この作品は詩なのだろうか、と疑問が起きるかも知れない。森哲哉詩集と書かれた本なのだが、これを単品で読むとSF小説だ。詩も詩人も他人に認められることで初めて、詩と言われ詩人と呼ばれる。次の回で、11と12とエピローグを紹介してこの作品は終りとなる。SF小説にしては余りに短い。硬く難しい表現でコンパクトに書いてあるので読みづらいかも知れない。
作者本人に昨日(4/26)会った。「(自分の作品ながら)読み返してみると面白いゎ~」と嬉しそうだった。自信作なんである。この作品を元にしたアニメ映画ができたら良いのにとか、CGを駆使した実写風映画でもすごいだろうなぁなどと私も想うのだ。私は大阪日本橋の電器店で《スター・ウォーズ》がテレビに映ってるのに出くわした時、終いまで立ち尽くして見続けた。目を離せなかったのだ。おっと話が横道にそれた。森作品の精緻な構成から、ほんのり立ち上がる詩情も味わって欲しいのである。
+++++++++++++++++++++++++++++++++
原始力発電所
森 哲弥
8・ドラゴン暴発
人知では禦しきれなかった《ドラゴンの心臓》を揺り動かすことになった。技術の二分が災厄の契機となった。原子力発電所建設と人工火山建設の同時進行は、数百年封印されてきた原子力技術の穏やかな目覚めを難しくしていた。建設工事はとどこおりなく進んではいたが悲劇は発電開始直後に起きた。建築物も人もそして人にかかわる歴史も何一つ残らず灰になった。何が原因だったのか、どのような状態だったのか、いまとなっては何一つとして知る手立てはないのだ。
9・叡知壊滅
人工火山による大エネルギー基地および基地建設のための電力需要を賄うための原子力発電所が中央シベリア高原に建設されたのは、その地が凍土草原で人跡が疎らであったことそして数百年前原子力発電所が建設されていたという「実績」があるからであった。その曾ての原子力発電所は、この地の一皮むいた地層を一瞬にして不毛の「悍ましき地層」に変えてしまう大爆発を起こしたのであった。そしてその時の残存放射能はまだ完全に除去されてはいない。《忌み》という感覚を持つ東洋人からはとうてい許容しがたい候補地ではあったのだが緊急性と合理性によって口を塞がれていたのである。このたびの爆発事故とかつてのそれには何の因果関係もない。しかし人々の心のなかに打ち消しがたい「符合」感じさせた。建設を陣頭指揮していた人間の心理にもまた符合の影を落としたであろうが全滅したいまとなっては確かめようがない。世界規模の大事業。それぞれの国家や連邦にはその維持に必要な最小限の科学者だけが残り、先進的、独創的な科学者はみなシベリアに集まっていたわけだから爆発事故は一瞬にして世界の科学の叡知を全滅させたのであった。
10・科学者ひとり
いや厳密に言えば全滅ではない。国際エネルギー緊急委員会の肥大化する計画に異を唱えてシベリアへ行かなかった日本人科学者、国際エネルギー緊急委員会の初期重要メンバー 、ジョージ儼哲こと儼哲譲治ひとりがアマゾンの奥地で円筒形の巨大淡水魚と戯れていた。生け簀からやや離れたところにジョージ儼哲が「草庵」といっている彼の研究所があった
個体α 起電力六八〇ボルト
個体β 起電力八二〇ボルト
個体γ 起電力九〇五ボルト
・
・
個体φ 起電力二五七〇ボルト
「あっ、ついに二〇〇〇ボルトを突破した」ジョージ儼哲はコンピュータ画面を見て思わず叫んだ。「ついにやった」ジョージ儼哲は国際エネルギー緊急委員会を離れたあとも、独自の研究を続けていた。生物電気現象、特に発電魚から電気を抽出する方法を研究していた。彼が着目したアマゾンの電気鰻は電気鯰、電気鰾を抑えて最高で八六〇ボルトの起電力をもっている。発電魚では体内に最小単位の電気板が積み重なって電気柱をなし電気柱が平行に並んで発電器官が出来上がっている。ジョージ儼哲はそれから動物性繊維で作った神経電導管を使って魚の体外に電気を抽出し電気を液化して蓄電するという方法を発明した。この様式をシステムとして使えばたとえば電気自動車は重いバッテリーを積むことなくサービススタンドで燃料タンクに「電気液」を注入してもらえばよくなるのだ。
(つづく)
++++++++++++++++++++++++++++++++++
作者本人に昨日(4/26)会った。「(自分の作品ながら)読み返してみると面白いゎ~」と嬉しそうだった。自信作なんである。この作品を元にしたアニメ映画ができたら良いのにとか、CGを駆使した実写風映画でもすごいだろうなぁなどと私も想うのだ。私は大阪日本橋の電器店で《スター・ウォーズ》がテレビに映ってるのに出くわした時、終いまで立ち尽くして見続けた。目を離せなかったのだ。おっと話が横道にそれた。森作品の精緻な構成から、ほんのり立ち上がる詩情も味わって欲しいのである。
+++++++++++++++++++++++++++++++++
原始力発電所
森 哲弥
8・ドラゴン暴発
人知では禦しきれなかった《ドラゴンの心臓》を揺り動かすことになった。技術の二分が災厄の契機となった。原子力発電所建設と人工火山建設の同時進行は、数百年封印されてきた原子力技術の穏やかな目覚めを難しくしていた。建設工事はとどこおりなく進んではいたが悲劇は発電開始直後に起きた。建築物も人もそして人にかかわる歴史も何一つ残らず灰になった。何が原因だったのか、どのような状態だったのか、いまとなっては何一つとして知る手立てはないのだ。
9・叡知壊滅
人工火山による大エネルギー基地および基地建設のための電力需要を賄うための原子力発電所が中央シベリア高原に建設されたのは、その地が凍土草原で人跡が疎らであったことそして数百年前原子力発電所が建設されていたという「実績」があるからであった。その曾ての原子力発電所は、この地の一皮むいた地層を一瞬にして不毛の「悍ましき地層」に変えてしまう大爆発を起こしたのであった。そしてその時の残存放射能はまだ完全に除去されてはいない。《忌み》という感覚を持つ東洋人からはとうてい許容しがたい候補地ではあったのだが緊急性と合理性によって口を塞がれていたのである。このたびの爆発事故とかつてのそれには何の因果関係もない。しかし人々の心のなかに打ち消しがたい「符合」感じさせた。建設を陣頭指揮していた人間の心理にもまた符合の影を落としたであろうが全滅したいまとなっては確かめようがない。世界規模の大事業。それぞれの国家や連邦にはその維持に必要な最小限の科学者だけが残り、先進的、独創的な科学者はみなシベリアに集まっていたわけだから爆発事故は一瞬にして世界の科学の叡知を全滅させたのであった。
10・科学者ひとり
いや厳密に言えば全滅ではない。国際エネルギー緊急委員会の肥大化する計画に異を唱えてシベリアへ行かなかった日本人科学者、国際エネルギー緊急委員会の初期重要メンバー 、ジョージ儼哲こと儼哲譲治ひとりがアマゾンの奥地で円筒形の巨大淡水魚と戯れていた。生け簀からやや離れたところにジョージ儼哲が「草庵」といっている彼の研究所があった
個体α 起電力六八〇ボルト
個体β 起電力八二〇ボルト
個体γ 起電力九〇五ボルト
・
・
個体φ 起電力二五七〇ボルト
「あっ、ついに二〇〇〇ボルトを突破した」ジョージ儼哲はコンピュータ画面を見て思わず叫んだ。「ついにやった」ジョージ儼哲は国際エネルギー緊急委員会を離れたあとも、独自の研究を続けていた。生物電気現象、特に発電魚から電気を抽出する方法を研究していた。彼が着目したアマゾンの電気鰻は電気鯰、電気鰾を抑えて最高で八六〇ボルトの起電力をもっている。発電魚では体内に最小単位の電気板が積み重なって電気柱をなし電気柱が平行に並んで発電器官が出来上がっている。ジョージ儼哲はそれから動物性繊維で作った神経電導管を使って魚の体外に電気を抽出し電気を液化して蓄電するという方法を発明した。この様式をシステムとして使えばたとえば電気自動車は重いバッテリーを積むことなくサービススタンドで燃料タンクに「電気液」を注入してもらえばよくなるのだ。
(つづく)
++++++++++++++++++++++++++++++++++