまう。
これは私(tetsuda)にも覚えがある。ずいぶん前(1980年頃)、「ラジオからテレビの時代になって、若者の気配り・思いやりの心が失われてきた」と言われていたのだ。そこからどんどん解像度が上がっているから、イマジネーションのレベルは下がり続けているのだ。
こんな図が第1章に登場する。「人生の50年間で触れ合うべき4つの分野」いうタイトルがついている。上半分が「個人的な体験」、下半分は「組織的な体験」。右半分は「リアルな体験」、左半分は「メディアを通じた体験」。本書には《人間にとって最も強烈なインパクトを与えるのは「個人的でリアルな体験」》(右上)であるが、《本は、著者を通して「個人的でリアルな体験」を味わうことができる手段なのである》。
第2章 読書とは「他人の脳のかけら」を自分の脳につなげること
「1冊の本にはどれほどの価値があるのか」「本を読むことは、2つの『みかた』を増やすこと」「脳をつなげて未来を予測する」など、本を読むことの本質に迫っていきます。
作品は作家の「脳のかけら」である。その脳のかけらを、読者は本を読むことで自分の脳につなげることができるのだ。「脳のかけら」という表現に違和感があれば、「アプリ」と言い換えてもいいし、ワンセットの「回路」であると呼んでもいい。
結果的に、本を読む人と読まない人の間には、大きな差が生まれ、しかもその差は指数関数的に広がつてくる。
よく「読書は著者との会話」だと言われが、藤原氏は「著者の脳のかけらを自分の脳につなげること」だと書く。これは言い得て妙だし、より具体的なイメージが湧く。100人の著書を読むことで、私たちは100人の著者の「脳のかけら」を自分の頭に取り込むことができるのだ。
第3章 読書は私の人生にこんな風に役立った
「人生を変える本との出合い方」「自分の意見を述べるための読書」「読書で人生の鳥瞰図を獲得する」など、人生と読書との関連性がリアルに綴られています。
「純文学を読まないと、人間として成長しないよ」
「俺はさあ、本を読んでいない人と付き合う気がしないんだよ」
話についていくには、とにかく本を読むしかなかった。
裾野を構築するために、25歳~55歳までの30年の間に、組織のなかで働いている主軸とは別に、左に2つ、右に2つぐらい、別々のコミュニティに自分の足場をつくっておいたほうがいい。
会社や役所のなかで単線的に生きるのではなく、いくつものコミュニティに参加して複線的に生きる視点。人生に、こうした鳥瞰図的な視点を持てないと、組織のなかでちょっとしたことで追い詰められ、視野狭窄に陥ってしまうリスクから逃れられない。
第3章コラム
学校では教えてくれないけれど、日本人は初対面のときに油断しすぎているのだ。初対面でのマイナスイメージを、2回目、3回目で払拭(ふっしょく)しようと思っても不可能に近い。初対面のときに相手の心をつかまないと、その次はないと思ったほうがいい。
いまは、多くの人がフェイスブックやツイッターを使って、つながりがあるかどうかを確かめる。しかし、つながるための優秀な道具(SNS)が充実すればするほど、人間が人間につながろうとする意欲やスキルをどんどん削いでいってしまう。
第4章 正解のない時代を切り拓く読書
21世紀の成熟社会に不可欠な「情報編集力」とそれを構成する5つのリテラシー「コミュニケーションする力」「ロジックする力」「シュミレーションする力」「ロールプレイングする力」「プレゼンテーションする力」を、いかに読書で磨いていくか解説されていきます。
通常、仕事の現場では、7割以上のビジネスパーソンや公務員が情報処理側の仕事をしている。
この習慣が染みついてしまうと、アイデアを出したり、柔軟なマネジメントをしたり、自分の人生の次の一手を考えたり、子育てをしたりといったクリエイティブになることが要求される局面でも、ついつい正解至上主義のモードのまま取り組んでしまい、うまくいかないことが多い。
これからは、情報処理力と情報編集力の切り替えという意味が大事になるだろう。
第5章 本嫌いの人でも読書習慣が身につく方法
読書嫌いの子も少なくなかった中学校の校長時代の経験なども踏まえ、いかに読書を習慣化させるかを現実的な側面からポイントを押さえていきます。
本に対する鑑定眼を磨く方法はあるのだろうか。3000冊以上も読んできていえるのは、どのようなジャンルでもいいから、数にあたることが大切だと思う。結論。なんのことはない。数が勝負なのだ。
最後にお伝えしたいのは、ただ単に本を読んで、インプットすることだけをやっていても、読書の習慣は身につかないかもしれない、ということだ。アウトプットの前提のないインプットでは、途中でだれるし、何より飽きる。なんとなく文字を目で追うだけになってしまい、読んだつもり、ということになりがちだ。
付録――「ビジネスパーソンに読んでほしい14冊」「学校では教わらない現代史を学ぶ10冊」「小中学生から高校生の子を持つ親に読んでほしい15冊」「子どもといっしょに読みたい11冊」という著者のおすすめ本も紹介します。
巻末付録の“藤原和博の「これだけは読んでほしい」と思う本・50冊”を読んで、愕然とした。私が読んだ本はたった2冊しか出ていない(半藤一利著『昭和史』とデービッド・アトキンソン著『新・観光立国論』)。こないだ私が読みおえたばかりの講談社学術文庫『懐風藻』も、石野博信著『今、古代大和は』も、前登志夫著『森の時間』も、載っていないし、そもそもこのようなジャンルの本は掲載されていない。私が愛読している白洲正子や司馬遼太郎の本は、全く出ていない。
つまり私はたくさん本を読んでいるが(藤原氏の年間120~200冊には及びもつかないが)、ほとんどが「専門書」「実用書」なのだ。講演の準備とか、史跡ガイドなどの必要に迫られて資料として読んでいるので、氏の言う「人生を切り拓くための読書」ではなかったのである。これに気づかされただけでも、本書を読んでおいて良かったと思う。
本書を読めば、若い人はこれからの人生の指針を得ることができるだろうし、中高年も、読めばいろんな「気づき」があることだろう。ぜひご一読をお薦めします!