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奈良ものろーぐ(9)関西電力奥吉野発電所

2017年01月26日 | 奈良ものろーぐ(奈良日日新聞)
毎月第4金曜日、奈良日日新聞に連載している「奈良ものろーぐ」、前回(16.12.23)掲載されたのは「関西電力 奥吉野発電所」(十津川村旭)。巨大な揚水発電所である。取材したのが11月11日(金)だったので、気温の低い十津川村の山手では紅葉が真っ盛りだった。

関電さんのご厚意で、通常は立ち入れない場所から発電所の全貌を拝見することができ、また写真もお借りすることができた。ここに改めて御礼申し上げる。では、全文を紹介する。
※トップ写真左が上部の瀬戸ダム、右は下部の旭ダム(写真提供:関西電力)


こちらは上部ダム(瀬戸ダム)。以下の写真は2016.11.11 に特別の許可を得て私が撮影

関西電力 奥吉野発電所 環境配慮の巨大揚水発電所 
揚水式発電をご存じだろうか。「深夜あるいは週末などの軽負荷時に下部貯水池の貯留水をポンプによって揚水して上部貯水池に貯水しておき、重負荷(ピーク負荷)時に上部貯水池の水を放水して水車によって発電する方 をいう。揚水発電所は普通の水力発電設備のほかに揚水設備を備えている。エネルギーをピーク負荷時に電気エネルギーに再変換する電気の貯蔵所ともいえる」(『日本大百科全書』)。

この方式で発電するのが揚水発電所だ。特にわが国ではピーク時とボトム時の電力需要の差が激しいので、電力の安定供給には欠かせない設備なのだ。関西電力管内には4つの揚水発電所があり、うち1つが奈良県内にある。それが奥吉野発電所(吉野郡十津川村旭)だ。大峰山系・釈迦ヶ岳の真正面(西側)にある。



下部ダム(旭ダム)を望む

釈迦ヶ岳はその名のとおり、山頂に釈迦如来像(銅造)が安置されていることで知られる。大正13(1924)年、岡田雅行という強力(ごうりき)が、仏像を3分割して担いで登ったと伝わる。登山口は、発電所の下部ダムの上流にある。釈迦ヶ岳一帯は吉野熊野国立公園に指定され、また尾根筋には世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の大峯奥駈道が通る。

奥吉野発電所の発電量は最大120万6000キロワットで、黒四ダム(黒部川第四発電所)の33万5000キロワットをはるかにしのぐ。原子力発電所一基分の発電量は約100万キロワットというから、その巨大さがおわかりいただけるだろう。昭和53年の運転開始時には「東洋一の揚水発電所」とたたえられた。

本年11月11日、特別の許可をいただいてこの発電所を取材した。予想していたより、はるかに規模の大きい発電所だった。上部の瀬戸ダムと下部の旭ダムの落差は505メートル、2つのダムを結ぶ水圧管路の長さは約1600メートル。驚いたのは、その水路が地中に埋設されていたことだ。発電所本体も地中にある。向かいの釈迦ヶ岳などからの眺望景観にも、配慮されているのだ。



右の山の中に発電設備がある

平成10年には、2.35キロメートルに及ぶバイパス放流設備(水路トンネル)が完成した。下部の旭ダムに流入する土砂を下流へ逃がすための水路だ。これでダムからの濁流排出の長期化を食い止めるとともに、ダム湖への土砂の堆積を回避することができる。この設備のおかげで下流には、上流域特有の白く丸みのある石が戻ってきているそうだ。

電力の安定供給に貢献し、また景観や河川の自然環境にも配慮したこの発電所を県内に持つことを誇りに思う。

揚水発電所というと、無粋な鉄管(水路)が山肌にむき出しで並ぶイメージだったが、この発電所の鉄管は地下に埋設されていて、これは驚きだった。発電所本体も地下にあるので、見ただけでは発電所とは分からない。しかしあの難工事で知られる黒四(黒部ダム)の3.6倍もの(最大)発電量があるのだ。

考えてみると、こういう理屈だ。黒四ダムでは黒部川に流れ込む自然の水を利用している。発電するには、自然の水が溜まるのを待つしかない。しかし揚水発電所は、夜間など電力が余っているときにポンプで揚水し、一気に放水して発電するから一定の水をくり返し使えるし、コントロールも可能なのである。

釈迦ヶ岳に登られる皆さんは、ため池のようにしか見えない瀬戸ダムと旭ダムを眺めていただき、この巨大発電所に思いを致していただきたいものだ。

コメント (2)
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